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この場から立ち去ろうとすると、あたりから
「えー、もう帰っちゃうのー。」
「つまんないやー。」
「ああ、やっぱり今回も駄目だったよ・・・。」
「このいくじなしー!!」
「くすくす・・・」
子供らしき笑い声とも罵声ともつかない声が響いてくる。
その声を振り切るようにあの部屋に戻っていった。
■
獣人が倒れていた筈の部屋に戻ってみたが、その部屋には誰ひとりとして残っていなかった。
代わりに残されていたのは、一枚の紙きれ。
私は、その紙切れを手に取った。
それは、多少汚れで見辛くなっているものの、どうやらこの建物の地図の一部であるようだ。
裏には「おまえさん、このまえ」と書かれている。
これは一体どのような意味なのだろう。
何かしらの暗号なのだろうか。
●
「もう面倒だからお前も来いよ、一緒に行こうぜ。」
国家認定陰陽師の手を掴んで、一緒に部屋を抜け出した。
こうして、俺達の愛の逃避行が始まった。
●
「待って、貴方に渡したいものがあるの」
そういうと母は手提げのバッグからあるものを取りだしたのだ
「これは……」
母は頷いた
「そう、これはふくやの明太子よ。貴方が好きだったね」
自分でも忘れてた事を母は覚えていてくれたのだ!
私はしばらく涙が止まらなかった
■
この建物の地図らしきものを手に入れたのはいいが、
このままではあのレバーを引く事が出来ない。
「仕方がない、あの椅子を踏み台に使うか・・・」
部屋に置かれていたマボガニーの椅子を持って行く事にした。
忽然と消えた獣人・・・。
あの地図に書かれていた暗号・・・。
私には色々と引っかかるものがあるが・・・、
とにかく先に進まねばならない・・・。
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身長が低い私でも、力比べなら負けない。椅子を片手に持って軽々優雅に運んでいく私・・・そんなイメージを持って椅子に手をかけた。
「ふんっ・・・むっ・・・」
仕方ないので押して歩くことにした。
私はレバーのある部屋に戻ってきた。出たときと同じ声が部屋の奥から聞こえてくる。
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「ふぅ、これで…届くかな。」
私は椅子の上に登って少し背伸びをした。
…
………あと少し、ほんの数センチ足りない。
今ほど自分の背丈の低さを恨めしいと思ったことはない。
例の声に笑われてる気さえしてしまう。
あぁ…足場は不安定だがジャンプをすれば届きそうだ。
――――さぁ、どうしよう?飛ぶか?
●
いつの間にこんな部屋に来たんだろうか。
気がつけば、国家認定陰陽師バージョンの母さんもいなくなってるし。
例の如く、服だけ残っていたので、きっちりとそれを回収しておいた。
「お腹すいたな…」
何処かに食べれそうな物は無いだろうか、と部屋の中を探してみることにした。
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今私にいるのは一握りの勇気。思えばいつも障害という名の壁を避けてきたように感じる。
「ふう・・・」
獣人から託された願いをもう一度思い返す。あの鋭利な瞳の奥に満ちていた・・・あれは悲しみと呼べばいいのだろうか。今こそ振り絞るべき。
そう、私は今大空に羽を伸ばす鳥になるのだ。
「えいっ!!・・・わあああああああ」
そんな心意気を嘲笑うかのように、椅子は無情にも倒れる。非常に痛い。だが・・・
「・・・開いた。」
小指がレバーにかかったらしい。ドアは重苦しい音を出して開いている。
その先に見えるのは、闇。
■
…
頭がぐわんぐわんしてきた。
先ほど椅子から落ちた時に頭を打ってしまったのか、
目の前に広がる闇に怖気づいたのかは私にも分からなかった、が。
「ふぅ…周りを照らせるものはない…かな?」
懐中電灯でも、蝋燭でも、…いやこの際太陽のような頭をしたおじさんでもいい。このままだと先に進めなさそうだ。
別に…暗いところが苦手な訳ではないが。むしろばっちこいだし。
と自分に言い訳しながら、私は辺りを見渡してみた。
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なにか明かりがないかと勉強部屋の机の引き出しをあさっていると、
ペンライトを発見した。明かりとしては少し心もとないが、ないよりはましだろう。
「AKB」と謎の文字が刻まれているが、これは何か、組織の名前だったりするのだろうか。
ともかく、私はペンライトの光を頼りに暗闇の中へと足を踏み出すことにした。
●
店員と世間話などをしつつ、注文の品が出てくるのを待つ。
もしやこの店員って、この孤児院で会った中では
はじめての普通の人・・・?
