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──前夜──
[夜の帳が落ちた後、
ひとり自室の机に座り、小指のリングを眺める。
ヘッドホンからは色とりどりの音楽。
ふと、思ったのだ。
自分ならエディにどんな曲が似合うと感じるのだろうかと──だから今、思い出を辿っている。
初めて教室で目があって、スピーチに緊張する自分に声をかけてくれたこと。
アヴェマリアを弾いてもらったこと。
花壇の世話をしながら、聴こえるピアノの音色に耳を澄ませていたこと。
林間学校で、勿忘草の前で、
初めて彼の心の内面を知った気がしたこと。
ラストダンスを踊ったこと。
差し出された手を、自ら掴んで。
幾つもの、数え切れない、たくさんの記憶。]
[自分は、エディを眩しいと感じたことはない。
音楽に対する直向きさを知って尚、その感覚があまりないのは、何故だったのだろう。
それは、澄み切った青空でも、茜色の空でも、夜空でもなく、──エディには雨上がりの空が似合うと感じるからかもしれない。
霧雨、夕立、土砂降りの後の情景。
灰色の雲の切れ間からあたたかな光が差し込む。
草花の水滴に反射して、きらきらと輝き、そこかしこから生命の音が響きはじめる。
荒々しさの名残と、静謐さ。
どこか寂しげな柔らかさと優しさを持つ空気。
雨上がりは、変化の途中。
移り変わってゆくもの。
また雨が降り出すかもしれない、曇ったままかもしれない、晴れてゆくかもしれない。]
[私は、それをただ眺めていたくはなかった。
だから、きっと、前に進めた。
直向きで強く見えるその人が。
時折ひどく揺らいで感じられたから。
手を差し出された時だけでなく、自分から、彼の手を掴みたいと願った。
雨が降り出せば、1つの傘に入ろう。
曇ったままならもう少し雨宿りもいいかな。
晴れたら色んなところに出掛けようか。
時には、土砂降りに共に濡れてもいい。
そう思えた。
私は君のことなら何でも知りたかった。
いつの間にか、どうしようもなく、知っていく全てに惹かれていた。]
似合う曲、決まらないな。
……まだまだ時間が足りないか。
[ふっと笑みが漏れる。
これからたくさん見つけて行こうか。
指輪がきらめく。
流れ出すのは、
ラフマニノフのピアノソナタ第2番第2楽章。
傘を持ってゆく自分、雨上がりの空の下、彼が立っている姿が見えた気がした。**]
/*
エピの間中考えた結果のあれそれ。
曲はなんでこれを選ぼうと感じたのか具体的に説明が難しいのですが、ビビっと来たと言いますか…美咲からはしっくりくる感じがしたので。
こういうの、楽しいですね。
― 3年の夏 ―
沙也加、話がある
えっとね
たぶんだけど……お父さん、今度の春で、市長やめると思う
[なんて唐突な話を。]
だから、そうなったら、みんなこの家から引っ越すことになるから、この街がいいなら家探ししといてよ?
……まー、ハルについて行けばいいから、沙也加は悩まなくてもいいか
[なんて頭を掻いた。]
― 3年の夏 ―
あー。そうなんだ。そんな気はしていた。
[春の統一選挙までには何かの結論は出すのだろうとは思っていた]
うん。わたしたちはもう、東京行くことにしてるから。
[ハルの受験結果如何にかかわらず、卒業したら東京に出るつもりではいた。どちらにしても、予備校も東京の方がいいはずで]
で、霞はどうするの?
パパたちと、場留多の実家に戻るの?
[場留多の実家も、そこそこ裕福ではあり、実家も大きい。なにせ、土建屋だから、みんなが帰ると言えば、もう一軒くらい用意しそうだ*]
― 卒業式の前日に ―
お義父さん、話があります
[その一言から始まる。そんな久方邸での話
2年前に約束した絵が、漸く完成し
久方のおじさん――元旦に入籍はしているので
義父へと、それを納品した
絵画への評価はどうだったか
絵の代金に関しては、見積書を渡した
つまりは、初めて得た給料で。妻への指輪を買いたいのである
今年の春で市長を止める、義父の最後の仕事として
絵は神楼高校に寄贈されることになるらしい
が、それはまた別の話]
[報酬を封筒をポケットに忍ばせた後
待っていてくれた妻を呼ぶ。]
ごめん、お待たせサヤ。
今から受け取りに行こう。
[何回もフィッティングをして決めた婚約指輪。今日が受け取る日。
結婚指輪の方は明日の結婚式にて彼女の指にはめられるが
まずは、お手をと。彼女の手を取り
2人でジュエリーショップ迄*]
/*
今日で終わりなのかーってことでこんばんは。
挨拶だけをしに顔出しな気持ちできたのである。
先生は湊へのお返事ありがとうございます。
― とある普通のクリスマス ―
[カメラを横に置いてピアノの前。譜面も置かずにそれを奏でる。
ジャズを譜面通りに弾いたりしたらセッションでは呆れられる。いつからか、譜面は置かないのが普通になっていた。
スクエアなビートで刻まれるラテン・リズム。
繰り返されることなく、主題はどんどん変化する。
曲を弾いている、のではなく、音で遊んでいるかのような。
どこまでが譜面通りで、どこからがアドリブなのかもわからないような、その曲を。
最後まで”譜面通りに”弾ききって、振り返った。]
―――どう、だろう?
書き直してみた、けどさ。
[約束通りに。
不安定で、ゆらゆら揺れるけれど、確かにたどり着く先があるはずの僕たちの音を。
彼女は、どう聴いていたんだろう*]
[にこっと微笑んでサクラまんにもふっとかじりつく。皮が塩っぱくて、中身は餡子。甘くなった口の中をコーヒーで流す]
んー。水族館とかよく行くかな。あとは、ルウシェのうち?
ぼんやりとクラゲが漂うのを見るのが好きなので、水族館はデートには向かないかも。
[デート、と自分で言って、照れくさくてわざとらしく店内の時計を見る*]
/*
ただいまー。美咲が尊いなぁ。
それでね。離席してる間考えてたんだけど、ダグラス先生の態度はよろしくないと思うの。
本当にルウシェを愛してるなら、先生が性転換することも考えるべきじゃないかしら?
ルウシェにばかり負担を強いるようなら、私は2人の事を認められないわ!!
(ルウシェが欲しくば俺の屍を越えてゆけ!)
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