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[嗤いはするけれど、その嗤いはか細い。
相手が何であるかを知ったからか?
己が何であるかを知られているからか?]
とは言っても、ボクはご覧の通り気まぐれだからね。
そして、認めたくはないが
ボクはとてもお節介焼きらしい。
このセカイに忘れものをした馬鹿がいるらしいんだ。
そんなものはないと思うんだけどね。
そもそも馬鹿はここにいないんだから。
けれど、探すというなら見ておいてあげないとかわいそうだろう?
ひとりぼっちは寂しいものだからね。
探し疲れて帰るまで、まあ見てやって
来訪者なんだからばいばいと手を振ってもやろうかと思っているさ。
[明後日の方を眺めて、これは嘲るように、けれどどこか──
そこで言葉を切って、眩しそうに欠け征く太陽を見つめる]
ボクはね……グレイヘン
このセカイはサナトリウムであり
ゆりかごであり……棺であると考えていたんだよ。
いなくなっていった子たちは、神様のお迎えが来てね。
いなくなっていくものだとね。
中には君たちが連れて行った子もいたのだろうけれど。
[帰って行った少女達の行く末は、私にはわからない。
けれど、己の覚えている己の躯は
正常ではないのだろう…と、それは悟っていた。
私は何も忘れていないのだから]
火によって天に召されるは火葬
その身の全てを大地に還すのは土葬
水に流したり、中にはとり…いや、これはいい。
じゃあ、幻に抱かれて逝くのは
──幻葬 と呼ぶべきなんじゃないかなって?
ボク達はそれを待つ子なんだろうなってね。
けれど、日は陰り、夢は夢に還らなかった。
それは幻のセカイじゃないよね?
どうしてだろうね?
今までそんなことはなかったのにね。
[問いただす視線はない。ただ独白するように……見つめもせず]
ボクがただそのこころに忠実であることを願うよ。
一番いい送り方を
キミ達と、みんなと……ボクはそれを願う。
[グレイヘンの手に収まった枯れた花が静かに揺れる
哀しそうに 崩れたセカイのゆりかごで]
[体がズキっと重たかった。
点滴の量を見ると後少しだけだ。
これが終わるまではおとなしくしてようか
しかし、ぼんやりとした中で仮面の少女が笑っている]
ぐれいへんは、それから。
それに。
リヴリアを、まってるひとも、いる。
そのひとも。
きっと、このままじゃ――かえれない。
[雪のような白い自分の首をそっと撫でた]
リヴリアは。
ここで、しにたい?
[自ら死を選び、だけど死にきれず。
夢の世界で長らえている彼女。
それは本当は生きたいからなのか。
夢の中で死にたいからなのか]
そうか……だいじょうぶなら良かった。
あの子は“お気に入り”だったからね。
[決定的でも確信的でもなかったけれど。
“見たい”と“キレイ”だと言ってくれたその言の葉は
私に“何か”を与えてくれた。だから──]
んー? 渡り鳥に巣はないのかい?
じゃあ渡らなくなったら巣は作れるよね?
ゆっくりと休める巣が 帰るべき日常が
[それはここにはないだろう? と微かに首を傾ける。
ここに日常なんてないのだから]
ああ、二人は一緒がいい
二人はとてもいい子だから輝けるから
仲良くなれる。……ああちがうね。
“なかよし”さ
くちて、くさり、おちる。
[本懐、その言葉が本当なら。
渡り鳥がその手を引く事はできない。
死に焦がれる想いを、今もまだ覚えている]
げんそう。
――たしかに。
まぎれこんだ、そんざいが。
このせかいをかえてしまったのかもしれない。
ユメがユメであるかぎり。
せかいは、くちはてたり、しなかったのかもしれない。
[手の中の花の命を風が断っていった。
はらはらとさらわれていく花弁。
残ったのは萎れた茎と顎]
わすれもの。
それが、リヴリアのことなら。
リヴリアは、おせっかいやきかもしれないし。
いじわるなのかもしれない。
わすれもの。
もってかえれないなら。
それは、なくしもの。
どっちなのか、おしえてあげなくちゃ。
きっと、あきらめられない。
[そっと草の間に花だったものを戻す。
いつか土に還るよう]
ぐれいへんは。
だれもしらないばしょで。
ちからつきて、ねむりたいの。
ただ、それだけなの。
……そんなことないですよう?