私は、山口出身だという彼女を感慨深い思いで見つめた。
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ふと、何か柔かいものを踏みつけたらしく、思わずびくりと飛びのいた。
足元へペンライトの灯りを当てると、薄汚れたぬいぐるみが転がっている。
ほ、っと安堵のため息をついて、
再び室内の探索を再開しようとした、その時――…
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「痛いなぁ。
もぉもぉ、人をふんづけておいてごめんなさいもないの?」
足元から子供のような声が聞こえてきた。
思わずびくっとしながら、声のしたほうをペンライトで照らす。
「そんなに驚くことないじゃない。
ぼくだよぼく、さっきあなたがふんづけたの!」
先ほどのぬいぐるみが、ひょっこり起き上がって私を見上げていた。
どうやら先ほどの声の主はこのぬいぐるみのようだ。
「ねー、ごめんなさいは?
『悪いことしたらごめんなさいっていうんだよ』って
おとーさんやおかーさんや先生に教わらなかったの?(ぷんすこ)」
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「いや…なんで人形がしゃべって…
えっ…いやいや…えーと…
…ご、ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
尋ねたいことはたくさんあったが、
可愛い声のぬいぐるみを刺激しないように
まずはとりあえず謝っておいた。
●
「はっ」
私は目を覚ました。こんなところにマク●ナルドがあるはずはない。
度重なる幻覚と疲労で、少し気を失っていたようだ。
そして自分の身の回りを確認したが、回収したはずの衣服が忽然と消えていた。
「あれは、全て幻だったのか?」
自然に言葉がこぼれた。そして起き上がろうとすると人の気配に気付く。
誰?
●
「ようやく目が覚めたね」「覚めたね」
あの時の双子のような少年と少女だった。
「ねぇ、今から面白いことがあるから、着いてきてよ」
私は寝ぼけた頭を覚ますために、ほっぺを両手で軽く叩き、後をついていった。
●
ついていく前に一言だけ言っておくことがあったので言っておこう。
「とりあえず何か食べさせて貰えないか。あとホットコーラのLサイズを一つ。」
●
「お、おいお前らちょっと待てって!」
先に進もうとする2人に声をかける
「私は寝すぎて腹が減っててな、何か食う所ないか?」
双子はお互いに顔を合わせると口を開いたのだった
●
「くすくす」
子供達はぞくっとする笑みを私に向けた。
「おなかがすいてるの?」「すいてるの?」
「一緒だね」
「でも私達は平気だよ」
「貴方は…一人だもんね」
くすくすと笑いながら子供達は歩いていく。
■
「怪我はないけどさぁ、綿とかでたらどうしてくれるわけー?謝って済むならケイサツいらない!」
ちょこんとその場に座り、腕を組んでぷんぷん怒っている。
よく見ると、うさぎのぬいぐるみのようだ。
「ええっと…あの、ごめん、なさい。
あの…あなた、なんですか?ぬいぐるみ…?」
あたふたしつつ何故ぬいぐるみが動いているのかと聴くと、ぬいぐるみは怪訝そうに、
「…なに?ぼくみたいなの、見たことないの?
あなた、招かれたんじゃないの?」
●
「ホットコーラなんて、そんな趣味の悪い飲み物ないよ」
「ないよねー」
そんな無邪気で残酷な会話を聞きながら、
私は彼らについて行った。
行き着いた先の重々しい観音開きの扉を、二人が同時に押し開く。
扉の隙間から出てくる空気は、ぞっとするほど冷たく禍々しい。
「これは…処刑台?」
罪人の処刑につかう、首吊り処刑台というのだろうか。
そんな恐ろしい代物がまず目に入った。
■
何かに招かれてここへやってきた記憶は無い。
ましてや、喋って動くぬいぐるみなんて、
今まで、様々な地を旅してきた私でも初めて目にするものだった。
私は、ここに至るまでの簡単な経緯を目の前のぬいぐるみ語った。
「ふぅん……。
てことは、招かれたことにすら気付かなかった、ってことォ?
あなた、相当グズなのね?
そんなんで今までよく旅なんてしてこれたねー。
感心しちゃうよ。」
■
「まあ、あなたなんてあいつらの罠にひっかかってむいぐるみにされるのがオチよ。
あいつらのことだから今度はぬいぐるみじゃなくて輪ゴムにされても知らないわよ。
そうなりたくなかったら今すぐココから出なさいな。
まあ、ここから出られたらの話だけれど…。」
どうやらこのぬいぐるみもまた…私と同じ・・・。
●
何故処刑台が・・・
いや、それよりも・・・あの処刑台・・・
私は違和感を感じ、処刑台を近くで見ようとした
だがそれは成しえなかった
処刑台に感じた違和感
それは処刑台が「赤かった」のだ
いや、赤いだけではない
今もなお
ぴちゃん、ぴちゃん
と音を立てて滴る赤い液体が、その処刑台の禍々しさに拍車をかけていたのだ・・・
私は腰を抜かしてしまった
●
「「どうしたの?」」
双子は同時に口を開いた。
「「あー。怖いよね」」
「私達も」「ぼく達も」
「「怖かったもん」」
「「でも」」
「どうしてかな?」「どうしてだろ?」
「「おなかがすいてただけなのに…」」
この子達は何を言っているんだ。
声で、目で。
まるで、私を責めるように。
私はへたり込んだまま、子供と、処刑台に交互に視線を泳がせていた。
■
君……は、もしかして、私の心配をしてくれている、のかい?
