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アルバート!
[思わず、その背に声をかける。
彼は立ち止まっただろうか。いいや、立ち止まっていなくても、エイダンは大きな声でこう叫ぶ。]
頑張れよ!!
[ニッと、歯を見せて笑えば、団長の元へ行くアルバートを見送った。
そして、次は自分の番だ、と気合を入れ直す。決意を団長に告に行く前に、少しだけ風に当たりたかった。
決意を揺るがさないように、最後に自分自身を納得させられるように。もう一度だけ、自分を見つめ直す為に。
そっと、その場を離れ、砦の外へと繰り出した。
ヒルダがその後をついてきたのは、また別のお話。]*
/*
─────憧れていた背中は呆気なく崩れ落ちた。
次に、アルベルト・グランが死んだ。
アーロンの降伏を耳にした。
ヴァイルが死んだ。
レイヴが帰順した。
レベッカが地に伏した。
ローラン・アルグミュラーは立ち尽くしていた。
ファルス王子の亡骸の前で、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
ああ──あの真っ直ぐな目をしたサファイアの後輩騎士は、今頃無事だろうか。
いつも余計な世話ばかり焼く、あのガーネットの宝石を持つ狂狼は。
呆然とするローラン・アルグミュラーをあの紅い瞳が捉えた時。
初めて恐怖が湧いた。
彼にとっての“理想”が目の前で潰えた時、途端に震えが止まらなくなった。
*/
>>416 アラタ
ふうん、尊敬ですか。
[バディだからって言ったら断ろうと思ってた。口先だけの都合のいい甘い言葉でも吐こうものなら蹴っ飛ばそうと思ってた。
困っちゃうなあ、こんなの。不器用なやつ。でもあたしも大概素直じゃないからな]
わかったよ。
あたしはヒーローになりたかったの。きっとそれは、騎士団じゃなくても、出来ると思うよ。
でも、あたしがアンタについてくんじゃないよ。
あたしがアンタを引っ張ってってあげる。
去り間際、まだ廃棄されていなかった蓄音機を撫でる。この子には世話になったものだ。
ノイズ混じりに聞こえるは、ヨルダの声で。
「……!」
本当に、彼らしくて心から憎めないその一言に、小さな笑みが零れた。
彼は、何だかんだで私に甘い。
「……さようなら、私のお友達のヨルダ。
……はじめまして、ヨルダ・ノア・リューンベリ殿。」
誰に言うわけでもなく、蓄音機から足を遠ざけた。
>>420 ブレイ
「は?」
イグニスは突然猿真似を始めたブレイを見つめると、大笑いをした。
「あっははは、ははは! いやぁ、どうもね、くっく、俺は生憎サリーナ語しか話せねえが、猿語も話せるたァ、鬼ってやつは随分博識なんだな?」
ブレイに向かってひらひらと手を振る。
「……あー、絆ね、遅刻野郎がほざくもんだな。別に俺は事実を言ったまでだぜ? てめえがいうなら、絆があるから切ったんだろ? 何熱くなってんだよ」
片方の眉を上げて、さも怪訝そうに相手を見つめる。
>>418 ファルス
「えらくまあ物好きというか、あー……
研究者とかの方が向いてそうだよなあ。好奇心がモノを言うような職の方がさ。
…………良いだろう」
提案を飲んでその先はどうなるのか、と尋ねる前に動いたのは、他に失くすものがないからだ。
それ以外に?さあね。
結んだ髪の束を掴み、反対の指先で耳の後ろを払うようにして後頭部を撫でる。
風はかまいたちのように鋭い刃となり、縛った髪を落とした。
>>418 ファルス
「俺は生まれたとき未熟児で、体が弱かった。
死神が連れていけないように女の名を付けられたし、小さいうちは女の格好をさせられてた。
これはその名残……だったものだ」
そして、それを両の手で捧げ持ち、跪く。
「ファルス王子。
……ファルス・サリーナ。……様。
ここに、貴方への忠誠を誓う」
>>ファルス
[アラタと約束してあげたあと、ファルス王子のところに走る]
あっ!!ファルスだんちょー!!
言わなくちゃいけないことが、ありまして……。
[……どきどきする。でも、今日は風紀当番もいないから。それに、きっと、今しか言えない]
……あの。あたし、団則違反をしてしまいました。
ちょっと。えっと。一緒に居たい人が、できちゃって。
……あたしからじゃないんですけど……ほっとけないって言うか。
あたし、ヒーローになりたかったんです。だから、黒狼騎士になって、色んな人を助けたかった。
きっと、ファルスだんちょーとなら、できたと思います。
でも。ごめんなさい。
【この剣を、お返しします】
短い間ですが、ありがとうございました!!
