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― 北部・魔王城 ―
[魔王とフリッツの戦いが始まればエンフェルケスーカの渡り人は静かにその戦いを見ていた。
魔王が危うくなれば止めに入るであろう。
しかしながらフリッツの使う力の源が魔王の其れであれば、
魔王の力で魔王が傷つく道理はないのだ。
故に"ナジ"は紫色の外套の下で愛用のナイフを弄びながら魔将の生まれるその時を待っていた]
魔王 ケテルが「時間を進める」を選択しました。
魔王 ケテルは、おまかせ を能力(襲う)の対象に選びました。
― 北部・魔王城・城門前 ―
[フリッツを渡し終えた後に身体を休めていた異形の生物は声を挙げることもなく立ち上がった。
毒の沼の水をベースに創られた生物は静かに沼に入ると再び対岸を目指して移動を始める。
彼の生物が主であるエンフェルケスーカの渡り人から与えられた使命は、毒沼の踏破を望む者を運んでやるということだった。
然しながら備え付けられた鞍は一つであり、
一人しか乗ることはできない。
二人以上乗ったとしても途中で一人になるよう篩掛けられることだろう。
対岸までたどり着けばまた異形の生物は静かに惰眠を貪り始めるのであった*]
[少女の瞼が下りる。
まだ呼吸は続いているけれど、傷を癒すことが出来なければ、それもいつまで持つか。
先に、と口にした少女の言葉をはっきりと否定して]
この、剣で……。これだけで効果があるのか、わからないけど……。
[光の剣を鞘ごと少女に抱くような形で乗せる。
光の剣が持つ癒しの力が、どのような形で発動するのかはわからない。
せめて魔力の足しになればと思うが、剣として振るうことが条件であるならこの行為は全くの無意味となるだろう]
僕は、あいつを倒さないと。
[ダリアとアイスを置いて逃げる気は毛頭なく、魔剣が荷物の中にあったなら迷いなく手に取り、牛に似た魔物と向かい合う*]
[魔物に向かって剣を構える少年。
二人を見守っていた苔色の竜は、再び唸り声を鳴らす。
視線は一度だけ、光の剣を抱いた少女に向けて。
――岩場を震わす雄叫びを上げた。
怒りではなく。嘆きではなく。鼓舞するように。
吐き出されるは咆哮。
炎熱を帯びたそれは、牛型の魔物に向けて放射された。
肉の焼ける臭い。
人のそれとは異なる、瘴気に満ちた腐乱の臭気。
断末魔はまるで、泣き叫ぶ赤子のようなそれだった。]
[大地ごと焼く炎の灯に照らされながら竜は少年を見下ろす。
そして、傍らの少女を鼻先でつついた。
竜とて。少女と同じように、耐性の無きもの。
魔の地に蔓延る瘴気の中を飛び続ければ、無事では済まない。
呪いは身体を蝕み、毒の気は自由を侵し、――やがて絶命する。
恐らく。魔王城の周辺に蔓延る毒の沼地までに、天命を迎えるだろう。
それでも。
苔色の竜は、長く少女を見守り続けた瞳にて、少年に語る。
――乗れ、と。
人間の言葉ではない短い唸り声を、鳴らした。*]
だめ、もういいんだ……これ以上は……。
[彼にこれ以上奥地へ進ませれば、遠からず力尽きてしまう。
その無理をしてくれとは、どうしても言えず]
[――けれど、傍らの少女をつつく仕草に、言葉は交わせずとも彼の思いの幾らかは伝わった。
意を決したように、少年は頷く]
うん……。ありがとう。
[ここまで来た覚悟を無下にされるより、死地とわかっていても進むことを、きっと自分だって選ぶだろうと思ったから。
竜の背に、可能ならばダリアを抱きかかえるようにして、乗り込む]
――行こう、アイス。
[絞り出すような声を、傷付いた竜へ掛けた*]
― 北部・魔王城、地下から地上へ ―
[カツ、カツ、カツ、バサッバサッ。
軽く跳びながら、階段を登っていく。
鷹揚な足並みに迷いはない。
ただ地上を目指して進んでいく。]
クエーッ
[時折鳴き声をあげながらのんびりと進む様は、
奇妙の一言に尽きるだろう。
やがて何かに気付き顔をあげる。]
クエッ?
[澱んだ身体に馴染む空気の中、
奇妙に動くなにかに首を傾げる。
しばし後、翼を羽ばたかせて飛び立った。*]
/*
ダ、ダート君!
女神陣営になったからって、なったからって…!
あの恐ろしく下克上ばっちこいの暗黒死喰い人の面影は何処に行ったのだい。(机ばーん)
― 北部 魔王城 ―
[闇の中を、寒々しい空気を纏った無数の光が舞う。
幾重にも幾重にも、中空を踊り遊ぶように。
遠のく意識の中、嗚呼、綺麗だなと、何故か泣きたくなる]
――――――――…ははッ!
