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集会場は不信と不安がない交ぜになった奇妙な空気に満たされていた。
人狼なんて本当にいるのだろうか。
もしいるとすれば、あの旅のよそ者か。まさか、以前からの住人であるあいつが……
どうやらこの中には、村人が6人、人狼が2人、占い師が1人、霊能者が1人、狂人が2人、守護者が1人、聖痕者が1人含まれているようだ。
あー、諸君、聞いてくれ。もう噂になっているようだが、まずいことになった。
この間の旅人が殺された件、やはり人狼の仕業のようだ。
当日、現場に出入りできたのは今ここにいる者で全部だ。
とにかく十分に注意してくれ。
[集会所の扉が開いた。入ってきたのはアーヴァインである。]
おお、いつもご苦労さんじゃの。
[挨拶をするも、それに答える事はなく、用件のみを堅い口調で告げた。]
[曰く。今朝早く、ダム工事の関係者が何者かによって殺害された。
死体の状況から推測されるのは──人と同じくらいの大きさの獣。]
[容疑者は13名。騒動にけりが付くまで、村から立ち去る事は許されない。]
[アーヴァインは、それだけを言い終えると、足早に立ち去った。]
忘れてしまったわ。
そもそも会った事などあったのかしら?
わたしがおぼえているのは、ここで待っていればよいということだけ。
………ぇ、あれって言い伝えじゃなかったの?
[突然現れ、告げるだけ告げて去っていったアーヴァイン。
彼が去ってからしばらく経ってから、ようやくそれだけを口にした]
[ぐりぐりっとリックの頭をなでた]
そうか、菩提樹のお茶は飲んだことがないんだな。
これを飲めばよく眠れるぜ。それにお腹にもいい。
よし、いれてくるからちょっと待ってろ。
ん、アーヴァインの奴、なんだって?
そうか。
他の仲間から聞いているかと思っていたがまぁ、いい。
私の本当の名前はリノだ。お前の名前を教えてくれ。
人狼?
いや、そんなの伝説ですよ。
うちが旅してきたところでもそんな噂とか、そんな事件あったけど、結局人狼じゃなくて人間の仕業だったり、山の獣だったりしましたよ。
まさかあ。
お、おい、ちょっと待てよアーヴァインって、行っちまった。
何だよ人狼って。本気かあいつ。
‥‥そんなものがここに出たと噂になっていたっけ?
[お茶の入ったカップをリックの前に置くと]
おい、モーガンさん、アーヴァインの言ってたのはどういうことだい?人死にが出たとか、獣とか…
いい名前じゃないか、ウルリカ。
私達はこの時を以ってはらからと為らん。
何をすべきかは、分かっているんだろう?
[フレディに頭をぐりぐりされる。目を瞑っていても、頭の毛がもしゃもしゃになったのは分かった]
や…止めてよ、フレディおじさん。
うん。僕はじめて。
[ちょこんと待っていたが]
アーヴァインさん。
[周囲がざわめき始めたので、口を閉ざした。]
古謡にあるように、アーヴァインは占い師や狩人を忍ばせているでしょう。
わたしは、早めに占い師を名乗ろうかと思っているの。
リノに否やがなければ、そうするわ。
[お茶のポットを片手に厨房から顔を出し]
ん?アーヴァインさん来たの?お茶…って、いない。あら?
[皆のざわめきが耳に入り]
人狼って何の話…おとぎ話でしょ。
ああ、ではそうするがいい。
なに、私が死んでもお前が居る。
お前が死んでも私が居る。
私達はそういう存在。
だが精々、本物の「うらないし」とやらに、目をつけられないようにしなくてはな……。
[自失状態から我に返ると、しばしためらった後、誰にともなく語り始める。]
人狼という魔物がおった、この村にはそんな言い伝えがある事は知っとる者もおるじゃろう。
フレディの店の近くに石碑があるが、あれはその魔物を封じ込めたものじゃと言われておる。あれが弄られておったようなので、些かいやな感じはしておったが……。
言葉を話す相手がいる、と言うのはとても素敵なことね。はらから、か……。
そうね、わたしは随分長い間独りであちこちさまよっていたから。古伝古謡のたぐいは幾らか知っているわ。
これから何をするのかも。
[それでも]
ありがとう、フレディおじさん…。
人狼って、モーガンお爺さんやデボラお婆さんがよく話してた…の?
