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― →二階・11の部屋 ―
[階段の直ぐそばが、自分の宛がわれていた部屋だった。
内装が、幼い頃過ごしていたよりも新しい事に、気付かない。
どんくさいからと言うよりも、“そう言うもの”だと認識していた。]
[いつの間にか持っていた鍵で、部屋の扉を開く。
傍のオリガの手を、ぎゅっと握った。]
……あ、れ?
[―――部屋には、“何もなかった”]
[おろおろと荷物を探せど、トランクが見当たらない。
せっかく、ヴァーリャとメーフィエが居るのに。
そう思いながら部屋に足を踏み入れれば、ちらりと落ちる何か]
え、ゆ、雪…?
[慌ててオリガを抱き寄せようとするが、彼女はどうしたか。
自分の服に落ちて、なお消えないその粒に、不思議そうな目を。]
……雪じゃ、ない。
[きらきらしたそれは、とてもきれい。
記憶の中で揺れる金色の髪や、傍に居る少女の髪のよう。]
[きれいなものを見るのは、好きだ。
とても、…髪も、目も、美しいと評される色ではないのは
ちゃんと自覚もあるのだが。]
外も、降ってるんだな…
[彼も、これを見て居るのだろうかと。
そっと窓の傍に寄ろうとすれば、がんと足が何かを蹴った。]
……………っ、………
[それでも、すっころばなかったのは、少しの矜持。
ちょっとだけ、成長した。]
[少女が自分の頭を撫でてから出て行くのを淋しげに見送ったり
銀のきらきらが目の前で弱そうな男を襲撃するのに
驚いてぼろぼろの尻尾がさらにばさばさになったり
それがどこかへ飛んでいくのをぽかんと眺めたり
何かはわからなかったけど、甘い匂いに鼻をひくひくさせたり
さっきの銀みたいなきらきらが降ってきて、
身体を震わして払い落とすより先に、
伸びてきた手に掬われていくのをじっと見つめたり]
[していた黒狼。
甘い匂いの女性が呼んだ名前には、特に反応を見せず。]
あ、あった………。
[中身がざーっと出そうになりかけた、仕事用のトランクの片割れ。
――どうして、さっきは無かったのに?
疑問は、すぐに溶けて消えていく。
そういえば、飾りになりそうなものはあっただろうかと。]
………そうだ。
[昔、細工がすばらしくて、思わず模したものが、あったっけ。
トランクの隅で少し不思議な音を立てる、鈴。
傍の光を摘んで、少し弄ってその鈴につっこんでおけば。
隙間からほんのりと光が漏れて、少しは綺麗に見えるだろう]
[彼は、ヨールカの傍に居るといっていたっけ。
ついでに、こっそり飾っておけばいいか、と。]
[トランクを閉じ、光の入った鈴を手に。
ちょっと無理に、トランクに酒瓶もつっこんだ。]
オリガ。
…あの、…ヨールカのところに、行っても、いい、かな?
[オリガが嫌がれば、きっと一階のホールまで送り届けてから。
そうでなければ、また手を引いて、歩き出すつもり。]**
―2階・テラス―
[しばらくの間大はしゃぎしていた男も、
ひとしきり騒げば落ち着いたようだ。]
―――…あのさー。
……いや、やっぱいーわ。
[捕まえた星達はいつの間にか光の粒になって消えた。
いつかはこの温もりに満ちた場所も、
同じように消えて失われてしまうのだろうか。]
他に捕まえられる星ってあるのかね。
ちょっと俺中の方見て来るよ。
……あんたも中に入って何か食いに行ってみるといーぜ。
美味い菓子を作る子が居るし、他にも何か作ってくれてる
奴も居るみてーだし。
[未だテラスから動かない老人へ、そう言い残して
男は廊下へと身を躍らせた。]
終わらなければ良いのになあ、勿体ねぇ。
[男は再び独り呟いて、点々と姿を消しては廊下を歩く。
やがて辿り着いた場所の足元に、ひとつ転がる鋭く細い何か]
[そうして、男の姿がすっかり見えなくなったあと。
物陰へ近付いた番人はおもむろに屈み込み、
身を潜めていたそれを抱え上げる。]
『ぷきゅる?』
[不思議そうに一回転する蛙の頭に驚くこともなく、
再び手摺りの前まで戻って来ると……]
―――――…あった。
[ガラス細工をする際には必ず使っていた「道具」]
……これが此処にあるって事は、まぁなんだ…
まだ何かを創っても良いって事なのか。
天使のたまごは探すとして……
えぇー…何を創ろう、参ったな!!
創りたいものがいっぱいあり過ぎて迷うぞ。
[必要だからこそ目の前に現われた道具。
それを知ると、不意に創作意欲が湧き出て来て
男は廊下で独りで盛大に騒ぎ始めた。**]
『るるるるるるる〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!』
[あわれ放り投げた妖精は、真っ逆さまに地面へ向かっていく。
その末路を見届けずに、番人は踵を返す。
スタスタと廊下へ繋がる出入り口まで歩き、
中へ戻ろうとその扉を開けた。]
『きゅるぷ?』
[平然と、それはそこに居た。]
[どうやらまたしても、番人に逃げる術はないらしい。
深く、深く、溜息を洩らした。**]
― 2Fテラス ―
……驚くだろう、か。
[一階の教会の敷地内にいた筈の彼は、いつの間にかそこにいて、番人と"何か"を交互に見て、呟く。切り分けられたアップルパイがひとつ、手に持っていた]
― そして ―
わあ。
[きらきらきらきら、降ってくるのは、なにかしら。]
きれい。 雪……じゃ、ないのね?
[ちいさなてのひらの上、
つもっては消え、つもっては消えを繰り返す。
きらきらに気をとられて歩いていると、
どこかでだれかと ぶつかったり、してね?**]
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