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あと軽いのを一発受ければ……八十パーセント程度の出力なら。
[熱線を軽減していなければ十分だったかもしれないが、肉を超えて骨をえぐった可能性も否定できなかった]
──……アァ アッ!
[パイロット席のフィリップは前を向いているだろう。
彼に、ささえられているのが、分かる。
二人は同じ方向を見て、居る。
今は、眼差しをかわさずとも、触れずとも、一つだ。]
[螺旋を描く連続した波動が、闇色に染まるラミアの双肩から、まるで波紋を押し広げるように、放たれる。
ヴォルバドスに向けて──ではあるが、射程範囲内にあるのなら、コンゴウ、シグ編隊の残りも巻き込むように。]
もう一発か、ちと食らいたくないな。
得体知れない相手だ、被弾は出来る限り避けたい。
よし、溜まったエネルギーを少しだけ鉄塊に回してくれ!!
[イメージするのは居合い抜きでの横一文字。
終焉とラミアを射線に捉えるようにイメージを放つ]
ッ……。
こうなったら……!
[拳を、強く握る。
残る武器はこの両の腕と我が身から猛り噴出す炎。
ならばそれを振るうのみ。
敵から放たれる波動。それを視認しつつも
更に前へと突進をしながら、その拳を繰り出す。]
[《生ける金属/ヴァン・メタル》に蓄積されていた怒りが、《コンゴウ》のもう一つの動力「怒号反応炉」へと送られ、そして無骨な剣へ注入される。
周りを覆う闇に溶け込みかけていた大剣が光を帯び、その存在を明らかにした。
重々しくひねる腰、引き絞られる両腕。翼が巨体を運び、二体の機神と再臨した悪魔が直列を為す。
そして、抜きはなった。
その剣身は届くはずもない。けれどもそれは撃鉄。込められた怒りが斬撃波となって斜線の全てを切り裂かんとする。星よ、怒りは何をもたらすか]
[熱い。
部下たちは皆無事に逃げおおせただろうか。
…いや、無理だろう。
どれだけ生き残っているのか。
しかも、テラフォーミングが確実に進行している…。]
くる、しい。
[戦い。
相容れない者同士の。
私には何もできない。
結果を受け止めるだけ。]
うわぁぁぁぁぁ!!
[斬撃波が敵に届くと同時に螺旋の波動。
コクピットが激しく揺れるほどの衝撃の中にコンゴウは存在した]
だけど、これで!!
いけるなよな、キャスリーン!!
[結果としてダメージは大きい。
だけど、必殺の一撃を放てる状況にはなったはず]
[腕から流れ込む、リルの涙の感触。
席から立ち、リルのほうを振り返り、腕を伸ばして頬に手を添える。
口の中に鉄の味が広がっている。どこか出血しているらしい]
どうした、リル。僕はここにいるよ。
ええ。頼んでもいない量をご馳走になって、少々お腹がもたれましたけれど。
[被害状況を丹念に調べていく。その横できらめくサイン。力が満ちきった証]
ああ、思い上がったリルに一撃をかますぞ。
あとはタイミングだけだ。
いつでも、ブースト全開できるようにだけ、準備を頼むぜ。
[相手を妥当する一撃は用意した。
あとは当てるタイミングを計るだけだ]
[魂の震えに呼応するよう、ラミアの胸部──真紅だけが闇の中で輝きを増す。
ラミアから放たれる弾幕は尽きる事が無い。
双肩、両手、その五指、あるいは全身を包む 巨大な円環が。
だが、ヴォルバドスは近付いて 来る。
爆炎に包まれて見えない、おそらくコンゴウからの斬撃波が的確にラミアのボディを撃つ。]
──フィル。
こわいの。
一緒に居る事の幸福を感じるほどに、
別れがこわいの。
[コックピットが激しく揺れた。
インターフェイスが感知し得る機体の損傷度から、全身がバラバラになるような痛みが襲い来るはず。だが、すでにそれをあまり感じない。]
承知しました。行きすぎて外さないでくださいね。
[鉱血融合炉の出力を翼へ送る。そして怒号反応炉から「大砲」への安全弁を解除]
僕だって怖い。
失うのも怖いし、君を残していくのも怖い。
[身を乗り出し、リルのすぐ隣へと身を移して肩を抱く]
でも、この一瞬一瞬が、永遠に感じる。
リルを失って生きる時間よりも、リルに出会うまでの時間よりも。
今この時が、たまらなく愛しい。
[肩を抱く手に力が篭る]
・・・・・・これから先も、ずっと二人でいたい。
[コンゴウの斬撃波に何処かが吹き飛ばされた。
ギルゲインがテラフォーミングが終えるまで、戦わなくてはならない。
敵を一体でも多く倒さなくてはならない。
ラミアの機体は動く。
間合いを詰める、ヴォルバドスと腕と腕を組んでのつかみ合いになる。
イステとヴォルバドスの接続がどうなっているか(接続が深い程インターフェイスが損傷を受ける事は共通項としても)、考える事無く。
手首を握りつぶし、
腕ごともぎ取ろうとする、
獣のように。
無──永遠の別れ 死に近付きつつあるラミアの咆哮は、リルの悲鳴のような声に似る。]
すまねぇが―――、
是以上攻撃喰らってやるわけにはいかねぇんだよ……ッ。
[襲い繰る多重の弾幕。
だがそれを最小限の被弾で抑えながら前へと出る。
もはや距離は詰めた。
組み合う腕の一本を振り払えば、上半身を捻り振りかぶる]
喰らい……やがれぇぇぇぇぇ!!!!!