[菩提樹のお茶の器を両手に持ったまま、大人達の会話を邪魔しないように、小さな声で訊ねる。]
あれ、もしかしてうちら、この村から出られないんですか?
ここってダムに沈むんじゃなかったっけ……
一体どうする気なの?
[ふーっと息を吐いて落ち着けて]
モーガンさんの話は、うちの知ってる人狼とは少し違うみたいですね。石碑に封じられた魔物、か。もっと詳しい情報はないんでしょうか。
そうか、私はまだひよっこだ。
一度村を食い滅ぼした事はあるが、仲間の力がなければそれは為らなかった。
はははは、本当はとても恐ろしいんだよ。
こいつら人間どもと戦うのはな。
こいつらは「轢きにくる」
自分以外の命などどうなっても、自分だけ助かればいいんだと思ってるのさ……。
だが私達は違う。そうだろう?
そういえば、ははは。面白い話をしてやるよ。
石碑を動かしたのは実は私さ。
あれには、人の気を狂わせるまじないをしておいた。
それにあてられた人間は、今頃どうなってるやらわからんぞ。
人狼というくらいじゃ。きゃつらは普段は誰かを食い殺してその人の姿をとっておる、もしくは誰かに乗り移る。
確か石碑に封じ込められておった人狼は2匹と聞く。
つまりは、この中に2人人狼が紛れ込んでいるのであろう、アーヴァインはそう考えておるのじゃろうな。
人狼… そういえば昔デボラさんに聞いたような気がするな。こういうところにゃよくある伝承と思ってすっかり忘れていたよ。
で、アーヴァインの言ってた死人が出たって話、それとその人狼が関係あるってのかい?
まさかなあ。
[周りの話を聞き]
人狼の言い伝えの話は母から聞いたことがあるけど…工事の人が亡くなったのが、そいつのせいだって言うの?モーガンさん。
アーヴァインさんもおかしいわよね。獣の仕業なのに容疑者が13人って。ここにいる誰かが殺人犯って言ってるの?
村から出ないのは構わないけどさ…。人狼…??
ん?
容疑者は13人って、ここには15人いるよね?
2人無実な奴がいるってこと? なんか適当っぽいなぁ。
アーヴァインの奴、堅物の癖にザル調査してるんじゃないのか。って言いたくなるぞ。
あ、待てよ本気で人狼だとすると‥‥
[軽く首を振ると厨房に向かって]
ローズちゃ〜ん、お茶おいしい所一杯欲しいな。
手が足りないなら手伝うからね〜
村が沈んでしまう、この大事な時に、人狼だなんて・・・。
しかも、容疑をかけられてるのは、ほぼ間違いなくこの集会所にいた人達・・・。
・・・頭の整理が、なかなかつきませんね・・・。
おっと、モーガン。なんて邪魔な死にぞこない。
こいつだけは、さっさとしとめておくべきだったね……。
人の姿でも、楽にやれただろうに。
……人狼
日没とともに狼に身を変じ、人を攫って貪り食らう。
払暁には人の姿を借りて、人を欺く。
獣の姿には刃物も通らず銃弾ははじかれ、かりそめに人の姿をとるときのみ、傷つけることかなうとか。
……わたしがお借りしている教会の書庫に記録がありました。
人狼を倒した、と言われる方のことも。
グレン。お前は、占い師なのか?
私が何を言ってもしつこく付き纏って、鬱陶しい奴だった。
まだアルバのガキの方が、可愛げがあったくらいさ。
お前が占い師の名乗りを上げたら、真っ先に食い殺してやる。
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