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[夜の帳に包まれたような、黒い、黒い城。
そこに住まう、巨大な烏を見上げていた。]
――っ。
[口を開いて、灰の空気を吐き出して、喉に力を入れて。
漏れたのは息の音だけ。]
(声が、出ない……。)
[烏が嘲笑うように啼く。
無知を、無力さを、遙か高みから見下ろして。]
(確かに、あなたの力は強い)
[現に何人もの人が、傍にいると誓った人が、永劫の時を苦しむことになっているのだから。
苦しみすら、感じなくなるのだけれど。]
(そんなの……)
(そんなの、悲しすぎるわ)
[心の闇より深い黒を纏った烏を、睨むように見上げる。]
(だから、あなたには渡さない)
[壺の中で、鏡越しに出会った時の言葉を再び紡いだ。]
[烏が問うような視線を向けた気がした。
一人に執着する姿を、嘲るように。]
(私は選んだのだもの)
[初めて会った時に、話した言葉>>1:120を思い出していた。
もしかしたらあの時から、何か決まっていたのかもしれない。
人はそれを、運命と呼ぶのだろうか。]
(母様は、今度は自分のために笑いなさいと言った)
(だから私は傍にいる)
(共に、幸せを幸せと笑い合えるように)
[言葉にすれば、思いはより強くなった。
心で念じただけだというのに、烏が応えるように啼く。]
[ふと、壺の中で見たアルビレオを思い出した。
ふたつでひとつの光。
ふたつでなければ、その輝きは生まれない。]
(セラフィーナと私のよう)
[跡取りでありながら、平民の母から生まれた子。
貴族である父と義母の子でありながら、跡取りではない子。
ふたりはお互いの欠けた部分を補うように、いつも一緒にいた。
ふたりでなければ、その笑顔が保てなかったから。]
(けれど、それじゃあいけないわ)
(あなたは、ひとりでも輝けるのだから)
[旅に出るときに見た、不安そうな妹の顔が浮かぶ。
大丈夫、あなたには家族がいる。
周りへ手を伸ばしてほしいという願いは、大きくなったであろう彼女に届いたのだろうか。]
[城に囚われている、王子様を想う。]
(彼は、強い)
(未来を知っても、諦めなかった)
(共にありたいと言ってくれた)
(――私がいなくても、ひとりで立てる人)
[影を纏っていたけれど、それでも太陽のような人だと思った。
自分の意思で選び、その選択に責任を持てる人。
だから、こんなにも心焦がれるのだろうか。]
(私は彼を支えたいんじゃない)
[たくさんのものを掴めない手だけど、横たわる体を引っ張ることはできる。
明るい日の元へ連れ出すことはできる。]
(私は彼の、隣を歩きたいの)
[迷ったのなら、背中を押す。
寂しいと泣くのなら、手を繋ぐ。
反対に、彼にだってそうしてもらうだろう。]
[少しずつ、城が霞んで見えなくなってくる。
消えていく影、啼き声も遙か彼方へ遠ざかって。]
(必ず助けるから)
[心の中で誓いを立てて、瞼を閉じる。]
−回想・夢−
[それは深い闇の夢だった。
頭を斜め下にして堕ちてゆく夢。
甘い囁きに羽音が交差する夢。]
[その中へ光が差し込んだ。]
[堕ちてゆくのを引き止めるように、
淡い光で出来た手を感じた。]
メルヴィ。
[光が促したように目が開き名前を呟いた。
落ちてゆく体から、手を伸ばす。
確かに、その手を強く握りしめた。]
ありがとう。
[確かにメルヴィの陽の光のような微笑みを見た。
全ては夢であったとしても、
目覚めれば忘れてしまう夢であったとしても。]
…これは…。
合う。
合うね。
レリア、グッド。
[一条は、レリアへ親指を立てて見せ、再び黒ビール。
そして、スコーン。そして、黒ビール。
…完璧なコンボを行う。
レリアとは、芳と話しだす前に、雑談があったろうか。]
レリアはBJでは、AKが好きだったり?
13、キング。
スペードは俺が一番好きなスーツだよ。
血を流すようなハートも好きだけれど。
[トランプチョコを手にとり、
親指と人差し指で角を支え、1枚くるりと回してみる。]
レリア、このトランプチョコは
持ち帰りにして貰っていいかな?
「色」のついたものを漸く食べた気分だ。
食堂の食事も美味しいが、レリアの食事は心まで満たされる。
[軽食を食べ終わり、トランプチョコを持ち帰りにして貰うと立ち上がる。その時に、お土産>>4:503を渡されそうになれば、]
おや、ありがとう。
…しかし貰ってばかりも何だな。
[と言いつつも、心の引っ掛かりなく受け取った事だろう。]
じゃァ、心優しい御仁に
「ありがとう」と伝えておいてくれるかな。
ご馳走様、レリア。
サロンに来るなら、また後で会おう。
[そう言って店を立ち去った事か。]
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