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この村にも恐るべき“人狼”の噂が流れてきた。ひそかに人間と入れ替わり、夜になると人間を襲うという魔物。不安に駆られた村人たちは、集会所へと集まるのだった……。
1人目、自警団長 アーヴァイン がやってきました。
村の設定が変更されました。
血闇の平安末期──京の都
咲麗の春
まだ明けきらぬ 紫黒の空のもと
とある──貴族の屋敷から、蜘蛛の子を散らすように何台もの車が去ってゆきました。ひときわ豪華なびろう毛の大きな車の朱塗りの格子の向こう、簾越しにちらりと見えた衣は、長く、病に臥せっているとうわさのあった北の方のものではなかったでしょうか。
「ああ・・とうとう」
わたしの声は息をのみこむようなささやきになりました。
車たちが去ったあとも、開け放たれたままの門。
四季ごとに分けてつくられた季節の庭、その中でも京の外れにあるさくらの古木が移されたと云う、池を臨む春の庭がうつくしいはずのその屋敷は、がらりとして──なぜか、死臭がただよっているように見受けられました。
うす白い朝もやにまぎれて、恨めしげな犬のなき声がわたしの元へ届きます。
わたしは、どれほどの時間、お屋敷の門前でたたずんでいたのでしょうか。びっこをひきながら現れた老人ににらまれて、ようやく、わたしは足に根が生えてしまっていたことに気付いたのでした。
「女性は誰ひとりとして、残ってはおらぬのですね」
わたしは、文を届けるため、何度もこの屋敷をおとずれておりました。
(祟られている)
(四つ辻に 埋められた 呪によって──)
老人に確かめる言葉がふるえました。
おのがあるじのため。あるいは ここを訪れなくてはならない、おのれのため。わたしはこの屋敷を覆う──────気配から、ずっと目をそむけ続けていたのです。
(この屋敷は 大殿さまは 祟られている)
[夜明け前に屋敷を去っていった栗毛の馬の従者は、かえりみち。百鬼夜行の群れに巻き込まれ、おのがあるじの元へもどることは叶わなかったと云う。
ただ、男がたもとに抱えていたはずの文だけが、文のいろを、まだ五分咲きにならぬと云うさくらの薄紅に染め変えて、あるじの元へ帰ってきたらしい。
文を届けた者は「これは路で拾ったのだ」とわらったが、
「名のしるしの無い文が何故、あるじの物だと分かったのか」
女房がいぶかしむと、魔障のごとく*掻き消えたとも云う──*。]
村の設定が変更されました。
2人目、流れ陰陽師 白藤 がやってきました。
[朝靄が揺れている。
春告げる梅の花も白妙の向こう側。
漂うそれをひらりと手で払う影がひとつ。]
……いやな風だねぇ。
[白い直衣を身に纏ったおとこは呟く。
春を描いた庭先の、大きな櫻の古木の下で
開ききらないつぼみを見上げた。]
澱んじまってる。
[ばさり、鳥の羽ばたきに似た音が響く。
だがしかし、それは鳥ではない。
おとこが手を差し伸べると羽音は指先にとまり、
ひらり、一枚の紙になった。おとこは眼を細める。]
白が、さくらの薄紅か。
[飾り紐でひとつに結わえた後ろ髪をぬるい風が小さく揺らした。]
村の設定が変更されました。
流れ陰陽師 白藤 が村を出て行きました。
2人目、流れ者 ギルバート がやってきました。
[鳥のようであった白い紙を袖の下に仕舞う。
取り出したのは白い紙で折った小さな鶴だ]
さぁて、もうひとつ。
[手のひらに乗ったそれに印を切り
息を吹けば羽ばたいた。
晴れるか晴れぬか曖昧な靄の中を飛ぶそれを見送りながら]
あの従者は結局帰れず、か。
[おとこは低く*呟いた*]
3人目、双子 リック がやってきました。
―どこかの邸―
[響く琴の音は少年の手によって生み出されていた。
流れるように、軽やかに。
不意に、醜い音がして琴の音色がやむ]
…不穏な……。
[切れた琴の弦は、変えたばかりだったと言うのに、そればかりか少年の指先まで傷つける。
朝靄が次第に晴れて行く空を眺めた視線は伏せられて、赤がにじむ指先に舌を這わせながら眉根を*寄せた*]
4人目、修道女 ステラ がやってきました。
薄紅の衣ははらはらと昼なく夜なく屋敷を彩り
灰橙の雲ははんなりと空を隠し 京の一角を覆っておりました
齢重ねる櫻の地の脈動伝えんとす根に すぅと足を降ろして
死臭物ともせずに 辰星無我は無礼にも君の方へ視線を注ぎ続けていたのです
――と
貴族の眼差しに出会い彼が声を上げようとした時には
ぽぉ
何時の間にか消えてしまいました
5人目、冒険家 ナサニエル がやってきました。
[宿居の朝。どこからともなく感じる不穏な空気。
笛の音もまた濁るかのよう。用あって先に招いた加持の僧も何やら感じるものがあったという。はてさて、この胸騒ぎが一体何なるか]
……。ゆゆしきことなければよろしいが。
春の曙、風情感じるままに平穏をとく願いたいものよ。
