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─後日─
晴天。
山派ボーカロイド候補生養成村。
普段は静かな村が、この日は一般解放され、賑やいでいた。
修理や調整を終えた候補生たちから、最後のひとりを絞るためのオーディションが行われるのだ。
場所は、スタジオ棟のメインスタジオ。
必要最低限の機材を残して、楽器や仕切りなどがはずされたスタジオは、観客が充分入っても大丈夫なほどの広さになっていた。
華やかな音楽と共に、開会式が始まり、いつもどこか眠そうな社長が、のんびりとした挨拶をする。
社員のカノや、アキラ、ウシナ、そしてどこからか入ってきたゆっくりが駆け回るなら、最初の候補が、舞台に飛び出してきた。
エントリーナンバー『1』!!
鳥音カリョ(とりおと かりょ)! 年齢、18歳! 身長152cmの体重は秘密!
得意ジャンルは、癒し系!! 人声の他に、自然音を出せるのが特徴だよ!
得意な曲のテンポは、早〜いの! 早口言葉は得意だよ〜!
得意な音域は、普通から高いくらいかな!
みんな、応援してね〜〜〜!
[青いポニーテールのボーカロイドは、リラックスした様子でくすくすと笑いながら、ステージを駆け回る。身動きのたびに、衣装の背の、青い翼がヒラヒラとはためいた]
それじゃあ、カリョ、歌いまーす!
曲は、オリジナルで、『青い小悪魔』!
[衣装とは微妙に嘘がある題名を告げると、カリョは自信満々に歌い始めた]
カリョは小悪魔なの♪
油断してたらパックリ食べちゃうよ〜♪
・・・♪
・・・・・♪
[審査員得点:526(1000)点。しかし、あとで得点に不正があったことが発覚し、本当の点数18に修正された]
-過去のある日-
「アキラさん」
[そう呼び止められたのは、ずんぐりむっくりの男。振り向いた姿は、「キャプトンハーロット」の「トツロー」そのもの。]
「あ?」
「すみませーん。このギミックの股関節の部分なんですけどー」
[女子社員がそう言いかけると、]
「ああ、そこ置いておいて。あとでやっとくから」
「すみませーん、いつもー。アキラさんって本当に優しいんですねー」
[「優しい」は「どーでもいい」の代名詞なんてことは、アキラには十分分かっている。しかし断り切れないのが彼の性分。
フィギュアおたく上がりのロートルボカロ開発者としては、その道では有名なのだが、なにせ出世欲がない。表に出ない。未だに好きな開発に没頭している…と言えば、聞こえはいいが、人の良さが裏目に出て、人のサポばかりで自分の作品になかなか時間をかけられないという有様。
アキラの横には、一体のボカロ。本体はほぼ完成しているが、ソフトのインストールがまだ終わっていない]
「心」がほしいな…。
[ぽつりとつぶやく。
と、そこに、一人の長身の男がやってきて]
「おい、アキラ。できたぞ、例の」
[アキラが飛び跳ねた]
なに!できたか?マジか?マジか?
「ばっちしだぜ。プロジェクトには、お前の名前で登録申請してあるからな」
分かってるって、分かってるって。
テストケースにしましたとか言っておけよ。
「じゃ、プロトタイプの10個から1個だけ拝借してきたの、置いておくからな。これ、申請用紙。早めにだしておいてくれよ」
ああ、分かってる、分かってる。ありがとな。
[そう言うアキラの視線の先には、一個のMPU]
[妖音(あやね)ベル 開発コード BKR-230015 開発開始2XXX年XX月
軽量小型を追求して造られたボーカロイド…というのは表向きで、アキラの趣味そのもの。妖精のような小柄で、しかもご丁寧に羽までつける始末。発声領域についても、高音域をよく精査しているが、決してオールマイティとは言えない。
しかし、周りのスタッフや上司は、アキラに大変色々な意味で世話をかけさせているので、文句は言えない]
これで、ようやく「心」を持たせられる…。
[彼のたった一つの目標は、夭逝した若き女性ボーカリストLuLuの「きみのうた」を唄わせること。LuLuは、そのハイボイスは世界レベルにも負けないと言われ、将来を期待されていたが、たった19歳でガンで亡くなった小柄な少女だった。元来、音楽にはさほど興味のなかったアキラが青春時代に心打たれたのは、その声と歌詞だった。「きみのうた」はLuLuが作詞作曲した唯一の曲だった。ベルはどことなくLuLuの面影が宿っていた]
もうすぐだよ…。
あー。あー。
[何度試しても、あの声には届かない。悩むアキラ]
何が足りないんだろう…。
[搭載した感情MPUの働きにより、一層感情がこもり始めたベルの歌声であったが、何かが足りない。
そして、何度も何度も聞き込んできた「きみのうた」を再度聴いてみるみる…]
やっぱり違う…。
ん…?
コーラスの声が気になる…。
[アキラは、企画部に走った]
「ショーゴ!ちょっとまた頼みがあるんだ」
「どした?」
[ショーゴと呼ばれた男は、例の長身の男。ちょうど昼飯時で、割り箸を口にくわえて言った]
「あのさ、LuLuの所属してたレーベルって、WorldVusicだったよな。そこに友達がいるって言ってなかったっけ?」
「ああ…大学の同期にいたよ。時々飲みに行ってるけど…」
[また、LuLu話かよ、とちょっと呆れながらも、ショーゴはきちんと答える]
「あのさ、「きみのうた」のバックコーラスって、誰か調べられないかな?
