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>>151 イグニス
彼の動揺に、疑問に、ああ、もうこの場から消え去りたいと言う衝動を抱きますが、理性は冷たく冷たく過去の自分を振り返らせるのでした。
彼の疑問に、ぽつ、ぽつと答えていきます。
「……ボクは、元々魔法を使える家族の1人として、処刑される予定だったんだ。この世に元からいなかった存在。それが“私”。
…ただ、ボクだけは魔力の種類を見抜く魔法だったらしくて…ボクを保護してくれた魔法取締役の…ボクの親代わりの人がね、ボクに「ソラ」って名前と、彼の宝石…「カルセドニー」の姓を………2つ目の人生をくれたんだ。
だから、黒狼騎士団に居る『ソラ・カルセドニ』は、騎士団に憧れた、神官上がりの男の子。
…黒狼騎士団に忠誠を誓っているのは嘘じゃないけどね。
さて、それならキミの前にいるのは……誰でしょうね?」
月夜に照らされながら、彼の顔を見つめます。
あの時見たまだら模様の顔は月に照らされてまた違った顔を見せるのでしょう。
「自分の行動で疑われてしまっている事は、複雑な気持ち。能力を買われているからこその視点だったから、なんとも言えない。けれど、誇りについて触れられるとは思っていなかったから心外だったけど。…この話は終わりにしようか。感情論でどうにかなるなら、とっくに声を荒げているしね。」
「今日占われる事は正直ホッとしてる。自分の届かないところを補ってもらえるからね。勿体ないとは思うけれど、自分ではどうしようもないから…弱気でごめん。」
「えっと。クロエと狼、どちらが本物か。ソラからしてみれば、あとは出揃った役者を当てはめるだけになるから明日の結果次第な所はある。だから、今日は省略。」
「クロエが本物だとした時の内訳を、今日のタイムリミットまでに考え終われたら良いのだけど。」
>>154 ソラ
「……」
それは、イグニスには想像もつかない話だった。イグニスは顔を顰めて、ソラをじっと見た。風が彼の──彼女の髪を通り抜けて、さらさらと揺らした。そんな様子を見つめて、それから、イグニスはフッ、と笑った。意地の悪い顔で、いつものように。月が雲に隠れて、帳が一層濃くなる。
「知るかよ」
そういうと、イグニスはソラにぐっと顔を近づけた。
「いいか。俺がお前について知ってるのはな、お前がソラって名乗ってて、それなりにマメだがサボる時はサボるやつで、…………」
イグニスはソラの特徴を並べ立てるように話した。
「……んで、この俺と決着を付けられないほど互角に戦った、俺のバディってことだけだな。お前の昔の名前とか、今どんな気分でしょうかとか言われても知らん!」
「大体、対等かどうかってのは俺様が決める。何勝手に対等じゃなくなる前にとか言い出してんだよ、ソラのくせに生意気なんだよ」
******
占い師:クロエ
異種族:ブレイ-ソラ-スクルド
霊能者:ノア(カリン)
魔法使:カリン(ノア)
スパイ:グラジナ
首席者:ヨルダ
******
紙に書いた内容を読み上げて、そのあと説明をするわ
「魔法使い、スパイの位置が曖昧なのは、ブレイについて結果が揃っていたから。どちらでも問題はないはず。」
「ソラが魔法使いだと思った時もあったのだけれど、そうなると霊能者に異種族が2人いた事になる。そこが少し腑に落ちないんだ。クロエが発表した後だったから、わざわざ出る必要は無かったわけだし。だから、ソラの異種族は間違い無いと思う。」
「霊能者にスパイが入っているならば、ソラが魔法使いの可能性は残っているのだけれど、その場合、狼がブレイ-スクルド-イグニスorグラジナになるけれど、ちょっとしっくりこない。
スパイについてはカリンは最初に名乗り出た。ノアは追放者を決めるときに自分で良いと挙手をした。どちらもスパイ像から遠いから選択肢に入れていないよ。」
「この異種族内訳から、空白になっていた襲撃先は何処だという話になるんだけれど、…ここはやっぱり、グラジナ説が一番高い。ちょっと前までスクルドを挙げていたけれど、それは襲撃先というより本人の発言から拾っていたんだよね。しかも、初っ端から彼を狙う意図が読めない。事故…というにはお粗末な理由になる。」
「以前も説明した通り、異種族は初めからブレイが捕捉され、追放されるから早めに首席を襲いたかったはず。結果、失敗。」
「これが一番考えている中で正解だと思っているよ。」
******
占い師:クロエ
異種族:ブレイ-ソラ-イグニス
霊能者:ノア(カリン)
魔法使:カリン(ノア)
スパイ:ヨルダ
首席者:スクルド
******
もう一つ読み上げて、自傷気味に笑う。