[魔王の語る言葉に、再度歪な笑みを浮かべると。
弾丸の如く降り注ぐ光に構えるよう、
闇は一層昏さを増して。
照らされ、打ち消され、霧散して。
奇怪な悲鳴のような怨嗟の声を轟かせつつも。
それでも醜くしつこく抗うように、次々と這い出づる闇]
[悲鳴と重なるようにして、高音が響く。
七つの球体が出現した頃には、
玉座の間の中程より駆け出していた。
一つ目の槍が足元近くの床を爆破する。
闇をも焦がしそうな高熱と熱風紫電が巻き起こる。
抗するようにどろりと伸び出てきたのは黒い腕。
ただ、行うのは最低限の直進路の確保。
駆け抜ける速度、その勢いを殺さぬための介助のみ。
僅かでも、最後の一撃へ力を蓄えるように。
肌が焦げ焼かれていくのはそのままに。
息を吸うだけで、肺が燃え尽きてしまいそうに熱い。
最早、其処には殺意の執念しかなく―――]
[―――選択の愚かさ、というが]
[もはや自分がどのような存在だったのか。
彼方に置き忘れ、分からなくなってしまって久しい。
ただ、呪いに縛られて。
仲間と呼べるような相手も、失って。
繋ぎ止めていたものすら、なにも無くなって。
魔王を斃せ、魔王を斃せと。
急き立てる声に、ひたすらに突き動かされて。
何処に選択の余地があったのだろう。
魔王の力を取り込んだとき?
仕える主人を決めたとき?
ロワール村でかつての仇と出会ったとき?
…それとも、遠い昔に、あの港町で]
[男は玉座に佇む魔王へと、真っ直ぐに斬りかかる。
懐に飛び込み、その剣の軌道は相手の胸を貫くように。
流れるような、優美華麗とも思えるような動きで、
魔王は武器を抜いて男へ刃を向ける。
大上段からの重い一撃。
どうせ避けられぬ、避ける心算も無い。
さて、振り下ろされる刃に対して更に踏み込んだ脚は、
果たしてどこまで魔王に近づくことが出来たのか。
差し向けた刃は相手の身体を傷つけること叶ったのか。
いずれにせよ、限界を迎えた剣は。そのまま、折れた。
そして、少なくとも。
少なくとも、此方は無事では済まない。
一太刀をまともに左肩にあびて、
小さく呻き声を零しながら崩れ落ちる]
[床に膝付きながら、男はゆらりと魔王を見上げた。
さぞや己は滑稽で醜く見えるだろう]
…………俺は愚かだが。後悔はしない。
[もう碌に体は動かぬが、
それでも這うように相手へ輪郭の揺らぐ指先を伸ばし]
貴様がどういう存在なのかは。
此処まで、来たんだ。何となくは分かるさ。
[強がりとも、狂人の戯事とも、好きに取れば良い。
吐き出すように震える声の色、未だ、滲む殺意*]
[瘴気の中。少年と、少女を乗せて竜は飛ぶ。
――どこまでも続く不毛の大地。渦巻く呪詛。
空を眺めど煙のような暗雲が立ち込めるばかり。
眼下を望めど、人の大地にあった生命の息吹は欠片もなく。
それでも、蠢く者達が見え隠れするのは、不毛とされる大地に於いても生きる魔の者達がいるという証左か。
荒野ばかりではなく、地形を利用した魔物達の集落も見える。
中には、飛行するこちらを撃ち落そうと魔法のようなものを飛ばしてきた者もいたか。飛翔する力を持つ魔物に襲撃されることも、あったかもしれない。
だが、瘴気に蝕まれ、以前の力を失い、二人もの人間を乗せている竜に、回避することも、攻撃を返すこともできず。
攻撃される度に、ただただ鱗は剥がれ、血が滴り。
――これまで飛行してきた距離を想えば、あまりに短く。
そして最期となる竜の羽ばたきは。
毒の沼地の近く。
枯れた暗き森>>0:18に差し掛かった辺りで、終わりを迎えた。]
[半ば堕ちるように。
羽ばたきは力を失い、地へと降りた。
もはは呻き声すらもなく。
地に首を横たわらせた竜は、ゆっくりと瞼を瞑る。
そのまま、二度と動くことはなかった。*]
[瘴気の中、ダリアを抱えるようにして、アイスの背へしがみつく。
呪詛は竜の上の二人をも蝕むが、アイスの思いを無にせぬために、飛行のペースは彼に任せることとなるだろう。
剣の力は僅かには身を護ったかもしれないが、絶え間なく肌に触れ呼吸のたび肺へ侵入するそれを防ぎ切ることは不可能だろう。
意識を保つため交わす言葉も、次第に意味のまとまらぬものとなる]
……また、襲撃が。
[魔法や飛翔する魔物による攻撃があれば、剣で弾けるものならば弾くだろう。
しかし多くはそれも叶わず、回避も反撃も出来ない竜の体を傷付けていく]
[そして、眼下に枯れた森と、毒の沼が見えてきた時>>36]
お前に仲間がいれば。
[言いかけ止まろう。
仮定は無意味であり仲間の有無で計れるものではない。
魔王というのはそういうものであり、不毛の大地と毒の沼地を踏破するというのは、そういう事だ。]
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