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魔神 ヒエムスは黒い外套の ザファルに投票を委任しています。
魔神 アウルムは薬売り レヴィーカに投票を委任しています。
黒い外套の ザファル は 不滅隊隊長 スィフリア を追い出すことに決めた。
不滅隊隊長 スィフリア は 薬売り レヴィーカ を追い出すことに決めた。
薬売り レヴィーカ は 錬金術師 ヒジャービル を追い出すことに決めた。
案内人 ユーグ は 薬売り レヴィーカ を追い出すことに決めた。
帝王の妻 エルハーム は 黒い外套の ザファル を追い出すことに決めた。
魔神 ヒエムス は 不滅隊隊長 スィフリア を追い出すことに決めた。
魔神 アウルム は 錬金術師 ヒジャービル を追い出すことに決めた。
吟遊詩人 コーネリアス は 錬金術師 ヒジャービル を追い出すことに決めた。
錬金術師 ヒジャービル は 吟遊詩人 コーネリアス を追い出すことに決めた。
錬金術師 ヒジャービル は宮殿から追い出された……
案内人 ユーグ は、不滅隊隊長 スィフリア に退去の力を使った。
指輪が告げる……今日は魔神に追放された者はいないようだ。
《★占》 不滅隊隊長 スィフリアは 人間 のようだ。
現在宮殿に残っているのは、黒い外套の ザファル、不滅隊隊長 スィフリア、薬売り レヴィーカ、案内人 ユーグ、帝王の妻 エルハーム、魔神 ヒエムス、魔神 アウルム、吟遊詩人 コーネリアスの8名。
日が昇る。
夜の女神は面を覆って西つ方へ飛び去り、はためく夜闇のヴェールもまた色褪せる。
地平線より駆け上がる太陽の戦車は、夜へと向かって矢を射掛ける。熔けた黄金よりも何千倍も目映い朝日が、夜を駆逐してゆく。
あなたが目覚めたのは、そんな時刻だ。
[ 打ち鳴らすシンバルの音、弓なりに反らされた背、よく撓う腕、円を描き揺れ動く腰。
それらはひとつの呪となり、令となって魔神を動力として駆動する巨大な魔法装置――白鴉宮に編みこまれた。
――その名持つものを宮殿より去らせよ、と。]
[ ――やがて空が白み、夜の色が薄れる頃。
宮殿より姿を消したは錬金術師ただひとりと識り、黄金の魔神は深い笑みを零した。**]
[強い日差しが瞼に突き刺さる。身動くと、さらり細やかな粒子の感触。傍らにぶる、と生き物の息遣い。ゆるりと、枯色の瞳を覗かせた]
……ああ―――。
[色素の薄い瞳に映る、眩い太陽。彼の宮殿に居たなら見ることの無かったもの。触れる砂と朽ちた礫に囲まれた己に気付き、夢から醒めたよな吐息を漏らした]
…邪魔と思われたは己だったか。
[仰向けに倒れたよな状態のまま、自嘲の笑みを浮かべる。傍らに座る、友の名を持つ駱駝が心配げに顔を近付けた]
―自室―
[――銀の粉が舞う夢を見る。
月下香の香りは其処にある。
砂漠にはありえない、白い白い透きとおる花。
今はないふるさとを思う。
此処には本当は咲かないのだと謂っていた。
あれはを赤に染めたのは――]
……、 … っ
[囁く声で眼が覚める。
指輪が語りかけていた。
何処かで賑わしい音が響いていた。]
なに、――
[鎖されたはずの扉から ひとり、欠けたのを
魔術の欠片を生来持つ黒は感じ取り、
眉を寄せると小さく息を吐いた]
― 回想:昨夜 ―
[黒の語りは、記憶を紐解いていく。
術の伝授、同行を拒む魔術師と、自身の主のやりとり。
手に入らぬのならば、他に伝わるを恐れて里ごと焼き払うという方針。
逃げ惑う人々。追いすがる自分。血の匂い。
尋ねられれば応えるも、その想いに対する感情は布の内の表情では見えぬ。
最期の言葉>>2:285に向ける柔い色の声。]
そういってもらえるのは、素直に嬉しいよ。
話をするのは、好きだからな。
[鳩羽色の隙間から、黒の中の黒を覗き込んでから、
白を翻して廊下の先へと消えて行った。]
[近付く駱駝の顔を持ち上げた左手で撫でる]
追い出されてしまったな、ナディーム。
私は契約に値しないようだ。
[魔神の手か候補者の想いか、どちらで弾かれたかは分からねど、その機会を失ったことは事実。微苦笑を浮かべながらしばし友の顔を撫で続けた。
その人差し指に、金銀の指輪は無い]
……さて、未練がましくここに留まり続けて干からびるのは御免だ。
契約は成らねど、私が目指すものは変わらない。
オアシスに移動して一休みするとしよう。
[駱駝に語りかけ、砂から身体を起こした。ひゅるり舞う風。地の砂は巻き上げず、衣服に付着した砂のみを払い落して行く]
一仕事頼むぞ、ナディーム。
[鞍の無い駱駝の背に乗り、立ち上がりを促す。振れ幅の大きい前後の揺れの後に駱駝は立ち上がり、右足で駱駝の首を押しやることで移動を促す。男の周囲にはいつの間にやら現れた大きな茶の布。支え無き布の天蓋は、駱駝の動きに合わせ男を日差しから護るよに動く。
宮殿では使わなかった魔術で日差しから身を護り、男は廃墟から離れ行く。一度振り返れど、その先に白亜の宮殿を見ることは*叶わなかった*]
― 宛がわれた部屋/早朝 ―
[四角く窪む天上から吊り下がる、たっぷりと皺の寄せられた薄い布。
天蓋も鮮やかな寝台のある部屋と寛げる部屋の間は、蓮の蕾の形に繰り抜かれ、壁に同じ形の窓には組まれた格子の隙間から覗く空。
金の縁取りも鮮やかな敷物の上、小さな皇国の国旗を描いた紅い革鎧が無造作に放り出され、細い光の影を作っていた。
身の沈む寝台で、孔雀石色の鱗を晒したまま武人は飛び起きた。
闇の薄さに息を吐くと共に、手に嵌まった指輪を胸元で握り締めた。]
…よかった。
[自身の身は未だ此処にある。]
─砂漠─
[じりじりと、肌を焼く様な日差しが降り注ぐ中。男は駱駝に揺られひた進む]
《明くる日、眼を覚ますと私は砂漠の廃墟に横たわっていた。
位置にすればあの夜、白亜の宮殿を見つけた場所と一致する。
しばし呆けたように太陽が昇る天を見つめ、不意に魔神の言葉を思い出した。
──指輪には、望むものを外へ出す力が込められている──
外、つまりは隔絶された空間である宮殿から元の地へと追い出す力。
ああ、私はその力を向けられてしまったのだと理解する。
契約を試す者の証明でもあった指輪も、私の手にはもう嵌められていなかった》
[駱駝に跨りながらも器用に手帳へ記入していく。オアシスに至るまではまだ遠い]
《外へと追いやられる前日、私は銀の魔神と言葉を交わす機会を得た。
彼の魔神は優美なる銀の狼の姿を取り、私に語りかけ。
襲いかかる振りをすると言う戯れも交え、私を試してきた。
壮麗なる姿へと戻った銀の魔神は私に問う。
──其方の望みは更なる知か?── と。
私は是と答えるも、その時には惑いが生じていた。
総ての叡智を得るは望みなれど、何かを得る過程を蔑ろにして良いものか、と。
私はその迷いも全て銀の魔神へと打ち明けた。
彼の魔神が話に興味を持ったかまでは分からねど、魔神は打ち明ける言葉を聞いてくれた。
そして更に問う。
──其方の真なる望みは如何に── と。
私は時間をかけて悩み、ついには決意する。
