情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新
[1]
[2]
[3]
[メモ(自己紹介)記入/メモ履歴/自己紹介] / 発言欄へ
案内人 ユーグ は、古書蒐集家 アルマン に退去の力を使った。
夜が明けると、古書蒐集家 アルマン の姿が宮殿から消えていた。
《★占》 古書蒐集家 アルマンは 人間 のようだ。
果たしてここは現実なのか、はたまた夢の中なのだろうか。
宝玉煌めく魔神の宮殿は確たる存在感を備えてあなたの眼前にあり、薄暗いアルマンの書斎は既に地平に没する太陽ほどにあなたの心から遠い。
いずれが夢であるなら、それはどちらか。
本を読むあなたか。
魔宮にたたずむあなたか。
ただ一つ言えることは、どちらにせよあなたの心は紛れもなくこの物語の中にあるということである――
現在宮殿に残っているのは、黒い外套の ザファル、不滅隊隊長 スィフリア、薬売り レヴィーカ、案内人 ユーグ、帝王の妻 エルハーム、魔神 ヒエムス、魔神 アウルム、吟遊詩人 コーネリアス、錬金術師 ヒジャービルの9名。
― 回想:広間 ―
[貌をあげれば汗で鳩羽色の前髪は張り付く。
虹彩も瞳孔も縦長の、白目の多い爬虫類じみた瞳。
チン、と音を立てて刃を仕舞った後、露になった其れらが隠れるようにターバンを引き降ろすも、濡れた髪はそれらを隠す事は、出来ない。
少しふたりからは距離を取った侭だが、視力がよければそれは簡単に見えてしまうことだろう。
レヴィーカ>>1:271に言われた綺麗、との言葉に、その目の上の眉らしき盛り上がりが中央へと寄り、小さく首を傾けた。
彼女の言った「も」については、聞こえたか聞こえぬか触れぬ様子。]
我が国では、武人は舞う。
舞えぬ武人はおらぬ。
[呟きの語尾が小さくなるのは、ふたりが会話を始めたから。
二歩、下がり息を整えた所、アウルムの言葉>>1:287が降り落ちて
また小さく首を、傾けた。]
ふむ。
あわよくば二人とも誘い出せればと思いましたたが、
岩戸は閉まりぱなしだったようで。
――まだまだ足りませんね。
[>>1:308続く言葉には、ふむ、と頷いてから
チラとレヴィーカの方へと視線を流して目を細めるのは
彼女が今居合わせる事に対して、不満を告げるものでは無さそうで]
水要らずも良さそうです。
ただ…私は彼女のように美しくないので、
色のついた、趣向は難しそうですが
[位の高い者に仕えるが故の冗談を言いながら、手袋を嵌めた手は耳元へ。
耳上から始まり、鼻の上を通る布が、はらり、地に落ちる――]
[鳩羽色の下、虹彩の長い目のさらに下
低い鼻の肌は彩度低く 頬に浮かぶ何枚かの鱗は孔雀石色
横に長く裂けた口を縁取る、乾いた土のような唇。]
一言で言えば、或る「人間」、またそれを取り巻く色々の時間の巻き戻りを望んでいます。
[硬そうなそれが動き、紡ぐ声はくぐもらず良く通る。
瞳はじっと魔神を見詰め瞬きは――しない*]
―自室―
[偽りの夜明け前。
絡みついたままの花の香りに浮かされるように
額に汗が滲んで――目が覚めた。
飾られている月下香。
使い魔は何を思うたか。
ザファルは眉を寄せると、その花に手を伸ばし
しかし触れることなくきつく握り締めた。]
― 現在:浴場 ―
[町のものとは到底違う、ハンマーム(浴場)。
色とりどりの絵が焼き付けられたタイルのアーチ、
中央には噴水が置かれ奥には湯煙の上がる浴槽がある部屋への扉。
町中とは違い、美しい召使達が脇に控えている。
白の武人は朝の早い時間にその場に居た。
召使に何もさせず身を浸すのは水風呂――思い出すは、昨日の舞の後の事。]
…―我が願い、
[小さな呟き
彩度の低い手に嵌まる指輪は、ただ、光を反射するだけ。]
[身を清めた後、変わらず白を纏い極力肌は風に触れぬよう。
腰に曲刃を携えた侭、食堂へと向かった。
料理は何時だって、準備されている。]
魔神殿は、空腹を感じたりするものなのかな…
[良く煮込まれ薫りを漂わせる豆を口に運びながら
ふと呟いた言葉は、指輪が拾うや否や。]
─朝・中庭─
[起きて身嗜みを整え、食事も碌にせず中庭に出た]
問いの答えは無い、か。
元より期待はしていなかったが、少し残念ではあるな。
[機嫌を損ねてもおかしくはない問い。それが解っていても聞いてみたかった問い。中庭を歩きながら、自嘲の笑みを漏らす。
太陽が無くとも日中の明るさを保つ周囲。アガールの布に阻まれ瞳に感じる眩しさは少ないが、噴水の水や葉雫の反射は目につく。少しばかり歩き回った後、噴水から少し離れた場所に聳える木の根元に腰を下ろした]
この眼に映るうちに、書き留めておかねば。
[この宮殿のこと、魔神のこと。この地で見、触れたもののこと。荷から手帳のようなものを取り出すと、一つ一つ丁寧に書き込んで行った。傍らにはいつの間にか現れた果物の籠を持つ召使。時折、空腹を満たすために果実を口に運びながらも、書き記す手は止めなかった]
―朝・青と白の塔の上―
ふふっ。
ふふふっ。
[赤い鸚鵡の姿から、人間のような姿に戻ったミッシェルは、太陽の無い空を見上げて笑っていた。]
「楽しいかい?」
「楽しいよ。」
[緋色の使い魔のように、唇から漏れるふたつの言葉が、絡み合って会話する。もっとも、イーヴのように男女の声が代わる代わる出てくるわけではなく、中性的な声がふたつ重なるのみなのだが――]
「真っ黒の人のコト、どう思った?」
「とってもいいニオイがするよ。」
「でも、まだまだだね。まだ美味しそうじゃないよ。」
「だいじょぶだよ。これからもっと美味しそうになるよ。」
「なんで?」
「人間の欲望は、果実みたいなものなのさ。熟してあまーくなるんだ。」
[ぱたぱたと足を動かし、鼻歌交じりに言葉を紡ぐ。]
「もしあのヒトの願いが叶うなら、ホントにホントに、あのヒト死ぬのかな?」
「そんなの、ボクにはわかんないよう。」
「ねぇ、『死ぬ』って何だろうね?」
「それも分からないよう。でも、きっと大変なコト――」
―夜・広間―
[ 布を取り払ったスフィリアの素顔、それを直視して尚うっすらと笑み――煌めく双つの黄金には驚きも好奇心も、何も浮かびはしない。]
その或る「人間」とは、お前の主のことかな?
