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―食堂―
[昨日見た夢を思い出していた。
数年前に村はずれに出来た、例の研究所の夢だった。当時は訝しがりながらも、村に人が増えると喜んでいたのだが]
…イライダさん。
[彼女に来た手紙の件>>69は知らない。ただ、おずおずと話し掛ける]
人狼をどうやって見つけて、
どうやってやっつければ良いのか、…知ってる?
イライダさん、物知りだから。何か分かるかなって。
[問いかけた所で、丁度正午を告げる時計の鐘が響いた。
宿の集められた者に残された時間は、きっと、後わずかだ。反射的に、先ほど見ていたのと逆の窓を見つめた。どうやら宿の周囲には、「見張り」の者が張り付いているようだった**]
――…人狼が現れる時、天は我らに恩恵を与えるだろう。
[イヴァンの問いかけに、嘗て読んだ本を思い出す]
人狼は上手く人に変化するらしいけれど、それじゃ私たちのような人間には対抗できないからかしら。
本当の姿を見抜く…水晶とか、魔鏡とか…そう言った物が見つかったり、何かしらの宣託を受ける占い師が現れたりする。
遠い国には、そういう伝承があるって聞いた事があるわ。
[ロランが、せめて飲み物だけでも、と入れてくれた紅茶を一口飲んで]
人狼に滅ぼされた…と、されている村も多いから、そんなの眉唾だって哂う人も居るわ。
でも、こういった伝承は、人が生きていく為の知恵が残ったものとも云えるから、一笑出来ないって私は思ってる。
ここに人狼が居るのなら、そういう何かをもった人も、この中にいるのかも、しれないわね。
そしたら、見つける事は、出来るんじゃないかしら。
[正午の鐘。
霧で辺りは見えないのに、やけにこんな嫌な響きだけは聞こえてくる。
イヴァンが、ちらりと窓を見れば、同じようにそちらを見。
その向こうに見えたモノに、少しだけ眉をしかめ、カップをそっと抱いた**]
― ロストヴァ家→宿・マリーヤside ―
[引き止める両親との口論、家からの脱出に思いのほか時間をとられ、昼もかなり回った頃。
その後も、出会う人から引き止める声がいくつも上がるけれど、全て振り切って]
まってて、姉さん。
[息を切らせてようやくたどり着いたのに、宿の周りを見張るものたちに捕まる]
お願い、姉さんに合わせて。
姉さんが、人狼なわけ、ない。
[拘束を振り切ろうとむちゃくちゃに暴れるけれど、数人に取り押さえられればなすすべはない。]
どうして放っておいてくれないの!
姉さんにあまり時間が残されていないことくらい、分かるじゃない!
[今まで生きていることがおかしいだろうといわれたなら、頭が真っ白になってふっと力が抜ける。
つられた様に拘束が緩む]
[彼女の顔面は怒りに蒼白となっていて、目の前の男の頬を平手で張る]
ばか、言わないで。
姉さんが人を喰らって生き延びてきたとでも言うの?
[パァンと響いた音に幾分冷静さを取り戻したようで、押し殺したような声で告げる]
いいわ、あんた達下っ端に聞いたって何一つ分かっていやしないんでしょう。
[この喧騒が届いて、姉が姿を見せてくれやしないかと立ち去る前にじっと宿の方向を見つめるけれど――この騒動も何もきっとこの濃霧に吸収されて、届かないまま――]
毎日だって、来るんだから。
姉さんの無事な姿を見るまで。
[あきらめたように宿から視線をはずすと、挑むように告げる。
彼女が暴れないとなれば、見張りの男達に無理に拘束しようと言う意思もなく―それはやはりどこか後ろめたさもあるのだろうか―もはや形骸だけとなってしまった拘束から抜け出す。
次に姿を眼にするときには骸との対面になってしまうかもしれないとは思ったけれど、ふるふると頭をふってその想像を振り払い背を向けた]
[どこへ向かうべきかと考える。
手紙の出所である役場へいくことも考えたけれど、責任逃れでたらいまわしされた挙句、結局は村長の名が出てくるのだろうと思えた]
会ってくれない可能性のほうが、高い。
けど・・・。
[何もせずには、いられない。
足早に村長宅へと向かう道すがら、彼女に向けられる村人の視線はどこかよそよそしく、冷たく感じた――]
― 第三幕・了 ―
[幼少の頃から。]
[ 生きる よりも 死ぬ 方が身近にあった。]
[死は何者にでも平等に訪れるものだと、知っている。]
[いまさら。]
[誰が死のうと。]
―地下・酒蔵―
[人狼は、いる。]
[いや、正確には。]
[いた のだろう。]
[かたちのないものや、いろのないものが。]
[アナスタシアが帰ってきた理由を教えてくれた。]
[奴らの中には、人狼に殺されたものや。
人狼そのものだったものも、いるようだった。]
[とすれば。]
[棚に並んだボトルのひとつ。]
[見覚えのある8桁の数字。]
[姉だったものと同じ年月を過ごしてきたという、証。]
[首を掴み。]
[壁に叩きつける。]
[濃緑とともに飛び散るのは。]
[紅い。]
[あの花と同じ。]
[濃い、紅。]
[祖父は云った。 あれは愛の花だと。]
[そして、哀の花だと。]
……ふふ。
[暖かな寝台の中、女の口元には、緩く笑みが浮かんでいた]
さあ、どんな返事が返ってくるものやら。
もし答えられなかったら……その時は悪食だって構うものか。
[うっとりと下腹を撫でて]
お前の糧にしてしまう、かね?
[くすくす、くすくす。
布団の中に笑みがこぼれる]
[寝台を出ると、荷物の中から新しい服を纏う。
昨晩来ていた服は、燃やしてしまったから]
……しかし、一人食う度に服を一着ずつ燃やすのは面倒だね。
ここはなんとかしないと。
[炭となった服の残骸に、ため息交じりに呟いて。
何時ものように金の髪をまとめ、スカーフを巻いた。
そうして部屋を出た女は、何も知らぬ顔をして食堂へと向かう]
[気丈な女が初めて見せる涙に、
弟分であるロランなどは驚いたかもしれない。
取り乱したりはしない。
ただ……友人を喪ってしまって悲しいと。
何かを喪失した様な空虚さを、その眸に映して。
女は静かに涙を零し続けていた]
[泣き腫らし紅くなった眸を、ハンカチで拭う。
最期に泣いたのはいつだったか。
頭の中でそんな事を考えながら、
傍目には友人を喪って悲しいと謂わんばかりに、微かに肩を震わせて]
……ナースチャ。
もうあんたには、逢えないんだねえ……。
[――否。友人は我が身に残る。この子の糧として]
あんたがせめて……そっちであの人に出会えることを
祈るよ―――
[その言葉には、嘘はなかった。
身体は我が身とすれど、その心は真に求める人の元へあれば良いと。
そして暫くは、彼女の冥福を祈る様に眸を閉じる。
ロランが話す投票の話等も聞えてはいたが、
口を出すことはなく、ただ友人の死を*悼んで*]
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