【これまでのあらすじ】
人間を滅ぼそうとした魔族との戦いは、遥か昔、もう遠い遠い伝説。
国と国、人と人との間に時折小さな諍いが起こることはありましたが、それでも人々は概ね平穏に暮らしておりました。
ある日、世界のあちこちに、新種の薔薇が咲き始めました。
夢のように美しいその花に手を伸ばし、手折ろうとして棘に触れると、たちまち人は命を落としてしまうのです。
人の命を奪った薔薇は、ますます美しく咲き誇りました。
やがて、葉に触れただけで、花に触れただけで、ついにはわずかな香りを含んだ風に触れただけで、死をもたらすようになったのです。
人々は、猛毒の薔薇を根絶やしにしようとしました。
けれど、刈り取っても、焼き払っても、薔薇は次々に芽吹くのです。たちまちのうちに成長し、悪夢のように美しい花をつけるのです。
怯える人々をあざ笑うかのように、甘い香りの風の中、魔物達までが人の世に姿を現しました。魔物達は人間を喰らい、土にしたたる血は、更なる薔薇の養分となりました。
それでも。
勇気を持ち、魔物と戦う人間たちが現れました。
神の加護か、薔薇の毒に侵されない人間たちがみつかりました。
そして、ひとりの賢者が、ようやく異変の原因をつきとめました。
北の果て。この数百年、誰一人として足を踏み入れたことのない、魔の山と伝えられる秘境の地。
かつて封じられた強大な魔族が、その地で目覚めようとしています。
再びそれを封じない限り、世界は魔族の贄として喰らい尽くされてしまうでしょう。
薔薇の毒に負けない体質と、魔物と戦う力を兼ね備えた者たちが、名乗りを上げました。
国境を越えた義勇軍となった彼らは、魔の山へと向かいます。
途中で命を落とした者、傷を負って脱落した者も少なくありません。
魔の山の頂で、薔薇の蔓に覆われた城を目にしたのは――12人。
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