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ボクを調味料にしても“ろく”な味にならないんじゃないかい?
[ろくなことにならないんだろう? とクスクス嗤いながらも仮面の中で巡る思考。
貧弱な……出会った頃のあのたどたどしい様子ならばそうだろう。
けれど、最初とは見違えるように良く回るようになった舌。
無論『話す』と『味見』ではまるで違うのだろうけれど、その眩しいまでの向上心を見せる彼女からは、やはり少し何かがひっかかる]
ふふ、ならばそちらの方はボクの方がキミよりがんばっているようだね。
聞いて驚くといい。苦節5(6)年にしてボクはついにウサギちゃんリンゴを作ることに成功したのだよ。
[ふふふ、と胸を張ってみせる。
……それは“現実”での話なのだけど。]
[二人の対話に、微笑みを浮かべて聞いていたが
突如として始まった競争にはただ目を丸くした。
バケツのひとつをリヴリアに渡すとかけていくミズキ。
呆然と見送る。]
いるのも、だめ……?
[強い拒絶の言葉に、少女は小さく息を飲む。
それから、困ったように眉を下げた]
どうしたんだろうねえ?
リヴリアちゃん、そんな意地悪、言う子じゃないのになあ。
それでも、ダハールちゃんは、リヴリアちゃんの側にいたいんだあ?
ダハールちゃんは、リヴリアちゃんが好きなんだねえ。
……うらやましいなあ……。
[そう口にしてから、少女はきょとんと瞬いた。
それは、意図せぬ言葉。
うらやましいって、なんのこと?
少女には、心当たりがない。
少女の望みは、いつまでもずっと、ずうっとここにいること。それだけのはずだ。
誤魔化すようにへらりと笑った少女は、続くダハールの問いかけに、困る、と端的に答えた]
そんなこと言われたら、ハル、困るよ。
だって、ハルには他に行くところなんて、ないんだもん。
[そう答えた時、少女の顔から、表情は消えてしまっていたかもしれない。
少女にはわからないこと。少女は、考えないこと。
"楽しくないことは、なかったことに"
やがて、少女はケロリと表情を取り戻す。
顔を隠すダハールに、にこにこと楽しげににじり寄って]
ダハールちゃんは、恥ずかしがり屋さんなんだねえ。
[のんきにそんなことを言うのだった]
[困ったような表情。
それ自体がハルには珍しい。
編みかけのレンゲの花冠を持ったまま。
彼女が自身の言葉にきょとんとする様子を
彼女の言葉に苦笑を返しかけた泣き顔の仮面で
じっと見た
…………うらやましい、その言葉を発した彼女を。]
[困らせてごめん。そう、口にするよりも早く
とうとう表情が消えたハルは
いつもの様子を取り戻す。
浅く息を吐いた。
彼女の様子が、
見ているこちらが切なくなった。
でも、当の本人は、
きっともう、忘れてしまった。
だから。]
だ〜〜〜 そうです、そうなんです。
それはもう仮面をかぶるくらいには。
なのに、にじり寄ってくるような、子は
……えいっ!
[楽しげににじり寄るハルに調子を合わせて、
真紅のローブ姿は顔(仮面だが)を隠していた両の手で
彼女を捕らえながら軽く抱きしめようと。
……忘れてしまったとしても
彼女の感情を安堵させられればいいと、
怖い話を聞いて怯えた自分が
そうされて安堵したように。
時折刃物で切り傷をこしらえ
包帯を巻いていた手がしたように、
その黒髪をそっと撫でようと。]
やれやれ、ボクを出し抜くまでになったなんてやるじゃないか。
[駆けていく背を眩しげに眺め、傍らで呆然とした様子のローザへ顔を向ける。]
元気でいい子だろう?
もっとも……いい子じゃない子はいないのだけどね。
ここには。
[『ああ、一人いたか』と小さく呟いてから、バケツを持ち直し、走り征くミズキはこうしている間にもどんどん離れていくだろう。
もはやまともにやって追いつける距離ではないのだけれど]
ー回想・ハルの少女1ー
[この世界にきてほんの間もない頃の話。
最初に飛び込んできた世界は
花畑の近くの草原だった。
おだやかな春の気配を近くに感じ
風に目をつぶった。
そんなとき、髪に絡まっていたリボンが解けて
風にさらわれた。
こちらの世界で身に着けているものをひとつでも
見失えば元の世界に戻れなくなるし
なにより来て早々の失敗なんて始末書ものだと
そのときは考えて、慣れない体躯でリボンを追った。]
……わ、ぁ。
ロマンチックですねえ、流れ星を旅人さんにたとえるって。
[とん、と、手が「星」の入ったビンを叩く。
表情には感嘆がすんなりと滲み、大きな瞳を見つめ返してふわりと笑う。
――前に、どこかで誰かが、
似たようなセリフを言っていた、ような?
