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旅人が最後に足を踏み入れた場所。
旅人の故郷。誰も旅人を覚えていなかった。
旅人は旅人だから、そこは旅人の帰るべき場所ではなかった。
旅人は自分の旅して来た所を子供達に面白可笑しく語った。
やがて子供達にとって旅人がいる事は当たり前になった。
やがて大人たちにとって旅人がいる事は当たり前になった。
どうやらこのなかには、むらびとが1にん、じんろーが2にん、きょーめいしゃが16にんいるみたい。
[片付けても片付けても埃とガラクタしか出てこない物置]
ゴミ箱だな…
これ、物置ごと燃やしちまえばいいんじゃねーの…
[ぶつぶつ言いながらも片づけを続行していると、一冊の使い込まれた手帳が目についた]
なんだこれ?
[手にとって埃をはたくと、一向に終わりそうにない掃除への嫌気も手伝ってか、少年は気まぐれに手帳を開いた]
旅人は村人になった。
村人が几帳面に残してきた旅の記録。
それだけが村人の過去の証。
今、一人の少年が村人の過去を覗いている。
●
こんな所に…
目の前に現れた無機質な白い外観の建造物に、思わず呟いていた。
おおよそ人など訪れそうにない荒野にこんな建物が。
それとも、これが建てられた時にはこの辺りも町として栄えていたと言う事だろうか?
中に入ろうと扉に手をかけたが…重かった。
ぬおおおおお、と誰かに見られていたら軽く笑われそうな気合の声を上げながら分厚い扉との激戦を制し中へと足を踏み入れた。疲れた。
■
目が覚めると、ひとつの大きな部屋の中にいた。
頭を振って、寝入る直前のことを思い出す。
…そうだ。荒野を旅し、日も暮れて疲れていたところ、珍しくも有り難く建造物を見つけたため、裏戸口と思われる小さな扉を通り、この部屋に足を踏み入れたのだった。
人の気配がしないというのに妙に綺麗でからっぽなこの部屋で、座り込んだままうとうととしていたらしい。
扉を眺める。
その向こうは今、昼だろうか、夜だろうか。
どのくらい眠ってしまったのだろう。
視線を反対側の、建物の奥部へと続くてあろう扉に移す。
そしてこの建物は、どんな建物だろうか。
何にせよ行動を起こすために、私は立ち上がった。
●
―ギィィィッ―
扉を開けると大きな音に驚いた
「こんな立て付けが悪い上に大きな音が鳴る扉なんてご近所様に迷惑じゃないか!いい加減にしろ」
旅人は義憤に駆られると一層使命感を露わにして前に進んで行った
すると目の前にはどこかで見たような事がある人物が倒れているのだった
「お、お前は…」
■
立ち上がり、扉を開けて奥へと進む。
廊下の窓からは、柔らかな光が無人の建物を照らしている。
その陽射しは温かいので、きっと朝なのであろう。
私は長い廊下を進み、適当な部屋を見つけると、好奇心の赴くままにその扉を開けた。
■
扉を開けると、そこには…
かつて人が食事をしていた場所だと分かる程度のものがあった。
…が、人の気配は相変わらずだった。
「あぁ…何も食べてなかったな。何かあったっけ?」
そう言うと私は、旅のお供であるカバンの中を調べ始めた―――
●
「…見なかったことにしよう。」
流石に倒れたままだと可哀想なので、一旦、建物の外まで出て、穴を掘って、埋めてあげることにした。
土の中から何か呻き声のようなものが聞こえてきたような気がしたが、何も聞こえないフリをして、再び建物の中へと戻っていった。
●
「ズボッ」
立ち去ろうとした後ろから妙な音が聞こえた。
―スタスタスタ―
私は足を早めた。
しかし後ろからの足音はそれを越えてどんどん早く、大きくなっていき・・・
―ドーン!―
「何すんだよっ!」
●
怒気を含んだ声に恐る恐る振り返ると、つい今に埋めたはずの人が仁王立ちしていた。
「なっ・・・・・!?」
驚いて言葉を失っていると、相手が先に口を開いた。
「こ・ろ・す・き・か」
●
「ああ、殺す気さ。」
溜め息を付きながら私はそこのゾンビに向かって言った。
