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[グラスを傾け酒を舐め]
随分と良い酒だな、
是では明日の献上品も余程吟味せねばなるまい。
[ゆるりと味わう様に幾杯かを重ねて
幾らかは弔いの酒で幾らかは縁の酒
グラスの淵から窓の外へ視線を移し]
流石にそろそろ良い時間か、邪魔したな。
[最後の杯を乾かしトンと机に置いて席を立つ
コートの裾を翻し扉の前で肩越しに振り返り]
オマエとこうして飲めるなれば、
腐れ縁も悪いばかりでは無いな。
おやすみ、キャロル。
[珍しく軍人の名を紡ぐ口許は微か笑みを浮かべ
礼ともつかぬ言葉を残しキャロルの部屋を出る]
[寝静まった宿舎内を気配を消してひとり歩き]
さて、何処かね?
〔指先は探る様に眼窩をそっと撫ぜて呉れる〕
………。
[起き出す兵の気配に静かな眼差しは細められ]
慣れた者の多い此処では、
流石に全ては探り切れぬか。
[何事も無かったかの様に平然と宛がわれた*部屋に戻った*]
相変わらず落ち着きの無い連中だ。
〔血腥い湿った空気と絡みつく死臭の中
擦違う兵達は日増しに殺気立っていく〕
ニーナの求める答えとは何かね?
我がこの手に抱くは冷たく眠る躯。
〔道すがら額を撫ぜて呉れる手は優しい〕
治す者は何を想おうか。
[診療所の前に立ち建物を見上げ呟いた]
其れでも声のあるは良いものだ。
如何想われるも厭わぬが、
オマエの事くらいは話すべきかね?
〔額をなぞる指先に微か逡巡の気配〕
………。
[暫く診療所を眺めてから扉を潜る
静まり返る診療所をぐるり見回し]
ニーナ、居るかね?
[静かなれど良く通る*声をかけた*]
[眠りにつく。
目が覚めた時、朝が来ている。
掃除、整理、料理、食事、洗濯…
全て終われば、新しい日課が加わっている]
…
[診察室で独り、椅子に座って白い壁を見つめた。
但し、今度は思考すべき物がある]
…無い物強請…
[ポツリと彼の者が言った言葉をなぞる。
暫く、瞳は白い壁を無言で見つめていたが…]
…はぁ。
[瞼を閉じれば、小さく息を吐いた]
私が、都合の良い様に…解釈しすぎ、でしょうか。
[誰に言うでもないその言葉は壁の中に消え]
はい。
[声が聞こえた。
聞き覚えのある声に立ち上がれば、診察室のドアを手がけ…]
…居ます。
[隻腕の男に声をかける。
しばし、考えを巡らせ…]
今日は、此処で話すのはいかがでしょうか。
此処でなら、疲れることはありませんから。
[言うや否や、踵を返せば台所の方に茶を淹れに行く]
【軍本部】
[昨夜呑んだ酒は美味かったな。
そんな事を思う。
部屋から出れば血腥い空気、殺気立った気配]
例の学兵の検死結果は出たか?
……引き続き調査を行え。
ウィル、オルステッドはどうした?
巡回中か。
ふ、あいつも複雑だろうがな。
カルヴィネン准尉もだ。
[女の故郷はとうに無かった。
時折遠くを見るような眼になる。]
――コーネリアスが連行されたが、
どちらだったのかは未だに分からんな。
例えそうだったとしても口を割るとは到底思えない。
何も言わなかったろう。
[優しげな銀髪の青年を思い、
小さく息を吐く]
民間人を守ろうとするために
民間人に見えるが疑わしきものを殺す。
因果な事だ。
[トレイにポットとカップを乗せ、テーブルへと向かい…
カップに茶を注ぐと、ジーンに差し出す。
そして、自分の手の中に持つ]
…昨日の、言葉…ですが…
[カップを傾け、琥珀色の液体で喉を潤す。
やがて、切り出すのは昨日の話]
申し訳ございません。
私には…少し、考えが及ばない様です。
[カップに落としていた視線を少しだけ持ち上げ]
…宜しければ、分かりやすく…お願い、出来ますか?
余計判り難いやも知れぬが…
[勧められた席に落ち着き茶を啜り
ポケットから徐に取り出すは髑髏
机に置いて頂頭部を指先がなぞる]
ニーナにも治せぬ者だ。
[髑髏を見詰める眼差しは微か柔らか
顔を上げニーナを見詰めゆるり瞬く]
――生も死も、我には判らぬのだよ。
[静かな黒の眼差しが伏せられる]
是は最早起きぬが未だ此処にあろう。
「死」と言う概念が判らぬ故、
永久の眠りの際に立つ者を治す者が眩しく映る。
[再び目の前のニーナを移す眸は静か]
[テーブルの上に置かれる髑髏。
指が滑るその様子をじっと見やり…視線をジーンに戻す]
ええ。
もう、何も物言わない…
言わせることも出来ません。
[カップを微かに傾け…]
医学的に言うなら…心臓が止まることですが。
[そういうことを聞いているわけではありませんよね、と視線をジーンに向ける]
確かに、存在はしますが…意志がありません。
だから、人は、遺書や…書物を遺す。
…つまり、意志が無くなって…
自分で動けなくなれば、ソレは死、なのではないでしょうか?
…そうでなければ、生きていてもしょうがない、というモノも在るでしょう。
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