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─教会─
[神の命が、 途絶えた 瞬間 。
世界は陰りを増した。
人の身《死体》に籠ろうと、神が居る事で、
辛うじてあった世界の秩序は更に麻の如く乱れ断たれた。]
神が死んだわ。
[ピシリ、と音がして──────。
両手を組み合わせ祈るエステルの、何処かに 罅 が入る。]
[神様の話を知っているのかしら?
神様は慈悲深く、愛に溢れ、忍耐強く、希望を持っていた。
そんな神様の話を。
でもね、そう。
そんな神様が世界を終わらせようなんてのはよっぽどのこと。
ずたずたな有様の神を希望に振り向けるなんてこと。
そんなむごい望みが許されるのかしら?]
[一対の翅は捻れ。
其れは最初からその様な形状だったのか、
死の灰によって捻れたのか。]
セルマサン、
あなたの未練は何かしら?
[エステルは眸を開き、
何処か夢見るような緩やかな口調で言の葉を零す。]
[ピシリ──────。
教会の内部にフレスコ画があれば、
神と創世に纏わるものも描かれていただろうけれど。]
……………。
[エステルは微笑み佇んでいる。
薄暗い建物内部にて。髪や翅には灰がはらりと積もり、
石像とまでは行かないまでも霜のようには見えただろうか。
ドワイトとギュルスタンの血は混ざり合い、陰鬱な絵を床に描いている。]
……。
[傷を誰かに見せることはよくあることなのに、
心なしか緊張して、ガーゼの上から傷口を押さえる手に余計な力が入りそうになる。
この真っ赤な傷を見て、ナデージュは実のところどう思っているのか、
訊きたいのに言葉が出てこない。
ちろり、と不安の色が瞳に浮かんでは消える。
そんなことを繰り返しているうちに、処置は終わった]
ありがとう。
……だいじょうぶ、…?
[ふいに視界が歪んで、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
するりと頬を流れるのは血ではなく涙。
透明な雫が床に落ちて、赤とほんの僅かに混ざり合った]
[処置が終われば、わたしは包帯をもうひと巻き、道具箱から取り出しました。
だいじょうぶ、とは、何に対する問いかけなのでしょうか。
ゆるやかに笑んだまま、わたしは首を傾げます。
スーさんの傷は確かに酷くはありますが、醜いと称するものではありませんでした。
もっと医者の設備がちゃんとしていれば、綺麗に治ったのかもしれません。
ですが、わたしにそんな知識は無く。
涙を流すスーさんの頭を幾度も、リズムをつけながら撫でます。
それから少し身体の向きを傾けて、顔が正面から見えないようにすれば、わたしは自分の包帯を解きました。
わたしの包帯は傷ではなく、病を隠す為なので、直ぐに巻き終わるでしょう。
赤く染まった包帯が、床に落ちます。]
―回想―
[…二人で花をアルコールに着け、浮かないように蓋をする。
実験用の溶媒だけれど、ちょろまかしても言い訳は効くし。]
・・・稽古って言われてもなぁ。
体術は特に覚えがないから、あんまり役立つとは思えないんだが…
[…言いつつも稽古に付き合うのは、
彼の事情を知らされているから。
・・・何時彼が本当の事を知るかは、分からない。
それでも、力は生き延びる術になる。]
少なくとも、無理に攻めを入れるな。
魔物相手の戦いでは避ける事が第一。体勢を崩せばやられるぞ。
そして魔物は基本、技より力任せだ。
一撃一撃が大ぶりな分、一撃でこっちを刈り取りに来る。
どうしても隙が大きくなるから、その隙を狙って急所を狙うんだ。
[・・・結局、組手より知識面の指導になったとか。]
― 去年の記念日に ―
[全く律儀な男だと思った。>>3:75
ありがとう、も。
きみとであえてよかった、も。
そんな言葉をもらうに値するわけないのに。偽の手紙とその差出人は。]
あれ以来、手紙をよこしてくれてないってのにねえ。
今年で終わりにしたらどうだい?
[毎年、己の村に来た日が年を巡ってやってくると、ドワイトは封筒を持ってやってくる。
今年も苦笑しながら受け取った。
宛先を示す記号がないものなんか、通常は扱わないけれど。
彼に手紙を届けた人に届けてくれ、と指定されたら、分からないとは言えない。
自宅に戻って封筒を開ければ、押し花でできたしおりが1枚。
これで9回目、9枚目。]
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