「何で!?」
何を今更言っているんだろうか、こいつは。
「今までお前が私にしてきた数々の所業、忘れたとは言わせない。」
●
「あ、あれはお前のことを思って・・・」
ゾンビは言う
しかし、私にとっては迷惑なことでしかないのだ
「あんたは私が殺した。いい加減安らかに眠ってくれないか・・・兄さん」
私は以前は兄と呼んでいた、今はただの腐敗臭のする肉の塊に言い放った
●
「行間で倒されるなんて、弱くなったな。」
と、訳の分からないことを言いつつ、
私は再び建物の中に足を入れた。
しばらく歩くと、広場のような場所に出た。
そこには子供の遊び道具が散乱していたが、肝心の子供がいない。
●
で子供の気配だけはする。
遙か昔に遊んでいた子供の残滓なのか、みえない子供がいるのかは、わからない。
ただ、残されていた遊び道具だけが、不思議な存在感を放っていた。
するとその中から何かがこっちを見つめていることに気が付いた。
そこに目をやると、
●
懐から拳銃を取り出し、「かつて兄と呼んでいた輩」の頭を躊躇いも無く打ち抜いた。
二度と復活できないように、死体も塵一つ残らないように燃やしておいた。
「兄さん、安らかに眠ってくれ。」
てか、もう出てこないで下さい、お願いします、と心の中で呟きつつ、再び建物の探索に戻った。
●
・・・の顔が大きく書いてある肖像画だった。
「不気味なもん飾りやがって」
兄が、この孤児院に人がいたころの院長だったのは知っていたが、
こんな悪趣味なものが飾っているとは知らなかった。
絵に蹴りを一発入れると、後ろから物音がした。
振り向くと、そこには小さな人形が倒れていた。
「気のせいか・・・」
立ち去ろうとしたその時、その後ろから声がした。
「ちょい待ちなよ、そこのキミィ」
■
かばんには、塩気のないパンと水、それから最後に立ち寄った村で
手に入れることが出来た干し肉が入っていた。
何はともあれ、腹が減っては戦は出来ぬ。
ここの探索は、食事のあとでも遅くはないだろう。
そう思った私は、さっそく食事にありつこうと部屋の中央にあった
大きな食卓へと足を運んだ。
材質はマボガニーだろうか。
傷はおろか埃一つない艶やかな一枚板のテーブルが、天窓から零れ落ちる朝の日差しに照らされて柔らかな光沢を放っている。
…何か違和感を感じたが、空腹には勝てない。
手近にあった椅子を引いて腰掛け、カバンからパンを出そうとした…その時だった。
■
「おい、ワシの縄張りでなにしとるんじゃい!」
荒々しくドアを開けて現れたのは、みすぼらしい服装をした初老の男だった。
恐らくは浮浪者だろうか。
そうか、テーブルに埃ひとつなかったのはこの男が此処を住処にしていたからだったのか。
しかし、ここで探索を諦めて帰るわけにもいかない。
私は事態を収拾すべく、かばんのなかの「あれ」に手を伸ばした。
■
鞄の「あれ」をさっと引っ掴んで、浮浪者に突きつけた。
「な、なんじゃこのか弱い老人に暴力を―――」
ナイフや銃などを突きつけられたと思ったのか、泡を食った老人は、私の手に握られた物を見てぽかんと口をあけた。
「ささ、どうぞ一献!お近づきの印に!」
携帯している安酒の入った水筒だ。
悪人ではないようだし、穏便に平和的に解決できればそれに越した事はない。
これを撥ね除けられたら、いよいよ実力行使しかあるまい…と思いながら、相手の出方をうかがった。
●
辺りを見回したが、誰もいない…兄のせいで疲れているのだろう、と再び探索を再開しようとしたが…
「どこ見てるのさ、人の事を倒しておいて無視して立ち去るとか酷くない?」
…声は明らかに目の前にある小さい人形から聞こえてくる。
ゾンビはいるし、喋る人形はいるし…この孤児院、怖すぎる。
でも、よく見たら、この人形、凄く可愛い、というか私のタイプだ。
よし、今日から君は私の相棒だ、名前はあとで考えることにしよう。
偶然手に入れた可愛い人形に頬ずりしながら、私は再び探索に戻ることにした。
