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…わかってなかったのか…。
危ないんだから、爪立てたり噛み付いたりするなよ!
…って、ほんとにオマエにはだれもいないのか?
それはきっと、多分、さみしいっていうことなんだろうな。
でも、ぼくはお前が寂しくっても甘い顔なんてしないぞ、危ないもの持ってるんだからな!
え?ぼく?いや、ぼくはもう…。
[きっと帰れない、誰の耳にも聞こえぬように呟く言葉]
僕?
さみしくなんかないよ?
うん、爪と牙は、気をつけよう。
[モモににっこり笑って
それから、首を傾けた]
僕は寂しくないけど…
君の方が、よっぽど寂しそうな顔、してるよ?
[詐欺師である男はグエンの言葉にちょっと止まり、
なんだか少し困ったような申し訳ないような顔をして肩を竦めて]
あぁ、うん大丈夫。
――心配、ありがと?
[ぺろ、と自分の血の出た指をまた、舐めた]
気をつけるか?よし、ならいい。
無闇に見せびらかすのも、だめなんだからな。
あーほら、笑うと牙見え…!
[さみしそう?不意をつかれてめをぱちくり]
ぼくはきっと、寂しくないよ。
…寂しいのも泣くのも、ぼくじゃない。
[モモの口ぶりにくす、と笑って]
はぁい。
見せびらかしてる心算も、無かったんだよ?
[言って、続いた言葉に首を傾け
手を伸ばして頭を撫でようとしたけれど
ぴた、と手をとめて]
君じゃないの?
じゃあ…――誰だい?
[優しげな声]
グエンはグエンって呼ばれたいの?
その名前、好きなのか?誰かにつけてもらったの?
[色違いの名を持つねこ?たちへ、ちらり視線をやった]
治ったのは、いろいろなひとにあったから、かしら。
森や、爪や牙で、それどころでは、なくなってしまった?
……傷はきちんと、手当てしないといけない。
……呼ばれたい?
そういう質問、されたこと、なかった。
でも。
呼ばれたい、のかもしれない。
呼ばれていたときのこと、思い出すから。
ひとりではないって、思えるから。
そう。貰ったの。
ずっと、ずっと、昔のこと。
わたしが、今のわたしになるより、前のこと。
あなたの名前も、誰かに貰ったのではないの?
ひとにとって、名前は、生まれてはじめてのプレゼントだと聞く。
…それは…
[ジュリアンの甘い毒のような声に誘われて無防備に溢れるなにか
背中を撫でるあたたかな手
ぼくの名前を呼ぶやわらかな声]
[ゆっくりと何かを探すように小屋の中を振り返り―]
[その視線は誰かをとらえたかもしれないけれど、
すぐにうつむき行方は知れず]
オマエには教えない!ふふんだ。
[こまっしゃくれた笑顔を、ジュリアンへと向けた]
そうか、グエンがそう呼ばれたいならそうする。
うん、名前を貰ったのはぼくもおんなじだ。
…残念なことに、女の子みたいな名前、だったけどさ。
グエンは結構、寂しがりやなんだな。
名前で呼んでほしいのが、そんな理由、なんて。
…はよっ。
[大きく欠伸をしてから、東屋にいる者をぐるりと見回して、挨拶する。]
なんかやたらと眠いんだ。
やっぱり珈琲を飲まなくちゃ、な。
[そう言った途端に現れる珈琲に躊躇いなく口をつける。]
時間の流れとかどうなってるんだろう…な?
[あまり考えるとドツボにはまりそうな気がする。]
女の子みたいな名前は、いや?
くれたひとは、きっと、こころを篭めてくれたのだと思うけれど。
さみしがりや。
そうなのかしら。
そうかもしれない。
でも。
誰も、さみしいのはいやではないのかしら。
あなたは、名前で呼んでは欲しくない?
ヒグラシ、おはよう。
おはようで、こんにちはで、こんばんは。
時間。
時計の針の進みは、ひとが決めたものだから。
ほんとうは、感じるのは、そのひと次第。
眠いときは、寝るのがよいけれど。
そんなに眠いのは、どうしたのかしら。
嫌ってわけじゃないよ、ちょっと恥ずかしいだけ。
…こころ、篭ってたのかなあ?
ぼくはどう呼ばれてもいいよ。
馬鹿にされてんじゃなければだけどな!
だって本当に名前を呼んでほしいのは、たったひとりだけだもの。
…むぅ、寂しいなんてあるわけないだろ。
ぼくは留守番だって一人で平気なんだからな。
だからそうやってニヤついた顔をするなよ…!
寝すぎて消えても知らないからな!(ぷんすか
太陽にあわせたつもりでも、
時計をつくったのはひとだもの。
つくった決まりに、縛られている。
ひとではないものは、時計の通りには動かない。
縁遠い。そういうこと。
日のひかりが欲しいのなら、水の中にはあった。
シェーフヒェンが行きたいと言っていた。
ヤコヴレはどこかへいってしまったし。
ヒグラシも、行く?
そう。
ひとりだけに捧げる想いは強いもの。
うれしくなるのも、あたたかくなるのも。
でも。
失くしたときが、こわいから。
わたしは止めてしまったの。
だから、想うあなたは、強いと思う。
ふふ、嫌われちゃったねぇ。
[モモの様子に笑って
指の血をまたぺろりとなめた]
それにしても、なんだか見ない人が居るけど大丈夫かな。
[少し周りを見渡した]
ヤコヴレが迷子の話をしていたから。
いないひと、
いなくなってしまったひと、
他にもいるのかも。
じっとしていると、
こころがざわざわしてしまうから。
わたしは、ここから出る。
それに、森が、ゲームを望んでいるのなら。
ここも、いつまでもあるわけではない気がするの。
うん、ぼくはえらいぞ。それも当たり前だ!
褒めるならちゃんと心を込めて褒めるといいぞ。
…なんだ、オマエ帰りたいのか。そうか。
ならオマエが早く帰れるようにって森にお願いしてやってもいい。
でも、もしぼくが先に消えても、もう泣くなよ?
[ グエンは置いていた杖を取り上げる。
ぴくり。
色違いの猫のかたちをしたものたちが身動いで、
いざなわれるように、入り口へと向かっていった。
グエンは扉を開いて、外へと出る。
風が吹いて、髪が攫われそうになる。
霜はもう、融け始めているようだった。]
帰りたいのなら、
尚更、動かないといけないかしら。
森は願いを叶えてくれるけれど、
いちばんの願いは、しらんぷりだもの。
わがままな子。
わたしは、じっとしていられないから、行く。
ヒグラシも、好きにするといい。
……水がいや?
それなら、水以外のところでもいいと思う。
ずっと寝ていて、溶けてしまわないように。
[ シェーフヒェンにひとこえかけて、
グエンは歩みだす。
さんにんの猫もいっしょに。
そのうちのちいさなひとりは、
そのうちに姿を変えてしまうのだけれど。** ]
[グエンの開いた扉から、流れ込んでくる凍える空気
ぶかぶかのパーカーのフードを被り、
もたつく不慣れな手でチャックをしめた]
そうだな、そろそろ先へいかないと。
この森の、ひとところにいちゃいけないのはわかる。
…ぼくはオマエと一緒にいく。
武器はないから、期待はするなよ?
[ヒグラシを見上げて至極真面目な顔で言った**]
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