「………こっちは感情論が多めだから、あまり理論的に展開は出来ないんだけれど…首席を早く消したくて、ヨルダを狙って失敗した説。初めての襲撃先が無いとわかった時、ヨルダはその時から首席を名乗ると決めた。という話。」
「けれど、それにしても守っていた時の手応えのなさよりも、手応えがあったという方が信憑性は上がる。そうしなかった理由は、裏をかいたとか。…本当、想像でしか話せないや。」
「イグニスについては、ソラが最初に見れる相手だからバディでもある仲間を選んだ。だからイグニスの初動が重たかった、というものになるかな。」
「……我ながら、ひどい考察だとはわかってる。こっちはただの希望的観測だよ。本気で提唱しているわけじゃないから、聞き流してて。」
グラジナがもしスパイならば、首席だと名乗ったのではないだろうか。それをしなかったから、本当は濡れ衣を着せられただなのではないか。そんな、自分にとって都合の良い考えなことくらい、わかっていた。
>>156 イグニス
彼のいつも通りの振る舞い、そして彼なりの言葉の数々に、思わず笑みが零れます。
嘘をついた事を告白しても、彼は認めてくれるのです。それに心の底から安堵しました。
「た、対等に関しては…!……石を砕かれたら、ボクは騎士じゃ、なくなる、から…。そうしたらただの村娘みたいなだもん!イグニスが良くてもボクが嫌だ!」
彼の言葉に我儘を返してしまいましたが、今まで抱えていた過去を吐き出されて、それでも受け止めてくれた彼に最後には「……ありがとう。」と呟くのでした。
「イグニスの事も知りたいな。また…機会があれば、でいいからさ。」
>>162 ソラ
「……ソラ。てめえは、騎士団を──俺を裏切ったり、してねえよな?」
イグニスの瞳が、鋭くなる。けれど、静かに首を振ると、溜息をついた。
「……ったく、潔白なら、また次試験受けりゃいいだろうが。仕方ねえからバディの椅子は開けて待っててやるよ。ふん、先輩になっちまうけどなァ」
「っていうかお前、なんか話し始めたけどな、俺が話があるっつったのはそれだよ! んだよあの弱気な手紙は!!
俺様のバディだろ! 書くならもっと気合い入れたこと書けよ!」
ひとしきりソラに怒鳴ると、イグニスは満足したのか腕を組み直す。ソラのありがとう、という言葉には、満足そうに鼻を鳴らすだろう。
そうして、最後の言葉に、イグニスは目を細めた。
「…………気が向いたな」
「………………」
食堂には、自分とクリスタルだけ。
日の出とともに宝石が砕かれる。風紀委員は、ヨルダとユーディトだった。
追放される者達は、自身の宝石を砕く相手を決めている者もいた。グラジナが自分を指名しなかったことは、きっと優しさだろう。自分自身も、グラジナの宝石を砕くことはしたくなかった。けれど、誰かに砕かれることも嫌だった。
───だったら。
「…………………」
頭をぐしゃぐしゃと掻き、自制する。まだグラジナが相対する存在と決まった訳では無い。あくまでも、全て可能性の話で、まだ彼が敵であり、悪であると決まった訳ではないのだ。
自分の手でクリスタルを砕けば、この一縷の望みを断つこととなる。それだけは、それだけは。
>>163 イグニス
彼の1つ目の問いには、少し困ったように返します。
「きっと明日、また分かる事が増えるから…ね。」
「…イグニスが先輩……。ちょっと風紀乱して新人騎士残留とかする気ない?」
そこそこ真面目なトーンで彼に訪ねます。
「ひえー!ボクだって精神的に辛くなる事とかあるんだからいいじゃん!!
気合いってなんだよう!イグニス砕かれたら許さないから敵を返り討ちにしてくれって書けば良かったの!?」
彼の怒鳴り声との応酬に、変わりないバディの姿を見て安堵感と共に、少しだけ零れそうな涙を拭って、笑いかけます。
「…ん、分かった。ボクがこんな赤裸々に話したんだからイグニスだってしっかり話してよ!約束!」
そう言って、小指を彼に差し出します。
>>165 ソラ
「……ふん。そういや、もうすぐ夜明けだな」
イグニスは、なんとはなしに空を見上げて、それがうっすらと白んでいることに気づく。
「ほぉ? 言ってくれるじゃねえか。……ってか俺が風紀を乱したことなんかねえだろうが!」
「……んー、まだそっちの方がマシだな」
イグニスは採点でもするような口調で頷いた。
差し出された小指に顔をしかめると、それでもイグニスはその指を握るように掴んだ。そして一瞬だけ小指を絡めると、すぐに手を離す。
「…だから、気が向いたらな!」
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