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[たまごの飾りを通し終われば、外した淡碧の珠を元に戻して。
再び首元で輪を作ると結び直した]
…………これでよし、っと。
私はそこまで大したことはしてなくて
ヴァレリーさんと、もう一人凄腕の魔女がかけてくれた
魔法がほとんどだけど…。
幸せを届けてくれる、天使のたまご。
加えればこの不恰好な数珠も、
だいぶお守りらしくなるかと思ったんだ。
[傍から見ればなかなか変化には気付けないかも知れないが。
似合ってるよと、装い新たな黒狼の頭を撫でる]
………… ありがとう。
[聲の調子も表情も、変わらなかったけれど。
先刻までより増した尻尾の勢いは隠しきれないようだ。
撫でられれば、目を細めて擦り寄って、]
やり残したことは、もう、ないか?
…………うん。
心残りも果たせたし…十分かな。
それにわたしは欲張りだから、早く出て行かないと
また新しい未練ができてしまいそうだよ。
[この奇跡の記憶をどれだけ持って帰れるかはわからない。
それでもどこかには残ってくれることを、祈りたい]
だから。
一緒に帰ろう、クレーシャ。
[灰青の眸からは涙が零れていたけれど、
表情は微笑みを湛えて。
擦り寄ってきた身体をぎゅっと抱きしめる]
[腕を離した時には、そこに今までの青年の姿はない。
目の前の狼と同じ色をした、
漆黒の体躯に深緋の眸もつ狼が代わりに現れて]
くぅん
[ひとこえ、鳴いた]
― 外 ―
……!
[雪を踏みしめる足とは別の、鈴の鳴らない足音がする。
ゆっくりと頭を上げれば、此方にむかって足を進める少女。]
オリガ、……
[彼女の傍に足を進めたが、言葉が続かない。
目の前から消えたオリガと再会できたのは、最後の奇跡か。
しっかりと、腕に力を込めて、その身体を抱きしめる]
……すこし、冷えてしまった。
[また、いつかのようにケープをその肩にかければ、いつの間にか銀の薔薇も其処にある。]
此処が楽園でも 夢でも
おれはそろそろ、出なくちゃいけない
[どちらにせよ、永遠に居ることの出来ない場所だから]
ずっと、一緒だと、いいな
[ ゆめを、みてしまう ]
………
ダニール、あんた、言ってくれたもんな。
願えばなれる、って。
[それは、此処に限った話なのは解っていて
もう聲は出ないし、この声は届かないけれど。]
おれは、この子と、…オリガと、一緒に居たい。
[とても、小さな独り言。
きっと傍の少女にも届かないくらい。]
あんたにも、また会えるといいな。
[オリガを抱きしめる腕に、力を込めた]
あ……。
[ケープを肩にかけられれば、冷えていた全身が温もりに包まれる]
……前も、こうしてかけて貰ってたっけ…。
[ぽつり、と呟く。
あれほど恋焦がれていたのに、どうして今まで思い出せなかったのだろう。
感情は認知していたとはいえ、やはり、記憶が有ると無いとでは全然違う。
今では、こうして彼との想い出一つ一つをしっかりと噛みしめられる]
……あの、レイスさんは寒くない? 大丈夫?
[いつも自分の為に彼は上着を貸してくれている。
それが、気がかりでもあり、嬉しくもあり。
羽織った上着にそっと手をかけ、笑みを浮かべる。]
……いつも、ありがとう。
あの、上着の事だけじゃなくって、他にも……その……。
[しどろもどろになり、首筋までをも赤く染める。
抱きしめられれば、鼓動を高鳴らせながら、ぎゅっとレイスの背に両手を回した。]
一緒に居てくれて、ありがとう…。
[それは、決して長い時間では無かったかもしれない。
でも、少女にとっては、かけがえのない時間。]
あと、大事にしてくれて、ありがとう…。
レイスさんと、出会えて良かった。
あの……。
[赤らんだ頬で、じっとレイスを見上げる。
いつもよりも幾分緊張した面持ちで。
実際、緊張していたのだろう。
レイスの服を握る手が、微かに震えている。]
……これからも、一緒に居てくれる…?
[微かな、泣きそうな声で、そう呟いた。]
[手際良く、置かれる紅茶とスコーン
あたたかい匂い、幸せのじかん
カップを手にして
スコーンを、半分に割って
そっと、口にする]
りー、りゃ……
[掠れた声
滲んだ、と思った瞬間、次から次へと押し寄せる涙]
帰りたく、ないよ……
ここに、ずっと、いたいよ……
言えなかったんだ……
一緒に居てね、って
一緒に行きたい、って
[紅茶を手に、ぽつりと]
ごめん、ね
こんな弱いお姉ちゃんで、ごめんね……
今だけで、良いから
ここに居てくれる?
[どこにも行かないで、と言われたあの時
同じ事を、同じように]
[涙伝う頬を、舐めてやり、]
うん。
一緒に帰ろう、メーシェンカ。
[現れた漆黒の狼に、がう、と鳴いて。]
[歩みだす。
教会の外へ。そして――門を潜れば
地を踏むのは、狼の足でも、“クレーシャ”の足でもなく――――]
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