ウサギのぬいぐるみをそっと抱きかかえて、尋ねてみた。
「なっ……!?グズでノロマなあなたの心配なんか
するはずないでしょっ!?
ぼくはただ…」
「もう、“あんな風”になるのを見たくないだけ。」
●
「ところで」「お腹。」
「空いてるんでしょ」「空いてるんだよね」
ここが血に染まった処刑台の目の前でなければ
双子の笑顔は文句のつけようも無い程愛らしいと思ったに違いない。
くっと上がった口角に、発達した犬歯―というより牙と呼ぶのが相応しいだろうか―を見つけてしまうことも無かっただろう。
だが
白い皿の上に無造作に置かれた人間の手首らしき物体は、
どうあがいても見間違いようがなかった。
■
あんな風…とは?
興味深そうに私が聞くと彼女はいたずらげに答えた。
「ひみつよ、ひみつ…そう簡単には教えないわ。
私が教えて…あげられるのは…ひとつ。
このまま…突き当りまで進…むと扉が3つある…わ。
真ん中の扉には…近づかないで…いいわね。」
…
ぬいぐるみをなでていると、
心なしか彼女の動きが鈍くなっているように感じた。
…私の気のせいだったらいいが。
●
お、お前たちは一体何者なんだ!?
私は私の半分も生きていないであろう子供たちに怯えている
私をどうするつもりなんだ!?
未だ立ち上がれない私には、叫ぶことでしか己の矜持を保つことができなかったのだ
「私達?「ぼく達?」
「「別に何もしないよ?」」
「「だけど・・・」」
「「あなたはなんで床を舐めてるの?」」
「くすくす」 「くすくす」
「「くすくすくすくす」」
●
子供に言われてハッとした
私は無意識に床を・・・
いや床に滴る赤い液体をすすっていたのだ
私の口の周りや衣服は真っ赤に染まっている
ちょうどあの処刑台と同じ色をしていただろう
■
あんな風…?
それはどういうことだろうと、ぬいぐるみに聞こうとする。
と、それまでぷんぷん、と頭から湯気がたちそうな勢いで怒っていた
ぬいぐるみがしゅん、と力なくうなだれた。
よくよく気をつけてみれば、抱きかかえた小さな身体が小刻みに
震えている。
「…泣いて、いるのかい?」
私はぬいぐるみを抱き直すと、安心させるようにそっと頭を撫でた。
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「…………き、やす…く、触らないでよ、グズ…っ」
憎まれ口を叩きながらも、ぬいぐるみは涙を流すことなく泣いていた。
私は、頭を撫でる手を止めることなく、ぬいぐるみが落ちつくまでそうしていた。
……ところが、不意に、ぬいぐるみがピタリと動きを止めたかと思うと、
意思を持って動いていたソレは、
魂が抜けたかのようにくたりとモノへと成っていた。
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彼女は動かなくなってしまった。
私が何度も何度も何度も呼びかけても反応を返すことはなかった。
…つい数十秒前まで彼女は私とお話していたのに。
彼女の素の部分を見ることができた気がしたのに。
…
…
でも彼女は動かなくなってしまった。
あぁ…あの時感じた不安が現実になってしまったんだ。
私はしばらくその場に立ち尽くしたあと、
左手にぬいぐるみを右手にペンライトを装備して、
彼女が言っていた突き当たりの扉まで再び歩いてみることにした。
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「…ぬいぐるみ、さん…?なんで…」
『くすくす…知らなかったぁ、ひとらしい人の心ってうさぎにも残るんだね、ふふ…そうと知ってたらもっともっと遊んであげたのに…』
笑い混じりの囁きが聞こえ、瞬時にライトを部屋の奥に向けると、光に照らされ、俯いて笑いを噛み殺す少年の姿が見えた気がした。
そして目があった瞬間、口が裂けたかのように歪に笑うと、私がなにか言う前に少年の姿はかき消えた。
私の腕の中で、物と化したぬいぐるみの耳がだらりと垂れた。私は部屋にひとりだった。
●
私は何を…
慌てて口を拭うと、手にはべっとりと赤い液体がついていて。
先ほどまでは感じなかった鉄の味が口の中に広がって。
子供達の嫌な笑い声が耳の中に広がって。
恐怖と混乱が頭の中に広がって。
私はその場から一目散に逃げ出した。
笑い声が小さくなって遠くなって消えた時、私は近くの壁に寄りかかって座り込んだ。
汗か血か分からないがベトベトの顔を袖で拭って、息を整えながら。私は少しずつ冷静さを取り戻していた。
私は何をしていたのか。何をしたらいいのか。どうすればいいのか。
今までも様々な危険な目にあってきた。それでも私はそれを潜り抜けて、今ここに座っている。
どうにか出来ない事は…無い筈だ。
