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"居る事になった者"に対して、俺から簡単な話をしておく。
[外からの人が消え、亡骸が運び出され、宿の扉が閉ざされた後、
人が集まれば、...は予め決められていた事のように話し出す]
本当に人狼の襲撃か、それに見せかけた殺人かはわからない。
[実際は"いる"のだろう。最初から老父の様子は
ロランよりも詳しく識っているようだった]
アナスタシアがここで人狼に食べられたように殺された。
俺たちが泊まっているこの宿で。
[虚しさと莫迦らしいを意識の底に沈めながら、口を開く]
村の方ではこの宿にいた俺たちと、
第一発見者のミハイルの中に人狼がいると看做すことにした。
村の全員を人狼容疑者にする訳にはいかない、そんな判断だろう。
(元々、その為に集められたのだから――)
既に村の者は、俺達を人狼容疑をかけられた
可愛そうな被害者ではなく、
自分達まで容疑者、被害者にしかねない災厄と見ている。
[村人個人個人の内心はどうあれ、
過激で軽率で無責任な声ほど大きくなるし、
煽動する者が存在すれば当然勢いはそちらに流される]
俺たちの中から人狼を見つけるまでは、
宿の外には出られないと思ってくれていい。
無理に出たら恐らく――
宿の外に居る皆は、昨日までの村の皆とは別人となり、
その者は人狼として扱われ、命はないと覚悟してくれ。
[噂に踊らされ、人が死ぬ。疑う事で、人が死ぬ。
どこにでもある話だった。
それがこの村でも行われるだけに過ぎない]
俺たちに与えられた時間はあまりないと思ってくれ。
人狼を見つけられずに長引いた場合、
この宿ごと、火をかけることが検討されている。
[判断するのが父だけならば、今日にも火をかけていることだろう。
薪を大量に用意させていたのは、最初からその心算もあったに違いない]
人狼と共に死ぬか、
人狼を見つけて生き残りに賭けるかは、
その方法も含めて、皆で考えて決めてくれ。
この事に関して、俺は主導的立場をとる気はない。
資格もないかもしれないしな。
[そう言ってから、少しだけ間を置いた]
怨むのなら、この状況でアナスタシアを殺した思慮のない者を怨め。
村を恨むなとは言わない。
ただ、生き延びたとしても死んだとしても村を、赦して欲しい。
これは俺の我侭だ。聞かなくても全く構わない。以上だ。
[これが最後の仕事だと、心の中で*区切りをつけて*]
[ロランの言葉に顔を上げる]
人狼を見つけたら?
一人?二人?それとも三人?
[皆殺しになるのを待っているとしか思えないと、告げる言葉尻は強く]
兄様、違いますか?
[続く言葉は、ふっと熱を失って]
(そう、恐らく父は知っている)
[直接ロランに「人狼の存在が認められそうな場合、ここの者を人柱として始末する予定だ」と最初から告げていたのだから。ロランを含めて]
(隠したいものが多いのは知っていたが、その中に人狼の存在そのものも含まれているとは思わなかったが)
[道理でと、自分が街で拒絶された友の亡骸を引き取る事すら許されなかったのかと理解する]
(人狼という言葉すら、消したかったのだろう。あの人は)
[結局、異郷の地でただ死んだとしか扱われず、人目を避けて、自分の手で密かに埋めることが妥協点だった]
(人狼と取引をしているなんて馬鹿な話はあるまい。
となれば、この村自体が末裔村であるとか、
人狼に関わる金にまつわる話だとか、
俺の知らない何かがあるのだろう。
調べる術はないが。それに興味もない)
[となれば今頃、別に集められているだろう従業員達もこれからどうなることか]
(関心が低かろうとも、自分の息子の命を「不満や、不公平感を与えぬ為」という理由だけで差し出せる人だ。仮にアナスタシアをこの村に置いていたのさえ、この日の為だったとしても驚きはしない)
この状況に焦るのは人間か、人狼か、それとも……。
[...は昏い悦びに浸る自分に、軽い嫌悪を覚えていた**]
[ロランの言葉に手を休める]
兄様、いったいどうやって終わりを判断するというのでしょう。
[静かに問いかけるが、あきらめの色は、ない**]
― 自室 ―
[天気が良くなっている事を期待しながら、昨晩は眠りについたけれど]
昨日より酷いわね
この、天気。
[窓の外で不安を誘う霧は。
まるで宿と外界を切り離しているかのよう。
ぼんやりと、昨日の事を思い出す]
― 回想 ―
[虹の樹。
自分が知らないその、苗木]
知らないわ。
きっと…伝承にも乗らないくらい
ひっそりと
それでいて、大事に、大事に
されてきたのでしょうね。
[それを囲む3人を、優しい眼差しで見る]
[村おこしどうのこうの前に。
苗木を囲む彼らは、そこにある生命を慈しんでいるように、そう思えたから]
こんな嫌な噂も消えて
晴れたら
……皆で育てたいわね。
[少し大きめのマグにドラガノフの分を入れて、渡す]
[ドラガノフがミルクを一口飲む様子を見てから。
ナタリーの分を含めて、幾つかのマグを取りながら「手伝いましょうか」と声をかけてくるロランに]
ふふ
用意がいいんだから。
ロランさ…ん、の分も、ね。
[こぽこぽ、と白い陶器にミルクを注ぎ。
しばらくはそれを飲みながら、暖炉の前で話す。
誰かが折を見て、部屋へ戻るように促せば、その場は解散となっただろう]
― 回想・了 ―
― 自室 ―
[それは楽しい思い出。それは、晴れればいいと思えるだけの思い出。
だけれども、やはり今日も霧がかかっていて……]
暖かい物でも貰おうかしら
そろそろ朝食の準備も終わってる時間でしょうし。
[懐中時計を取り出して、時刻を確認し。
ブーツのつま先を、こんこんとしていれば]
……っ?
[下の方から、誰かの叫び声が聞こえてきて。
階段をもつれるように慌てて降りれば、凶報を知る**]
― 場面は移り変わる:ロストヴァ家・マリーヤside ―
[昨日眠ってしまったそのままに、サーシャの部屋で目覚める。
もはや日は昇りきって、いつもよりはずいぶんと遅い目覚め。
部屋をノックする音に、扉を開けると青ざめた母親の姿]
おはよう、かあさん。
いったいどうしたの?
[母親の姿に不安が募る]
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