人形は何やら叫んでいるが、今の私にはこの人形の名前を考える方が大事なので、無視することにした。
■
「ワシに、酒をくれるのか?」
どうやら穏便に片付きそうだ、そう私は思った。困ったときは酒を提供する、これは小さいときに父から教わったことだった。事実、それでいくらかの修羅場を乗り越えてきたといっても過言ではない。
父のことについてあれこれ思案している間に、ふと老人のほうに顔をやった私は老人の様子がおかしいことに気づいた。なにかぶつぶつ呟いているように見える。
「どうかされましたか?」
「・・・う・・まされん・・・だま・・・」
心配になった私が顔を覗き込もうとした、そのときだった。40kgはありそうなマホガニーの机を蹴り飛ばしたのだ。
「・・・ワシはもう騙されん!!彼奴だけで十分だ!!」
●
「ん?ちょっと待て」
周りを見回すと他にもたくさんの人形が転がっていることに気づく。ここはまるで人形の墓場だ
「……人形で遊んだらちゃんと元の場所に戻しておきなさいとお母さんに習わなかったのだろうか?こんなに散らかして、親が見たら悲しむぞ!うおおおお!」
私は義憤に駆られると居ても立ってもいられなくなり
人形を地面に叩きつけて叫びながら走りだした
「うるさい奴だな…」
声のする方向を見るとそこにはある人物が立っていた
■
老人の様子に、思わず私は目を見開き、絶句した。
怒りに身悶えだした老人の体色がみるみる変化していき――
――獣人へと成ったのだ。
見たところ、老人は怒りに我を忘れているようだ。
この状態では何を言っても通じないだろう。
私は苦々しく舌打ちをし、ひとまずこの場を脱しようと思った。
■
「彼奴がすべて奪ったのだ・・・・
金も、地位も、名誉も・・・
彼奴さえいなければこんな姿になることはなかった・・・」
老人だったもの――獣人はうわごとのようにそう呟いていた。
私はその姿を哀れに思いながらもまずは獣人の注意をそらすべく、手に持っていた酒を思い切り獣人の顔に浴びせた。
「ウォオオオオオオ!」
この隙に扉からほかの部屋へ逃げよう、そう思ったが獣人の様子がおかしい。
ただの酒を浴びせただけでこれほどの叫び声を上げるものだろうか。
獣人の方を振り返ると、その体から煙のようなものが立ち上がっているのが見えた。
●
さようなら、兄さん
何度倒しても蘇る執念深さに半ば呆れつつ、私は銃口に手を掛け、別れの言葉を口にした。
そのときだった。
「やめろ!院長になにをするんだ!」
先ほど地面に叩きつけたはずの人形が、兄を庇うように立ちはだかっているではないか。
■
煙が立ち上る獣人をよく見ると、酒をかけた部分が爛れ焦げている…!私は悪心を覚えながらも、手に持った酒入りの水筒を見つめた。
酒に…弱いのか?聖水でもなんでもない、ただの酒だが…
「う、ぐううぅぅ、貴様、赦さない、赦さない、
彼奴の差し金か、赦さぬ、」
執拗に、彼奴という言葉を繰り返している。
何者だ?この獣人も、彼奴という奴も…。
私は水筒を構え、じりじりと扉に後ずさりながら、
「彼奴とは誰だ!?お前は何者なんだ!」
●
だかそれは空砲だった。実弾は入っていなかったのだ。
「兄さんが、院長?」
私は混乱した、私を裏切り、両親を殺した兄への憎悪は今も私の心に刻み込まれている。
その兄さんが、孤児院の院長をやっているのは知っていたが、それで私の憎しみは消えることはない。
すると、兄さんが私に向かって話しかけてきた。
●
「だが、死ぬ前に一つだけお前に言っておきたい事がある。私はお前の兄さんじゃない、姉さんなんだ。」
あまりにもの衝撃に、私は手に持っていた銃を落としてしまった。
●
「殺したじゃないか。何度も。」
そこで私はふと疑問に思った。
―なぜこいつは、生きている。
何度致命傷と言えるダメージを与えたことだろう。
というか、地面から這い上がって来た時点で気付くべきだったのではないか。
そうか。この兄さんはもう生きていないんだ。
なのに動いている。それはこの世に未練があるからじゃないのか?