我が真なる望みは、やはり叡智を手に入れること、と。
その結論に、魔神は是とも否ともつかぬ答えを返し、目の前から消えた》
《その惑いがいけなかったのだろうか。
私は今、契約の機会を剥奪され、人の世界へと戻ってしまった。
悔しさが込み上げる。
けれど同時に安堵している自分も居た。
何かを得る過程の楽しみを失ってはいないために。
私は思いの外、晴れ晴れとした気分で廃墟を後にした。
契約は成せねども、得られるものはあったがために。
私がこの地に来たのは、無駄足では無かったのだ──》
[その文字を最後に、男は手帳を閉じた。未だ周囲に広がるは砂地のみ。視線の先に映る陽炎を目指し、男は駱駝と共に歩み続ける]
「じーちゃん、これなぁに?」
『これはな、かつて力ある魔道士により封じられた魔神についての文献じゃ』
「まーじーん?」
『そうじゃ。
力ある魔神が、かつて栄華を極めた宮殿に住まい。
百年に一度、願いを抱く者を招き入れて契約に足るかを試すと言う』
「けーやく? ほしいものがもらえるの?」
『そうじゃよ。魔神が出来ると言うものならば何でも。
…わしも一度はお目にかかりたいものじゃ。
魔神もさることながら、聳え立つ宮殿は美しく、花が咲き乱れ、砂漠の中に立つとは思えぬ夢のような場所なのだと言い伝わっておる。
……惜しむらくは、わしに宮殿を探しに行く力が残っておらぬことかのぅ……』
「ふーん」
[その当時は全く興味が無く、想像を膨らませる気も起きなかった。祖父が生き生きとした表情で語る様子も、不思議そうに見やるだけだった]
ああ……今なら爺様があの宮殿に執着した気持ちが分かるやもしれぬ。
確かに素晴らしい場所だった──。
[瞳を閉じれば、未だに脳裏に焼き付いている白亜の宮殿が浮かび上がる。己が好奇心を刺激するものばかりが集まった場所]
爺様は羨ましがるだろうかね。
[呟きながら、小さく笑みを浮かべ、今は亡き祖父のことを思い出していた]
―自室―
[自身の身を確かめる。
分不相応なほど豪華な宛がわれた部屋。
風に揺れる天蓋。月下香の香り。
――まだ、宮殿に居ることを許されているらしい。
長く息を吐く。]
――…
[白い布を身から引き剥がし、
黒い外套を肩から羽織る。
つと、自身の指先を見た。銀と青で彩られた
うつくしい蝶の止まった先。
ひやりとした感覚が蘇る。落ちる銀の粉も。
ゆき、というものがあるらしい。
降り注ぐ氷の欠片とはあのようなものなのだろうか。
廊下に出ると、銀の塔と金の塔が変わらず聳えていた。]
[白のターバンに白のカフィーヤアガール、白い腰布を上に巻いて前に垂らし、貌も布で覆ってから肩の上からマントをかける。
内の紅い革鎧が無くなっただけで大して外から見ても変わらぬだろうが、少しばかり、体の厚みが消える風。
廊下へと出ると、黒がまず、目に入った]
おはよう、ザファル。
[声はある程度の穏やかさを保ち]
[声を掛けられ、ゆっくりと其方を向いた。
ほんの少しだけ不機嫌そうな顔は、昨日相対した時よりは
ましには見えたかもしれない]
…… よう、
…… スィフリア。
[低い声でそう返した。]
[白目の多い眸の瞳孔は縦に長く何処か蛇を思わせる。
指輪は囁いた――思いの行く先を。
黒く長い前髪の下、眉を寄せて少しだけ眼をそらした後、スィフリアの眼を真っ向から見]
―― 多少 話は出来るとは 思ったが
やはり、 おれは、
不滅隊隊長である お前がにくかった。
[謝らない。
それは昨夜スィフリアが態度と言葉の両方で示したのと同じように。
指輪は囁いた――宮殿よりはじき出された者を。]
――… 錬金術師からの質問には、
答えられずじまいだ。…… …
[問わず語り、ひとりごち。]
― 廊下 ―
憎まれるのは、慣れている。
好きにするといい。
[ザファルの言葉に、涼やかな表情―最も見えぬだろうが―で、軽い答。
続いた名には、ふむ、と、低く頷くは]
ヒジャービル殿。
[いなくなったものの名]
こうして追い出されていくのか。
――追い出されて、
[布の中くぐもった声。
言葉は途中で途切れ、白の姿はゆらりとゆれる。
貌を向けるは窓。]
[己が考えに呼応するかのような友の様子に笑みが深まる。
届かぬ頭を撫でる代わりに、腰かけていた瘤の部分を軽く撫でてやった]
お前も、あの場での生活は難儀しなかっただろう。
甲斐甲斐しく世話をする使い魔の召使。
与えられる餌は普段なら得られぬ質の良いもの。
寝床として敷かれる藁はたっぷりと日を浴び柔らかい。
しかし悲しいかな。
以前なれば普段の生活で満足していたと言うのに、一度贅を受けるとそれを基準として考えてしまう。
あの時は良かったと、羨み同等のものを欲し始める。
浅ましく愚かしいな、人と言うものは…。
[それは己へと向けた言葉だったか。衣食住に限らず、知識欲も同様に贅を欲し始めると]
お前も同様なのかね。
そうであるとなれば、少し困りものだが。
[続く言葉は友に向けて。軽口めいた言葉が喉奥の笑いと共に紡がれた]
――… 死にはしねぇと。、
ちゃんと街に辿りつくだけの水なんかは
持たされてるらしいぜ ……
……
[だが、そういう問題でもなかろう。
百の夜、百の昼、越えた先の千載一遇。
窓の外を睨むと唇を引き結ぶ。]
いや、そうではない。
――まぁいい、何でもない気にするな。
[低い声で謂うと、ばさり、腕を振る。
白いマントが翻る様は、やはり、カスル(城)の天辺に指される国旗のよう。
窓の外へと視線を向けた侭、憮然とした声で呟いた]
貴殿はどちらの魔神に願いをかなえてもらう心算なのだ?
[ふと、声のトーンを上げ、ザファルを振り返ってひとつ、問い]
――…?
[窓の向こうに向けていた視線を鳩羽色へ向ける。
顎を退く、口元は黒い布の向こう。
翻る白に眼を細めた。偽りの太陽の下で、眩い。]
―― … 一度は袖にされちまったが
ああまで謂われたら
――却って叶えようと思わせたくなるもんでな
[流し見るは銀の塔。
心積もりは伝わるか]
……金とはあれから
ロクに話もしてねぇ、か。
そういうお前はどうなんだ。
――見たとこヒエムスってとこか?
[緩やかに、見据えるような半眼。]
お前の願いがなんだかは、しらねぇが。
…ひとりの魔神につき、願いをかなえるものはひとり。
なれば、私がヒエムス殿に叶えて貰おうと思っている、と言えば完全に貴殿は敵になるな。
[ふむ、と頷き。
それから小さく首を傾けて、黒をじっと見詰めてから釣られるように銀の塔へと目を向け]
気を惹きたいと思ったが、どうやらお気に召さなかったようだからな…。
却って、と言うのも判るが。
[白目が多く虹彩の縦に長い目が、鳩羽色の隙間から揺れ動く。]
もってまわった言い方をしやがる。
最初から似たようなモンだろ。
[ほんのわずか縮まった距離は
それでもそそこから先一歩を踏み出さない。]
物語の姫のように
語りでもしたか。
[腕を組む。しゃらり、外套の下鎖が鳴る]
偏屈ってのは、確かだな――――
似て違えるだろう。
少なくとも私には今、貴殿を斬る理由もないしな?