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私はおもむろにその魂の抜けたぬいぐるみを抱えて更に奥に進んだ。
せめてぬいぐるみだけでも救ってやりたいという義憤からだったのだろうか・・・。
そして私の目の前に、
左:青い扉、真ん中:黄色い扉、右:赤い扉
の三つの扉が立ちはだかった。
しかもよく見ると赤い扉だけ上にたらいが仕掛けられている・・・。
さらにそれぞれの扉にはまた紙が貼られていた。
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青い扉には
『こちらが正解の扉です。』
黄色い扉には
『この先危険!近寄るな。』
赤い扉には
『この扉を開くとたらいが落ちます。』
と書かれている。
あからさまである。
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ぬいぐるみの言葉を思い出す。
『真ん中の扉には近づかないで』
…根拠は無い。けれど、あの子の言葉は信用できるものだと、そう、私は思っていた。
逡巡の末、私は、赤い扉に手をかけた。
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私は考える。相手、すなわち「招待者」は幾人もの人間を人形に変えるほどの力の持ち主なのだ。頭脳も相当切れるに違いないのではないだろうか。
黄色の扉はウサギのぬいぐるみが忠告してくれたこともあるから近づかないほうが賢明そうだ。だが、赤い扉はどうだろうか。こんな張り紙をみたら誰でも入りたくなくなる、それこそが罠ではないだろうか。
「ふふ・・・小賢しい。私がこんなトリックに騙されると思いますか?」
私は微笑みながら赤い扉を開ける。
タライが落ちてきた。
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そう、ぬいぐるみの言葉、相手の思惑を探る智略、そういったものに考えを巡らせていた私は、すっかりとタライのことを忘れていた。
ガァーン、カァーン、カーン、カー…
タライは見事私の頭に命中し、ものすごい反響音をたてた。
目の前に色とりどりの星が散り、くらくらっときた私は、よろめいて2、3歩進む。
そこはもう、赤い扉の部屋の中だった。
なんだ私は、これじゃまるでバカみたいじゃないか…と思いつつ頭をさすり、顔をあげた私は思わぬ光景に息を飲んだ。
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ピカピカと星が飛ぶ視界の中に映ったのは…
壁、床、天井、
一面に赤いクレヨンで文字が書かれた室内だった。
思い切りぶつけた頭も一気に覚めていくのが感じられた。
あっけに取られていると、背後でバタン、と
扉の閉まる音が聞こえ、はっと振り返って
ドアをガチャガチャ必死に弄っても、もうビクともしなかった。
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私は間違った道を進んでしまったのだろうか。既に後悔し始めた私は、足元に小型のモニターがあるのを発見した。
ボタンが一つだけあり、「PLAY」と書かれている。何かいやな予感がした。
怖々と押してみる。すると画面が急に一面真っ赤になり、思わず投げ飛ばしてしまった。
流れる声はぬいぐるみが動かなくなった直後に聞いたものと同じだ。
「くすくす・・・ボクとゲームしよう?」
「ルールは簡単。この部屋から脱出するだけ。」
「ちゃんと、脱出できるようになってるよ?そうじゃなきゃ面白くないもん」
「色んな罠が仕掛けてるから気をつけてね?ま、気をつけても避けられないだろうけど。くすくす」
頭が真っ白になる。
「後、さっき青い部屋選んでたらどうなってたか見せてあげるね?」
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モニターが青く切り替わる。おそらくこれが青い扉の部屋なのだろう。
モニターカメラの視点は、ちょうどその部屋に入ってきた人間視点で、
扉を背に、何も無い向こう側と左右の壁が見える。
一見すると何も無い、シンプルな青い部屋だ。
カメラはゆっくりと前に進み、部屋の中央辺りまで来たかと思うと、
ふっ、と視界が暗くなり
どちゃり。鈍い音がして、モニターの映像は真っ赤に戻った。
「……これがどういう意味なのかは自分で考えるんだね。
くす、さあ、制限時間は無限大だよ。でも、ぼやぼやしてると…
――あっという間にゲームオーバーさ。」
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