私は兄さんに尋ねた。
「一体、何があったんだ。」
●
兄さんは少し眉を潜めると重々しく口を開いた。
「スナックのママに入れ込んでこのザマさ・・・」
二人の間に流れていた時が停止したのを感じた。
■
「とぼけるなぁッ!!
これ…この酒は…紛れも無い、彼奴の身内である証拠!!!」
この酒は、確か前に立ち寄った町の、小さな酒場で主人に譲ってもらったものだった。
こじんまりとしていはいたが、とても雰囲気がよく、
私はそこの主人と打ち解けたのだった。
その町を出るという最後の晩に、
主人は、どこか遠い眼をしながら、この酒を…私に。
では――……。
あの主人が、この獣人と何か関係があるのだと言うのだろうか?
「ま、待ってくれ!落ちつくんだ!
この酒を私に譲ってくれた人は…罪を、償いたい。
……そう、呟いていた。」
●
「スナックのママに入れ込んでこのザマさ・・・」
その言葉を聞いた瞬間、躊躇なく兄さんの頭を打ち抜いた。
そして、兄さん共々喋る人形を全て焼却して、私は再び建物の探索を再開する事にした。
●
「ひでぶっ」
・・・やはり死なない。とっとと成仏するなり地獄に落ちるなりすればいいのに。
このままだと孤児院から出ても付いてきそうな勢いなので、
どうにかちゃんとあの世に送ってやろうと考えた。(いろんな意味で)腐っても兄だし。
●
彼をあの世に送るにはどうしたらいいのか。
私は2秒ほど考えて無理だと判断すると。
撒くか。
私はそう思考するやいなや自分でも惚れ惚れするようなフォームでクラウチングスタートを切った。
■
「ほう・・・、罪を償いたいとな・・・、それほど罪を償いたくば、なぜ彼奴本人はここに来てくれんのか。」
その獣人は私を不信の目で見る。
●
「スナックのママに手を出す金があるならAKBのCDを買えよこの非国民が…」
私は義憤に駆られて兄を粛清すると達成感に声を上げながら走りだした
「廊下を走るんじゃあない!」
耳をつんざく怒号に体が強張る。振り返ってその人物を見た時私は驚いた
「お、お前は…」
●
またか。と私はため息を吐いたが、何かがおかしい。
兄さんがゾンビの如く復活してくるのはいいが、私はそれなりの距離を走った筈だ。
それなのに、新しい扉が見えるわけでもなければ窓の位置が変わったようにも思えない。
●
だがそれは幻だった。
兄をこの手にかけたことに後悔はしていない。
だが何度も何度も蘇る幻が、私を苦しめていたのだ。
今は兄のことは忘れよう。
そして、孤児院の探索に戻ることにした。
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