[言いながら、手は自身の口元を隠す布へと伸び。
そっと片耳からそれを浮かせると、頬へと避けた口と孔雀石色の鱗の頬が、半分。]
姫であるなら、どれだけ良かったか。
――貴殿に聞くも少し不思議かもしれんが、気持ち悪かろう?
[目はキョロリと、瞬きをする事なく。
黒ずくめの男をじっと、見上げる]
――回想 朝・自室――
[目を開ければ、両の瞳に映るは豪奢な天井。
晒された右眼を髪を梳かし隠しながら、女は安堵の息を漏らす]
まだ、追い出されはしなかったようね――
[人間の思いまではわからねど、少なくとも、魔神の不興を買った訳ではなかったようだ]
[指輪から、何やら囁くような声がする。
耳ではなく、別の感覚で捉えたようでもあるその声。
本日追放された者の名は――]
ヒジャービル……。
[――女がその名を念じたのは何故だったか。
エルハームもスィフリアも、敵に回すは厄介と感じたからかも知れぬ。
そして同時に、女は自身の名を念じた者も知る]
……ユーグ、ですって?
[眉を顰めて浮かべるは、不快を示す表情。
昨夜の口振りでは、彼はこちらに協力的に見えたのだが]
やはり、素直に信じるのは危険ね――
[彼女の名を浮かべた真の理由など知らぬまま、女は舞の衣裳を隠す群青を、身を守る鎧が如くきっちりと着込むのであった]
――回想・了――
― 廊下 ―
[そしてすぐにまた、布は耳へと掛けられる。
最早この場で隠す意味も無いのかもしれない、とも思いつつ、武人がかの氷の君の名を呼ぶ事は、きっとまだ、*出来ない*]
―――そうかい。
……おれも斬るつもりはねぇがな。
[意味がない。
と、小さく呟く。
白い布が揺れて、露になるは裂けた口と
鮮やかな孔雀石色の鱗。
眉間に皺を寄せて片眉を上げた。]
……ああ、ろくでもねぇな。
―――そいつは聖王の趣味か。
― 青と白銀の塔 ―
[白銀と青の姿は窓辺に凭れ、腰掛ける。弾かれた魔力の震えに、眉を顰めたは一瞬]
貪欲なるヒジャービル…やはり恐れる者が居たか。
[白い掌には深き神秘の群青に、かそけき星煌めく瑠璃(ラピスラズリ)の駒]
人知を超える叡智とは人に恐れを抱かせるもの…時には己自身にさえ。
その恐れを、其方はいずれ超えることがあろうか?
[白い手が、瑠璃色を空に投げ出すと、それは明るい蒼穹の中に切り取られた夜空の一片の如く、ふわりと宙に浮き、昼には飛ばぬはずの鳥の姿を取って羽ばたいた]
[蒼穹に溶けるように姿を消した、瑠璃色の梟の幻を、廃墟に投げ出された錬金術師が目にすることがあったかどうかは、魔神の与り知らぬこと]
[友はどのように思っただろうか。今は黙したまま男を乗せ砂地を歩む。
ゆらゆらと揺れる地平向こうの陽炎。それが掠れ眼に捉えられなくなってくるは近付いた証拠]
夜までには着けるだろうか。
何故だろうな、長く離れていたようにも感じる。
[隔絶された空間でも同じ刻が流れているのならば、数日も経っていないはずなのに。近付くオアシスを懐かしいと感じてしまうのは、彼の宮殿での生活が感覚を狂わせたのか。宮殿に囚われてしまったのやも知れぬ]
俗世を懐かしいと感じてしまうとは。
あの地はまさに魔宮だな。
[囚われたのは、想いだろうか]
――廊下――
[群青の影が廊下へ現れた時、既に二つの影が其処にはあった。
会話の内容まではわからずとも、敵対していたはずの二者の雰囲気が、随分と和らいだような印象を受ける]
御機嫌よう、ザファル、スィフリア。
[そう二人に挨拶するも、視線は若干スィフリアへと多く注がれていた]
−駱駝小屋/明けの明星が消える頃−
[夢のなかで、打ち鳴らされたのは銅鑼にも似た楽器。
バラバラの青い手足がしなり、万華鏡のごとく円を描き広がり一つの紋を形作る。
青い紋はこちらを誘うように揺れ動き、その無数の腕に掴まれて目が覚めた。]
いてて……。
おい、俺はお前らの餌じゃない。
[銅鑼と思ったのは駱駝の鳴き声だったのだろうか。
長衣の襟首を食む駱駝に歯を見せ追い払うと、寝床としていた藁束から身を起こす。
指に刺さるような痛みを感じ手元を見ると、絡み付く金と銀が震えていた。
二つの震えが囁くは、錬金術師の男の名前。
次いで伝わるそれぞれの思い。]
なるほど。こうやって追い出す訳か。
[邪魔だとでも言うように、頭をつつく駱駝の鼻先を追い返し、藁束のなかで暫し黙する。]
― 緑の中 ―
[緑の中、翠の紋様を纏う女は一人佇んでいた。
伏せた睫に光る朝露は、神の祭壇に捧げる白い花めく。]
――…ヒジャービル、
[『そなたの魂に幸あれ』
翠の紋様の影で、深紅の唇が堕落から逃れた魂を祈る。]
宮殿を去りしはあの者だけ。
…ザファルは未だここにあるのね。
―中庭―
……残念ねぇ。
[緋は豊富に水を湛える噴水の傍。
縁に腰掛けて差し向ける手の上に白の蝶。]
あの御方の事はあまりよく見なかった。
惜しい事かも知れないわ。
[居なくなった者を語りそう言えど、口許には変わらず笑みの気配。
声掛ける先は蝶か無口な“彼”か。]
[廃墟とオアシスを繋ぐ丁度中頃へと辿り着いた頃]
───。
[不意に何かを感じ、廃墟へと振り返る。その先に何かが見えたわけでも無い。ただ、形ならぬ何かを感じた]
…………。
[枯色の瞳を覗かせ、何を言うでもなくただ廃墟がある方を見つめる。一通り眺め、何も見えぬことを確認すると、また前方へと視線を戻した]
いかんな、まだ未練でもあるのだろうか。
あまり長々と引き摺っては居られぬと言うに。
[ふ、と短く息を吐き。ゆるりと横に首を振った]
[黙したまま、指輪が語る候補者と魔神の意図を思い、もうここには居ない男を思う。]
ああ、そう言えば結局、何を望むのか聞けないままだったな。
[呟くと、それに答えるように藁束が動いた。]
ん?
まだ他にも居たか?
