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誰が炊いたのか分からない冷えたご飯で歪なかたちのおにぎりを作った。
「毎度、誰かが弔っているのだな。このような事になっても、まだ我らが同胞の絆は残っているのだろうか。
今日は小宮山 心優、貴様に礼をしに来たぞ。貴様が生きているうちにするべきであったのだが。我が闇の力を込めて生成した食事だ。
我は、何を守りたかったのだろうな。まだ我が守るべきものは残っているのだろうか。
死んでしまえば全てが終わりだが…こちらも地獄のようだ。それでも死んでいた方が幸せだとは思わぬがな。
くくっ、せめてそちらが穏やかな場所であることを我は祈っておるぞ」
「うん。帰ってきたんだけど……。
わたしが反論できるのは、そんなかんじ、かなあ……。
のこされてる、時点で……じゅうぶん、疑わしい、もんね。」
「しおんは、しおんに都合のいい状況だから……仕組まれてる?って、いうけど……わたしは、ずっと、いつ閉じ込められても、おかしくなかった。
もっと、すべてにおいてもう一段階くらい、じぶんに、有利な状況を、作ってもいいと思わない?」
「これは、人狼が、わたしで一回分、閉じ込め回数を稼ぐための、状況なんだと、思う。」
「ん……まって……。大丈夫かな……。」
「うーん……大丈夫?かな……。わたしが投票はずして、万が一、三票ずつ割れると、少しこわいけど……。」
「うーん……。ごめん、せぼ。
わたしから見ると、万が一、せぼ、狂人、魚人の3人の票が固まると、こわいから、やめておく。」
「というか……護衛が出ることは、きたいしてない、から。言ってしまってもいいんだけど。」
「魚人の可能性があるのは……ここにいないひとだと、みう、あおい、やくも、くくい(うそつきのばあい)……かな?さやが水の音聞いていたから、りこは、可能性はない。うーん……なんとも言えない、か。」
「あ、そっか。いや、オレこそ変な事言ってごめん」
結局狼が誰なのか意見がまとまらなくて、オレは息をついた。
喉が痛い。少し休んで、とサヤちゃんは行ったから、許されるだろうか。考えていたことはだいたい言った気がする。
有翼人は、夜目が聞かない。
カロスが言うには、彼の幼い弟が、昼のうちに度胸試しで崖の上に登って、降りられなくなったそうだ。
夜に飛ぶことはふたりとも、危険だし、かと言って、放っておいたら、いつ落ちるともわからない。
そんなときに、助けに行ったのが、アリアだった。
カロスはアリアが同族だと信じた。
夜目も効く同族だなんてすばらしい、と彼女をひどく褒めた。
しかし、アリアは夜にしか飛べないのだ。
昼に会おうと言う彼には、昼には仕事があって無理だと伝えた。それから、週に一度、夜だけ、森の泉でこっそり会うようになる。
星空の下を飛んでみたいという、彼の手を引いて一緒に飛んだ。
カロスは目を輝かせ、アリアは月明かりに照らされた彼の顔につよく惹かれた。
カロスは、自分の勤め先を教えてくれた。彼は、高いところから低いところまで、家々に手紙を届ける仕事をしていた。
アリアは昼間、布で顔を隠し、空を飛ぶ彼を見た。
その翼は、しろく、陽の光に輝いてうつくしかった。
目にしみるほどに。
カロスと会う回数を減らしてしまった。
あまりに彼がまぶしくて。
もらいものの翼が、うしろめたくて。
ある三日月の夜にひとりで飛んでいると、《空の王》と呼ばれる、黒翼の一族の長に見初められる。
カロスに会う予定の日。
待ち伏せていた《空の王》の手下によって、アリアは無理やり連れていかれてしまう。
その手下は、アリアと同じ部族……夜目はきけど、空は飛べない。馬で地を駆け連れ去られた。
カロスはそれを目撃し、アリアを助けるため、ひとり追ってくる。
夜目がきかない彼は、幾度もその翼を木にぶつける。
彼の白い翼は、いつのまにか、黒く、赤くなる。
それでも、アリアと飛んだ感覚を覚えていたのだ。
《空の王》の住む塔の上。
アリアは助けに来た彼の手を取り、外に出た。
しかし、時間はもう夜明け。
アリアは既に、月の光の加護を失い、塔の中で翼を失っていた。
彼の手をとる、アリアの手は震える。
陽の光に照らされたアリアを、カロスは初めて見た。
翼のない自分を恥じ、うつむく彼女を見て、カロスは驚いてこう言ったのだ。
『アリアの目……陽の光をすいこんだみたいだ。
ずっと、君に会いたかった。夜には、よく見えなかったから。』
カロスは夜目がきかない。元々しっかり見えてはいない。
最初から、カロスにとって、アリアの翼の有無などは関係なかったのだ。
彼にとっては、今ここにアリアがいる。それだけでよかった。
目を見張るアリアに柔らかく笑いかけ、カロスは彼女を抱いて、朝日の中を羽ばたいたのだった。
じゃり、と土の音がする。
一歩一歩進むたび、足が重たくなった。
本殿の前までつく。古びた井戸が見える。
辺りには誰もいない。……誰も、いない。
扉の前で縋り付くように膝が落ちる。もう、虚勢はる必要、ないんだ。
「……、くない……死にたくない、死にたくないよお」
胸が詰まった。涙が溢れる。嗚咽が止まらない。体が震えてしかたない。吐き気がこみ上げた。
視界が歪んでも、いくら顔がグシャグシャになっても、もう取り繕わなくていいんだ。
[そっと、セボに票を入れて、彼がここを出る前に集会所から出た。
どうしても、セボを見送ることができなかった。また会おうと声を掛けることも、ごめんと謝ることも、最後になにか言葉を交わす事も、できなかった。]
…これで終わってくれ。
じゃないと、俺はもう……
[空を見上げる。けれど、そこに光はなく、]
………希望なんて、ないのかな
[今日も、星は見えなかった。]*
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