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― キッチン ―
[足を踏み入れたとき、
其処にパイのひとの姿はあったか、なかったか。
どちらにしろ、あのわけのわからないのから
辛うじて嗅ぎ取れた匂いは、其処で終わっていた。]
……いなくなってしまったのかな。
[ありがとうを、言っておきたかったのだが。
特になにも無ければ、そのままホールへと踵を返す。]
修復師 レイスは、キリル にうしろゆびをさすことにしたよ。
修復師 レイスは、森の魔女 アリョール をおそっちゃうことにしたよ。
……だめですか?
[それでも聲に混じる笑いが、わざとそう呼んだのだと示し。
“おとな”が、ぴーぴーわめいていたり、した。]
クレーシャは、思っていたよりとっても面白かったんですね。
がんばって部屋を出たらよかった。
[テラスから、樹に向けて飛べば。その一歩が踏み出せなかった。]
ほぉん?寂しかったってまた…こんな場所でそういう感情が。
ほぉほぉ……。
話し相手になって欲しいなら、こっちに来れば
手っ取り早いのにな?
ま、大丈夫ならいっか!
[フィグネリアと同様に、解らないかも知れないが
にぱっと笑ってみる。
実際に見る事があったなら、男の背後から
後光すら差して見えるかも知れない。]
そうね。
レイスって人はわからないけど、メーフィエは―――
多分、その魔法に気づくのはこれからだと思うわ。
もうすぐね。
[そっと、静かに答えた。魔女は屋根の上で]
もっと――ね
優劣はないと思うけれど。
[いろいろといわなければいけないことがあったきもしたが、タイミングを失ったので、それは胸にしまったまま。]
何を作っているの?
前にいってた、たまご?
― 控え室 ―
ヴァレリーさんから頼まれておいた銀細工、
今のうちに済ませておくか。
[バーナー、各種ヤスリ、作業台などの工具。
研磨剤や硫化防止剤などの薬品。
それらを慣れた手つきで作業鞄から取り出していく。
自分の工房のような、本格的な焼成炉が
無いのはさすがにやむを得ない。
今回はごく小さなものなので、何とかなるか]
[ふわり。ブラシが浮いた]
さ、ちゃんと仕事する所に行きなさい。
背骨折って悪かったわね。
[す、と人差し指でなでると、柄付きブラシはあるべき場所にかえっただろう]
それで、あんたは――
[カエルっぽいものをつまみ上げた。じたじた。]
[うーん、うーんと唸りつつ]
柔らかい布で、でも形はきっちり軍服みたいなたった襟かなー?短めの。
縁取りをするの。
ゆったりしたたわんだ首もとよりはそっちがいい気がする?
[道具の脇に広げた紙は、
ヴァレリーの天使のたまごを
ペンダントにした時を想定したイメージスケッチ。
鎖や天辺の飾りの図案の横には、
細々とした文字で何かが綴られている。
ちなみに、後者については形が構想当初から少し変わっていた]
…………。
[そもそもこれまでヴァレリーと話したこと自体は
大して多くなかった気がするが、
天使のたまごのことを知ったのはどこでだったろう。
試作品を見た記憶と、
それに自分の銀細工を添えてみたいと口にした記憶は、
確かにあるのだが。
とにかく、彼の作品に関わる以上
ちゃんとしたものに仕上げなければ。
作業開始と共に、灰青の眸が常より鋭さを帯びた]
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