[駱駝か鳥か、はたまた使い魔か。音を立て揺れる藁束に声をかける。]
[湿り気を帯びた衣を物憂げに揺らし、女は緑の中を行く。
黄金の魔神に遭うを恐れつつも使命は果たさねばならない。
『”エルハーム”の願うことをなぞらえるのは出来ても。
その先――ましてや今の状況で彼女が何を思うかはわからぬ。
魔神の誘いに乗りしならばわかりもしたが…我には出来ぬこと。
ならば、弾かれる前に使命を果たさねば。
人の子の魂の堕落、魔の誘惑の腕を見逃すわけにはゆかぬ。』
物思いは心の内だけに留め、”女”を装い天使はさまよう。]
レヴィーカ、おはよう。
[女が来た頃、既にまた口は隠されているかもしれない。
武人は、ゆらり、白を揺らして体ごと女へと振り向いた。]
おはよう、スィフリア。
[視線を戻し、挨拶を返す]
昨日は――
[言い掛けて、しばし逡巡するように口を噤み]
――危なかったわね。互いに。
[酷く遠まわしに、探るように触れるは、互いに注がれた念の事。
あと一人でも念じる者が多ければ、今日宮殿から消えるのは己らだったかもしれず]
― 廊下 ―
[人の子の武人の視線を感じ、足を向けるのは柱並ぶ廊下。
視線を受けて来たことを匂わせぬ眼差しで、集まる人々に言う。]
――…ご機嫌はいかがかしら。
[魂捧ぐを願った黒衣の者、指輪に念じたその者に視線を向けて。]
昨日…――あぁ。
[朝方に指輪より告げられた事実。
武人は今気がついたという風にも見えるかもしれない。
その姿は、何処か儚い風を纏う]
そうだな。
――恨み事を言いに来たか?
[小首を傾げ、じい、と、瞬かぬ眼がレヴィーカを捉える。
自身が告げたのは彼女の名前だったから。]
不滅隊隊長 スィフリアは、黒い外套の ザファル を投票先に選びました。
おはようございます、エルハーム殿。
[彼女に対しての言葉が丁寧になぞらえられるのは、身に染みた癖か武人は滑らかな声を上げる。
機嫌、との言葉は自身に向けられているものなのか少しばかり、探る様子]
……ここでは、俺は人に驚かされてばっかりな気がしますよ。
[藁束よりも細く透明な金糸とその下の陶器のような肌が見えてくると、ため息をついた。]
ここでは太陽は藁束から登るんですね。
おはようございます。貴き御方。
[挨拶の言葉無く、ただ呆れた声で自分の思うままを口にする魔神に小さく礼をした。
顔を上げれば魔神と目の高さを揃えるように座り込む。]
お望みならお話ししますが……聞きたいんですか?
聞きたいねえ。
それ聞かないと始まらないよ。
[ 敷藁の上に座し、目の前の案内人の瞳をしっかりと覗き込む。
対する黄金の瞳も心なしか期待感に輝いているように見える。
――廊下――
[現れたエルハームには、御機嫌ようと挨拶を返す。
その視線の先が黒衣の男と知れば、スィフリアへと向き直り]
恨み事……ねぇ。
別に恨んじゃいないわよ。あたしはまだここにいるのだし。
それに、あたしだって別の者の名を指輪に告げた。
――けれど、あたしの名を告げた理由があるなら知りたいものだわ。
理由なんかないなら、それで良いけれどね。
["清らかなる"武人が、己の意志をもって他者を蹴落とすとは、想像し難いものがあり]
――廊下――
[群青色と蜂蜜色。揺れるふたつの色を黒が映した。]
――よう。
[低く一言。
言葉交わすには黙したまま。
エルハームを横目で見るとほんの少しだけ眼を細めた。]
始まらないんですか。
まあ、そりゃあそうですよね。
俺たちは、願いを叶えてもらう為にここに居るんですから。
[一瞬泳いだ目を誤摩化すように天を仰ぎ、そのまま沈黙する。
柵のむこうの駱駝のんびりと欠伸をするのを待って、口を開いた。]
実は、まだ決めてないんで。
理由か。
―…自分と一番近しいものが自分の一番邪魔になる。
そう思ったが…何分、こう本当に人が放り出されるのを目の当たりにすると、少し思考を深めねばならんと思うな。
[近しい、と言葉ひとつ。
それは武人が何を想ったか測れる言葉なのだろうか。]
……あはあ。
[ 案内人の衝撃の告白に、魔神はたっぷり三十は数えられるくらい経ってから気の抜けた音を漏らした。
形の良い唇がへの字に曲がり、眉間に皺が寄っている。]
― 廊下 ―
[凛と伸ばした背筋で白い武人の礼を受ける。
探る様子も気付かぬ振りで、薬売りの挨拶に顎を小さく引いた。
緩く被る翠の紋様の布から覗く目元は黒衣の男に据えたまま。]
そう、それはよいことね。
……ザファル、二人でお話がしたいの。
よろしいかしら?
[レヴィーカとスィフリアの会話は、少々穏やかならざる内容。
耳を傾けつつ、ザファルの細められた目を静かに見つめる。]
―駱駝小屋の屋根の上―
[キィィィン…と、耳鳴りがした。
ミシェルの耳から入った感覚が脳を揺らし、やがて全身へと伝わってゆく。
ミシェルの身体の芯を揺らすのは、追い出す者を告げる声と声。恨み節というよりは、純粋に「邪魔者」を排除する意志に近いような「味」がした。
ハーブを生のまま歯で噛んだような、えぐみを伴う過剰な爽やかさが、ミシェルの舌の上から口いっぱいに広がった。]
ふふっ。「美味しい」。
――…最初は前菜からだね。純粋な味がする。
[ザファルにも挨拶をひとつ返して、スィフリアへと向き直り]
――近しい?
[その言葉に、女は左眼を細め沈黙を。
今は右の眼は髪の陰にある]
そうかもしれないけれど――あなたがそう思っているとは思わなかったわ。
ふうん、そう――
[武人の素肌もまた、髪と布に覆われほとんど見えぬ。
確かに、近しいと推測させる要素はあるが――]
……そうね。
誰かを追い出すという念もまた、翌日の思案の材料となる。
慎重にしなければならないわね。
[助言なのか挑発なのか。別段敵意は籠らぬ声で女は言う]
そんなことだろうと思ったよ。
大方「まさか伝説が真実とは思わなかったけど、折角来たんだし放棄するのも勿体無いから今必死に考えてる」とかそんな落ちでしょ。
[ 大げさに溜息をついた後、じっとりとした眼差しで案内人を睨む。]
で、これからどうするの。頑張る気はあるの。
[エルハームの言葉には、一度胸の前で手を組み敬礼をひとつ]
では、私は下がりましょう。
[言って、頭を下げる。
レヴィーカの言葉には、ふむ、と頷き]
そうだな。
…魔神殿ばかり見て居るだけでは駄目だとういう事だな。
どうにも策には疎くてね。
[肩を竦めた後、廊下から歩み出そうと足を踏み出す。
レヴィーカが着いてくるならば留めることはせず、中庭へと続く路を]
さすがにお見通しでしたか。
[見た目は自分よりも年若い相手の言葉に、悪戯がバレた子供のように笑う。]
俺は欲深い人間なんで、望みはいくつも在りますが……自分では叶えられない願いなんて、そうあるものでもない。
叶えたいもんは自分で叶えちまえばいいですからね。その方がずっと価値は高い。
だから、ここにいて皆の望みを聞いて、駆け引きしたり相手を蹴落としたりするのは楽しいんです。そっち方面に頑張る気はありますが。
ただ、蹴落とした先に何を望むかは、まあ、分かりませんね。
― 廊下 ―
おれに話?
[怪訝そうに眉を寄せる。
翠の貴婦人を見据える黒。]
――何の悪巧みかしらねぇが。
[胡乱下に呟いた。]
ええ、ではあたしも。
[スィフリアに続くように、群青の女もまたその場を離れる]
策、か……。
隊長という地位にいるのだから、そういう事にも精通しているものだと思っていたわ。
――魔神様に近付き過ぎても皆の目の敵にされる。
難しいものね。
[スィフリアに合わせるように、歩を進めるは中庭へ向かう道]
―駱駝小屋―
なるほどね。
[ 黄金の魔神は、悪戯の格好の同士を見つけた悪童のようにニターリと笑った。]
結果より過程の方が楽しいって言いたいんだね。
いいねいいね。そういうの。
― 廊下 ―
気遣い感謝するわ。
[ザファルの返事より先に下がると告げたスィフリアに礼を述べ、
黒衣へと一歩近づく。
身動きにつれ、仄かな水の匂いが茉莉花に混じって揺れた。]
悪巧みはお嫌い?