ソラ・カルセドニ 享年?歳
セルナリアがサリーナに攻め入った際、魔法取締役としてかの国の魔法を看破、対策をいち早く周知しサリーナが善戦出来るよう尽力した。
しかし、魔法に対処できる人員の絶対数が足りず、戦局は徐々に劣勢となり最後には城壁を突破されてしまい、敗北、捕虜となる。
同輩であり友人であった仲間の為、そしてファルスの描く理想の国を目指して歩んだ道は絶たれ、一度は死を選ぼうとする。
しかし、亡きファルスの意思を守る為、そして仲間に事の顛末を伝える為に生き残る事を決断。
帰順後はセルナリアで同じ境遇のサリーナ人に、ファルスの意思…魔法と異種族への偏見を失くす事に尽力した。
帰順から更に数年後、アッカード地方にある墓の前で紺碧の髪のハーフエルフと共に、アッカード家の長子に墓参りをしている様子が見られたそうだ。
余談ではあるが、同じサファイアの騎士で帰順したローランとは密会、ひいては反乱の恐れありとして接触禁止となる。これはロート王が即位後撤廃された。
ロート王即位後の彼(彼女?)の記録は不明。
––––––大陸歴1177年
【ノル地方リューンベリ領 報告書】
10月1日 クリストフェル=ベリ
サリーナ王国西部にセルナリア王国が侵攻したと伝達。具体的な位置は不明。
リューンベリ領も国境が近いため警戒態勢へと移行する。中央へ応援の要請を検討。
10月2日 メルタ・セイデリア
西部に情報を送れと伝達したが返信はなし。被害の規模が大きかったのか。
流れてくる噂によると戦火は拡大しているということ。応援の要請とともに義勇兵の募集を開始。
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10月◯日 クリストフェル=ベリ
我が領でセルナリアの兵の侵攻が確認された。メルタ、パトリクの死亡を確認。
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10月×日 ヨハンネス・アレクサンデション
中央から黒狼騎士団が応援に来てくれると伝達あり!領主の弟君がいらっしゃるようだ。過去、エルフ討伐で活躍されたお方とのこと。これで戦場は俄然サリーナの有利になるだろう!
義勇兵の集まりが悪い。傭兵も検討する。
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▼月△日 イクセル・エリクソン
最近傭兵の募集に華奢な者が多い。あれで戦えるのか。志望も後衛ばかり。足りないのは前線だというのに。弓のうまくない者から前衛へと回す。
市街地に火が回り損害大。戦場の縮小を目指す。
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×月◇日 クリストフェル=ベリ
最前線のヨルダ隊が隊長のヨルダ・ノア・リューンベリ含め全兵士行方不明。
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◯月▪日 クリストフェル=ベリ
ヨルダ隊全兵士、本日以降死亡と見做す。
士気の低下が見られる為、新たに決死隊を組む。最終作戦へと移行。
我らがサリーナの誇りを胸に!
■────今より四年後、1177年10月某日■
その日、セルナリア城門外にて、ファルス=サリーナの処刑が公開で行われた。民衆も多く集まり、その日は城の周辺は騒然としていた。
亡国サリーナの王子ファルスは、魔法による枷で拘束され、魔法の刃により断頭される。
セルナリア王カーマインの意図により、その処刑には黒狼騎士団の捕虜たちは全員立ち合わされることとなる。
セルナリアに残る記録書に拠れば、ファルス=サリーナは死の瞬間までカーマイン王を睨み続けていたということである。
騎士団員たちはファルス王子の処刑の瞬間、「殺せ」と喚く者、怨嗟の目で睨み上げる者、呆然として瞳に光が宿らぬ者、目を閉じて黙りこくる者、様々であったそうだ。
時は来た。
蓮凛丸を王子の側にいた騎士に渡すと大きくよろめいて、だから言ったのに……。と呆れながらも、ファルス王子に一礼をする。
二度と会う事はない、私の義と身を捧げた御方。
王子の手配だろうか。港に止まった船に乗れば、砦がよく見えた。
翡翠のような深緑の姿を探しても、私の瞳には彼はいない。
良い別れが出来たので悔いはないが、最後に一目と思った自分の甘さに頭を抱えた。