[ やはり声は笑いを含む。**]
― 食堂 ―
[昨夜、魔神は自身の姿にも全く興味を示す様子が無かったことに対して、白の武人は何か言ったりはしなかった。
只、問い>>10に対して首を横に振っただけ。]
「もっと古い人間で、ございます。」
[低く告げ深く敬礼を向けて場を去った事を思い出した風。
手袋の内にある指輪に、手袋を嵌めたままの手指で触れ、鳩羽色の内側で瞑目の気配。
食事を終えても、白の武人は長い間その場に座って居た。]
―客室―
[月下香の花を見るときに浮かぶ複雑な眸の色は
朝日の光に透けることもない。]
―― …… 、 くそ …ッ
[結局花に触れることのなかった手で、
左の額に落ちかかる前髪を握り締めた。
僅かに傷が覗く。
白銀の魔神の言葉。
紅い鸚鵡の羽ばたき。
翠の麗人の肯定。
遠い記憶。
花の香り]
……私の望みの場合は代償は如何様になるのだろうな。
死者を蘇らせるには命を以って。
不老不死には再びの死は叶わぬ。
色事や地位などにはそれらしきことは言っていなかったな。
この世の総ての叡智。
果たして無償で得られるものなりや──。
― 廊下 ―
[廊下を歩いていれば、翠の薫りと共に届く水音。
惹かれるように、雪花石膏の柱の間から貌を向けると、
なにやら手帳に書き込むそぶりの錬金術師が見えた。
人差し指で指輪を叩く小さな音。
武人は白を後ろに揺らしながら、中庭へと降りてみた。
さくり、いささか湿った草の感触が靴越しに感じられるのは
朝露か、それとも噴水の水の湿り気か。]
おはよう、ヒジャービル殿。
[無言で様子を見るでもなく
声が、発せられた。]
……分からぬならば聞けば良い。
推測だけでは事は進まぬ。
事実と為して初めて動く。
良きにしろ、悪しきにしろ。
[思案の結論。それを口にし、再び手帳に向かい手を動かす。呟きを聞いても、傍らに控える召使は何も言わず、動かなかった]
《壮麗なる白亜の宮殿の主は、太陽の如き黄金の魔神アウルムと月の如き白銀の魔神ヒエムス。
対照的な二柱であるが、見目の美しさ、纏う高潔な雰囲気は他の追随を許さず。
長くに渡りこの地より解放されぬは、高尚なる思考に起因するのだろうか》
[手帳に連なる文字。一区切りしたところで近付く気配に顔を上げた]
御機嫌よう、スィフリア殿。
[手帳は開いたままに、鳩羽の人物に笑みながら挨拶を返す]
興味深い物でもあったか?
それとも思わず書き留める程果物が美味であったか。
[穏やかな声音で言いながら近寄ると、白と共に纏うは風呂上り故の薄い香油。
召使が彼が齧っていたのと同じ果物を籠に入れ差し出して来たのを見て至れり尽くせりだな、と呟いて手に取りつつ]
岩戸を開けるのは無理だったよ。
次はあの塔の入り口で踊ってみようか。
[少しだけ肩を竦めた。]
ここにあるもの全てが興味深いよ。
砂漠に現れた白亜の宮殿、咲き乱れる花や青々とした植物。
室内に並ぶ調度品、甲斐甲斐しく世話をする召使。
そしてこの地に住まう二柱の魔神。
この稀有な体験を忘れぬうちに留めておこうと思ってな。
[鳩羽の人物が近付くと共に漂ってくる微かな香油。翠の君よりも控えめなそれは男の鼻先を抜けて行った]
勿論、この果実も美味だがね。
眼に映る神秘に比べれば霞んでしまう。
貴殿が舞ったのか?
それはそれは、興味深いものを見損ねたな。
塔の前で舞うと言うなら、私も見物させてはくれまいか。
[言葉はやや軽口めいたもの]
岩戸の主は銀の月かな。
広間で見えて以来、姿を見ぬ。
さて、昨夜天を駆けた銀は彼の魔神だったのだろうか。
成程、書き留めれば忘れても思い出せるか。
貴殿の家は、紙が多そうだな。
[軽口めいた口調に返すは同じく軽口めいた語調の言葉。
噴水の水音が耳に心地好いらしく、足は自然とそちらを向く。]
武人は舞うよ。
だが…――そうだな、それなら見物料を貰おうか?
[くく、と喉の音と共に頬の上の布が小さく上がる。
柔らかい布は筋肉の動きを薄く透かして]
銀の月、だね。
金の陽とは会ったけれど、――…天を駆けた?
この宮殿から出て行ってしまったのか?
[声のトーンが少し、上がる]
記憶に留めても人は老いる。
老いるごとに忘れても行く。
忘れてしまうには忍びないのでな。
勿論紙で溢れておるとも。
書き留めるは目にしたものばかりでは無い故。
研究の方法、結果、全てを書き留める。
次への一歩のために。
[既に癖にも近い行動。荷の中も、書き留める物が大半を占めている。
軽口めいた言葉に続いた笑いの伴う言葉には、わざとらしく肩を竦め]
見物料とな、高くつきそうだ。
出て行ったかまでは分からぬ。
けれど刹那見た様子では、天を旋回するのが見えた。
それ以降、天駆ける銀がどこへ向かったかは見ておらぬ。
……此処まで来て
退けるかってんだ……
[強さを示せ。そう謂われたことを反芻する。
首を横に振ると ぱさりと黒髪が再び傷を覆い隠した。
指輪へ、声が届いたかどうかは分からない。
強さ。そのあてがあるわけではないが――]
…… 最後の希望なんだ。
[相変わらずの黒ずくめの恰好で
廊下へと出る。
風が吹いている。
鸚鵡の姿をしていた使い魔が
不穏に笑っていたことなど知る由もない。]
― 中庭 ―
次の一歩か。
――だが、紙は燃えるから…歩の為の大事は石に刻むが良いと、思う。
[噴水の水面に何を見るか、顔の向きを固定して呟く。
まるで独り言のように、その響きは自嘲めきも含まれて。
肩を竦める様子には、少し肩を揺すって笑い見上げ、
続いた言葉にはふむ、と頷いて、手袋を嵌めた左手指を此方も手袋を嵌めた右手で、撫でるように触れた。]
そうか…
おられぬという事はきっとあるまいとは思うが…
[前髪の隙間から覗く瞳を揺らし、双塔を、見上げる。]
それは確かに。
しかし石も石で割れてしまう恐れがある。
持ち運びも不便だしな。
良き点もあれば、悪い点もそれぞれ持つ。
どちらを良しと取るかは、本人次第。
私は、大事を肌身離さず持つことを選ぶ。
故に選ぶは紙だ。
[傍を離れ噴水の水面を見つめる鳩羽に視線を向けながら、己が考えを口にする。俯いているためか離れているためか、相手の表情は読み取れない。響きに含まれた自嘲に気付けど、問うまではしなかった]
契約が為され解放されたなら、言伝くらいはあるだろう。
不安なれば、指輪を介し訊ぬが良い。
[双塔を見上げる鳩羽とは対照的に、男の細い眼は手元の手帳へと*落ちた*]
そうだな。
石を持ち運ぶはただの阿呆だ。
あぁ、別に貴殿の考えを廃しているわけじゃない。
[噴水から錬金術師へと貌を向けて言葉を紡いでから
続く言葉に、うむ、と、白いターバンを揺らして頷く。]
そう、――そうだな。
不安、か…
[また、手袋を嵌めた左手を右手で撫でる。
彼の目が手帳に落ちるのを見てから、再び白銀の塔へと貌を、向けた。]
おられるならば指輪介するで無く、
直に話をしたいものよ…
考えを廃されているとは思っていないよ。
何事か、思うところがあったのだろう?