[円やかな声に笑みを含ませ、誘うのは慣れた仕草。
胡乱な声に引く気配もない。
同じく下がるレヴィーカにも、布揺らす会釈を送った。]
参謀は別に居るからな。
特に、内政等には疎い。
[歩きながら、話すは自身の戦での事か苦手な内政の事か。
それでも、続く言葉には]
魔神殿自身にもな。
[ふ、と息を吐く横顔に過ぎる冷たい風と]
ヒエムス殿。
[小さく紡ぐ、彼の人の名。]
ああ、そういうものかもしれませんね。
[屋根の上、人とは違う食事を味わう妖魔のことなど知らずに天を仰ぐ。]
そんなわけで、今日は魔神殿に追い出された人間は居ないみたいだし、こんなこと言ったら夜明けを待つより早く追い出されそうですが。
俺は願いを叶えてもらうのも良いが、御二方の願いを叶えてみたいなんてことも、考えたりします。
[黄金の魔神と同じ目でにたりと笑った。]
―駱駝小屋の屋根の上―
あふ……あぁ……
[大きな欠伸をかき、背を伸ばす。
錬金術師ただひとりがこの宮殿から去ったという「波動」のようなものが、耳の奥で響いて揺れる。]
――…錬金術師のおじさん、か。
そういえばあちこちを興味深そうに見ていたけれど。
あのおじさんの「望み」って、何だったのかなぁ……?
欲しいものなら、いっぱい買えそうなヒトに見えたけど。あの貴婦人さんと同じくらい。
[一本一本の柱に刻まれた象徴化された花と蔓草の文様にまぎれるように、蛇は、その身を潜めていたが、中庭へと歩む白き武人の零した言葉に、鎌首をもたげ、冷たい青の瞳でじっと声の主と、その連れの姿を見つめる]
そういうものなのかしら。
――でも、いいじゃない。少なくとも、武人としての強さは持っている。
[声に僅かながら羨みが籠ったのは、近しい彼我の決定的な差を其処に感じるからだろうか。
続く言葉にはひとつ瞬いて]
ヒエムス様?
あの方が――そのようには見えなかったわ。
どちらかというと――あなたに興味をお持ちのように見えた。
[孔雀色の鱗を撫でる手。
そして彼の語った言葉は、女に斯くの如き印象を与えていたのだが]
[ 回した首の後ろで両手指を組み、吐息が掛かるほど顔を近付ける。
剥き出された皓い歯が宝玉のように煌めく。]
ところでおじさん。
おじさんに渡した指輪には、印が付いてない?
[ 言葉とともに吐いた息には甘い花蜜の香。]
―駱駝小屋の屋根の上―
[耳に響く「ハーブの味」が一通り引いてゆき、続いてミシェルの耳に侵入してきたのは、奇妙な物音だった。
ゴソリ、ゴトリ、それからブオオといった類の、騒々しい生命の音ならば駱駝が放っても不自然ではない。
問題は、もっと違う場所にある。
駱駝のような生々しい生命の音ではなく、もっと洗練された音の方だ。
歌うように響く声。
駱駝と比べると、猛々しさが随分と足りぬ所作の音。
ミシェルはその正体を確かめようと、屋根にぴたりと耳をつけた。]
色々捨てた結果に得たものだ。
[武人の強さ、という言葉には零す苦笑。
大きく頬が動けば、薄布が持ち上がり孔雀石色の鱗が覗く。]
持って頂けるよう、努力した心算だ。
だが、届いておらぬようだったな。
足りぬか、新しいものか…
[顎に触れ、中庭へと足を踏み入れる。
求める姿である蛇は視界に入るだろうか?]
― 廊下 ―
[辞するスィフリアとレヴィーカへはちらと一瞥くれ、
改めて翠の女へ顔を向けると
意図を探るように眼を細めた。]
別に。
こっちが得意じゃねぇってだけだ。
[ぶっきらぼうな答えだった]
で?
何の用だ。
弱みでも握りに来たか?
[花の匂いの風が吹いた。
その表情さえ分からなくなる程の距離に、その目を合わせ相手を探る。
吹き掛かる吐息は意外な言葉。]
指輪に、ですか?
[藁束に埋もれた指が動いた。]
ああ、なんか変な字が書いてありますね。
錬金術師殿にも全部は読めなかったみたいですが……。
[彼の地では誰が誰を追い出そうとしていたかが知れているなどと知る由もなく。此方に於いてはそれも意味無きこと故に。幸か不幸か、他の候補者達の間に黒き探り合いが始まろうとしていることを男は知らずに居た]
誰が望みを叶えるのか。
その望みとは何なのか。
此方に於いてそれを知る術はあろうか。
契約を成したなら出て来ることは可能なはず…。
縁があれば、見え聞くことも出来るだろうかね。
[未だ気になるのは誰がどんな望みを抱き、誰がその望みを叶えるかと言うこと。己を追い出した者に対し何も感情を抱かぬは、誰が己が名を挙げたかを知らぬが故か。それとも元よりの性格故か]
……ザファル殿の望みが叶うとしたら、見えることも叶わぬのだろうが。
[自分の命を捧げ復活させたい者が居ると言った若者。彼の者は望みを叶えてしまうのだろうか]
[やがて蛇は、音も無く身をくねらせて白い柱を滑り降りた。中庭の露含む若草の上を、するすると這い、濡れて煌めくエメラルド色の痕を残す]
色々捨てた、か。
あの物語の続きの事かしら?
[女が聞かされたのは、ほんの序章のような部分であり。
その先にこの武人が何を語るつもりだったかはわからない]
――あなたの物語でも足りぬとはね。
幾度も機会がありながら契約には至らぬ程だから、余程厳しい目で見ているのでしょうね。
或いは、あくまで人との関わりをもって判断するおつもりか……。
[魔神の心づもりはわからぬまま。
群青の女もまた、中庭へ足を踏み入れる]
うん。
じゃあさ、今日の夜はエルハーム?あの翠色の模様の付いた服の女、あれの姿を念じてくれる?
[ 黄金をさざめかせ、ユーグに囁く。
そこに浮かんでいるのは、成り行きを楽しむ色だ。]
[眼は、ゆっくりと煌めきを追う。
その先に何が居るか、じわじわと視線を動かしながら]
そうか。――そうだな。
一体彼らは、此処にどれだけの時間を埋めておられるのだろう。
[胸元で握る手は、手袋の儘。
白の内には鎧は無く、ただ伝える固さはまた鱗のものなのかどうか。]
「我は、ザファルの意志に、力を貸したに過ぎぬ」
[声は指輪からではなく、スィフリアとレヴィーカの間に滑り寄って鎌首をもたげた、氷の瞳の蛇から届いた。二つに分かれた鮮やかな青い舌が、ちろちろと銀の間から覗く]
緑の奥方の退去をですか?
[色を変える黄金に視線は合わせたまま、口の端を薄く持ち上げる。]
この宮殿の主は貴方だ。望めばいつでも追い出せるでしょうに。
何をお望みで?
― 廊下 ―
[廊下を囲む柱に白銀の蛇が居たかは知らず。
女はザファルの黒衣を撫でるように深紅の爪先を動かした。]
弱みがあるなら握ってみたい気もするけれど。
そうではないわ。
[もう一歩近づいて、男の顔を見上げる。]
わたくしがお前の名を選んだ理由、知りたくはない?