6人目、吟遊詩人 コーネリアス がやってきました。
…ふむ、これは宜しく無い。
[都大路の門の上。
腰掛けて足元を眺める姿がありました。
長い白雪のような髪が殊更目立ちましたが、誰もその姿を気にしたり咎めたりはしないようです。
もしかすると既にそれは、あやかしの見せる幻の中であったのかもしれません。]
[事も無げにひらりと、彼は門の上から身を踊らせました。
ふわりと靡いた衣の裾から、髪と同じ色のふさふさした尾が覗いたのを、誰しも気づく事はありませんでした。
何事も無かったように降り立つと、通りの雑踏の中へ消えて行ってしまうのでした。]
7人目、学生 ラッセル がやってきました。
[のどけき春の朝と、おぐらき夜の境
夜のあいだに都あそびをたのしんだ悪鬼どもが朝のひかりを避け、薄靄を辿り己が世界へ還る刻限
薄墨の残る小路のかげでひそかに白刃がひらめいた。]
[一刀のもと斬り捨てられたのは獣。
しかし獣は、たおれることなく煙のように立ち消えた。
刃に纏わる僅かな血糊を、紫浮織の袖でぬぐうおとこの
何所より来るを識るものはない。
ただ、そのすがたを見れば何所ぞ公家の従者とでも判ずる――
おとこはそういった出で立ちをしていた。
陽を受けた髪はすこし赤い。]
――まっこと、魑魅の絶えぬ都よ
[おとこは、言葉のほかには
刀を納める音も、少しの靴音も立てず
全く静かに、人の行き交いはじめた大路へと
歩き去って行った。]
−六条邸−
[琴の音が途切れたのを不思議に思ったのか、少年を呼ぶ声が几帳の向こうからかかる]
…問題ないよ、お下がり。
起こしてすまなかったね。
[その声は、静かに声の主を下がらせる。
しばらくして衣擦れの音がして、それは次第に遠くなる。
指から舌をはずせば、僅かに腫れた部分を見てその状況を把握し、問題ないとばかりに切れた弦を張り替えはじめる。
その手付きは慣れていて]
[清い笛の音が途切れて眉顰め。そして]
…しかし…面妖な。
笛の音が濁るのは何かよからぬこと…
[笛が濁れば清さを尊ぶ琴は尚のこと。そうして思い浮かぶのはあの六条の若宮。偶に笛と琴を合わせる仲でもあり。風流な祖父宮とは年離れながらも]
一つ、ご機嫌伺いにでも参ろうか
[自宅へ向かわず、牛車は向かうは六条邸。先触れぬ無礼、お赦し頂けるか。とかく、先に従者を走らせて、答えあれば向うつもり]
[琴とは、縮小された世界なのだという。
上胴の半円は天を模し下胴方形は血を模し。
その長さ、一年を示す三尺六分五寸。
肩幅六寸は六合、腰幅四寸の四時。
弦を押さえるは十三───十二と閏月の数の徽。
そのうちの一本が、変えたばかりなのに、ぶつりと]
…何もなければよいけれど。
[外した一弦を手の内に、少年は呟く。
その聲が空気に溶けたのと同じ頃、再び几帳の向こうから声がかかる。
それは笛の奏者の訪れる前触れ]
…中将殿が?
[少し、考えるような表情。そして少年は答える。その返事は了。
切れた弦を小箱にしまって]
―庭先で―
[不安に陰る貴族の面、かれが何やら尋ねる風であれば
白纏うおとこは薄笑み浮かべ]
さぁ、百鬼夜行も
昨夜そこな通りを横切ったと聞きますから。
――あぁ、いけない。
怯えすぎてはよろしくない。
つけこまれますよ。
[笑みを敷いたまま謂った。
相手がそれを脅しととったか、諭しととったかは定かではない。
去る背なを見て]
都にあやかしの途絶えた試しなどないというのにな。
おかしなことだ。
[わらう。白鳥の式が肩にとまった。]
若宮様のご機嫌麗しきことお喜び申し上げます。
祖父宮様、若宮様にお変わりはございませんでしょうか?
[暫し後、宮家の門を潜ること許されて。几帳の向こうより頭を下げる。宿直の疲れは顔には浮かばず、まずは若宮、祖父宮の健やかを祝い申し上げて]
…唐突なお伺いをお許し頂き恐縮にございます。
ふと夜明けに気がかりなことあり、若宮様のお声を頂きたくまかりこした次第。何事もなく安堵いたしました。
[簡潔に用事を述べつつ]
[几帳の向こうより聞こえくる衣擦れの音、声に少し目を細める。
祖父宮はといえば、来客があっても眠いのであれば眠いと一言のみの様子で結局少年は一人、青年と対することになった]
宿直のお役目を済ませていらしたのですか?お疲れ様です。
中将殿も恙ないご様子、安堵いたしました。
[几帳の向こうへと声を一つ投げる。
青年の気がかりの一言に眉が寄せられるも、其れは几帳によってさえぎられ彼の目には届かないもの]
…気がかり、ですか?如何なされました。
まぁ、何にせよ。
[肩に乗った式はまた飛び立つ。
追うように足を踏み出した。]
よろしくないのは、事実な訳だ。
[開いた門、おんなの居ない屋敷、
死にちかいにおいがする]
方違えしろと謂ったのに、やれやれだねぇ。
[あの従者は帰らなかった。]
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