[問うまいと思ったが、結局は口を突いて出て。手帳に視線を落としたまま言葉を紡ぐ]
呼べば答えるやも知れぬぞ。
直に話したいと、伝えれば。
アウルム殿曰く、ヒエムス殿は偏屈らしいからな。
何かで気を引くと言うのは難しいのやもしれぬ。
[手はゆっくりと紙面の上で走る]
《望みを叶えようと集まりしは私の他にも6名。
性別、年齢、身分も様々。
されど各々譲れぬ願いを胸に秘めている模様。
二柱の魔神のお眼鏡に叶うは、如何な人物、如何な望みなりや》
…――いや。
[ヒジャービルの言葉に返すのは、生返事のような音。想い返すのは自らが焼いた町か家かと言った所か。
噴水の周りをゆっくりと歩けば、手帳に熱心に書き込む男の姿は流水を透かして曲がり落ちる。]
偏屈、か。
アウルム殿自身も、素直には見えぬけどね。
[少し明るい声は魔神に届いていたら何を言われるか。
レヴィーカとのやりとりを思い出したか、少しまた肩を揺らしてから
何とはなしに、ヒジャービルの手元を流れる水越しに見詰める様子。]
…だが素直に呼ぶではなく気を引きたいと思うもまた、
偏屈なのだろうかな。
[軽い口調で言ってから白銀の塔を見上げ。
口元を覆う布の上から、持った果実を口唇へと押し付け、思案を巡らせているような、態。
背後で、白のマントがゆらり、揺れる。]
[はきとせぬ返答に走らせていた手が止まる。鳩羽の人物が噴水を挟んだ反対側へと歩んだ頃、ゆっくりと視線を上げた]
彼の人物も魔神だ。
一筋縄ではいくまい。
[ぱたむ、と手帳の閉じる音。水越しに見ていたなら、歪みながらもその動きが見えたことだろう]
偏屈のぶつかり合いが、意地の張り合いに発展せねば良いが、な。
[言いながら、座っていた樹の根元から立ち上がる。手帳などを荷へ戻すと、噴水の傍へと近付いた]
失礼、私は一度中へ戻るよ。
また機会があれば。
[相手の礼に対し、胸もとに手を――果実を片方には持った侭だったが――組み、敬礼をした。]
うむ。
また。
[荷物を片した後、態々挨拶に近づいた相手に謝意を。
水面は流水を受け、ゆれ続ける。]
─中庭→宮殿内・廊下─
[歩みはそのまま宮殿の中へ]
さて、既に魔神殿達に願いを告げた者達は居るのだろうかね。
私も呼びかけるべきか、それとも──。
[先に会話した鳩羽の人物が望みを告げた後とは知らぬまま、そんなことを独りごちる。思案を巡らせながら、宮殿内の廊下をゆっくりと歩み進めて行った]
― 中庭:噴水の近く ―
[太陽の無い昼間、砂漠を忘れそうになる清涼な空気。
白の武人はまた、噴水に手袋をした手指を濡らす。
腰に下げた曲刃は幾人もの血を吸ったかそれとも只の舞用なのかは、華美すぎぬ装飾の鞘からは計り知れない。]
…ふぅむ…。
[思案の声が、細く漏れる。
鳩羽色の下、薄い色の瞳に映すのは水面に映りこむ翠の葉と、太陽無き明るい空。]
[硝子の空を見あげる。
銀の塔は煌き、金の塔は輝く。
傅いた召し使いの姿をした魔に一瞥呉れるも
興味はなさそうに。]
―― … 強さか。
[苦々しい呟き。
花の香りが纏わりつくのは
幻か、故意か。]
― 客室 ―
[湯を使い肌を磨かせ、香油を塗りこめる。
儀式にも似た身支度を終え、女は窓枠へと身を寄せた。
銀盆に載り下げられていく品々は宮殿の贅を知らしめる。
女奴隷でありし頃に用いた柳の香すら用意されていた。]
魔神は二人。契約なせるのも二人。
――…どうしたものか。
[濃く化粧した睫を重たげに伏せる。
昨夜、何も言わず添うた黒い男、白銀の幻影が瞼裏に過ぎる。]
[サフサーフと呼ばれた女奴隷、その影を借りても使者は天使。
記憶として知っていても、手に取る感慨はない。]
魔神といえど、彼らは悪魔。
我一人で二人を押さえるは難しい。
嘆く人の子が魂、堕つるは阻みたいものだが…。
[微に入り細に渡る召使――使い魔たちの奉仕。
それは同時に見張られているも同じ。
溜息を零し、細い指に絡みつく金銀を見やる。]
魔の力のみなら我の加護は負けぬ。
なれど人の子の思いを向けられたなら、拒めはせぬであろう。
我の指輪に、魔力はない。
弾かれる前に弾くが肝要なれど…さて、何者が持つ?
― 中庭 ―
…ヒエムス、様。
[小さな呟きは、あくまで自然にでた様子で、指輪が拾うかは判らぬ程のもの。
水の流れに再び手袋をした指を浸す。
白に薄茶の染みが広がる。]
[立ち上る香りを乱すのは夜風だけでなく。
物憂げな溜息を零して、女は指輪をそろりと抜いた。
手の平に乗せた金銀は重く、転がせば絡みつく二匹の蛇めく。]
…手土産はそれほどお気に召さなかったのかしら。
使者を弾くという力。
恐らくは、成せば魔神の元へと一歩近づく術であろうに。
[一瞥をくれた指輪は何も言わず、金と銀の光を弾く。]
知らぬはわたくし達ばかりで、
もう席は一つ埋まっておるのやもしれぬな……。
[手の平を斜めに傾け、反対の指先に向け転がり落とす。
上向けたしなやかな指に、金銀の蛇は滑らかに*絡みついた*]
― 青と白銀の塔 ―
未だ、見つからぬか。
[仮そめの朝の光が射しても、宮殿に変化は無かった。それはとりもなおさず、天使の正体が現れてはいないということ]
全く、煩わしい。
[真珠色の乳酒を満たした銀の酒杯を傾ける。魔神も飲み食いはするのだ。人のように肉体をそれで維持するのではなく、ただ味や香りを楽しむための真似事ではあったが]
― テラス ―
[香る風。
湯も食も召使達が何不自由もなく世話をする魔神の宮殿。
その美しさを目の当たりにすることもなく、永らく愛用としたハープにそっと触れる。
よくよく見ればそこにはきっと小さな傷がいくつも見えて。]
私にはもう、コレしかありませんから――……
[傷跡をなぞるように触れていた指はやがて弦を弾く。
優しい旋律に添える唄。
それは決して哀しい旋律ではない――けれど鎮魂のもの。]
―過日の夜・広間―
[ 深い敬礼の後に踵を返して去り行く武人を、黄金の魔神は黙って笑んだまま見送った。
その背が扉の向こうに見えなくなった頃。]
……ひとつ良いことを教えてあげるよ。
君にとって役立つ事柄ではないかも知れないけれど。
[ 扉のある方角を向いたまま、少し離れたところに立っていたレヴィーカに涼やかに語り掛ける。]
−回想/夜の回廊−
おやすみ。良い夢と良い目覚めを。
[挨拶代わりの旋律に、相手が楽器を持っていたのだと初めて知る。
その音に重ね歌うように、挨拶の言葉を口にした。
弦の余韻が夜風に消えると、傍らの錬金術師を振り返る。]
で、錬金術師殿もお休みですかい。
俺はもう少し庭を歩き回ってみますよ。
[回廊へとゆったり歩む錬金術師を見送って、二つの塔へと視線を向けた。
指輪を口元へと持ち上げて、暫くそのまま立ち尽くす。
やがて溢れたのは声にならない*吐息のみ*。]
――我の力以ても能わぬこと、その一つは過ぎ去りし時の流れを覆すこと。
ひとたび掌(たなごころ)より零れ落ちたる時の砂を旧に復するなど、我が主、永遠の夜の主なる御方でも敵うまい。
[ 艶やかに、密やかに、黄金はさざめく。]
[一度借り受けた部屋へと戻り。置いてあった荷の中から持ち運び用の墨壺を手持ちの荷へと移動させる。しばしの間休憩を入れてから、再び廊下へと姿を現した]
─宮殿内・廊下─
[移動の最中、遠目に見つける黒ずくめの姿。彼の者とも直接話をしたことは無いな、などと思いながらしばし見やる。
それから少し後に聞こえる優しげな旋律。また誰かが奏でているのかと、旋律が流れる方へと視線を巡らせたりもした]
[声が、聞こえた。
武人は驚いて、思わずぱしゃりと噴水の水に手を晒す。]
いえ、用は…――特に。
声が聞きたいと、
[思いました、と。
語尾は武人らしくもなく、少し、弱くなりかけて]
……それからこれはおまけ。
[ 打って変わってニッカリと、色めいて崩れた笑い。]
「美」と言うなら、俺にとっては君もスフィリアも、均しく美しくまた醜いのだよ。
[ 秘密めいた囁きを耳元に送った。]
―庭に面した廊下―
―――武ではない。
―――強さは、なんだ……?
