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[小さな教会、それでも正面の扉は他の施設よりも大きく作られている。
常に開かれている、はずのそれも、灰を避けるためにも閉められていることが増えていた。
手をかけると、油が足りていないのかひどく重たい音が鳴り響く]
賭けの結果……。
そうだな、おれから提案しておいて……。
卑怯者だな、おれは。
[年甲斐もなく泣く友の涙を拭ってやりたくとも、手を伸ばすことは躊躇われた。
灰の降る中に立ち尽くしている為か、また4(6)枚の羽根が抜け、かわりに赤黒い羽根が生えはじめる。
おそらく、先程抜けた部分の羽根は、もう、完全に視認できるほどに成長しているだろう。]
贈り物?
[続けられた意外な言葉に、軽く瞬く。]
あ、ぁ。
分かった、見てみ───
───?
[その時か。
教会の扉が軋む音を立てたのは。]
ドワイト、来客のようだ。
[二つの傘が縦列で教会へ向かう。
行きは横並び、帰りは縦並び。
其れは心の距離?
それとも何だろう。
セルマなら答えは分かる筈で。]
そうさ。
空の散歩を期待だけさせて、
そのままだなんて本当にずるい。
[散々涙を流して、少しは落ち着いた。
だってそうならなくては、
目の前の友人も安心できないだろうから]
そんな君とは、もうお別れさ。
お別れ、だ。
[本心との真反対の言葉は、噛みしめるように]
[そして最後に、付け足された言葉]
………どうか。
どうか一つだけ約束して欲しい。
私は君がどんなになったって、
大切な友達だと思ってる。
そのことを、覚えていて。
[来客との言葉に、頷く。
ギュルの亡骸をふらつきながら抱きかかえて]
私は客人を出迎えよう。
[暗に、相手は自由にすると良い、と告げて。
被せてもらっていた外套を、
静かに彼の前へ置いた。
ギュルを抱え直し、
ゆっくりとした足取りは教会へと戻っていく]
[きしきしと、こころが、いたむ、ような。
そんな身体の痛みに堪える。
すべてを身体的な苦痛のせいにして。
ひどい顔をしているだろう。
傘で隠れるように調整して、歩む速度を強めた。
少女の足取りが速まったならそれに気付いたようにまた元の速さに戻す。
脇道にはもう草も見当たらない。
以前ならば黄色の、小さな花が群生していたのに。
今や不毛な土地にしか映らなかった。
己を覆う、薄緑の花だけが目に入る唯一の色彩。
少女の姿もくすんで思えたのは、ただの感傷のせい。]
……すまない、本当に。
[今の羽では、誰かを抱えて飛ぶことなど出来ないと分かっていながら、それでも。
それでも、せめてもう一度だけでも。
友と空を飛びたかった。]
あぁ。
おわかれだ……。
[返す言葉は、力無い。]
[自分で決めたからには、それに従うほか思い付かなかった。
いつだってそうしてきたように。
家を飛び出して嫁いだときにもしなかった後悔。
それが、こんなときになって、
人生の、
あらゆることが、
ひとつの大きな過ちのように思われてきた。
]
ーーーーあ、?
[教会の形がはっきりと見える。
扉がーー開いている。
歩くのを瞬間、やめた。
女の顔が青ざめる。
ーーーー血の花が、咲いていた。]
……。
忘れなどしない。
こんなおれを、おまえは友達だと言ってくれる。
約束する、その言葉はけして忘れない。
こんなにも優しく、素晴らしい友がいたことは……俺の、誇りだ。
[ギュルスタンの埋葬すら手伝ってやれない。
そんな自分を、ドワイトは責めなかった。
いつだって、自分よりまず人のことを考える、そんな友だった。
淡々と、けれどはっきりと告げる。]
……分かった。
[教会へ来たのが誰かは分からないが、誰だとしても、今の自分が近付くのは、あまり好ましいことではないだろうと思う。
はらりと、また6(6)本の羽根が抜け、赤黒い羽根に生まれ変わる。
もう、誰の目にも明らかに、灰色の中に赤黒い斑ができている。]
……なん、だい。ありゃ。
血がーー
[灰で衰弱するのなら想像の範疇にあったが、このような例は把握していなかった。
最早、警鐘だったものは全身の血の流れと同じかそれ以上に強く激しく打ち鳴らされている。
背中の産毛もが残らず逆立つような、寒気がするのに冷や汗も流せないような。]
ーーーーは、ね?
[どす黒く変色しかかった血液の他に、それと似た色の羽が落ちている。
誘うように、扉が風を受けてわずかに開いた。
その音は女にとってーーあまりに、重たかった。]
[置かれた外套は、羽織らず、片手に掛けて持つ。
ドワイトが、客人を連れて戻る前にここを去ろう。
だがその前に、彼の言っていた「贈り物」だけは受け取っておこう。
そう思い、踵を返したところで───]
あれは……?
[教会へ近付いてくる、新たな人影。
その片方の髪色は、色彩のないこの世界に似つかわしくないほどに、美しく───
遠い日の記憶を、呼び起こすようで。
外套を抱えたまま、その場に立ち尽くしてしまった**]
傘を返しに来たんですけど――
[ぼそぼそと呟かれる掠れた声。香る埃と、血の臭いに眉を顰めた。光が射せばまばゆくだろうステンドグラスも、灰色の空になってからは無縁のものだ。
暗がりに立つ人影が、なにか不気味なものにも見えて、動かない表情筋をわずかに強張らせた]
[よろめく足取りは、魔物化した少年の亡骸を抱えているためだけではなく。ぽたぽたと滴る血液は、遺体から零れているだけでもない]
…………こつり、こつり。
[不規則な足音と共に、男は教会の中へと。蒼白の顔で、右肩からは血を流しつつ]
ああ。 エラリー、くん、 かい?
[呼びかける声は、何処か息絶え絶えで。けれど道端で先ほど会った時より、きっと事態は深刻で]
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