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>>165 ソラ
「……ふん。そういや、もうすぐ夜明けだな」
イグニスは、なんとはなしに空を見上げて、それがうっすらと白んでいることに気づく。
「ほぉ? 言ってくれるじゃねえか。……ってか俺が風紀を乱したことなんかねえだろうが!」
「……んー、まだそっちの方がマシだな」
イグニスは採点でもするような口調で頷いた。
差し出された小指に顔をしかめると、それでもイグニスはその指を握るように掴んだ。そして一瞬だけ小指を絡めると、すぐに手を離す。
「…だから、気が向いたらな!」
黄昏れるように手紙を見つめるファルスを眺めていた。
ちょっとでもお側に寄りたくて、結界に触れれば柔らかな水の感触が阻む。
「⦅……ファルス様。⦆」
誰よりも大切に思う人の名を告げれば、胸が締め付けられた。
私は、あの御方に助けられた身。例えあの御方がそれを覚えてなくとも―――この想いが報われなくとも、私は構わない。
恋はするものではなく、落ちるもの。誰が言った言葉だったか。
私がその言葉を理解したのは十三の時。ファルス様が助けて下さった一年後だった。
あの御方の側に胸を張って並び立てる、そんな女になりたくて協力した。その事に後悔はない。
双子の兄のように、自由に生きる事は叶わなかったけど。それでも、私の幸せは確かにここにあったのだ。
……なのに、どうしてこんな事に。
かんばせに僅かな翳りが見えた時、ファルス様の背が小さくなる。彼も帰るのだろう。
ならば私も帰ろうと、地面を強く蹴って木の上へ移動する。
ベッドがない代わりに、木の上で眠りにつくのがよかろうとそのまま瞼を閉じる。寝心地はあまりよくないけど、連日の疲れが眠気へと誘った。
[適当に食材を取り出せば、左腕に付けていた篭手と手甲を外して脇に起き、料理が作れるように準備をしていく。
肉を細かく切り、玉ねぎもみじん切りにすれば、肉から順に油を引いたフライパンの上で炒めていく。適度に塩を振りかけ、味を調節しつつ、肉と玉ねぎの色が変われば火から下ろした。
卵2つをボウルに割入れる。本当は牛乳があれば良かったのだが、この際贅沢は言えないだろう。塩と胡椒をすこし投入すれば、菜箸でそれら全てを手際よくかき混ぜていく。
フライパンを再び熱し、熱くなった事を確認すれば油を引いて、卵を全て流し込んだ。
所々半熟の状態にするよう、適度に混ぜつつ火加減を見る。底の方が熱で固まり始めれば、先程炒めていた肉と玉ねぎを卵の上に乗せ、それを隠すかのように卵を丁寧に覆いかぶせた。
皿に盛り付け、仕上げにケチャップをかければ、オムレツの完成だ。
さっき見つけたパンも合わせて、今日のエイダンの晩ご飯となった。]
………ふぅ、なんとかなったな。
いただきます。
[皆が寝静まった頃、今日初のちゃんとした食事だった。自分で作ったから、特に美味しいと感じることもなく、ただ黙々と食べ進める。]
ごちそうさまでした。
[一人きりの食事は、存外早く食べ終わる。美味しさをあまり感じることはなかった。
こんな食事はいつ以来だろうか。こんなに1人は寂しいものだっただろうか
しかし、考える間もなく食器と調理器具を片付け始める。誰かと鉢合う前に、そっとその場を後にする為に。
今夜も空には綺麗な月が輝いている。
なんだか、それが無性に寂しく感じてしまった。]*
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