わたしが動けなくなっちゃった時はひどくなかったですからねえ。
………さっきはさっき、今は今ですよう。
[そう、さっきと今は「違う」。
こうして直に触れ合っていることが、
こうして互いの目を見詰め合っていることが。
触れる手はこんなに冷たいのに、
どうして彼女のままでいるのだろうか。
寒くないのかとか、自分のように動けなくなったりしないのかとか、
小さな、小さな不安が降り積もる]
ええ、それで迷ったところを道化師さんに……。
[驚きが「ふり」であることには気付かず。
泣き顔の道化師に感謝を眼差しを向けようとしたが、
風に揺れる草がぱっと目に入るばかり]
そうですよう。
わたしひとりじゃあ飛べないから、渡り鳥さんにつれていってもらって、
白いお空に浮かぶお星様を――……
[声がしぼむ。視線が外されたから。
続く言葉にああ、やっぱりと思いながら、]
やっぱり、こんな話、面白くないですよねえ……。
ましてや一緒に行く、なんて、
夢のまた夢ですよねえ……。
[ことり、と音を立てて、
「星」の入ったビンが草地におろされる。
幾分か大きく動かせるようになった左手で、
太陽輝く右手をぎゅっと握った]
ぐれいへんには、わからない。
ぐれいへんには、まってくれるひとは、いなかったから。
なにをのぞむかなんて、――わからない。
でも。
なにものぞまなければ。
まったり、しない。
ほんとうに、なにものぞまれないなら。
めざめたって、だれもいない。
でも。
リヴリアには、いる。
[微かに揺れる声、仮面をじっと見詰めた]
おいかけて、きてくれたひとも。
しってて、なかよくなろうとしたひとも。
ふふ、グレイヘン
他人が何を忘れたのかを教えてくれなければ
ボクは教えてあげられないよ?
ボクには何を忘れたのかなんて知らないんだから。
それを知っていれば教えるさ。
聞く勇気があるなら聞けばいい。踏み込めばいい。
藪の中へ
[彼女の語る望みを模すように、朽ちた残骸は大地へと隠れていく]
誰も知らない場所かい?
じゃあ、誰も知らない場所、誰も行き着けない場所まで
飛べるよう。
キミは無理をしてはいけないね。
尽きるその日まで。
知ってて仲良く…かい?
キミは本当に啄むのが上手いね。グレイヘン。
[胸の奥がチクリと痛む。嗚呼彼女は知っていて私を“見たい”と言ってきた。それが何を意味するか]
ボクにはその望みがわからない。
まあ、待っているというのなら、その努力に免じて
望むものを演じてもやれるかもしれないけれど。
それでその人は満足するのかい?
タネも仕掛けもあるんだよ? 魔法にも心にも
――そうね。
そのひとが。
わすれものの、なまえを。
ちゃんと、いえたら――いいね。
もう、なくしたりしないように。
[それは仮面の言う通りなのかもしれない。
手を伸ばしきれない者の事を思う]
つかれなくちゃ、ねむれないの。
きっと、せかいも。
もえつきなくちゃ、おわれないのかも。
しれないね。
…なにも、したくない?
[おかしいな、と首を傾げる。
もちろん、シャルロッテ自身がみてきたわけではないので、
少しの認識の違いはあろうが]
…あなたは、ものを作るのがさきって聞いているけれど。
お料理や、お裁縫なんかがすごく上手だって。
[十年ほどともなると、カルテもそれに比例して分厚くなる。
それと、シンの顔を見比べながら]
そういったものは、どうかしら?
やってみたい?やりたくない?
言えずに諦めてくれるのが、
もしかしたらいいのかもしれないよ?
その子にとっても、ボクにとっても。
[カラカラと嗤えば、ずるり……とやはり肉が腐る音がする。
体内から蝕むように熟れるように]
そうだねぇ…セカイもつかれてしまったのかもしれないね。
おやすみしたいのかもしれないね。
たくさんの夢と幻を作ってきたのだから。
はじまればいつかは終わるさ。
人もセカイも 心だって
[目指す花畑はもうそこで おわりはおわりに向かって緩やかに廻っていったか?]
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