興味あるならおいでなさい。
[冷えた気配をすいと引いて、女の部屋へと男を誘う。]
― 中庭 ―
…――ザファル、の。
[ぐき、と、音がするかという程固い動き。
ヒエムスの声に、肺の中の空気を全て出すかというような息を、胸元に手を置いて吐いた。
瞬きせぬ瞳に薄く透明な膜を張らせ、膝を曲げ蛇の方へと手を差し伸べた。]
その数百年の中に――
――ん?
[武人の眼が何かを追っている。
女もまたその視線の先を辿り――
それの発する声に硬直する]
ひ、え、……
[名を呼んだのか悲鳴を上げかけたのかわからぬ裏返った声。
それでも言葉は聞き逃さなかったようで、問うような視線となり]
― 廊下 ―
[きらきらと――銀の気配。白い蛇は視界に入ったか。
未だ指の先に氷の冷たさが残るよう。
女の赤い爪先は黒に映えて滑りいく]
――…じゃあ何だってんだ。
[見上げてくる眸を見下ろす。
眉は怪訝げに寄せられたまま]
邪魔だから。
――というわけでもねぇのか?
[冷えた気配は一度退く。
暫し考えるように緑を睨んでいたが、
警戒を纏ったまま、一歩前へ]
[伸ばされた手から逃れるように、銀色の蛇はくるりとその場にとぐろを巻いた]
「我らが魔力を真に用いれば、其方等を外へと送るは容易い。だが、我は嘆きのザファルが人を追う意志を確かめるがため、力を送った。…そしてアウルムは…」
[蛇の青い瞳が、今一人の女を見る]
「瑞々しきレヴィーカ、其方に力を貸したようだな」
それが出来ないからこうして頼んでるんだけどなあ。
[ 冗談めかして笑い含んで答えた後。
そぅっと耳元に唇近付けて密やかな言葉を吹き込む。]
奥方は天使だよ。
[ 殆ど呼吸音と変わらぬほどに小さな。]
――あたしに?
[アウルムが自身へ力を貸したと知るや、女が浮かべるはぽかんとした表情。
やがてそれは、喜ぶべきかどうかもわからぬという複雑なものへと変わり]
ならばヒジャービルが此処を追われたのは……。
[眉を顰める。
自身と魔神、そしてコーネリアスだったか。
3分の2は己の意志であったらしい]
[手からするりと蛇が離れる。
ぴくり、と、手を胸元へと戻し、口を噤む。
その蛇がレヴィーカと話すを、じ、と見詰める。]
…意志を確かめる為。
[ザファルの。
呟きは独り言にしては大きく、話すにしては小さく]
「己のために人を犠牲には出来ぬという男が、意志、存外、判りやすいものであったな」
[冷めた声と共に、蛇は姿を消し、その場には銀の魔神が立つ]
わたくしは、お前が銀月に退けられたを見ているのよ?
[邪魔だからではないのかと問う男に、目尻に笑みの皺浮かべ。
いつの間にか手にした薄布をふわりと空に広げる。
男を抱く天蓋を作るような、誘惑の為にも見える仕草。]
……死者の復活を願うザファル。
わたくしはそなたが悲劇の鎖を作らぬよう、願ったの。
[干し草の中の密談を知らぬまま、女は真摯に語りかける。
天空神から与えられた名を、魔が呼ぶことは叶わない。
けれど、名などなくとも人の想いを向けられれば――…
指輪は告げた。今日、魔神が去らせた者はいないと。
確信はせねど、いずれは弾かれる前に救いたいと天使は希う。]
こんなに簡単に、金の御方の願いを叶える機会が出来ようとは思いませんでしたよ。
[耳に感じる唇は冷たく、けれど吐息は熱い。
密やかな答えは、これほど距離が近くなければ藁束の軋みにかき消されたろうか。]
天使……。
随分とまあ、恐ろしい天使ですね。
[魔神の言葉の意図が分からなかったから、最初の感想はただそれだけ。
けれど、話して行くうちに思い出すのは目の前の魔神と対になる存在の言葉。]
ああ、天使ってのは恐ろしいもんでしたっけ。
招かれざる客、ですか。
[藁束から腕を引き抜き前に延ばす。
魔神の頭越しに、自らの指輪を確認した。]
それもそうだな。
[むすりとした表情で瞼を半分下ろす。
貴婦人の笑みは毒気を抜く効能でもあるのか。
ふわりと空に浮かぶは緑の薄絹。]
…… 何を謂っている。
[半眼は不意に僅か釣り上がり、緑の女を見た。]
悲劇の鎖を 作らないように?
どういうことだ。
――願いを叶えに来たんだろう、あんたは。
[ずるずるという音を立てながら、屋根に掴まっていようと必死になっているミシェルの耳に、主の声が入る。
『降りてきなさい』。]
はあ……あああああ!!
[使い魔らしく従順に返事をしようとした瞬間、油断したのか、派手な音を立てて屋根から転げ落ちた。]
ぶはうっ!
[重力に操られ、ミシェルの身は、藁束の中に放り込まれた。次の瞬間、全身に藁をまぶしたような姿で、ミシェルはふたりの目の前に現れた。]
清らかなるスィフリア、瑞々しきレヴィーカ。
[冷たい白い指が、二人の前に伸び、スィフリアの孔雀石色の鱗と、レヴィーカの隠された瘢痕を優し気に撫ぜた]
似て非なる其方等、真の望みは何れに?
[翠の守りの中、女の言葉で天使が語る。
僅か釣り上がった目元に、その前髪に指先を伸ばして。]
お前の命を贄に、今は安らぎにある魂を呼び戻すのは。
お前の命を負わせ、そして死しても決して再び逢えぬこと。
悪魔のものとなった魂が、どうなるか判らぬ訳ではあるまい。
[一度口を噤み、二つの塔を睥睨する視線を投げ。
緩やかに首を振ってザファルを慈しみを込めた眼差しで見やる。]
――…そなたがその生を全うし、再び逢うを願う。
人の子よ。人と人との間は、人が解決すべきもの。
神が介入し、人の意志を奪わぬは人の想いを重んじるゆえ。
なれど、魔が甘言に惑うは見過ごせぬと神はおっしゃった。
我は天空神が使い。
魂が嘆きのままに消えるをよしとはせぬ。
[”エルハーム”の面が薄れ、翠なす天使が揺らめく。]
[黒い固まりが落下して来て思わず身を引く。
藁が舞い、駱駝が嘶き蹄を鳴らした。
無惨に散った藁束の中心には黒髪の使い魔。]
随分とまあ、派手な登場だな。
帝王の妻 エルハームは、黒い外套の ザファル を投票先に選びました。
私は。
[ヒエムスの言葉。
冷たいその声音に、指先に、眼を細め]
――或る人物の時の巻き戻りを。
その人物の起こした「事」を無かった事に、と、
思っていました、が…――
[レヴィーカの頬に触れる白い指に眼を向けて、もごり、口の中で小さく言葉を飲み込む。
レヴィーカが何か言葉を紡ぐならばその音を邪魔せぬように、自身の言葉を切る気配]
[ひやり、と。秘められた紫の肌が、冷たい指先を感じ取る。
あの日スィフリアに触れた優しき指が、今は自身の許にも在る]
あ――あたし、は――
美しさを、力の如き美しさを――
[語尾は震え、相手に意味のある言葉として聞こえたかもわからぬ。
その震えが、歓びなのか怯えなのかも、また――]
いたたたたたた…あははは。
ボクはいつだって派手な登場をする運命にあるんだよ…たぶん。
[と言いつつも、目の前に主人がいるせいか、どことなくしょげた様子にも見える。]
駱駝のオジサンは、やっぱり駱駝だったんだね。
こんなところに好んで居るだなんて。
…あ、別にアウルム様も駱駝だってわけではないのですけれども。
―駱駝小屋―
[ 舞い上がった藁がはらはらと小屋中に降り敷く。
割り込まれたような形で、案内人と引き離された魔神は呆れたようなちりちりする眼差しで藁くずまみれの使い魔を一瞥する。
が。
一転、歓声を上げて使い魔の首根っこを捕まえると、拳をぐりぐりと頭の天辺に擦り付けた。]
[ 使い魔をぐりぐりしつつ視線を男へと戻し、]
そう、喚ばれてもいないのにしゃしゃり出てくる迷惑な奴らだよ。
奴らが居ると、契約の結び付きが妨害されてしまう。
[ 声こそ明るいが、口調には皮肉の針が覗く。]
――…、…
[一度、大きく眼を見開く。
それから、苦々しげに眉を寄せた。]
……分かっている。
それでも、おれは――
[左手で、額を押さえる。左側、傷の在る辺り。
声が女のものから“この世のものではない”
魔神と対極にあるであろう存在の響きと知る。]
あんた、
――天使……
[見開かれた瞳は御使いを映して、とまる]
[下から見上げる前髪の影に、傷あることを天使は気付いていた。]
奇跡を起こし、癒すは不可能ではない。
なれど…刻まれし想いまでも消してしまう。
その痛み、そなたが内なる心こそが真に癒せるのだ。
[翠なす指先は、優しく優しく。
触れるを拒むならば触れぬよう、慈しみのみを送る。]
― 中庭 ―
[言葉を切ったスィフリアを一瞥し、レヴィーカの震える声を聞く]
力の如き美しさか。其方は、ただ美しさに幸福を求めるのではないのだな?
