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―カジノ―
[セシリアを仕留めて意気揚々と引き上げるナサニエルを睨み、忌々しそうに舌打ちをする。
熱で硬化した蛇革のジャケットが、動くたびにパリパリと音を立て、表面が剥がれ落ちる。
袖口から覗く手は赤く水脹れを起こしていた。]
[やがて、炎と煙に狭まった視界の中から、紫の髪を見つけ出す。
背後から忍び寄り、しっかりと握ったナイフで静かに喉をひと突きした。
温かな血が指を濡らす。
肉を割く感触。
自分が人を殺したと言う確かな実感。
銃を握る時と違い、その指に震えは無い。]
あんたに恨みがある訳じゃないが、あんたがいると、俺が生き残るのは絶望的だからな。
[首だけのそれは、ゴム人形のようにも見えた。]
紫の、髪……オバサンか……?
[自分が生きていることに安堵しつつも、小さく舌打ちする。
そのまま暫く黙って考え込むと、こちらへと近づいてくる女の姿に気づいて軽く手を上げた。]
おう、嘘つきのねーちゃん。
役に立てなくてすまなかったな。
ま、俺に取ってはどちらでも良いんだが。
[言って、にやりと笑うと顎を撫でる。]
そろそろ、本当のことを言っても損は無いと思うぜ。
あんたの協力がありゃゲームは今日で終わる筈だ。
うーむ。どこがまずかったのか……。
儂は特製銃弾を作り直して来る。
うーむ……。
[老人は唸りながら*部屋に戻って行った。*]
ああ、でもそうだな。
殺すのがあんたで良かったと思ってる。
あんたを殺すのには、意味があるから。
ただ血を見たいんじゃなくて、誰でも良いんじゃなくて、あの男をどう引っ張るか分からないあんたを、殺したかったんだ。
[まるで生者にするように語りかけながら、その遺体を引き倉庫に隠した。]
/*
ええと、これから首切るの!?
切るのー?
スタッフに切らせちゃ駄目かいな……。
メモでだけ言って、ログには無しとかでも良いか…。
ごめんなさい。
[突如モニターが付いて、大写しになったのは首だけとなったジェーンの死体。
どうやらそこは廊下を出た先のバルコニーのようで、外の景色が一部見える。
モニター画面を見詰める男は、片目を細めたが無言。]
[戻ってくると、ケネスに声をかけられ]
あー、そうねぇ。どうも私、御主人に裏切られたっぽいし。
[両手を上にあげ、ひらひらと振る]
こーさんよ、こーさん。ナサニエルの言うとおり、セシリアがギャングスターで間違いないわ。それともう一つ。
こーして裏切られた以上、私にゃもうギャングスターに尽くす義理も何もないワケ。残り一人の名前教えるし、処刑にも協力するわ。だから私処刑は勘弁、ね。
や、爺さん、たとえギルバートが嘘をついたとしても、カミーラさえこちらに協力してくれりゃ終わるんだ。おそらく。
あのレスラーみたいなにーちゃんの言うことに対抗する奴がいなけりゃ、とか、まだいくつかの不確定要素はあるがな。
つうか、じーさんの発言の感じから、居ないと思う。
[言って、ちらりとベンを見た。]
[にやりと笑って、カミーラに手を挙げる。]
話が早いな。
俺だって日にちを引き延ばして殺される率を上げるのはごめんだ。
あんたが教えてくれりゃ、そいつを処刑するよ。
[カミーラに向け、にやりと笑った頬が、ギルバートの視線に硬くなる。
振り返った彼の背後、モニタに大写しになっているのはジェーンの死体。
彼女の死に、彼はどんな目をしたのだろう。その感情を探るように視線を交わした。]
[男の瞳に飲まれたように沈黙する。
異様なほど澄んだ所為で、色がなくなったようにさえ見える瞳の奥、色を探そうとするようにじっと見た。
そうだ、自分はその先が見たいのだ。]
[男の薄い琥珀色の眼には、見詰めるケネス自身が映っている。
鏡像の視線は合わせ鏡となって、逆にケネスの瞳の奥にあるものを探り出そうとするかのように射抜いた。]
カミーラが素直にギャングを売るとは限らないのよね。
あたしが地上にいたら、ここでカミーラ信じてもな、と思いつつ。
ギルバートがケネス告発したら「単にあんたが殺したいだけなんじゃ」とツッコミ入れていたであろう、と思うわ。
筋肉坊主が果たして本当のことを言ってンのかは微妙だが、少なくとも、黒髪の姉ちゃんよりかは嘘くさくは見えないね。
「ご主人様に裏切られちゃった」に「残り1人の名前を言う」……ねぇ。もっともらしい言葉だが、俺らはお前さんを信用すべきなのかい?
なぁ、姉ちゃんよ。
結局、お前さんが何を考えているのか、分からないままだったな。
[見つめ返してくる視線、獣の瞳の奥に自分が映る。]
カミーラが名前を言えば、俺はそいつを殺す。
それでゲーム終了だ。
[見つめ返す目に、にやりと笑った。
鏡に映る笑みはどこか残念そうで。
ああ、そうだ自分はこのゲームを楽しんでいたのだと気づかされる。
人を殺すゲームを、いつの間にか。
色の無い瞳の奥、獣の笑みが見えた。]
[ベンに向き直り]
ごもっともな意見ね。
でも・・・私がギャングなら私自身の手で破綻させたのはおかしくないかしら?もちろん、それを狙ったという可能性もあるけど。それにしたって回りくどくない?