[華やかな庭に宮殿に似つかわしくなく、
難しく考え込む黒は影を落す。
浮いて見える金銀の指輪。
外套の隙間から金細工の首飾りが覗いた。]
……、…
[近く遠く歌う旋律。
僅かだけ目をあげた]
それに、少し話がしたいと思いましたが。
―ヒエムス様は、お嫌いでしょうか。
[声が早口になるのは、
緊張をはらむからなのだろうか。]
−偽りの朝/宮殿−
[一日の大半を外で過ごしたからと、寝所に選んだのは絢爛なる絹の寝台。
柔らかな地面よりも男にとっては慣れぬ場所。
控えめな弦の音は、無神経な男の眠りを覚ますには優しかったけれど目が覚めたのは恐らくその所為。]
緋色か銀か、どっちだろうねぇ。
[まだ眠い頭を掻きながら、寝台に頬杖付いて額に耳をすませる。
やがて旋律に声が加われば、弦のみでは分からなかった弾き手の正体が伺われる。]
早起きなにーちゃんだな。
楽師ってのは、もっと宵っ張りかと思っていたが。
[楽の音に沈みそうになる心を憎まれ口で紛らわせた。
大きく伸びをしておきだすと、食事を求めて広間へと。]
[銀の魔神の姿が、銀の塔から掻き消える。そして、水辺の騎士の上に影が落ちた]
嫌うほどに、我は其方を知らぬな。
[その姿は、きらめく噴水の飛沫の中、濡れる事もなく、水面を堅い大地同様に踏みしめて立つ]
―テラス―
[ そして今、中天に陽の無い昼の、何処までも青く輝ける空の下。
張り出した露台の欄干に肘を置き、楽人の奏する旋律に耳を傾ける。]
― テラス ―
[其処にいつから魔神――アウルムが居たかを知る由もなく、演奏を終えてそっと撫でたハープをまた抱える。
――と、誰かが居るような気がしてはたと顔をあげると]
――どなたかいらっしゃいますか?
[柔和な笑みを湛え、声を発してみる。]
[しばし旋律の下を探ったが、黒ずくめの男の方も気になり、そちらへと歩み寄る]
御機嫌よう、考え事かね?
[声色も浮かべる笑みも柔和なもの。男は、彼の者が己を見て眉を顰めたことを知らぬ]
なら――
知っては、貰えぬでしょうか。
私はそれを、求めます。
[水面に立つ銀。
見上げる様子は、まるで、縋るかのように見える。
きゅ、と両手を胸の前で握りしめた。]
―テラス―
うん、居るね。
[ その声はコーネリアスが思っていたよりも近くから聞こえた筈だ。
つい今しがた欄干に寄り掛かっていた魔神は、瞬きの間にほんの数歩の距離にまで近付いている。]
その曲は何か謂れのある曲なのかな。
[ 実に楽しげに問うた。]
その曲はどういう曲なのかな。
― 中庭・噴水 ―
[縋るような仕草にも、ヒエムスの表情も姿も動じはしない。淡々と言葉を紡ぐ]
其方の何を知れというのか?
己の望みを語るか?
―テラス―
うん、居るね。
[ その声はコーネリアスが思っていたよりも近くから聞こえた筈だ。
つい今しがた欄干に寄り掛かっていた魔神は、瞬きの間にほんの数歩の距離にまで近付いている。]
その曲は何か謂れのある曲なのかな。
[ 実に楽しげに問うた。]
そう、ですね…
望みも、ですが。
――アウルム様がああおっしゃる程ですから、
退屈は…ありませんか?
[自分に出来る事は何があるだろう。
思案する貌を、ゆれぬ水面はただ、移す。]
― テラス ―
――……!
[返る声は想像していたよりもずっと近く、驚きと戸惑いの混じった表情は声の方向へ向けられはしたけれど]
アウルム、ですか。
[聞き間違うはずはなくも、つい口をついて確認の言葉は出る。
一歩距離を取ったのはこれもまた自然と行われた動作。]
いえ……ただの、鎮魂歌ですよ。
但し、死を悲しみになぞらえず、神の元へと向かう喜びを
たたえた唄――……母が好きだったんですよ。
[にこりと笑い、奏でし唄を伝える。]
― 中庭・噴水 ―
[魔神は僅かに首を傾げた]
退屈か。確かにアレは、退屈すると死ぬそうだが。
………
[己については語らず、白い指先をす、とスィフィリアの隠された貌に触れさせる]
退屈を慰めると?
[朝食の残りの果物を片手で弄び、庭に面した回廊に出る。
勢い良く点に向かって放たれる水の向こうに、鳩羽色と銀が見えた。
白銀の魔神を偽りとはいえ昼に見るのは初めてのこと。
好奇心に駆られ、その場に立ち止まる。]
――可能なら、ば。
[こくり
白い指先が動くを鳩羽の隙間から瞬きもせずに追い、触れられた箇所の薄い布は、はらり、落ちた。
渇いた土のような唇と頬の孔雀石色の鱗が露わになり]
何かお好みはありますか?
話でも舞でも、――ある程度の事ならば出来る心算でございます。
[ぴくりと
小さく肩を竦めると、白のマントが、揺れた。
冷たい――]
神の許へねえ……
[ 穏やかな声ながらそこに僅かな揶揄が滲んでいるのは、やはり善神とは相容れぬ存在であるが故か。]
君の母上はもう亡くなっているのかな。
― 中庭・噴水 ―
[いつのまにか、ヒエムスは噴水の水の上からスィフリアの、すぐ前に動いていた。手も足も動かしたようには見えぬというのに]
話か舞か…
[冷たい白い指先が露になった孔雀色の鱗の上を慈しむように撫ぜる]
[相手の声に含むものに気づいたとしても、表情は変わらず]
そうですね。
故郷と共に、今はもうこの世には。
[近づく気配には半歩下がりかけ、戯れに弾く一音。]
母にとっての死が幸せかどうかはわかりませんが
少なくとも悲しまれたくはないのでしょう。
恐らく、この唄が哀しい唄ではないから好きなんですよ。
……――魔神殿は神がお嫌いですか?
[名ではなく魔神と呼ぶ声はどこか悪戯に。]
― 中庭・噴水前 ―
[やがて魔神の指は、乾いた土色に触れる、ほんの一瞬、その堅い唇が瑞々しく柔らかく潤ったように感じられたはず]
ならば、語るが良い。其方が抱きし物語を。
[弾ける水の向こう、鳩羽色に孔雀石が混じる。
水に歪んだ視界でその詳細を知るには遠く。
それでも興味を引かれ一歩乗り出せば、魔神の体が孔雀石を隠した。]
[錬金術師の声に、黒ずくめの男は顔を上げた。
前髪の奥で眉が寄る。]
――――錬金術師の。
[腕を組み、顎をひいた]
魔神に恋わずらいさ
[全く色のない声で言った。]
ん、
[頬を撫ぜられれば、感触はあるらしく、
小さく竦めた肩はまた、竦められた。
瞬きを殆どせぬ目は、魔神から離される事はなく]
哀しき皇国の姫の話。
駱駝使いの幸せな結婚の話。
――ある国の強さの秘密の話。
[それにゲームの相手も何でも、と。
伸ばされた手に手袋を嵌め濡れた手を
重ねようと、そっと、上げた。]
敵だからね。
[ 間髪入れず応えが返ってくる。
軽やかな笑い。]
……ねえ、君は何のために来たのかな?
少なくとも神に祈るためではあるまい。
[寄れば詳細は知れるが、相手にもこちらは知れる。
そも、人ならざるものであるならこちらには気づいているかもしれぬ。
それでも、それ以上踏み出すのは躊躇われて、流れる水の音に耳を澄ました。]
― 客室 ―
[耳を傾けていた旋律が途切れ、女は緩やかに瞼をあけた。
窓枠に沿わせていた深紅の爪を口元に持ち上げる。]
もう終わりなの。
緋の者とはまた違う…優しい音だわ。
[窓枠に腰を半ば乗せるようにして、奏でていた姿を探す。]
ヒジャービルと申す。
貴殿の名も聞いてよろしいか?
[僅かな変化には気付けたかどうか。こちらに視線を向ける仕草、色の籠らぬ声から友好的では無いことは理解した]
ほぅ、貴殿の望みは魔神と恋仲になることか?
思い詰めているように見えたはそのためか。
[色なき声からそのようなことでは無いと解って居ながら、言葉は軽口めく]
[固く裂けた唇に潤いが戻れば
土色の肌に、少し、赤味が戻るか。]
――此処でよろしいですか?
