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わたしは、そう、思う。
あなたは、ここにいるのだと。
ここは、ふしぎな森。
夢のような場所。
でも。
すべてが嘘ではなくて、ほんとうも存在するって。
想えば、叶うと思うの。
あなたが「あなた」である証がほしいというのなら。
わたしは、あなたに、名前をあげることも出来る。
ひつじのシェーフヒェンではない、
あなたの名前。
でも、あなたがそれを望むのか、わたしにはわからない。
あなたが名前を贈ってほしいひとが、ほかにいるかもしれないから。
あっ…!
オマエいきなりずるいぞ!
[言うより早く駆け出した背中に叫ぶと、
負けじと咄嗟に走り出す
追いついた誰かの横に並んで、得意げに]
ほら、ぼくだってこんなに走れるんだ!
もっと早くだって走れるよ!
[そうして誰かを追い越し際、一度くるりと振り向いた
その満面の笑顔が、固まった。
儚げなガラスの橋は
さらさら、きらきら、砂のように崩れていく]
想えば、叶う。
……うん。
そう、想うことにする。
[はっきりと言って、続ける]
名前、あなたにつけてほしい。
[グエンの手の、思いの暖かさを感じながら、笑みを見せた]
[橋の先から流れてくる濃霧の気配、
その霧に近づくにつれて、
子供の輪郭は曖昧になっていった。
それでも誰かを見上げるその顔はずっと笑顔でいたけれど]
(…は走り続ける。水晶の光る洞窟は行く筋にも道を分け、例え怖気づいたとしてもすでに戻る事はかなわない。光る魚に追い付けばその速度を緩めともに歩く。)
「戻れぬよ。」
解ってる。戻る気はないね?もう、どこにも…戻る場所はない…からね?
「この森で出会いもあったろう?残りたくはなかったか。」
そうだねぇ、寂しげな優しい子がいたよ。羊を探してた。
一生懸命虚勢を張って自分を勇気づけて歩き続ける王女様がいたね?最後に会いたかった。
面白い猫を引き連れた不思議な子もいた。うん、優しい子だった。
(くすり)元気な子犬のような子がいた。でも弾けそうなボールみたいだ。大事な人に会いたがってたね。
(魚はちかちかと光ってその話を促しているかのようだ。さらに…は微笑むと話を続ける。)
(くすくす)森の魔女だって言いはる子もいたよ。帽子から鶏なんか出しててさ…。
二人に増える子もいたね。消えちゃったけどさ。
あの爪の長い彼は…終の棲家を見つけられるといいけどね?
ちょっとしか会えなかった子も何人かいた。もっともっと話をしたかったよ。
でも、“いつも同じだね?最後には別れるんだ。俺は一人で行かなきゃいけないから…ね?”
(全てを思い出していた。名に記された魔女の呪い。魔女はここにいる。…の中に。
いくつもの世界を何度も渡り歩き、抗う方法を探していたのだ。運命の輪から逃げ出せる方法を。)
ねぇ魚、お前には解るのか?俺が戻れる方法を。
戻れる道を。知っているのか?本当の魔女の居所。
誰か…助けてくれる人が…。
(最後まで言えずに口をつぐむ。無理な願いだと解っていたから。
魚は紅赤◆色に光ると数メートル先に進み止まった。そこに広がるのは果ての見えない地底湖。境の見えない闇の中の闇。
魚は…を待っている。)
は、は、は。そうか…ここでもないんだ、ね?
(…は一歩、また一歩魚に歩み寄り、共に地底湖の中へと歩を進める。水位は膝を超え、胸を超え、…の姿は地底湖の中へと消えていった。ほの明るい魚の光だけが水面をゆらゆらと漂っていた。
――…はまた記憶を失い全てを失いその世界さえも失いどこかへと流れ着くだろう。*いつの日かまた*――。)
>>37
……ネネ。ネネ。ネネ。
わたしの、わたしだけの、わたしを示す、名前。
やっと。
やっと、「わたし」になれた。
ありがとう、グエン。
ありがとう――
[感謝の言葉とともに、重ねられた手が、身体が、すうっと透明になっていき。
最後にグエンの名を紡ぐ声が響くと、...の姿は消え去った。
あとにはただ、ひかりを灯した杖が残るのみ]
[抜け駆けして差をつけたはずがすぐに追いつかれてしまった。
まるで羽根が生えたかのように軽やかに走るモモを
眩しそうに見つめた。
しかし、その笑顔が不意に強ばり、
意外に冷たく、そして意外に力強い小さな手にひかれ、
慌てて橋を駆け抜けていく。]
おいっ、こら。そんなに早くは無…っ。
[二人を追いかけるように橋が崩れていくのを気付かないまま、
ただひたすらにモモの背中をみて走り続けたー。 ]
[ ネネの姿が消えていく。
手に残るのは微かなぬくもり。
耳の奥に、彼女の紡いだ音が、響いていた。
杖は二本になる。
ふたつを抱いて、グエンは、空を見上げた。]
[近くて遠い橋の先、距離は急速に失われる、
繋いだ手の感触を確かめるように、
もう一度だけ振り向いた、けれど
その表情は霧のせいで、誰の目にもうかがい知れなかった。
そして。
かけぬけた子供は、
かけぬけた子犬は、
森の濃霧に触れると幻のように融け消えた]
[ グエンは杖を抱いて、花畑の先へと向かう。
聳え立つ、立派な城。
太陽のひかりの下の、真っ白な建物。
そばにいっても、中に入っても、誰もいなかった。
王様も、お姫様もいない、空っぽの場所。
とても明るいのに、とてもさみしい。
とてもくらいのに、とてもにぎやかな森とは違う。
まるで、忘れ去られてしまったところ。
けれど、きれいなその場所は、誰かを待っているようだった。]
いなくなって、さみしかったのかしら。
だから、湖の下に、閉じ込めてしまった?
思い出を、ぜんぶ。
失くしてしまわないように。
変わってしまわないように。
いつか、かえってくるように。
……。
いってしまったひとは、
かえっては来ないのに。
待っているだけでは、だめ。
だから、わたしは、捜しにいった。
だから、あなたは、呼んだのかしら。
そうして。 ここに来た。
[ 紫の猫が、ちいさく、鳴く。
何かを伝えようとするように。
鏡の裏側にいる猫は、いろが薄かった。
それは、はんぶんだけだから。
もうはんぶんは、向こう側。
グエンは、はたり、またたく。]
[詐欺師はふわりと宙に浮く。
その体は霧となり、暗い森の中を彷徨い通る。
冷たいは農夫を見つけると元の詐欺師の姿となり、背後に降り立つ。
そしてそっと爪の長い手を男の頬へ伸ばす。]
…ふふふ、頂きまぁす…
[農夫の男が気づくかどうかは判らない。
凶悪な牙の並ぶ口を大きく開けて、その首筋に噛み付こうとしたところ。
詐欺師は顔を上げた。]
ん?
僕を呼ぶのは誰…?
[口元に浮かぶのは、残念そうな表情。
肩を竦めて溜息をつき、男はトンと地面を蹴った。
背後に、黒いマントのような羽根が広がる。]
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