取りとめない思考が浮かんで、ぱちりと瞬きひとつ]
ん〜〜〜……、
夜明けの空に、ぽっつーんって残ってるお星様。
ばいばいしたいんですけどねえ、いっつも寝ちゃうんですよう……。
[夜と朝の境界が曖昧に引かれる時刻。
あの時、夜が明けると呟いた時、
ついにその時を起きて迎えられるのか、と、期待と不安が少女を一通りかき回していった。
しかし現状はこれである]
たぶん。……がんばって起きてれば、きっと。
[前向きな言葉をかけはするけれど、
渡り鳥の少女はお世辞にも夜更かしが得意そうには見えなくて。
言葉が続かず、星空に視線をそらした。
そもそもこの夜が明けるのかどうかは、ひとまず考えないことにしながら**]
勝負は勝負だ。挑まれた勝負を無碍にする程ボクはできた子ではないからね。
ローザ。キミも駆けよう。
それが彼女の望だ
無理はしなくていいよ。でも自分のできる精一杯を。
それが勝負だからね。
[戯れで挑んだのは自身の方なのだけれど、そんな都合の悪いことは棚にあげておく。
前を見据える、彼方の背を睨み付ける。
嗚呼良かった。彼女は未だ燃え尽きることなく
太陽を求め溶けることなく、の地上の翼は素足に宿っている。
ならば私も駆けていこう。
弾けて活きる生を近くで眺めに
私は駆けた
波踊り 風薫る 海原の裾野を]**
[楽しくなかったことはすっかり忘れて、楽しげに笑いながらダハールににじり寄る。……と、不覚にも捕まってしまった]
わあっ!
あははっ!
[不意打ちに驚いた声を上げたあと、少女は心から楽しげにきゃあきゃあと笑ったけれど]
どうか、したの……?
[髪を撫でてくれる手が、あんまり優しかったから、程なくして少女は少しおとなしくなる。
花は春の象徴。
けれど、少女は自分がどうして春に固執するのかも、夏と海をあんなに拒絶するのかも覚えていない。
自分が夏に、何をなくしたのか、そんなことは覚えていない。
"嫌なものは嫌"としか言い様がない。
だけど、髪を撫でてくれる手が、あんまり優しかったから]
……かぁくん……?
[呟いた言葉は、無意識。少女の覚えていない名前。
きっと少女は、呟いたことすら気づいていない]
[鏡のように他人の表情を映す星売りを確か何処かで見たのだ。
柔らかい笑顔、喜ぶように翼が微かに揺れる]
ながれぼしさんは。
だれかに ねがいごと とどけるためにはしってるのかなって。
だから、いつもかけあしで。
だから いっちゃうまえに。
いそいでおねがいしなきゃ、だめなのかなって。
[星を集めた瓶の中。
詰まった星には誰かの望みがかけられているのだろうか。
そんな事を思う]
よあけの、おそら。
あかと、あおが、いっしょになって。
しろい、おそら。
[太陽の光にかき消されず残る星。
とても強く光る、星。
眠らない小鳥は狭間の空の色は知っていた]
ぐれいへん、おきてるよ。
いつもね、きのあなの なかにいるの。
でも、おそとにいたら。
みつけられるかも、しれないね。
カスミは。
あさと、よるの、まんなか。
いってみたい?
[満天の夜空を見上げる。
まるで、行けるとでも言わんばかりに]
ぐれいへんは、おほしさまのつかまえかた、しらないから。
でも。
カスミをおそらまで。
いっしょにつれていってあげることなら。
できるんだよ。
[その誘いに、星売りは何と答えるだろうか――**]
[腕の中で、きゃっきゃっと笑う姿は懐かしい。
当時は自分もほとんど同じ年齢で
こんなにすっぽりと、
包み込むことは出来なかったが。
指通りのいい黒髪を
梳くように撫でているうちに大人しくなった
ハルにたずねられて、
緩く首を振って……どうも、しないよと。]
[小さな呟きが聞こえる。
誰か……男の子の愛称じみた、何か。]
[彼女が亡くした世界を思い出す。
仮面越しに額に額を重ねる動作は
応えるように頷く仕草にも似て。]
[散りきることのない桜吹雪の中、
彼女が、道化師の緩く回した腕を解くまで
小さな姉さんを、大きな弟は抱きしめていた。
暖かな、木漏れ日の中ただ、ただ静かに。
――*穏やかな時間だけが、ただ、ここに*――]
料理くらい、私だって作れるわ。
[――否。
学生時代、家庭科は3だった]
……世界が終わる?
全体的なものなの?
……リヴリアや、ヴェルだけのことかと思っていたわ。
シンも、ね。
…おおきなことになりそう、なの?
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