[ぱしゃり
少し乗り出せば、水の跳ねるが白に飛ぶ。]
敵、ですか。 ――そうですね。
私にとっても、少なくとも味方ではありません。
[さらりと告げる間も穏やかな表情が崩れることはなく]
何のため……其れは、貴方方に会うため。
陳腐な願掛けが効いたのか、それとも導きか。
今こうして目の前に。
[それは目の前過ぎるほどに違いなく。]
今暫く、この距離を保ってはいただけませんか。
[反射的に引いた身は次には留められ、更に次は留まれという。]
― 中庭・噴水前 ―
構わぬ。
[口調は常と変わらず、冷たくそっけない。しかし重ねられた手を拒むことはなく、青の瞳が赤みの差した異貌を見つめる]
作られた幸福の物語は要らぬ。其方の見た悲嘆、苦悩、それをこそ語るがいい、清きスィフリア。
[先刻、その肌を撫でた指が、濡れて色を変えた白を軽くなぞった]
へえ?近寄るな、と?
[ 金の眉がきゅいと上がる。
声に含まれる震えを揶揄するような響き。]
……まあいいや。
それではそうまでして会いたがった魔神に願うことは何?
もう無いという故郷に関することなのかな。
[向けた視線の先、テラスでは下がれば追う様子。
翠色のヴェールが微かに揺れる。]
太陽との逢瀬。
邪魔をするは…無粋かしら。
[円やかな声が笑みを零し、言葉と裏腹に身を翻す。
競う相手、けれど魔神の機嫌は損ねたくはない。
テラスに赴くのではなく、廊下の柱の間を緩やかに泳ぐ。]
薬売り レヴィーカは、帝王の妻 エルハーム を投票先に選びました。
……ヒジャービル……。
[名前を口の中でだけ呟く。
見つめる漆黒は、不機嫌なようにも見えた。]
……ザファルだ。
[ややあって、そう名乗る。]
――…
[こめかみの髪を梳くようにしながら、
恋仲になると乗ってきた錬金術師を胡乱げに見る]
思いつめてるのしかあってねぇがな。
[ぼそりと呟いた]
―テラス―
[ 微笑う魔神が横に手を伸ばすと、その指が丁度触れる位置に果実を盛った鉢が差し出される。
一つ掴み取り、いつの間にやら手にした骨の柄のナイフでするすると薄い皮を剥ぎ取ってゆく。
汁気たっぷりの白い果肉が現れ、甘い香りが当たりに漂った。]
いいえ――
離れずそのままで。
[漸く笑い、閉ざされたままの瞼をゆるりと持ち上げる。
そうして表れたのは紫水晶のごとき色を映した眸。
――見えているのかいないのか、正面を捉えて。]
……次に目を開いたとき――最初に見るものは魔神の姿、
と決めておりましたから……
方向を間違って詰まらないものが見えたら
私が光を消して過ごした日々が台無しになってしまう。
[けれど眸は魔神を見ているような見ていないような]
半ば諦めておりましたが……
明るい色彩をお持ちのおかげで――影がわかります。
今、閉ざし続けた眸を開けることで。
目の前にした貴方の姿が掻き消えてしまうのではないか、
とビクビクしていました。情けないことです。
[諦めていたのは光か魔神か、声を吐くとひとつ深呼吸。]
故郷に関することであり、
また関係のないこととも言えましょう。
私はただ――国を望みに来た。
["国"――と告げる声ははっきりとしたもの。]
――現在・回廊――
[それから、一夜が過ぎた。
召使に朝餉の在り処を教えられるも、珍しく思案に暮れる女は食事も手につかぬ様子で。
早々に食堂を辞すと、そのままふらりと廊下を歩む。
――回廊の中途、立ち止まる案内人を目にしたのはその時の事]
……何を見ているの?
[相手に聞こえるように、けれどごくごく控えめな声量で、女はユーグへ問い掛けた]
[鳩羽色の下、孔雀石を触れられると
瞼らしき位置が少しばかり、盛り上がる。
噴水の縁に腰を下ろすよう、魔神へと手で示してから、白は語り始めた。
ある皇国の王の話。
かの王は、酷く魔術と軍事力に力を入れ
高名な魔術師を多く迎え入れ、
実験を繰り返しているという。
孔雀石色の鱗は触ると冷たい。
自身に触れる白い指を追う瞳は、瞬きを殆どしない――。]
魔神様、触れるを厭わいはしませぬか。
私は、清くなどありましょうか…?
[ローグ、と、別な名前を呼ぶに、
少し貌が俯けば、鳩羽色の前髪が垂らされるが
彼の眼からも、薄い色の眼は隠せても頬の鱗は隠せまい。]
[黒ずくめの男が不機嫌さを表しても、男は笑みを浮かべたまま]
ザファル殿か。
時に私は貴殿に何かしたかな?
随分と向けられる視線が痛いように感じる。
初対面のはず、なのだがね。
[僅か首を傾げるよにし、顎鬚を撫で。抱いた疑問を口にする]
あと、差支え無ければ貴殿がこの地を訪れた理由もお聞きしたいものだ。
[先の言葉は彼方へ投げやり。小細工するでもなく真正面から相手が抱く望みを訊ねた]
―テラス―
[ 白い柔肉にさくりと刃を入れる。]
国、ねえ。
[ 視線の定まらぬ紫水晶の瞳の、底にあるものを見定めようとするかの如くにじっと見据えた。]
― 中庭・噴水前 ―
[ユーグの返答も待たず、スィフリアの了解も得ずにして、語られる物語は、ユーグの指輪へと届く。傍らにあるレヴィーカにも同様に]
[指に巻かれた金と銀。そこから伝わる冷たい振動。
只人には発することの適わぬ声で魔神は語る。]
智慧ある、ですか。皮肉な二つ名ですね。
[魔神の問いには答えぬまま、密やかに言葉を返すと魔神ではない方を振り返った。]
……俺は、よくよく背後に立たれる巡り合わせのようだな。
[それ程迄に、この宮殿に気を取られる出来事が多いのは確か。
ため息を一つはくと、噴水の向こうにも消えこる声で答えた。]
盗み聞きをしようとしていたとこだよ。
薬売りのお嬢さん。
― 中庭・噴水前 ―
[スィフリアの言葉に、ヒエムスは、瞳を細めた]
清いともスィフリア。
聖皇のものでありながら、我等を厭わず、聖なるものに穢されず、清らかでありつづけるは希有。
[聖なるを穢れと呼ぶは、いかにも魔神らしく]
これから、面白くなりそうなところだったんだけどな。
[目の前の娘に言って、目線で噴水の人影を指した。
けぶる雫の切れ間から見えるは孔雀石。]
[笑みを浮かべたままの男に、ほんの少し首を傾ける]
……――錬金術師は好かねぇ。
それだけだ。
[ぶっきらぼうに言い放った。]
そういうのを聞いて回るのは、
あんたの趣味か。
[指輪を嵌めた左手で、自分の足を支えに頬杖をついた。
見上げる形になる。]
[指輪越しに聞こえるは、白き武人の語る言葉。
一度そちらへ眼を落した後、ユーグへと向き直り]
盗み聞き、ねぇ……。
ま、するなとは言われていないけれど。
そうして相手の事を知ろうとするのは、やはり蹴落とす方法を考えるため?
[男の口振りからすれば、以前にも似たような出来事があったようで。
咎めるというよりは、純粋に男のやり口が気になるという風に問い掛ける]
[緑の貴石飾る雪花石膏の柱を泳ぎ、遠回りにテラスを目指して、
話をしている二組を、それぞれに目に留めた。]
そうね、彼女とはまだ話してはいないわ。
[巻きつけた更紗の紋様を揺らして、レヴィーカ達の方へ。]
― テラス ―
失くした国の復興でもなく。
存在している国の侵略でもなく。
国の創造でもなく。
[瞼ごしにわかった明暗は大きなものではなかった。
そうして目を開いた世界は常人が持つ世界よりは暗い世界。]
貴方は面白いことが好きだと言う。
封印されし生活を退屈だと言う。
――契約を結んだ人間がその生を終えた時、
魔神は一体どうなるのでしょう。
[そこで初めて、ヒエムスはユーグとレヴィーカに顔を向けた]
盗み聞かずとも、共に聞くが良い。其方達も退屈をしていよう。
智慧あるユーグ、瑞々しきレヴィーカ。
嗚呼。
[ユーグの視線が示す先を見る。
孔雀石の鱗。指輪から届く声]
あの貌の事なら知っている。
昨日、見たからね――
[言って、女は先程の問いの答えを待つよう口を噤む]
それはそれは、嫌われたものだ。
[好かぬと言われても他人事のように]
この地に集まりし者が如何なる望みを抱いているのか。
その中で誰が魔神殿達のお眼鏡に叶うのか。
それに興味があってな。
魔神を頼らねば叶わぬ望み、それは千差万別。
私には思いつかぬ望みもあるやもと、どうにも気になってしまう。
不躾と理解しながらも、幾人かに訊ねている。
[相手の体勢が低くなったことで見下ろす形となり。顎鬚を撫でていた手を下ろす]
して、聞かせて頂けるのかな?