ふう、とひと息吐いて気を取り直すと、ブレイ、グラジナ、ウィア、クロエ……そして、ファルス様のお姿を見つめる。
その背はしゃんと伸び、多くの家臣に囲まれていた。その姿を見るのが最後なのだと思うと胸が締め付けられて、足元に転がる荷物に手を伸ばせば……そこには、小さな箱があった。
「……何これ?間違えて持って帰って……え。」
箱の中には、花と鈴をあしらった根付で。こんな綺麗な物を渡す人は一人しか知らない。
勢いよく甲板から下を覗き見れば陸は遥か遠く。
「⦅…………教本の御礼?いつの間に。流石、忍びの者……。⦆」
へら、と表情を緩めるように笑えば、帯紐に根付を結び付ける。漆の光沢できらりと光る根付は腰元で揺れた。
失う物と、得る物が大きかったこの国の土を踏む事はない。
それでも、胸に秘めた誓いと約束は消える事など決してないのだった。
■記されることの無い記録の裏の真実■
───ファルス=サリーナも、過去のサリーナ王族と同じく、強い潜在能力を持っていた。
そして、その従兄弟である公爵アルベルト=グランも。
かつての間者、スクルド・リラの教えを受け、三年の極秘特訓の末、その能力を発現させられるまでに技を磨く。
ファルス=サリーナは、相手の魔法を打ち消す能力を持っていた。
アルベルト=グランは、歴史書にある記憶操作術を。
魔法が禁じられたサリーナで。国民の憧憬の的である王子が。その側近が。魔法を習得しているなどほかの誰も思わなかった。
ただし、この能力は限定的にしか使えない。サリーナ王国の滅亡を防ぐ力はなかった。
王子ファルスは囚われる。アルベルト=グランも別房に。
しかし、それを。そしてその処刑日を。密かに国外に知らせる者がいた。
処刑当日、ファルスは初めて城の外で魔法を使用する。
処刑台の上で、魔法の枷を外す。当然、それは騒ぎになる。
アルベルト=グランが魔法を発動する。その記憶操作術は、群衆に紛れたジゼル・フェアリーフォードの水の魔法に乗って、その場の人々に降り注ぐ。
───式神を宿した形代が飛んでくる。
カリン・ユズリハのものである。
形代はファルスの形を作り、断頭台に横たわる。
人々が、形代を本物と認識し、悲鳴や怒号が飛び交う中、王子ファルスは、ぼろをまとい民衆の中に紛れ込んだ。
ファルスは逃れた。
妹を捨て、騎士の仲間を捨てた。
そう心の中で自らを責め苛む。
しかし、ファルスにはずっと大きな目的があった。
……無辜の民を救うこと。
ファルスは、王族でなく。一人の民草として、人々に向き合い、助けていこうと決意した。
それが、サリーナの民の幸福に繋がると信じたから。
── エイダン・フォスターの未来 ──
[ファルスから手渡されたシトリンの宝石をそっと短剣に嵌め込んだ。
輝きを放つその黄金色は、漸くあるべき場所に戻ってきた。思わず、顔が綻んでしまう。
この砦での遠征で、色々な事が起こった。いや、起こりすぎた。
その中で、エイダンの価値観は変わってきていた。それが良い方向なのか、悪い方向なのかはわからない。
けれど、確かに見る世界が変わっていた。
心の突っかかりが取れ、スッキリとした気持ちになっていた。
だからこそ、これで良かったのだろう。
問題はまだまだ山積みだ。異種族を恨む気持ちが完全に消えたわけではない。
しかし、王子に捧げると誓ったこの剣と命をもってして、ゆっくりとでも、確実に、解決していかなければならないのだろう。
そしていつの日か。互いに、姿形や能力など関係なく、尊重し合い、話せる日が来る事を願って。]*
* * * *
──4年後。
命を捧げた王子は処刑され、仲間は圧倒的な力の前に散っていった。
捕虜となったエイダンは、その処刑を目の当たりにしていた。
黙ったまま、ただ一点を睨みつけ、かの王子の顛末を見守った。
心にやどした小さな復讐の炎。
セルナリア国の門番を勤めるゴーレムを壊し、謀反をしかけるその日まで。
その炎が姿をみせることはなかった。
* * * *
夜明けが目前まで迫って来ていた。
太陽が昇った時、クロエ・ド=ベルティエは死ぬ。そして、夜明けと共にルーチェ・シュヴェルトとして生きる。
「ウィア──いいえ、ジゼル。行きましょう。」
そうして、彼女は新たな人生を歩き出した。
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