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[クノーから乗車券を受け取り>>39、思い出したことを紡ぐ。]
…ちっちゃい頃はね、ベニも元気に走り回ってたんだよ。
おうちは神社で、…おうちのお手伝いの時にはいつもこの格好で。
近くに小さい公園があって、そこで遊んでる仲良しの子もいたの。
公園からは中学校が見えて、その中学校の制服がすごいお姉さんっぽくて、お友達と一緒に中学校に通うの、楽しみにしてた。
まだ幼稚園にも入ってなかったのに。
でも、幼稚園に入る前の、夏祭りのすぐ後、身体が起こせなくなって、そのまま入院しちゃった。
お友達と通う予定の幼稚園の制服も、ベッドから眺めただけで一度も着られなかった。
ベッドの傍に置かれたピカピカのランドセルも、一度も背負わないまま。
幼稚園も小学校もいつかは通えると思ってた。
苦しいのを我慢して頑張れば、通えると信じてたの。
でもベニの身体はそれだけじゃ良くならなかった。
白い部屋に入った時から、もう何年もベッドに横になったまま。
背中を起こせる角度も、どんどん低くなっていってて。
それで、最後のチャンスって言われて。
1年後の中学校には通えるようにって、怖い「手術」も受けるって言ったんだ。
手術の日、眩い光の下で、数を数えてたらふわっとして、真っ白になって。
…気が付いたら、ベニは制服姿でおうちの近くの中学校にいた。
[一息に喋りきると、ボストンバッグを開ける。
中から出てきたのは…可愛らしいブラウスと、プリーツスカート。]
…これが入ってたんだ。これ着て、中学校にいたの。
[手に取った制服は、不思議なことに着替える行為なく着用できた。]
[ミナの唇が震えている>>38。
……そうだろう。自分が死んでいたなんて、思いたくないはずだ]
……そう。
これは、北の十字架から南の十字架へ、死者を運ぶ列車。しあわせを見つけた魂は、列車を降りて天上へと旅立っていくんだ。
[ミナが飲み込んだ言葉には、気づいてはいたけれど気づかない振りをして、だけど少し躊躇って。
……目を伏せたまま、言葉を紡ぐ]
…………。
濁流にのまれて次に気づいた時、僕は銀河ステーションのホームにいた。
鉄道が出ると言われたけれど、妹のことが気がかりで乗ることが出来なくて、だけど戻ることも出来なくて……ただ、あてもなく待っていた。
そして何本か見送るうちに、僕は知ったんだ。
――あの時、自分が死んだことを。
でもね、中学校から出られなかったの。
おうちの神社も見えるのに、帰れない。
学校の中を歩いていても話しかけても誰も気づいてくれない。
明るいうちにモノに触れようとすれば、手がモノをすり抜けた。
日が暮れるにつれて少しずつモノに触れる感触があったから、気づいて欲しくて、悪戯したんだ。
消しゴムを落としたり、ボールを転がしたり、落ちていたものを拾ってみたり。
校内から人がいなくなった頃にはモノに触れられたから、音楽室でピアノを弾いてみたりもした。
いつしかベニの悪戯は、「七不思議」なんて言われてた。
――あんなに通いたかった中学校なのに、周りに人いっぱいいるのに、すごい孤独で、寂しくて。
…暫くして一緒に遊んでたお友達が入学してきて、卒業するまで近くで一緒に過ごしたの。
でも、3年経ってお友達は卒業して中学校から出て行った。
空っぽになった教室で、また独りなんだなってで立ち尽くしていた。はずなのに……
気づいたら、ボストンバック抱えて検札口前に立ってたんだ。
[ふと窓の外を見ると、赤く燃える星が後ろに流れていくのが見えた]
……ああ、赤く燃える蠍が見える。
もうすぐ、駅に着くころだ。
……ミナは、どうしてここに来たのか、思い出せたかな。
僕はたぶん、サウザンクロスで降りることは出来ないから。もし降りてしまうのなら、君の話も聞いてみたいんだ。
[さようならの前に、と波ひとつ無い水面のような穏やかな笑みを湛えたまま、彼に話を促した**]
でも。
……良かった。ベニが生きてて。
[ベニの手を包んでいた手を再び伸ばして。
嫌がられないようなら、頭を撫でる。
見た目よりも少し年上のようだし、子供扱いは、嫌がられるかもしれないけれど。]
ボクの話を聴いてくれて……ありがとう。
……もし、ボクが降りるまで、君が此処に居るなら。
もう少しだけ、一緒に星を見ない?
いつかベニが自分の脚で、この星たちを見に来れるように。
目印を、教えておきたいんだ。
……ボクにはもう、それくらいしか出来そうにないから。
[赤く燃える火は、蠍の心臓だろうか。
問い掛けはしたけれど、ベニが嫌がるようなら、別の話に変えたか、或いは彼女を見送ったか。
夜空の元響く、小さな声は。
いつかの満たされていた情景に、良く似ていた*]
[>>46似合ってると言われ、服と比べて明らかに幼い体躯と振る舞いに頬を赤らめながら]
ありがと…。
ベニより、パパとママのほうが大変だったと思う。
それに、いろんなことがあったクノーのほうが大変だよ。
ベニは寝てただけだから。何も知らないもん…。
[ちょっと、しゅんとする。
が、次にクノーから発せられた言葉>>47に驚いたように顔を上げた。]
…えっ?
だって、この列車………だからこのまま乗ってればってこと…?
でも…
[「帰っても、また苦しいだけなら、クノーと一緒に降りたい」と口を開こうとした時、
クノーの安堵したような声が、大きな手が、ベニの心を包んだ>>48。
その温かさがじんわりとベニの心を満たしていく。]
[>>50>>51くるりくるりと変わる表情。
一度だけ止まった言葉に、一瞬だけ。苦笑を浮かべたけれども。]
じゃあ、約束する?
南十字星で、ボクはベニを待つ。
此処からずっと、ベニを見守ってる。
だから……ベニが来た時には。
楽しかったこと、悲しかったこと。今度はボクに、いっぱい教えて?
……この先に辛い事があるとしても。
多分ベニは、楽しい思い出をいっぱい作る為に、戻るんだから。
[楽しいばかりの人生なんて、そうそうありはしない。
虚言かもしれない、けれど。小指をそっと、差し出して。
星を語る言葉に、彼女の未来と幸いへの祈りを込めて。列車が止まるまで、紡ぎ続けた**]
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