――清らか等、言われた事が無いもので、
その、戸惑って…しまいました。
[涼やかな空気。
冷たい水音。――冷えた、声。
どれもが武人にとっては心地よいものらしく、
手袋をした侭の手で魔神の手を撫でた後、少しだけ俯いた。]
[現れたエルハームにも、青の瞳は向けられる]
其方も聞くか?たおやかなるエルハーム。
聞き手が増えようともスィフリアは語るを厭いはすまい。
そうだねぇ。
蹴落としたり、足を引っ張ったりするためかな。
今夜でもゆっくりと、薬売り殿の話も聞きたいね。
[女の口調が責めるものではなかったからか、悪びれず答えると、白銀の魔神の招きに応じて噴水へと寄る。
舞い上がる銀の雫と、その前に在る白銀に、眩し気に目を細め、視線を落とす。]
聞きたくとも、戦士殿が話してくれるかは貴方や俺の心次第とはいかないでしょう。
[落とした視線で僅か俯いた孔雀石を珍し気に見た。
近くで見るとその異様ははっきりと。]
―テラス―
……普通はそこで契約から開放されるね。
[ 切り出した果肉の一切れを刃に乗せ、口元へと運ぶとつるりと飲み込んだ。滴った果汁が唇を濡らして顎へ伝う。
目を細め、]
国を奪う気も新しく作る気も無いのなら、どうして「国」なのかな。
……食べる?
[ ナイフを動かし、もう一切れ。
国を亡く、国を望む吟遊詩人へと差し出した。]
嫌いだ。
[肯定する。丁度不滅隊の者にそう謂った様に。
余裕の態度に僅か眉を寄せながら。]
――… そうか。
錬金術師の 知識欲ってぇやつだろうかな。
[とん、と人差し指で自身の頬を叩く。
いやそうな顔をしたが、
隠す理由もないと思ったか、
単に馬鹿正直なのか。]
…… おれの願いは
[一度目を閉じた。]
死者の復活だ。
― 中庭・噴水前 ―
人は、あまりに清らかなものを恐れるゆえ、それを報せることはない。
[スィフリアに告げ、近付いて来たユーグには、静かな視線を向ける]
我が望み、語ると言えば、この者は違えまいな。
[瑞々しき、と形容する声に、思わずその源を見返して]
――ヒエムス様と、スィフリアさえよろしければ。
[視線を移し、スィフリアを見る目はどこか痛ましげ。
続いて魔神が呼んだ名に視線を巡らせば、翠の貴婦人の姿があった]
――あたしの話で良ければいくらでも。
そう楽しいものではないと思うけれど。
[ユーグに向き直り返すはそんな言葉と、そして問い掛け]
あなた自身の事はお話にならないつもりかしら。
[レヴィーカとユーグの声が、響きだけ耳に届く距離。
近づいたその先、噴水向こうに見つけた影に睫が上下する。
前後するようにしてヒエムスの青い瞳を女は映した。]
ええ、是非とも。
[語り手と呼ばれたスィフリアに翠がかる黒い瞳を向け、頷く。
俯いた前髪、僅かに覗く孔雀石に柳眉が僅か動くも言葉なく。
先客のレヴィーカとユーグには、目礼代わりに緩やかに瞬いた。]
望まれるままに、か。まるで妖魔がまた一人増えたみたいだ。
俺の望み故にでは無さそうだけど、聞けるものは聞かせてもらいますよ。
[言うと、噴水の側の床にどっかと腰を下ろす。
異形の戦士が幼子のように撫でられる様に不思議な思いで魔神を見る。
その顔に色は無くとも、指先には何かを感じられるかと。]
― テラス ―
普通は……。
[思案気に呟き、回答有難う御座いますとにこり。]
正確には「国の元」を、作りたいのです。
それを国として形にするのは難しいことですが。
先ほどは創造ではないとは言いましたが
長い目で見ればそれは創造にあたるかもしれません。
私の故郷は、強国に滅ぼされたのですが――……
驚くことでもない、よくある話。
故郷の復興ではない――けれど、思いを抱くきっかけは故郷。
[ひどく端的に故郷を語る。
悲しみもなく、但し笑みもなく声に色はない。]
私の望みは、誰からも奪われぬ代わり、
誰からも奪わぬ国を作るための「基盤」。
[差し出された一切れ。
いただきますと――手を伸ばし、2度目でそれを得る。]
代価を以って、ただ国を作ったとて国はすぐに傾く。
……私の望みはそんなことではありません。
具体的になにをしたいかは、少しでも興味を持って
いただけてからとなるでしょうが。
[困ったように笑うと、癖になっているのか目を閉じて]
― 中庭・噴水前 ―
[是非に、と答える声を聞けば、白い手がひらりと一度翻る。そこには砂漠とは比べ物にならぬとはいえ、眩しき光を遮る白い天幕と、豪奢な刺繍を施した柔らかな敷布が現れた]
ならば、寛ぐが良い。
[言葉と同時に、麗しい見目の使い魔達が冷えた飲み物までも運んで来た]
妖魔?
まぁ、表の皮こそ似たようなものだな。
一枚剥げば、変わらぬよ。
[ユーグの言葉には、固い頬が少しばかり歪んだようにも見えるか。
そしてやってきた別な客人にも、胸元で手を組み敬礼を、ひとつ*]
[薬売りの娘が孔雀石に顔を曇らせるのを、肩肘付いて眺める。]
若い娘の話を聞くってのはいつだって楽しいもんだ。
夜を楽しみにしてるよ。
俺の話もいくらでも。
[ひひひと笑い、手振りで座るよう誘う。
その瞬間、天幕が現れて目を瞬いた。]
[再度強調される言葉にも表情は変わらず]
貴殿の言う通り。
私は知識欲が強すぎるようでね。
あれこれと疑問が口を突いて出てしまう。
ああ勿論、聞かぬ方が良いと思うことは聞かぬようにしているが。
[弁明するような言も、どこかおどけた色が乗る。知識欲の赴くままに訊ねた相手の願い。見下ろす先で漆黒が閉じた]
……なるほど。
蘇らせたいほどに想う相手が居ると。
確か、死者の復活の代償は何かしらの命と引き換えであったか。
[広間で魔神と邂逅した時のことを思い出す。口にしたのは銀の魔神。当てがあるのだろうかと、黒ずくめの男を見やる]
― 中庭 ―
[噴水へと歩を進める間に、翻る白い手、現れる天幕と敷き布。
どこまでも抜ける青空の下、涼やかな影を齎す場に女は笑んだ。]
お気遣い感謝しますわ。
[白銀の魔神へと顎を引いて感謝を表し、敷物に寛ぐ。
重ねられたクッションに柳腰を預け、使い魔達の奉仕を受けた。]
[ 差し出した果実の切れを、コーネリアスが苦心しながらも手で受け取ったのを見て――その端整な顔にほんの少しがっかりしたような色が過ぎって消えた。]
誰からも奪われず、誰からも奪わぬ国……
それが可能だと、本当に考えているのだね。
[ 尋ねた声はそんな気色など全く見せはしなかった。]
興味が無いと言ったら嘘になるだろうね。
如何なる手段を用いてそれを成すつもりなのか、気になるからね。
それが魔神の力があってはじめて可能と信じているのならば、余計に。
[ 快活な笑いには些か皮肉が入り混じっていたけれども。]
あいつらは、表の皮は千差万別、何にでもなるしな。
[戦士から返る言葉は肯定。
冷えたゴブレットを差し出す妖魔を目で指しながら、そのなかに緋と黒の妖魔を探す。]
でも、自分で願うことは出来るのかね。
誰かの望みに従うままなのは、ここが御二人の宮殿だからなんですか?