「あ、ああ、いいけど…調べてどうすんの?」
「なんか、分かったかも知れない」
「そう…お前がそこまで言うなら、聞いてみるよ」
[珍しく食い入ってくるアキラを見て、ショーゴはすぐに電話を入れた]
[コーラスを見つけるのは意外に時間がかかった。というのも、コーラス名がどこにもクレジットされていなかったからだ。レーベルもそれを把握しておらず、当時のレコーディングスタジオの廃業してしまっており、関わった人達もほとんど連絡がとれなくなっていた。
かろうじて当時のLuLuのマネージャーがなんとか連絡が取れ、コーラスに加わったのが実は大物人物であったということが判明したのはそれから数年を経過していた]
マジか?マジに、ホイトニ・ヘストンだっていうのか?ありえんだろ、たった18歳の日本人歌手に?
[アキラは口から昼食時の弁当についてきた味噌汁を噴いた。ショーゴは飛び退いてから言った]
「マジらしいんだよ、それが。何でも、彼女がLuLuに目をつけてたのが16歳でデビューした当時で、できるなら自分でプロデュースして、アメリカデビューも考えていたらしいんだ。ホイトニも、そろそろプロデューサー業に興味がある歳だったからな。それで、自らコーラスを申し出たらしい」
マジかよ…。
[アキラはがっくりと肩を落とした。ホイトニほどの人物のコーラスなど再現できるボーカロイドなどいない。世界でももう二度と出ることがないとさえ言われた大歌手である。
…やっぱり、あの曲を再現なんてことは無理だったのか…?そう、心の中で思いながら、傍らで充電モードに入っているベルを見つめた。
すでにベルは稼働を始め、色々な経験をさせてきた甲斐もあって、感情MPUにため込んできたメモリが、抑揚をつけるのに大変役立っていた。
しかし、どんなにベルが頑張っても、目標に届かないことが分かってきた…。アキラはなんとも言えない表情をした]
[帰宅途中の路地]
ちくしょー。
[アキラは露天の飲み屋でクダをまいていた]
まあ、でも、いいか…ベル、かわいいしな。
[まるで妹を見るかのような表情を浮かべながら、コップ酒をあおる]
[多分、アキラの気持ち的には98%のところまではきている。上司にも、周囲のメンバーにも、「いけてる」との評判。なにせ愛想をふりまくボーカロイドはまだ少ないし、感情を表現できるのは何せデビューにはメリットだ]
おやじ、ごっそさん。
[露天を出ると、フラフラを歩き出した。久しぶりに飲んだ酒がきいているようだ]
明日は、何を覚えさせようかな…。
ん?
[ふと、振り向くと、目の前がばっと明るくなり、視界を失った。耳をつんざくクラクションの音と、大きな衝撃]
どん。
[ベル…]
[そして、ベルは独りになった]
[担当開発者は、別の人間を当てられたが、他のボーカロイドとの掛け持ちだったため、以前ほどは構われなくなり、そして「きみのうた」は、ベルの中で封印された]
[EOF]
―エピローグ―
[本社社員との簡単なやり取りを終え、ベルと共に見つめ合う。
人狼、蝙蝠、彼らの今後がどうなるのかまではわからないが、ひとまず騒動の終了を感じ、ほっと息を吐いた。]
[機材の散乱したメンテナンスルームで、2人支えあうようにして立つ。]
…ベル…
[彼女の名前だけしか、今は口に出すことはできない。けれど、それだけでも伝えられることに感謝して、ベルへの気持ちを名前に乗せて]
――ベル………
[愛している、と]
―回想 過去―
[ルラを開発していたラボは、コストダウンを最良と考える、商業主義の強い所だった]
[感情に関するプログラムは、最新より性能は劣るがコストを抑えたもの。
バッテリーは、通常の充電式。珍しいものは無く。
飲食機能は、見た目で出来るよう見せかける程度のもの。
涙など、当然のように流せない]
[無駄を省く。不要なものは排除する。
そのためルラは、先輩・後輩ロイドが起動停止、保管されていくのを何度も見てきた。そして、自分も――
発音の未完成。廃棄処分が見えて。
それが、悲しいけれど当たり前。開発とはそういうものなのだと。
消えたくない。けれど、彼らに逆らうと言う行動は、ルラの中には無い。]
[歌いたい。歌い続けたい。]
[ラボの一室で、データ調整という名の歌唱。これが最後の歌になるかもしれない。]
――Ah……
[たまたま選ばれたのは、ハミング音の多い歌。]
[一人の研究者が言う]
『やっぱり言葉は駄目か。ハミング音は、結構良いと思うんだけどな。
ああでも、一転集中型っていうかさ。ココ、売りにできないか?』
[その時から、ルラは「良い」と言われた部分を延ばす努力をした。
そうすれば、歌い続けることが出来るかもしれなかったから。]
[努力し続け、廃棄処分という言葉が、ルラから遠ざかっていく。
「発音は相変わらず優れているとは到底いえないが、ハミング音のみならばデビューを考えても良いかもしれない」という評価を貰うようになる――]
―了―
― 回想・データバンクから ―
[すべてが終わった。
犠牲はたくさんあった。ボーカロイド達は傷付いた・・・けれど、かけがえのないものを得た]
[それは、ボディを失ったヨルも同じ]
・・・これで・・・きっと良か たんだ・・・
みんな・・・ぉ つか さ・・・ま・・・
[損傷の激しいヨルのデータは、すでに音声部分のみをサルベージされていて、ぼんやりした意思だけがデータバンクの中に眠っている状態]
(本当は・・・僕も歌いたかった・・・でも・・・)
(良かった・・・これで、もう・・・)
[誰も恨むことなく、憎むことなく、ヨルはデータバンクの中でいずれ朽ちていく・・・それでいい、と]
[“目を閉じる”と、遠くからハツの笑い声混じりの叱咤や、ノソラの・・・声こそ聞こえないが、微笑みながら自分の背を押してくれる言葉を聞いた気がした]
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