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[おとこの髪は色あせたように薄茶のいろに濁り、痩せた身体を覆う墨染の法衣はところどころ破れている。]
なれぬ車に乗せられ ゆうらり ゆらり
久方ぶりの京の都へ
・・・不思議なものだ。
数年前の記憶すら無いのに、この場所のことをわたしは覚えている。
[「兄」であるはずのおとこから送られた文と、迎えに寄越された仰々しい車。車になかば強引に押し込まれ、都へ向かう道中、ゆれる車蓋に頭をぶつけたことを思い出して、唇の端を歪め、おとこは呟いた。]
[ぐしゃり]
[無造作に伸ばした、長く色の悪い腕が押しつぶしたものは、ひとの頭蓋だった。おとこのゆびさきに、誰の物とも知れぬ毛髪が絡んだ────そう、おとこが寝転んでいるその場所は、]
──羅生門・内部──
[その場所は なつかしいにおいで満ちていた。]
人が集まってきたな。ではこちらも早々に引くか。
検非違使から出す検分の報告書をそちらの所感と合わせ近衛府まで提出願いたい。結果により今後を検討しようと思う。
影居殿はよろしいか?
そして陰陽師よ。そなた名を聞いておこう。また会うやもしれぬ。
私は近衛中条橘智鷹じゃ。
鳶尾──
[振り返らずに後ろに声を掛けた後、
改めて中将に頭を垂れ、]
中将殿。
この者は私の召し使う従者にて、この後色々と御前に姿を見せることもあるやも知れませぬ。
その折はよしなに──
[少しだけ神妙な面持ちで蓬餅が口に運ばれるのを見ていた瞳が、少女の評価がよいものだったものだからやっと微笑みに変わる]
…よかった。
お口にあったようですね、安心いたしました。
[初めて聞いた気もする感謝の言葉に、少し照れて、そして慌てた様子で両の手を宙にもたつかせて]
あ、い、いえ!
喜んでいただけたのなら、何よりなのですから。
弥君様の、そのお心だけで、その、十分、です。
[頬の上、一足早い僅かな春の色]
にびいろの空は 湿り気を帯び
まるで夜のような黒色をまじらせます
屋形を覆う不吉なかげに 空がさそわれたかのごとく
ぽつり
一滴だけ 雨が──
[薬師はまだ此方を見ていた。
呪いや怪異はひとを呼ぶのであろうか。
むしろ、呼ぶこともまたひとつの呪いではなかろうか。
そのようなことを思う。]
これは、御丁寧に。
おれは――白藤。
[恭しく礼をする。]
呪いに関わるなれば、またお会いすることもございましょうな。
[やはり、笑み浮かべたまま。]
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