誰かに使役されていなければ、自分の望むままに生きていけるんですか?
[問いは、白銀の魔神へ。]
――噴水前――
[魔神の手の一振りで、天幕と敷布が眼前に現れる。
こちらを招くような言葉。
そう言われて隠れて聞くのもなんであろうと、女は天幕の陰へと向かい腰を下ろす。
使い魔が差し出す液体を口にすれば、甘い果実の汁が喉を潤した]
――ええ、こちらこそ楽しみにしているわ。
[男の笑い声に返す笑みは悠然と。
秘密の共有を楽しむかのような表情]
[ふと、思い出したように、ヒエムスはレヴィーカへと視線を移した]
美しきものに心動かされるか、と尋ねたな。
美しさは我の外にはない。故に惹かれることもない。
だが、このように清らかなるものには、興を惹かれることもあるやもしれぬ。
[そう告げると、孔雀色の鱗をまた撫でた]
[まったく表情の変わらない相手に
少々やりにくそうな様子を見せたか。]
まったく、“らしい”モンだな……。
教科書通りの――学者みたいだ
[おどけたようなそれへの反応は、
不快と謂うよりは呆れを滲ませて]
……――まあ そういうこった。
蘇らせる代償は おれの命で――と思ったんだがな。
[苦い色が言葉の端に乗る。]
お気にめさねぇらしい。
可能にするのが魔神だと、信じています。
人の力など知れている――ましてや私独りの力など。
[相手のがっかりした表情が見えるほどには見えなくて。
一度閉じた目は閉ざされたまま。
吐いた言葉は期待とも挑戦とも取れるやもしれず。]
興味が無くはない、ならば……ひとまずは上々ですかね。
[皮肉めいた声にもどこか満足気であり]
手札をあまり見せすぎると詰まらなくさせてしまう。
けれどある程度見せねば何を望みとするか伝わらず。
加減が難しいですね――駆け引きは、得意ではないので。
[そう苦笑して。]
[唐突に返って来た答え。女はヒエムスの方へ視線を移す]
清らかなるもの……そうですか。
お答え頂き感謝致します。
[孔雀色を撫でる手。清らかと語る言葉。
スィフリアの話を待ちながら、女は我知らず、右の半面に手を触れた**]
[ユーグの問いには、軽く首を傾げた]
使い魔達は、我が子にして、我が召使い。
あれらがここに留まり、我らに従うは契約にはよらぬ。
望みを持てば、他者に叶えられるは魔には非ず。己自身で叶えようよ。
[魔とは、肉の器を持たぬ者。心が即ち存在そのものであり、強者に従いはしても頼りはせぬ…その理は、男に伝わったか]
今はただ、
今日の時間を下さったことを感謝として。
[両の瞼に片手を添え、軽くもむように。
アウルムの思案げな姿を眸に映すことなく、数歩引き]
またお話が出来ますことを。
有難う御座いました――美味しかったです、果物も。
[柔和な笑みと一礼を置いてテラスを*辞した*]
知ろうとする姿勢が無くば、研究なぞ続けて行けん。
[に、と口端が持ち上がる。それは常とは少し異なり悪戯染みたもの]
ふむ、契約者の命では叶えぬと。
他を犠牲にせよと言うことなのか、それとも頓知染みた答えを望むのか。
[言葉に乗る苦い色に、いつしか男も真剣な表情で考え込み始める]
何か崇高な思想でもあるのだろうか。
― 中庭 ―
[やがて、スィフリアの口から語られる物語を、やはり眉一つ動かさずに聞き、それを終えると、常と同じく、その場から…煌めく噴水の飛沫に溶けるように銀の魔神は消え失せる]
[冷たき月の面が空を飾るまで、その姿を見る者は無い**]
[悪戯な笑みに、少しばかり仏頂面は
和らぐように見えたかもしれない。]
……ご尤も。
[首に巻いた黒い外套の端に指先を引っ掛けて持ち上げる。]
それは「強さ」ではないんだと。
――まるで謎かけだ。
[首を横に振る。]
わからねぇ。
だが、自分以外の誰かがどうにかなるなんぞ――
[謂い掛けて、口を噤んだ。眼を閉じ息を吐く]
さて、魔神の考えは読めねぇよ。
[相手の仏頂面が僅か和らいだように見え、常の笑みに戻しながら元より細い眼が更に細まる]
自らの命を差し出すは「強さ」ではない、そう言うことか?
ふむ……しかし仮に貴殿が命を投げ出して死者を復活させたとして。
復活させられた者は何をか思うや。
その者が現世に舞い戻れど、今度は貴殿が現世より消える。
貴殿の事情は知らねど、そこにどんな意味があるや?
[語りかけると言うよりは、独り言のようにぶつぶつと疑問を口にする。その後に黒ずくめの男が言いかけた言葉を聞き、口を噤む様子を見て]
何が正しいかははきと言えぬが。
他人の生を背負うもまた「強さ」では無かろうか。
[そこまで言い、ゆるりと首を横に振った]
…いや、これ以上は私が口出すことでも無いな。
貴重な話、聞かせて頂き感謝する。
魔神殿達に願うにしても、少しは考えねばならぬと言うのが分かった。
[笑みと共に礼を述べ、軽く首を垂れる]
[己が紡いだ言葉に相手はどんな反応をしたか]
長く時間を取らせて申し訳ない。
私はそろそろ失礼するとしよう。
[それでは、と左手を胸にあて簡略式の礼を黒ずくめの男に向ける。横を通り抜けるように移動し、ふと、足を止め黒ずくめの男に振り返った]
ああ、そうだ。
気が向いた時で構わぬのだが。
貴殿が「錬金術師」を厭う理由を聞かせては貰えぬか。
どのように思われているのか、興味がある。
[知識欲が刺激されたのだろう。会話中も引っかかっていたことを口にする。その言葉に対しての相手の反応も如何なるもの*だったか*]
―昼・テラス―
[ 吟遊詩人が辞去した後も静かに思案に耽っている様子であったが。
腕を解くと黄金の姿は霧散し、そこにあるは真紅の蜂鳥一羽。
白亜より飛び立ち、中庭へと降りていった。]
―中庭―
[ その姿は緑に落ちた小さな紅玉の粒のよう。
繁れる草木の間を放たれた矢の如き素早さで縫い回る。
やがて噴水の水辺に白銀の魔神の姿を認めると、蜂鳥は迷わずそちらへ近付いていった。]
[ 差し掛けられた真白き天蓋、その下に集う男女。
そして、噴水の傍に白銀の魔神に添うように立つ、鳩羽色の影。
蜂鳥はその周りをくるりと一度旋回すると、魔神の肩の辺り、空中で停止した。
囁くような低い羽音。]
[ のみならず小さな翼の生み出す羽ばたきは本当に、人の耳では聞き取れぬほど高速の囁きを送っているのだった。]
珍しく随分と気を入れてるようだが、お前、その人間と契約する気なのか?
[ 黄金の魔神にしては結構真面目なふうに声を装っていたが、内心、見学者のおまけがぞろぞろ付いていることを揶揄したくてうずうずしているのが読み取れる。]
……まあいいや。
そこの「おじさん」と「娘」は面白そうだから、俺が突付くまでは気に食わないことがあっても追い出すなよ?