[静かに目を細める]
あいたたたたたたたたた!
[頭を拳でグリグリされながら、藁まみれの少年はじたばたともがいている。が…]
喚ばれてもいない…しゃしゃり出てくる?
契約の結び付きを妨害?
……それって。
[ぴたりと動きを止めて、主たるアウルムの顔を見上げた。]
ボクたちの世界の均衡を破る、毎度おなじみの「あの方々」ですか。懲りもせず、ご苦労様ですねぇ…。
[思案を巡らしながら駱駝の背に揺られる]
ああ、オアシスが見えて来たな。
もう少しだ。
[友に休まず歩き続けてもらったためか、日の暮れる前に遠目だがオアシス都市が見えて来る。もう一踏ん張りと、労うように駱駝の瘤を撫で。水袋を取り出し、一口喉へと流し込む。宮殿にて召使が差し出した冷水ほど冷たくは無いが、男に生きた心地をさせるには十分な*ものだった*]
[”天使”の透き通る翠の瞳は、苦しむ人の子を哀しげに見る。
ただ見守ることの難しさを、神に祈る人々は知らぬ。]
わかっているのだな。
それでも願うほど、大切なのであろう。
[責めるのではない。過去のものと扱うのでもない。
苦しむ人の子の痛みを自らが受けた表情で、指先が震える。
額の傷を抑える手に、柔らかな指先を、そっと重ねて、]
それほど大切な者が、
今、そなたが受けている以上の苦しみを受ける。
そしてそなたがそれにまた苦しむ――…そは悲劇の連鎖なり。
連なる悲しみ止めるは、強き心無くば叶わぬ。
なれど、そなたは…その想いを正しき道へ向けられれよう。
我は、そなたの心が鎖を断ち切るを信じている――…
[揺れる揺れる、翠の薄布。
ザファルが心を、天使は見守っている。]
全くご苦労様な話だよ、本当に。
[ 動きを止めて見上げる使い魔と瞬時顔を見合せ、]
……お前だって邪魔だよ。
良いところだったのに。
[ と再びじたばたともがく使い魔を折檻(?)する。]
どう?
おじさん、やる気になった?
[ 振り向き、嘘臭いほど息を荒げて問いかけた。]
……やめろ
[苦しげに、搾り出すような掠れた声。
逃げるように、瞳を伏せた。
天使のいろは、清らか過ぎる。
指先が触れた。]
やめろ
……そんな眼で見るな
今更、
祈っても、 祈っても
神はなにも与えてくれなかったじゃないか…!!
[きつく眉を寄せ、顔を背けた]
――中庭――
[ヒエムスに問われれば、静かに頷く。
女の意志を伺わせる、迷いなき動きで]
美しさがあれば、王の寵愛を受ける事もありましょう。
或いは、ただその名と美しきという誉れのみ残す、伝説の如き踊り子となれるやも知れません。
――あたしはそのためにこそ美を得たい。
より高き舞台へと上るために。
[声の震えは次第に治まってゆく。
それは女が舞台に立つ者故なせる業か。
はっきりと己が望みを言い終えれば、女は黙して武人の言葉を待った]
じゃあ俺はやっぱり驚かされる運命にあるんだろうか。
[開き直る使い魔の言葉に少しだけ遠い目になる。
少年がその主人に頭を小突かれるのに目を細め、駱駝の鳴き声を一つ返した。
金の魔神がわずかに苛立ちを見せるのに、面白そうに目を見開く。]
人間以外にも人気者なんですね。
死者を生き返らせることさえあり得るからなぁ。
天使様が妨害に来るのも分からなくはないですけど。
そういや、なんで奥方が天使だとわかっ……。
[言いかけて、思い当たるのは今日宮殿から消えたのが一人だけであったこと。
魔神が追い出した人間は居ない。]
アウルム様、ボクはあなた様の使い魔です。「良いところ」だったのならば、適当なご命令さえいただければ、従順なるボクは外に出ます。
それから、くれぐれも駱駝さん達には気をつけてくださいね。想像以上に息が臭いですから。
[…と屁理屈をこねたせいか、主による折檻はさらに続く。
ミシェルはアウルムの膝の上で、楽しそうに、苦しそうに、じたばたともがいている。「駱駝のオジサン」と、息を荒げて交渉を持ちかける主に視線を送りながら。]
[魔神の男が息を荒げる様は、初めてここを訪れた時に演じてみせた無言劇と同じ表情。]
どっちのやる気だか。
[半眼で呟くと、くるりと表情を変えて目に光を宿らす。]
まあ、やる気は出ましたよ。
どっちのやる気かは伏せておきますが、ますます面白くて、ここを出て行きたくなくなった。
― 中庭 ―
…私は。
[レヴィーカが震えた声で語るのを耳に聞き。
語り終えると、布の奥で避けた口を開き、ゆっくり、言葉を紡ぎ始めた]
私は皇国の命として、我が国の今後の願いを。
我が隊の命として、我が国の魔術師の時の巻き戻りを持って参っております。
[言葉は、ゆっくりと静かな声。]
その良いところ、にわざわざお前さんを呼び出したのはご主人様じゃないのかね。
[金の魔神の膝の上、はしゃぐ使い魔の鼻を摘むと駱駝の方へ向けさせた。]
まあ、一晩を駱駝とともに過ごしてその吐息は思う存分味わった。
干し草の匂いはなかなかだったが、もう少し良い匂いを嗅ぎに行くことにするよ。
[言うと、身にまとった干し草を払い立ち上がる。]
[ザファルの、苦悩に掠れた声。
伏せられる瞳。
拒絶の言葉。
それでも、重ねた指先はそのままに。]
………。
[祈ったと、与えてくれなかったと。
詰る言葉を天使は透き通る翠に哀しみを刻み、聴く。
背けられた顔に、指先が離れても、尚。
天にあれば見守るしか出来ぬ。
なれど今は、傍にあるから。]
そなたを…見守っています、ザファル。
[翠の薄布ごと、柔らかな両の腕で抱こうと。]
……あははっ。
駱駝のオジサンもさすがにノックアウトかぁ。
うん、オジサンにここの宮殿を楽しんでいってくれると、ボクもうれしいなぁ。ふふふっ。それはホントだよ。
ついでに、「毎度おなじみのあの方々」が居なくなってくれればもっとうれしいんだけれど、ボクはわがままじゃないからそこまでは言わないでおくね。
……、今更…
魔神の側に辿りついた、 今
姿を見せるのかよ――
[掠れた声のまま首を横に振る。
天使の腕。迷いか過去の痛みかに動けないままいっときはその中に納まるか。]
…――いえ。