ま、私処刑でも構わないわよ。だったら私はギャングの名前は教えないし、襲撃死者は余計に出るでしょうね。
もし姉ちゃんがブラック・オペレーターならば、お前さんは今日、そこのモニタに映っているジェーンに代わって、ああなっていた可能性も捨てきれん。
だいたい、今日お前さんが「偽者のギャングスター」を指名して、そいつを皆で正直に「誤って」ぶち殺したらどうなるだろうナ?
ガードマンの護衛が失敗すりゃァ、明日はギャングスター側が2人、普通の参加者が2人……そうなりゃあとは、バトルロイヤルのお時間とくらァ。
お前さんは、今日さえキチンと生き残ることができりゃァ、まだ「ギャングスター側」として勝負を捨てる必要は無いんだよ。
……違うかい?
/*
落ち着いて、視点を整理しよう。
ブレている為にギルに迷惑をかけている模様。
ケネス的には今日終わっても良いと思っている。
でも、このゲームが終わるのは勿体ないが、求めているのは生き残ることではなく……なんだ?←このへん詰める。
知りたいのはただ、ギルバートの結論。
[男は急に興味をなくしたようにケネスから顔を背けて歩き出した。
何を思ってか、ずかずかとレストランの厨房に入っていった。]
……うんにゃ。そうでもねぇな。
姉ちゃんがブラック・オペレーターの場合は、ギャングスターがお前さんをあえて生き残らせて、「駒」を確保する方法だってあるだろう。
さっきも言った通り、ギャングスター陣営が2人とも今日を生き延びたら、明日に2対2のバトルロイヤルに持ち込むことも可能なのサ。
もちろん、姉ちゃんが今日を凌ぐためのスケープ・ゴートにされちまってる可能性もあるンだが。
もしくは、昨日の議論の時点じゃァ、姉ちゃんや獣の兄ちゃんに護衛がついてる可能性があるから、確実に人数を減らすために、お前さんを「偽者」確定としてジェーンを襲った可能性があらァな。
それから。
姉ちゃんがギャングスターだという可能性も無きにしもあらず、だ。その場合は、夜襲じゃー死なないのは当然だな。ブラック・オペレーターがどこに居るのかだけは謎のままだが、捨て去るべきシナリオではない。
[暫くして戻ってきた男の左腕は、水滴が滴るほどぐっしょりと濡れていた。どうやら火傷を冷やしていたらしい。
右手にはウィスキーの壜を持っていた。]
ベン、カミーラがブラックオペレーターなら、今日は俺たちについた方が得だと思うんだが。
賞金は確かに多い方が良いがな、その為にはあともう一回命を危うくすることになる。
ああ、ギャングの襲撃と、その後の殺し合いで二度か?
それは、どうなんだろうな。
襲撃上等で最初口を噤んでいたギルバートならともかく、カミーラは違うと思うぞ。
で、カミーラがギャングの場合は俺くらいしかブラックオペレーター候補が居ないと思うんだ。
俺視点でカミーラギャングは無いな。
そんな訳で、俺はカミーラの言葉は割と信じるつもりなんだが……まだ名を明かす気はないのか?
―レストラン―
[男はレストランの椅子のひとつにどっかりと座り込む。
椅子の背に身体を預けて足を組むと、深く考え込むような顔をして、沈黙を保ち続けた。]
のんだくれ ケネスは、ビタ押し カミーラ を投票先に選びました。
本当に姉ちゃんの命が「今日」危険に晒されているならば……な。それなら、信用する可能性も無きにしもあらずだが。
だが、姉ちゃんがブラック・オペレーターならば、ギャングスターは今日、あいつを「夜襲」して殺すか?と考えると、そいつはちっとばかし考えにくい。
あの姉ちゃんがブラック・オペレーターならば、今日の「私刑」さえ逃れられれば、「好きな方」の陣営に居られるんだぜ。
……まァ、話を聞くのは悪くないが、「信用できるかどうかは不明」ってとこかな。考える材料には、なる。
もちろん、姉ちゃんがギャングスターを裏切りたいンなら、それはそれで「ありうる選択肢」だとは思うけれどもな。
んっとさ、ベンさん。
ぶっちゃけ私さ、これでも結構頭にきてるんだ。
ギャングスターにゃ私を切り捨てる以外にも選択肢あったんだしさ。可愛さ余って憎さ100倍ってね。もう従う気も失せた。
・・・どころか、明確な殺意さえ感じてるわよ。
俺としちゃァ……アレかな。
姉ちゃんの話は、聞く価値はあるとは思ってる。
だが、そのまま鵜呑みにすべきだとは思っていない。検討の余地アリ、というヤツだ。
――…ま、姉ちゃんの心情はお察しするわな。
お前さんがギャングスターを殺してやりたいっつーのも、考えられる話ではある。
あぁ、そうそう。私は巨漢の彼とは違うわ。
とりあえず話を聞いてくれるなら情報は開示する。
話も聞かずに私処刑を決め付けるなら・・・仕方ない。
情報は墓まで持っていくわ。聞くだけならタダだし、悪くない話だと思う。皆で検討してね。
なるほどな。
ギャングにとっては重要な駒ってことか。
そう考えると、話す気がないなら今日あんたを殺しちまうのも悪か無いな。
[カミーラを見てにやりと笑った。]
俺は、あんたが話すなら聞くよ。
何であんたはあの娘を見捨てなかった…?
[その顔には何の感情も窺えない。だが、声が尋ねていた。
男はその人物――ケネスに問うた。]
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