こういうのがお前の好みとは知らなかったなあ。
[ と余計な一言をぽろりと零した後で。
白銀の魔神の怒りを恐れたのか、反応が返ってくる前に飛び去った。]
―中庭―
[天幕の下には、緋を纏う姿もまたあった。
但しその姿は一回り程小さい。
客人に水等を振る舞う白い手も、昨晩と違うほっそりとしたものに変わっていた。
客人の話が始まれば下がり控え、フードの下から覗く緋の唇は*笑みの形に。*]
[複雑な曲線の模様が描かれた薄い布が引き降ろされ、
分厚く地面の感触を和らげる敷き布が現れても、
武人は噴水の近くから離れようとはしない。
横に裂けた口の横、孔雀石色の鱗に美しく白い手>>117が触れれば、喘ぐように首を肩に埋め、僅かに仰け反った。
そして、話しは、始まる。]
「不滅隊」の意味を、ご存知でしょうか。
かの隊の名は、元々は色んな国の連合部隊ゆえ、誰かが亡くなってもまたすぐに補充される、を繰り返す為についた名前です。
「不死隊」とも、謂われるようす。
[布無き今、くぐもらぬ声。
白銀を見詰める虹彩の長い目は白目多く、
きょろり、左右に動くさまは肉食獣のそれ。]
ですが、現在の皇国の聖皇様は、違いました。
本当に「死なぬ兵」は作れぬものかと。
それを求めて旅に出られ…私は、其れにお供する事となりました。
[紡がれる言の葉は、旅の道中の事。
先ず向かった場所は山の中のある洞窟。
其処に向かう迄の、出立の話し。
そして硬い唇は、其処で話を締めくくる。
最期に「続きはまた」と、思わせぶりな言葉を添えて。]
話しには続きがございます。
それこそ、千と一に分かつ程のもの。
必ず退屈はさせません。
[ですから、と。
続く言葉は胸裏へと落として手を伸ばす。
冷たい白い手に触れられれば、自身の手袋を取り恭しく膝を曲げ硬い唇を押し当てようと。
彩度の低い手の甲にも孔雀石色の鱗は浮き、
普通の人間がする甘やかな口接けには程遠かい其れ。
それでも、武人の精一杯を籠めるかといった風なひと時。
水飛沫に溶けた魔神。
その姿が消えた後も、大分長い時間噴水を見詰めていた。]
―中庭―
醜いだろう。
同情はいらぬよ、一度は望んでなった姿だ。
[そして人がその場に残って居れば、口元を歪めて、謂う。
孔雀石色の鱗の頬を薄布で隠し、薄い色の目を前髪に隠し手の甲も手袋で隠し。
くるりと身を翻すと分厚い白のマントはゆらり揺らめき、紅色の革鎧や腰の曲刃の鞘も露に。
薄布の内側、少しばかり唇に笑みらしきものを浮かべながら、武人はゆっくりと宮殿の中へ向かい、宛がわれた部屋へと向かったのだった。]
― 昼・天幕 ―
[案内人と薬売りの秘密めく気配の名残。
白き武人の濡れた手袋。
孔雀色の鱗を愛でる冷たき魔神の指先。
真紅の宝石のような蜂鳥の訪問。
女は一回り小さき姿の緋から清水を杯に受け、笑みを湛える。
耳は武人の物語に傾け、目は各々の様子を密やかに伺いつつ。
翠色の薄布の影で弧を描く深紅は何を想えど形を崩さない。]
[続きを匂わせ、一度締められる物語。
女の手は柳が風にそよぐよに音のない拍手を数度送る。]
当代の聖皇は己でなく兵の不死を望んだか。
千と一の末がその姿?
[魔神が水飛沫に解けた先を見つめる孔雀色の頬見やり問う。
醜いと言い、同情を厭う声に返すのは頷き。]
――そうね。
お前がそれを美しいと思っていないのは良く分かるわ。
[歪んだ硬い口元が隠れるのを見送り、女は杯を傾ける。
物語の間も清水は氷の冷たさを保ったまま、喉を潤した。]
そこの、緋を纏うお前。
白銀の塔の主は、あの者が厭う姿を清いと言う。
只人に戻りたいと願われても、興を惹かれるのかしら?
[麗しい姿形持ち傅く召使たちの中。
静かに控えながら、口元に笑みを浮かべていたイーヴを見やる。
屋根で楽奏でていた緋の者と気付いたかは*読めぬ眼差しで*]
[錬金術師の言葉にまた黒を纏う男に険が戻る。>>127 ]
――代償が要るってんならおれが適任なのさ。
此れはおれの我儘でもあるんでな。
ただ再び蘇って欲しい
それだけだ。
あれには嫌な顔をされるかもしれねぇが
もとよりそういう心積もりだ。
[それは、錬金術師が独り言のように語るのと同じように
裡に向けて語るような調子であった。]
嗚呼、それが 気にくわねぇのかな…。
[口元を手で包み、ぼやくような呟き。]
――、 …
[眉間の皺が深くなる。
ち、と小さな舌打ちは何処かしら自分へ向けて。]
知った風なこと謂いやがって。
[されど何処か心に触れたか。
様々な感情が浮いては消えた。]
別に
礼を謂われるようなことじゃねぇ。
……相手が相手だからな。
[金と銀の塔を眺めやる。]
――…、
[錬金術師が横を通り過ぎる。
難しい顔のままに向いて]
何だ。
[続いた問いに怪訝そうに片眉を上げた]
――…… おかしなことを気にするやつだな。
…気が向いたらな。
そんときは
アンタの望みも聞かせてもらおうか。
[情報交換のつもりか。
遠くで蜂鳥が飛ぶ音が聞こえた。]
─昼・庭に面した廊下─
ふむ、代償について貴殿は揺るがぬと言うのなら。
それを認めさせる材料を魔神殿達に示すしかなかろうて。
[短く、それだけを紡ぐ。「知った風なことを」と言われると、両肩が軽く上へと動いた]
自らそれを背負う人間や、押し付けられる人間を時折見てきたものでね。
医学を学ぶ者など、それの連続だ。
[その言葉を最後に挨拶をし、すれ違い、振り返っての問い。怪訝そうな表情と返された言葉に、また口端が持ち上がった]
良く言われるよ。
しかし知的欲求には抗えぬのだ。
私の望みなど、貴殿に比べれば陳腐なものだろうが、それでも良ければ。
[己を卑下するような言葉と諾の意を残し、男はその場を去って行く。とうの昔に耳を傾けていた旋律は消え、微かな羽音が代わりに耳へと*届いた*]
― 自室 ―
[自室で水を飲み、ゆっくりと寛ぐ。
キョロキョロと動く瞳は、何らか思案げ。
自身の周りを巡った蜂鳥の飛ぶ音が耳奥に残り纏わりつくを払うかのように、手で鳩羽色を跳ね上げた。
取り乱さぬ風見える帝王の妻>>140の言葉に対して謂った言葉。
「物語の結末を先に述べては、趣も何もございませんでしょう?」
その想いは思案の内か、未だ瞳はキョロキョロと左右に動く。
幾刻か過ぎた後、武人は部屋から廊下へと。]
― 廊下〜テラス ―
[廊下から何気無く出るとそこは、中庭を一望出来るテラス。
太陽無き空は翳り、夕を通り越して夜の気配が漂い始める。
金の魔神が己の望みについて薬売りに述べた不穏な言葉も知らぬ侭、手摺へと頬杖を突いて中庭を見下ろした。
手袋越しに触れる、硬い頬の感触。
周りの輝度が下がると自然と、灯りの焔は柔らかく揺れ始める。]
…聖皇様、お赦し下さい。
[神に祈るわけでもなく、悪魔に祈るわけでもなく。
呟きと共に、只、皇国の謝意や敬意を表す敬礼を宙空にひとつ。]
…どうにも、他人の疑問でさえ解決しようとしてしまうな。
我が性格ながら困ったものだ。
[黒ずくめの男から離れての呟き。顔には自嘲の色]
これが切欠で他が魔神と契約を成してしまっては、全く意味が無い。
[知識欲に加え探究心。疑問の先にある答えを求めてしまうのは、研究を生業としている者の性だろうか。
しばし歩き続け、向かった先は宮殿の広間]
─廊下→広間─
[広間に辿り着くと、食事の机には向かわず部屋の隅にある装飾の施された肘掛椅子に腰掛ける。肘掛に肘をつき、頬杖をついた姿勢で動きを止めた。
右の足を上に膝を組んだ体勢のまま、刻は静かに過ぎて行く。外の明るさが陰り、焔の色が強まって尚、男は体勢を崩さぬまま彫刻のように動かない。常の細き瞳は、傍からは男が眠っているようにも見せたか]
[1]
[2]
[3]
[メモ(自己紹介)記入/メモ履歴/自己紹介] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新