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ま、大丈夫だよ、早乙女。
早乙女、あんたは死んでないよ。
ちゃんと、私にもはっきり早乙女の姿が見えるし、声も聞こえてる。
[東吾がヘン、というのは記憶に留めたが。今は、それより。
まるで、彼岸と此岸の端境にいるように、安定しない早乙女に。
こちら側に止めおくよう、彼女の名前を続けて呼んで、こちら側の話をする]
……にしたって、あんたは全く。
多美も心配してたよ、東くんとかもね。
寒いのは、ちょっと我慢してもらうしかないかな。
ま、広場で焚き火して、湯も沸かしてるから、戻ったら、その埃と涙でぐちゃぐちゃの顔くらいは拭けるよ。
[戻れるかは、知らないけど]
みんな アタシを… 仲間ニ するって…
……ううん。アタシだけじゃない
みんな … 仲間にしたい っテ
どうすれば いい の …… !
[聞こえてくる数々の嘆き。奪われた生気。
けれど、今の自分にはどうする事も出来なくて。]
―焚き火の側へ―
……――、だいじょうぶだって、
無理やりにでも思っておくといい。
きっと、そうすれば。
うん。
[笑顔を浮かべた。
――いや、言い聞かせても僕は怖かったけど、それはそれこれはこれ]
うぁぁ…! 怖かったぁ……!
もう 二度と カンベンしてぇ ……
[ぎゅう、と、美奈の服の裾を握る。
本当に、ホラー映画顔負けの体験をしてしまった。
…いいや、恐らくはまだ、そのまっ最中なのだが。]
生者に とっての……? そうなん だ。
…… ありがとう ござ いま す
美奈さんの おまじない。
なんだか、効く気が …する。
[そう言って、ぺこりと頭を下げた。]
いやッ!
もう、だまされたりなんかしないんだからっ…。
あんたが、のうのうとしてるなんて ぜったいにゆるさないッ……!
[ぐらり、傾いだ身体を追って掴みかかる。手に入らなかったモノの代わりのように。
颯太が正気に返っている事にも気づいていない悪霊は、生者であり忌々しいモノである男に感情をぶつける以外の何も考えられない状態だった。
脈打つ首は、冷たい手には過ぎた生の実感を感じさせる。
なかなか入らない力の代わりに体重を掛けようとしたところで、翔太が割って入ってきただろうか]
[体勢を崩し床に体を打ち付ける。]
かはっ
[小さく空気の塊を吐き出した。
社の床に頭を打ち付け目の前に星が散る。
次に感じられたのは頚部の圧迫。
冷たい手、それも一瞬ぞくりとする程の冷たい手で締め上げられる。
指先はどくどくと脈打つ頸動脈の上を的確に押さえており]
真子君、よ せ
[ギシリ、真子の体重が颯太の身に掛かろうとし、声が濁りかけ]
[焚き火に近づくと、ゆらゆら揺れるたくさんの影。
奈央の周りにたくさんの、小さな子どもがいる気配を感じる。中心にいる奈央の影は、腕が見えない大きな何かに見えて。
これは、火の角度のせいなのだろうか。]
[遊ぶ?誘う?
それともどうする?
カミサマの言う通り、言う通り。
集う集う群れ集う。
霊が集まる集まれば]
[くすくす]
[くすくす]
[笑い声と招く声?
囁くような無数の声は聞こえる者の耳朶を打つ]
大丈夫だよ、木元君。悲しい顔をしていた子供達が、笑顔になっただけよ。
呪いに縛られ続けて、たった今初めて楽しみを知った子供達がここにいるの。友達になれだなんて軽くは言わないけれど、可愛い子達を受け入れてくれるなら、みんなこれを受け取って。
[いつの間にか人数分に千切っていたのは、先程鈴が見えるようになった札。寺の住職である父が作った、霊との会話をするための札。霊の感情を知るための札]
どーしたもこうしたもないさ。さあ、祭りをやろうじゃないの。
――ああ、それは良かった。
真面目に院まで勉強した甲斐があるな。
[すべて、口からでまかせだ。
病は気から――ではないが、安堵するようなことだけを並べているだけ。
本当のことなんて、教えてしまったらどうなるか。
たとえば、皆が次々消えて、夜明けまでは無事だなんて、ナニモノかが刻んでいたなんて]
――……、
[はたと――教えてしまったら、いいんじゃないか。
そんな冷めた思考が、浮かんだ。なに、事実を伝えるだけだ。
それで早乙女の状態が悪化したって、自分が何をしたわけでもない。
この娘は、身奇麗で可愛くて、厭味にならない媚び方も出来て。
可愛くない私なんかより、ずっと。だから、この娘がもしここで――、]
……、……ぁ? 熱ッ!!
[指先に感じた熱に、思わず叫んだ。取り落とした煙草は、フィルターの辺りまで灰になっている。
それを踏み消し、拾い上げながら、二度三度、何かを振り払うように首を振った]
お祭り…うん。
あたし、約束したから。
あの子たちと、一緒にお祭り行こうって。
だから…
[それが何かはよくわからなかったが、多美から札の切れ端受け取る。
それに触れた、その時]
……どうも、私も。
[どこかおかしい、とまでは口にしなかった。
そうしてしまえば、早乙女が不安に陥るだろうから。
そう、早乙女は、大事な大事な、多美の友人なのだ。
だから、含むところがあろうがなかろうが、守ってやらないと]
――や、ちょっと、暗くてね。
どこまで吸ったか、ちょっと見えなくてさ。
参ったね、どうも。恥ずかしいから、戻っても、皆には黙っててくれるかな。
[そう、苦笑のかたちを作って、早乙女に笑いかける。
あくまでも軽く、軽く、普段と同じ側にいるのだと]
お、おう。
糺森君も肝座ってるな……
なんだこれ、紙切れ?
[糺森君は変わったものを渡すなあ… え?]
あ。 え!? うわ 。 何!?!?
こ、子供、こんなにいっぱい……!!
[うそ、何だこれ……!!]
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