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[椅子には掛けず、カップを持ったままで壁に凭れる。
それは、羽を隠すようでもあり。
マスターを、夫人の傍に眠らせてやることについては、異論はなかった。
自分も、それが最善だと思う。]
───で。
埋葬は、いつする。
[頼まれても、頼まれなくても。
埋葬の手伝いはする気でいる。
断られたとしても、首を縦に振る気はない。]
[セルマからエステルについて聞けば、馬のしっぽを揺らしながら首をかしげてにこりと笑った。]
セルマ、君は実に実直だねえ。
それは良い性質だ。そのままでいてほしいな。
[だからこそ、エステルもセルマを頼っているのだろう。
多少勢いに押されることもあるが、周囲への目配りを怠らない姿勢は素直に素敵だと感じる。]
さあて……。
エステル、エステル……ねえ。
[唇を人差し指で押して、記憶の内側を探った。
忘れることは生き延びるための能力だが、思い出すこともできてこそ。]
[結局は違和感の正体を確認できないまま。
食堂へ戻ってくると、カモミールティーを口へ運ぶ。
壁へ凭れ掛かっている友人。
灰色の羽は今は、視界からは遠く]
……埋葬は、あまり遅くならない方が良い。
[この世界の灰は、亡骸すらも蝕んでいく]
ナデージュさんの望むときに。
別れの準備が整ったら、いつでも教会を訪れると良い。
そうだね、遅くとも明日の朝には、
此方から酒場を訪れることにしよう。
[それで大丈夫かい、と彼女へ問う眼差しは優しく]
[ランスさんの口からでた言葉は、ドワイトさんの提案を後押しするようなものでした。
大丈夫なのでしょうか。
ランスさんへと向けていた視線を、恐る恐るドワイトさんの方へと戻します。
いつだってそうなのです。
いつだって、彼らは、優しいのです。
明日の朝にという言葉に、わたしはカップの水面を見つめながら、頷く事しかできませんでした。
自分の無力さが、ただただ、恨めしいです。]
[女はむしろ、飴に興味を示していたが――物欲しそうにはしなかった。
少女に炭酸水を返す。]
ああ、うん。
森を越える気は、あたしにはないからね。
この子の安全と情報が大事だし。
……飲んだら、行くかい?
[まだ少し残っているサイダーが清廉なものに見えた。
少女によく似合うな、と思った。]
[森までの道中、特に話すこともなかった。
男から聞き出せることもなければ、自分よりも少女が話し出すのを待っている方が好ましい。
そう思ってのことだ。
再び広げた傘が、灰を振り払う。
あれほどに緑豊かだった森も、今はこの灰のせいで。
誰にも気付かれない程度に、ため息をひとつ。]
……。
[揺らしていたしっぽを止めて、背筋をのばしてじっと足下を見つめた。
優先すべきはどこにあるのだろう。
守秘義務なのか、目の前の彼女のことなのか。
迷う。
迷うけど、でも、]
……どうせ、もう……。
[どうせ、
とっくに、
どこも亡い。]
[恐る恐る此方を見つめるナデージュが、
何を考えているかは想像がつく]
…私の仕事だ。
私は好きでやっているのだから、
気にすることはないんだよ。
[穏やかにそう告げて。
年頃の女性にそうするのもどうかと僅か悩みつつも、
そっと触れる程度に彼女の頭を撫でた]
少し準備をしてくる。
ゆっくりしていってくれると良い。
[客人二人へそう告げて、自分のカップを持って立ち上がる]
[やがて、森が間近になる。
その中にひとつ、色彩。手紙狂いの姿だ。
軽く手を挙げて挨拶。]
なんだい、捨て猫の真似でもしてるのかい?
[悪戯っぽく笑う。
いつもの表情を作る。
それができる内は、そうしていたい。]
――そう、パース、この子なんだけどね――
[少女を認めてから疑問に思われるだろうことも考えて、先に話し始めた。]
[壁に寄りかかる友人と擦れ違う折、じっと彼を見て]
ランス。
[零れた声は、
思っていたよりずっと心配そうなものになってしまった。
何かを言いかけて、問いかけて、躊躇って]
…お行儀が悪い。
羽も痛める。
[とん、と彼の肩へ一度手を置いて、そのまま部屋を後にする]
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