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遥、彼方………
[現在のハルを思えば
本来の名前と双子の弟という名前に
眉が下がった。
かぁくん、多分、この10歳の夏で亡くなった
遥の双子の弟のことだろう。
懐かしい、羨ましい。彼女が口にした言葉。
きっと、今の彼女が忘れてしまった言葉を
思い出しながら……]
いまはね………
[長く、にわずか反応したのをみて、年号と日付を伝える。
ついでのように、カルテ上の彼女の年も伝えて]
ここはね、あなたが眠っている間、ご両親が預けられた所よ。
それから、あなたが夢をみたいほどやりたいことを、やれるようにするところ、なの。
…………
[読み終えた資料……かなり昔の事故故に
事故その物の記載は詳しくはないを
閉じて、しまおうと立ち上がり
……また、椅子に座り込んだ。]
―――…………
[肘あてをしっかりと握り、支えにして立ち上がる。
傍目には、単にゆっくり立っているかのように。
少女達の眠る病室、介入者が眠る病室
人が動き回っている。
そこでやっと、シンとツヴィンクル先生が
夢から出たことを知る。
少年は介入者用の寝台に戻らず
姉の寝台へと向かった]
[花畑へ向かうのは多分、道化師と一緒。
とてとてと歩調を合わせて。
途中、翳る空を見やれば欠けていく太陽]
――ねえ、リヴリアは。
もしこのせかいがこのまま、いろをなくして。
みんなも、かえってしまったら。
それでも。
ここにのこりたい……?
[花畑の外れまで来てふとしゃがみ込む。
拾い上げた花は一輪だけ、枯れていた]
[……負傷当時は焼け焦げた為刈られた頭髪も
今は、夢の中同様長く伸びて。
生命維持活動が確かに行われているとはっきり示す以外は
全身を包帯に巻かれ、動かない姿はミイラのようで。
床擦れが起きぬよう、時折動かされているだけの姿。
深い青瞳さえ包帯に塞がれ見ることはかなわない。
その寝台の傍らに腰掛ける。]
[慎とは顔を合わせ難くて、ベッドの上に引き篭もっていた。
彼女の事はシャルロッテがきっと上手くやってくれるだろうと。
ヴェルを送り届けた時よりも意識の浮上に時間がかかった。
世界が体に与える影響が増しているのか。
感覚で、もう数えるほどしか誰かを連れて
夢と現実を渡る事はできないであろうと悟る。
自力で帰れるものは、いるか。
はたまた吐き出されてしまう者がいるか。
次は誰を。
少女達の寝顔が何故だか見たくなって。
壁に手をついてベッドの間を歩いていると]
……ダハール。
そうか――……
[合わせていた視線を外した。
思案げにうつむき、眼差しの先を彷徨わせる]
きみは、星のところに、行くんだ。
[そう一言、無感動に呟いた*]
グレートヒェン
[夢と現実で呼び間違わぬよう
本名ではなく愛称で呼ぶ。
舌っ足らずな言い回しまではしないけれど。
壁に手をついて歩く姿に
余り体調が芳しくない、のかな?と
寝台脇に腰掛けたまま見上げた。]
体調、よくなさそうだね。
ツヴィンクル先生が弾かれたって本当?
[『星のところまで飛んでいく前に』
それが意味するところのことを
ミズキはなんとなく察してしまった。
けれど理解と感情の納得とは別で、
受け入れるには感情が未だ追いつかない]
わからないこと。―――って、何?
[けれどそれはともかくとして。
星売りが話そうとする、その内容に意識を向ける。
ようやく互いに伝え合おうと通じ始めた、そのこころに]
もういいのかい?
[高鳴っていた鼓動が落ち着いてくると、その円らなベリーの眸が開かれた。
目をこする様に仮面の下から我が目を細め、一なでして身を起こすのを手伝ったか?]
そうかい? では一緒に行くかい?
先に行っているかい?
二人も見に行かないとね。
送ってあげようじゃないか。
[そう紡ぎつつ立ち上がる]
[少しの沈黙の後に語られる事実>>44
期せずして零れた溜息は不安の色にも安堵の色にも映ったか]
そうか……
ローザはちゃんと目覚めてくれているのならいいのだけれど。
グレイヘン、キミも本当に疲れたのならキミの巣に帰るんだよ?
キミの友達を連れて、できるだけ早く。
[あの子が聞いたら、また傲慢と言われるか?
このセカイとあの世界を行き来する……
それには理由があるのだろう。
己を危険にさらしいたずらに行き来する必要などどこにもないのだから。
そこに悪意があったのならば、私の対応もまた変わっていたはずだ。
けれど、ローザにそんな様子はなかったし、グレイヘンは
傷つき疲れながら空を駆け、運び渡り続けていた。
── 強制はできない。私には]
[薄く開けられたカーテン。
中は見えていないと主張するように
視線は一度彼を捉えた後僅かに斜め上を向く]
ええ……私も、あっちでたまたま近くにいたから。
無事に帰ってこれたのは、知ってる……。
でも……多分、もう……入れないでしょうね。
少し休めば、楽になると思うわ……。
段々、渡るのが難しくなってる、気がする。
私も弾かれつつ、あるのかしらね。
それとも……世界が閉じつつあるのか。
ミズキとカスミは、近い内になんとかなると、思うけど。
[遥の寝台に視線を投げた]
[教わった日付。今の自分の年齢。
指折り数えて、途中でやめた]
…。
[視線が、外を見た。
そこにあるのは電線が墨壷のように
くっきりと黒い線を引いた青い空。
細い、細い、溜息が一つ]
…なにも、したくない。
[か細い声は、夢の中とはあまりに違う声]
[ぼんやりとした頭で天井を見る。
記憶はあやふや、あの世界のことは
本当の夢のようにぼやけている。
ゆっくりと体を起こした。
新人でも医者としていつまでも寝ていられない。]
[溜息が零れた口許を見上げる。
赤い三日月、その下の表情までは判らない。
空を見上げてからまた視線を戻す]
ローザは、――だいじょうぶ。
だいじょうぶ、だよ。
[それは確信めいた言葉。
それから、ゆるゆると首を振る]
――ぐれいへんは わたりどり。
だから、すは ないの。
ううん、なくしちゃったの。
[道化師がこちらの世界に来てから僅か1年の間、
まだ自分のユメを描いていられた小鳥は巣を持っていた。
だけど今は]
ミズキは、カスミといっしょに。
かえるの。
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