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― 一等者・シュテファンの個室 ―
[暗い室内は、とても静かだった]
[生きた人の気配の無い、寒々しい静けさ。
倒れ臥した男の周りには、彼の愛機が無残に砕かれ討ち捨てられている]
…………ナタリーくん。
部屋を、間違えたようだ。
[小さな灯りに照らされた室内には、シャノアールは居ない。
代わりのように『在る』のは、生を失くしたシュテファンの肉体と、その傍らに立つ彼自身]
>>21
はぁ?
[ロランの言うことに怪訝な顔をする。]
お前、オレが怖くないのかよ。
オレはそんな銃は怖くないぞ?
[そして、手足が獣に変わっていく…。]
[彼は何も言わない。否、言えないのだろうか。
死後に生者へ伝える声すらも奪われるのか、人狼に襲われ亡くなった者は、何事も訴えて来ることはない]
[彼の胸に深く突き刺さったナイフが、蝋燭の光を紅く照り返す。
そのナイフが、シャノアールの胸に突き立てられていた物と同一だとは、己には知り得ないこと]
………………っ。
[血の臭いに、口元を覆う。
象牙の意匠の施された刃は深く刺さったままだというのに出血が激しいのか、辺りに血の臭いが立ち込めていた]
>>25
はぁ?
[嗤うと痛いと、胸が…そんなことを言い出す目の前の細い女に、顔を顰める。]
何言ってる。
そうか、閉じ込められて暮らした反動がそれか?
おめでたすぎるな…。
[そして、ふうっと息を吐くと、みるみるその身体は黒毛に包まれていく。
目の前の女は見ることになるだろう。まさに人狼という存在を。
眼は黒から紅く光る石になり、爪はそこらの刃物よりも鋭く。
牙からは唾液が滴る。
もちろん、ロランよりもはるかに巨大なそれ…。]
――……グルルルル
[言葉を発さない獣は、その前に立ちはだかった。**]
[嘲るような言葉に、きつく口唇を引き結ぶ。
彼の言っていることは的確なのかもしれない、けれど]
……何が悪い。
君のせいで痛いのなんて、私の勝手だ…!
[無茶苦茶なことを言った。
その間にも、彼の獣への変化は全身に及んでいく、針の様に煌く黒檀の毛並みと紅玉の眸。サーシャの高揚した声を思い出す、この力ある獣には確かに狂気を誘う何かが、ある。
力ある者の象徴のような鋭い爪と牙の輝きに、気おされる。威嚇の唸りに、見開いた瞳は、その紅を瞳孔に映しだした]
ミハイル――……
私を喰らう気に、なったのか?
[言葉を発さぬ獣に問いかけながら、
その身は小さく後ずさる、恐れと畏怖と――けれどやはり、痛みをもたらすものは消えず、残って]
[ロランとミハイル。言葉を交わした数の多い二人が去ってしまえば、食堂車は急にその空気を変える。
よそよそしく。広く。ぎゅうぎゅうの。ざわざわ。ぞわぞわ。]
……。
[いつも感じていたもの。何を言っているかがわからなくて、何を求められているのかがわからなくて。
空想に逃げればより一層遠くなるし、膜で隔てられているような気がするのに、突き刺さる痛みだけが通り抜けてくる。]
……食べられたら、死んじゃうけど、食べてもらえる。
[答え損ねた、ミハイルの問い>>3:99の答え。小さく呟いて、彼の唇の動きを思い出そうとする。
『いい子だな』と言ってくれた低い声。舞い上がるような幸福を呼び覚ますはずの……人狼の声。
けれどそれは、回想の中でさえ、ロランの悲痛な声にかき消された。]
……なんでかな。
[彼が人狼だと、確信が持てていないから?
理屈をつけてみる。うまくいかない。狂った感覚が、彼を狼だと告げている。]
わかんない。……わかんない。
[ぶつぶつと小さなつぶやき。自分の中に完全に入り込んでしまって、周囲の騒ぎには気がつかない。
アナスタシアが出て行ったことも。ユーリーが愛を語っていることも。
……ましてや、別の部屋で、ロランが危険にさらされていることなど、気づけるはずもなく。]
がたん、ごとん。がたぁん、がたぁん……
[揺れる列車の音をいつしかなぞり始める、その瞳の焦点はどこにもあわないまま。**]
−シュテファンの個室前−
[ダニールが扉を開けた途端、血の臭いが鼻についた。
けれど、彼は、部屋を間違えたというー。>>22
背中ごしに覗き込むと、血を流し横たわっていたのは。]
あぁ、シュテファンさん…。
[彼が食堂車を出ていったのはつい先ほどのことだったのに。
きっと彼もまた温かいのだろう。
口元を手で覆いつつ、もう一方の手で、 ダニールの背に触れた。
その手は小刻みに震えていて、恐怖のためか寒さのためかひんやりとしていた。
胸元に深々と突き立てられているナイフ。
シャノアールの死体に刺さっていたものと同じだということは、
彼女もまた気づかなかった。]
― どこかの個室(おそらくは二等車両 ―
>>27
[獣は唸り声をあげる。
大きいが、確かに獣である足は、ゆっくりとロランのほうに歩み寄る。
人の姿でもラビの首を片手でへし折ったその力は、人狼化すればその倍にもなっただろう。
だが、もちろん、不死身なわけではない。
シャノアールが言ったように……攻撃されれば、普通に傷つき、死ぬ存在。
同時にそれは小さいといえども、火器は最大の武器でもある。]
誰がこんな…?
[行動を共にしているダニールも答えようがない問いを口にする。
もしかしたら人狼の仕業だと聞かされるかもしれないが。]
あ…他の人にも知らせないと…。
[そう口にしたものの、すぐには体は動かなかった*]
[しかし、それでも相手は柔肌のか細い女。
それがわかっていたのに、
獣はその前まで歩み寄ったあと、ロランの細い身体に軽くぶつかると、横に押し退けた。
おそらく彼女には絶体絶命な気がしたかもしれないが…。]
グルルルル……
[そして、ロランを押し退けた獣は、そのまま、二等車両の廊下に出ると、]
――…… !!
[明らかに獣がいるという遠吠えをした。
それはきっと、人狼事件を経験したものには、その恐怖を呼び起こさせるのに十分な声だっただろう。]
[その獣は遠吠えのあと、ピタリ止まると、何かを探すように……。
そして、その匂いが前方から、一等車両あたりから流れてくるのを感じ取れば、そちらに駆け出していく…。]
ガルルルルル……
[まずは、食堂車にその姿を見せた。]
[びくり。
聞こえてくるうなり声に、かつての記憶がよみがえります。
そして知らず、体がふるふると震えだしました。
落ち着け、落ち着けと、荷物入れの中にその小さな身体を押し込め、隠れようとします。
おとうさんも、おかあさんも、おにいさんも、おねえさんも、みんな人狼に殺されてしまいました。次こそは、少女の番なのでしょうか?]
― 食堂車 ―
[そこには誰がいただろうか。
やはり一番に目についたのは、ただ、亡と座るサーシャだっただろう。
その横を黒光りする獣が歩いていく。
おそらく、イヴァンの死体のところにまず向かうと、その匂いを嗅ぐ…。
だが、毒にやられたものとわかったのか、顔を背けた。
そして、新たな血の匂いはどこだとサーシャに近づいていく…。
その左手首から、新鮮な鉄の匂いを感じたのかもしれない。]
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