[握った手は、脇へと下ろされて顔を上げ。
白い顔の中、冷たい青の瞳を見つけて少し俯き]
それが私の、願いでございます。
[小さく呟く声は、僅かに震え。]
[一時、腕に収まる人の子を、天使は揺り篭のよに優しく抱く。
せめて今なりと、痛み和らぐように願う。]
――…我を詰りたくば詰るが良い。
打ちたくば打てばよい。
そなたが想い、ぶつける的はここにある。
[柔らかな声は”エルハーム”のものとも似て。
子守唄のよな優しく穏やかな響き。]
[小屋の外に出ても聞こえてくる使い魔の笑い声に、聞こえないかもしれぬ言葉を返した。]
楽しいさ。
でも、外の世界もまた楽しいもんだ。
[それを、この宮殿に住まうもの達は知っているのか居ないのか。
物思いに耽り歩むと、遠くに煌めく噴水が見えた。
昨日、天幕のあった場所に人の姿は無い。]
今日の物語は御休みかね。
それとも、既に他の場所で語られているのやら。
[太陽は見えないと言うのに、虹を作る水しぶきに目を*細めた*。]
時とは流れ去り戻らぬもの、留まる事無き無限の連鎖、故に我らにも、天空の神々自身にすら時の巻き戻しは叶わぬ。
[震える声を気にかける素振りもなく、銀の魔神はスィフリアの口にした願いの一つを断つ言葉を口にする]
しかし、今一つは叶わぬでもないだろう。
それを不満と思うなら、去るがいい。
――スィフリア?
[何事か言い掛けたような武人に向けて、問うような視線を。
答えがなければそれ以上詰め寄る事はせず、ただ左の眼で静かに見詰めるのみ]
[天使とは天の使い。
ゆえに神の想い知りながら、神に代わり謝罪などできぬ。
それでも、言葉零れたのは――…]
我は半分、”エルハーム”ゆえ。
そなたに謝りたく思うのだ……
[神の想い、人の想い。
――その、狭間にある翠の者の想いが綴った「ごめんなさい」。]
[時を巻き戻すは叶わぬと。
魔神は今、スィフリアにはっきりと告げた]
[女の表情は動かない。
ただ、髪の奥の瘢痕が、微かに疼くを感じていた**]
「真の願いを叶えたいと求めるなら、強さを示せ」
[姿を消した、その後に、指輪から聞こえた声は、やはり凍るように冷えていた**]
[息を詰まらせた、ように見えた。
傷を押さえた手は黒い髪を握り締める。]
うるせぇ ……うるせぇよ。
詰ったって、帰って来や しねぇん だ――
だから、おれは、
[あの銀の魔神も謂ったように。
願いを叶えることは、誰かの願いを叶えないということ。
錬金術師が謂ったように重荷を背負わせるということ。]
おれは――
[首を弱く横に振った。迷いも見える。
一歩だけ、後ろに*下がった*]
[黒髪を握り締める指に、性別なき翠の天使が唇を寄せる。
囁きは緑の葉擦れに似たさやけさ。]
人の子よ。
全ての想いは人の間でこそ、真に成される。
喜ばすも人。悲しませるも人。
そして悲しみ癒すも人の想いあればこそ。
生をまっとうし尚報われぬなら、魂は神の御許で癒されよう。
[迷い、首を振る仕草を見守る瞳は優しい。
一歩下がる身体に、両の腕が柔らかく*解かれゆく*]
見守るは人の想い尊ぶがゆえ。
迷い子を、神は見捨ててはおらぬ……
― 朝・自室 ―
[追い出された者がヒジャービルであったことに目を見開き、指は己が唇をなぞる。]
……――私が。
[あとは、レヴィーカと魔神の一人。
ヒジャービルは自分のことを念じたようで。]
こちらは痛みわけといったところですかね。
……――さて、どうしましょうか。
[窓の外は偽りの太陽の下輝いている。
されど自身は目を開くことなくそっと指輪をなぞった。]
まだ、話していないものも多い、な。
[やがて、ゆるりと日は傾いて行き。
天空を巡る太陽の戦車は西つ方へと駆け抜け、東の空には、夜の女神が薄闇のヴェールを広げようと待ち構えている。]
[近付く久しきオアシス。日が傾くにつれて掲げられる篝火の焔。それを眼にしながら男は支え無き天蓋を取り払う]
感謝するナディーム。
お前のお陰で早く辿り着くことが出来た。
[労うよに腰かけた駱駝の瘤を撫でてやる。吐き出された駱駝の息には、どこか疲れと不満の色が覗いていたか]
[西の地平から射掛かけられた最後の光の矢が消え、夜の帳が大地に降りる。
黒闇の天蓋に嵌め込まれた星々が音もなくさざめき、互いに囁き交わす。]
[男がオアシスへと辿り着き、駱駝を宿屋へと預けた頃には眩き太陽は地平線へと姿を隠す。天には彼の宮殿で眺めたと同じ銀月と銀粒が*煌めいていた*]
― 中庭 ―
時巻き戻すが叶わぬならば、我が皇国にある「秘術」を人々の記憶から消し去る事は可能でしょうか。
今在るものは諦めても、未来に残さぬは。
[ヒエムス>>117の言葉を受け、武人はぴしと背筋を伸ばしなおす。
冷たく青い目をじっと見返して、問いを返し。
その姿が消えさり指輪から声流れるに、また、息を長く吐いた。]
[ゆっくりと傍らに居た女を振り返るは、ひとの動き。
どこから吹いたか、一度風が鳩羽の前髪を持ち上げてキョロリとした爬虫類の瞳を露にした。
そよぐ、翠の香。]
美しさ…
[女が求める物を呟き、上下の瞼が同時に中央へと少しだけ細められた。
そのまま視線はまた、銀の魔神が消えた方向へと戻され]
魔神殿は双方、美しいな。
[零す。
女の返答が在ろうが在るまいが、その後は口を噤み
ばさり、マントを翻してその場を去ろうと足を踏み出した]
―時は過ぎて―
[夕刻も過ぎ、空に薄闇が広がる頃。
武人は中庭の噴水の縁に座り、自らの膝に頬杖をついていた。
緊張や気の張らぬ空気と水の気配が混じる]
…強さ。
[ぱたり ぱたりと、噴水の縁でマントが揺れる。
ぴちゃぴちゃと水面を叩く水の飛沫が霧のように、大気を湿らせて居た。]
―早朝・駱駝小屋―
[ ユーグの気配が完全に小屋から遠ざかると、黄金の魔神は使い魔の少年を小突くのを止めた。
すべらかな腕で抱き取り、今度はきちんと膝の上に座らせる。
そうして、妖魔の白く柔らかい頬に頬擦りした。]
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