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―― 0 / prologue
聖杯に選ばれし六人のマスター。
聖杯に召喚されし七体のサーヴァント。
三画の令呪と、各々の誓いで主従となった彼らは、ただ一つ証明を巡って争う。
――― 己こそが聖杯を手にするに相応しい、最強であると。
万能の釜たる聖杯は一つ。叶えられる願いは一組。
浦舞に於いてこれで五度。
「聖杯戦争」と呼ばれる殺し合いが、夜を侵食する ――――
1人目、ゴーストライター がやってきました。
ゴーストライターは、村人 を希望しました。
― 未明 / 北ブロック / 灯台下 ―
潮風に吹かれている間は幸せだ。……最近、よくそう思う。
目の前に広がる黒に食い尽くされた海。
それとて月の煌きを散りばめられていなければ、存在すら示されない、分からない、奈落の闇に過ぎないように。
潮気に纏わりつかれたとしても、夜気に風邪か何かを引いたとしても、ここに立ち、『彼ら』に触れられてようやく『俺は確かにここに存在している』と言えるのだから。
―― そこまで考え、真っ白い溜息を昇らせた。
厳然と漂う、冷たい月の光を見上げて。
浦舞は由緒正しき漁村だった。
生活の拠点は海であり、しかしながら糧を生み出す母なる海とて、陸との境目がつけられない。夜は音を除いた全てを闇に飲む。津波一つを判断するのも難しく、予兆を見過ごしてしまえば損害は避けられなかった。
夜とは魔物。魔物は海。
なればこそ近づいてはならず。月と灯台のささやかな輝きは天の賜物であり、魔物の届かぬ高台に聳える寺は信仰の一となった。
それが今や人の息で賑わい、昼であろうと夜であろうと街は照らされている。
無機なる人工の明かりは月影すら不要としていた。燦然とという言葉が相応しいかは分からないが――人は魔物に怯えずとも済む環境(ちから)を手に入れたのだ。
だからだろうか。
今の俺にとって、人の波の中に立つことは煩わしいものでしかなかった。
街に灯りが増えるごとに駆逐された夜と同じように、日々の煩わしさの中に埋もれ続ければ、窒息は必至だった。
今も変わらず浦舞の海を照らし続ける、灯台の寂然にでも身を寄せなければ、回避など叶うべくもなかった。
時の経過も曖昧で、何を食事したのかも忘れることが多い。
断線した自我を保つためには、比喩的でもいい。夜の灯台という場所が ―― 行動の指標が欲しかった。
今、ここで海を眺めている、波を聞いている自分を感じることこそが、唯一の生きている実感だったから。
自分で選んだ仕事だった。天職だと思えた。これでいいと、思っていた。
―― 始まりは少しばかりの違和。不満。嫉妬。落胆。
些細な亀裂に負の感情は渦を巻いてねじ込まれる。決して入ってはならない、入れはしない「心」とやらに侵入しようと渦は激しさを巻く。
そこまで来れば後は時間の問題。黒い塊は少しずつ少しずつ、心に出来た裂傷を押し広げ、―― やがて、崩壊の音が響いた。
失ってはならない大切なものを取り逃がし、代わって胸の奥底に住み着いたものは、古来「空虚」と名付けられた、生への執着の薄れ。
今なら、恋人の死体が目の前にあったとしても、涙の一つも流せないだろう。
今なら、目の前に広がる漆黒へ飛び込んだとしても、肌を刺す凍えに悲鳴も上げられないだろう。
漠然と ――。
心を空(から)に満たして、吸い込まれるように海へと手を伸ばす。
2人目、キャスター がやってきました。
キャスターは、人狼 を希望しました。
[男が『見つけた』のは、日々求め続けた灯台の上。浦舞へと還ってくる船を導き続けた灯火の頂上。
闇に紛れて彼方を見つめる女のニンゲン。……ニンゲン、のような姿。
しかし、聳える夜の只中には誰の姿もありはしなかった。
夢か幻か見間違いか。
闇に在ってなお濃く存在を揺らめかせた『誰か』は、煙のように消えていた。
幾ら睨みつけようとも闇は無形。]
――― 誰だ?
[問いかけようとも答は返らず。生温い気配だけが、『いたはず』の場所から男の足元へと手を伸ばしていた。]
…………。
[問いかけは己への疑念に摩り替わる。
いるはずのないもの。見るはずのない不確かな幻覚。幽霊じみた刹那のエラー。
けれど全てが無形に還る夜の只中に於いて、濃密に揺らいでいた人の形。
出るはずのない答を繰り返し、海へ振り返ることも忘れて立ち尽くした。]
3人目、ねこ がやってきました。
ねこは、C国狂人 を希望しました。
― 朝 / 北ブロック / 灯台下 ―
[共に夜通し港で過ごした小さな気配に気付いたのは、朝の光が顔を出した後の話。
海に色が戻ると同じくして、男を縛っていた生温い気配は退散した。
夜と同化していた不思議な気配は、……やはり痕跡すら見当たらない]
……港に猫、ね。
俺の周りがおかしいのか、それともついに俺がイかれたのか?
[苦笑いと視線を寄越す。その先には、夜に迷い込んだ猫の瞳。]
…………。ハッ。
猫に聞くなんざ、それこそどうかしてるな。
[猫は呟きを待っていたかのように、あっさりと波止場から腰を上げた。
あるいは初めから興味などなかったかのように、その背が男へ向けられた。]
[夜を見つめ続けた男の瞳に、本格的に昇り始めた朝陽が届く。
去り行く三毛色の形は、遠くに在っても形は明瞭。
夜に感じた濃密な気配とはどこか違う、明瞭な息吹の形。
―― 今日も変わらず、浦舞の海は蒼かった。]
4人目、屑水 相真 がやってきました。
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