.
[コードを再生していく。
邪魔な抗体は「ラミア」と戦っている。
心が乱れる。
ああ。
いらない。
いらない。
いらない、いらないいらないいらない]
[ヴォルバドスの片腕を強く握りしめたまま、ラミアは──吹き飛ぶ。
焔に灼かれ──損傷した機体から破片が、真紅の体液に似た液体が飛び散る。ラミアの背が不自然な方向に捩じれて、波打つように、しなる。
空中からの急激な落下。
今、何者かがラミアを狙い撃つならば──格好の標的。]
[妨げる空気の壁。突き破る重装歩兵。愚直なまでに直線を進んだ先に、落下する黒の機神。そして砲身が伸ばされ、掌の砲口がラミアを捉える。
《超最強吸収破壊砲/ドメイン》は、放たれた]
[視界が、世界と接続した無数のエネルギーコードに溶け出すように、滲んでかすむ。涙に濡れて揺れる真紅の双眸は、すぐ隣にいるフィリップの姿を捉えようと、睨んだように歪む。
フィリップが、触れている。
フィリップに、肩を抱かれている。
──その感覚が薄れて行く事に、いい知れぬ恐怖を覚えながら。
両腕をのばして、フィリップにしがみつく。]
……ずっと 二人で、
[息を零して頷くと。
ラミアがこの【青い】【星】の世界と繋いでいたコードが、自然に解除されていくのが分かった。]
[とうに、ヴォルバドスとは離れている。
ラミアの腕は何も掴んでは居ない。
コンゴウから放たれた破壊砲の閃光が──ラミアの無の闇色を塗りつぶすように覆う。]
[唇をそっと離し、リルの耳元で囁く]
僕の記憶も、そして人生も。
全てが幻だったみたいだ。
でも、僕は不幸じゃない。
だって、
君と最後の瞬間を、こうやって一緒にいられるのだから。
何も知らず、何も気づかないでいれば苦しい思いをせずに済んだのかもしれない。そう何度も思った。
でも、やっぱり知ってよかった。
君と僕は、出会う運命だったんじゃない。
出会ったんだ。
お互いに望んで出会ったんだ。
順序なんて関係ない。
僕は、僕の居場所をやっと手に入れた。君の腕の中という、居場所を。
こんなに幸せなことは無い。
[ラミア……、
貌を無くした機神が炎と衝撃の渦へと消える。
それを見届ければ意を決したように、
厳しい顔をして後ろへと振り返った。
そこには、同期の影響により傷付いた姿のイステが居ただろうか。
仕方が無かったとはいえ、敵の攻撃の中に身を投じる事になってしまった。
その代償は、やはり大きい。]
―――……一度、戻るぞ。
[その言葉に対して、イステは何か言っただろうか。
例え反対したとしても押し切る結果となっただろう。
どちらにせよ、この様な状態では終焉と闘えない。
ヴォルバドスも、イステも……自分自身も。]
[もはや、周囲には大量に居たHMも
数は殆ど残っていなかった。
青黒の機神は、戦う者の少なくなった戦場を後にして
かつて自分の部屋があった場所へと飛び去っていった*]
[コードを伸ばす。
うねり、周囲の破壊された機器を、人間を、突き刺し、包み、飲み込んでいく。エネルギーへと転化するためだ。]
ふ。ふふ。
あはは…
[けたけた]
[耳元で伝えられるフィリップの言葉に、ただ頷く。]
胸が、熱い。
[抱きしめ返す腕を強くする。震えている。
幸せだと、フィリップの傍以外に居場所などないと、伝えたいけれど。言葉が上手く出て来なかった。]
──フィル
フィリップ。
愛してるわ。
[ただ、壊れたように同じ言葉を繰り返しただけ。]
リル、僕も君の事を愛して・・・・・・
[刹那。フィリップの額が突然裂け、血が噴出す。
ラミアを支え続けた代償。そしてダメージのフィードバック。
上体は跳ね、スローモーションのように、後ろに倒れていく。
それと同時に、ラミアのコクピットが爆煙で満たされる]
……大丈夫。
私も、すごく
幸せ、
だか、ら──…ッ
[最後の記憶は、後方へ倒れるフィリップを感覚のない両腕で、掻き抱こうとした事。手足がもつれ、爆煙で視界が奪われる中──鮮血の色だけが鮮やかに。]
[もう視界が失われている。
それでも、リルのいるほうへと笑顔を見せ、その手を握りたいと虚空へと手を伸ばし。
フィリップの意識は、闇の中へと落ちて行った**]
[夜の【青い】【星】に──光の海が広がる。
ラミアの甲殻は砕けて闇に吸い込まれるように四散する。
真っ白に融かされて、後は、何も見えない**。 ]
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