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[柔らかな肌、張りのある肉の質感。触れるたびにしなやかな音が鳴り、ジュアンの鼓膜に悦びの響きが侵入する。
ザリチェの汗腺のひとつひとつから甘やかでねとついた芳香が立ち上ぼるのを感じ、ジュアンはすんと鼻をひくつかせ、ザリチェの首筋に唇を寄せた。]
[ザリチェの問いが、恍惚を奏でるかれの本能を遮り、思考をさらりと撫でて刺激する。]
……え?色、ですか。
さあ………どうでしょう。それでも、この香りがきっとこの僕を惹きつけてやまないでしょうねぇ……。
[ザリチェに見つめられたらしいのを察知したのか、ジュアンもじっと「目を合わせた」。]
[――が、視界が塞がったジュアンは、眉ひとつ動かさずに、にこりと微笑むのみ。]
[もしかれの目が見えていたとしたら。おそらくかれは、ザリチェの目の色が薔薇色に変わったことに、ひどく失望するだろう。
――なぜなら。
かれは、極上の青の他には――黒と白しか「色」が分からないのだから。誰もが絶賛するであろうその「薔薇」も、かれにとっては――…]
………ニクスさん、ですか?
[ふぁさり。頭の動きに合わせて、髪が揺れる。]
あははは……
そういえば、あのこも「遊んで」ってよく言ってましたねぇ……。
僕は、もっとニクスさんがオトナになって、あの《青》の中に闇の深さ……或いは《こうる》影が見えた頃になったらお相手したいなぁって思ってましたが……或いは、今近くに「お呼びする」のも良いかもしれませんね。
――…どうしましょうかねぇ?
[ジュアンの唇が、大きく弧を*描いた*]
[予想通りの反応が返ってくるのを見、ザリチェはジュアンが「時折視覚を喪っている」のを確信した。
見えている時と見えていない時の切り替わりは何時で、そのきっかけは何なのか全く予想がつかないが、少なくとも現在は見えていないらしい。
でなければ、あれほど「青」に執着を見せたジュアンがこの瞳を見て、何の反応も返さないということはありえないのだから。
だが、とりあえず今はそれ以上考えることは止めた。
今の時を愉しむことの方が遥かに重要であったから。]
[銀の影よりは抜けれど、その場から去るでもかれらに向かうでもなく、その姿は寄る辺を求めるかの如く闇馬の傍に在った]
……、不快だ。
[眉根を寄せて、小さく零す。
得体の知れない感情が、心中の泉を揺るがす。
表面には表れねど、内面は酷く荒れていた]
[ジュアンの笑んだ唇に軽く口接けつつ、くつくつと喉を鳴らす。
その唇もやはり、そっくり同じ弓の如き弧を描いている。]
そう思うなら貴方が教えてやれば良いのに。
全く気の長いこと……
青い果実が熟すのを待つうちに、誰かに捥がれてしまったらどうする?
[そう茶目っ気たっぷりに囁いて、今度は深く口接ける。
お互いの舌と口内の感触を味わい、顔の角度を変えて幾度も。]
[やがて、ぬめぬめと濡れた紅い口唇を舐め、ジュアンに寄り添ったまま肩越しに振り返る。
青い瞳が暗い森のなかで燠火のように輝く。]
──おいで、
[うっすらと蠱惑の微笑を投げかけて、闇馬の傍に迷子のように佇む幼い魔を差し招いた。]
[――おいで。
投げられた一言は小石の如くに泉に落ちて、水面に波紋を広げた。
密かな毒をも抱いた甘い誘いは水底にまで沁み入り、揺らぎが強くなる]
……なんで、
不快だよ、
不愉快だというのに。
[言葉とは裏腹に、足は進んだ。
かれの瞳から、目が離せない。
幼き魔の眼には戸惑いが浮かぶも、隠れた好奇のいろがあった]
[遅々とした足取りでかれらの傍らにまで辿り着いたところで、かくりと膝が折れた。
ふわりと地面に広がる、穢れなき白。
かれの抱く紅と青の前では、儚く失せてしまいそうだった]
[黒い落葉が敷き詰められた地に、広がる純白。
膝をついた小さな魔は寄る辺なく、まるで今にも泣き出しそうなほんとうの迷子に見えた。
けれども、その瞳の深い水の青に潜む好奇心を読み取った淫魔は、更に引き寄せようと白く艶めく腕を伸ばす。
巣に掛かった蝶を絡め取ろうと糸を繰り出す蜘蛛のように。]
別に……
[ザリチェの唇に己のそれを合わせ、くすりと笑う。]
僕は他人の「初めて」というものに、さほど執着したりはしません。穢れを知った後の「色」は、純粋なる「色」よりも美しいこともままありましょう――…音楽と同じです。その「色」の深さには、その方の生き様が映るのですから。
[そう紡ぐジュアンの唇は、ザリチェの柔らかな肉と薄い皮で再び塞がる――ジュアンの口内にザラザラとした突起に覆われた器官が入り込むと、かれはそれを受け入れ、転がし、弄ぶ。]
ああ、でも………たまには「穢れを知る瞬間」を拝見したい気もしますねぇ。真っ白な方が、どのような「色」を見せるのか……あははっ。楽しいですよねぇ。
――…悦び、渇望、痛み、絶望…――
ありとあらゆる感情が交じり合い、「白」に「闇」を落とす、あの瞬間―を―…
[カサリと足音のする方向へと振り返り――…]
――…ね?ニクスさん……
[かれは、*笑った*]
[蝶は抵抗の様子を見せず、糸を受け入れた。
艶めいた肌は触れそうほどに近く、魅惑的ないろに吸い寄せられてしまう。
己のか、かれらのか、吐息の音が水面にさざなみを立てる。
避けるように緩く瞬きはしたが、視線を逸らすまでには至らない]
い、ろ――?
「二クス」に「色」など無いよ。
[そう紡ぐ声すら、絞り出すようだった。
虚無ではなく、かれらに呑まれてしまいそうだ]
ジュアンは案外と理屈好きなのだな……
己はそんなことはどうでも良いよ。
心地良く、愉しければそれで良い……
[笑み含んだ声の語尾が擦れ、絶妙の震音を響かす。
会話の間もその底流には低く絶え間なく、時に鋭く強く、愛撫の奏楽が流れ、止むことはなかった。]
[ザリチェは、ジュアンによって弾き鳴らされる楽器である自分を、余すところなく眼前のニクスに晒した。
ジュアンの指と舌と唇と膚で、妙なる音を生み出し、高まる旋律そのものとなっていく自分を。]
ニクス、ニクス、
いろ、を、教えてあげるよ。
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