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書生 ハーヴェイ の役職希望が 共鳴者 に自動決定されました。
きみは自らの正体を知った。さあ、村人なら敵である人狼を退治しよう。人狼なら……狡猾に振る舞って人間たちを確実に仕留めていくのだ。
どうやらこの中には、村人が6名、人狼が2名、占い師が1名、霊能者が1名、C国狂人が1名、共鳴者が2名いるようだ。
あー、諸君、聞いてくれ。もう噂になっているようだが、まずいことになった。
この間の旅人が殺された件、やはり人狼の仕業のようだ。
当日、現場に出入りできたのは今ここにいる者で全部だ。
とにかく十分に注意してくれ。
自警団長 アーヴァインが「時間を進める」を選択しました。
[検非違使の検分役に事務的なことを少し伝えるとそのまま返す。
そして影居から紹介されたのは先に出会った赤毛の青年]
そなた…先程のものか。寮には戻ったようだな。いや詫びるには及ばぬ。鳶尾と申すか。影居殿の縁者とは驚いたが主には尽くせよ。
[そして自己紹介する白藤にもまた貴族らしく目だけで頷く]
[御簾の向こうの様子に首をかしげて]
そう、ですか。
ですが、何も返さないというのも礼に反しますゆえ、やはり何か考えておきますね。
[にこり。伝わらないであろう笑みを浮かべる]
[眼だけで頷く橘を見てひとつ、眼を閉じて開く。
空より、ぽつりとしずくがおちた。]
――おや。
[見上げ、眼を細める]
雨ですな。
酷くならねばよろしいが。
あ、ええと…はい、それでは…楽しみにしています。
[照れとはにかみの狭間、少しだけ朱のさした頬を隠すことも思いつかないまま少年は微笑み]
…では、そろそろ、失礼しますね。
あまり長居をしてお体に障ってはいけませんから。
[衣擦れの音少しだけさせて立ち上がれば、退室の辞ひとつのこして彼女の部屋を下がった]
はて、な。
祟りか…それとも、ただ単に事が起こっただけなのか。
[見ていた男の周りが動き始める。
しかし、見るだけでは矢張り分からぬ様ではあったが。
呟かれた言葉には一つ。薬師らしからぬ言葉が混ざっていた]
…しかし。
この周りの屋敷は此処の陰の気を吸うて居るかも知れん。
忙しくなれば良いのだが。
[ひらりひらひら、白い蝶。
いずくからともなく舞い飛び、頭を垂れた肩口に寄り、
ふぅわりと、寸時止まりて羽を休める。]
[ふと頭を上げると同時に、羽はためかせて飛び立ち、空へとまた舞い上がる。]
まぁ。暫くは蟲毒も使わんで良さそうだ…
流れにはなかなか廻っては来ぬが。
求む手が大きくなれば、私にも来るであろう…
[ただ、と。小さく震える]
…なんなんだ?
この気は。
──羅生門・内部──
ああ。
まいたはずの相手に、見つかってしまったかな。
やはり、あの屋敷に行かねば・・
[影のように、だれかがおとこの目の前に在る。
おとこは首だけをわずかに動かした──]
おや。
迎えの者、ではないね?
もしや、物取りかい。屍骸の髪でも取りにきたのかな。
―大殿邸・庭先―
[白い蝶を眼で追う。
枝に止まっているのは白藤が置いた鳥の式である。
羽を広げて、ひとつだけ羽ばたく。
よどんだ空、重苦しく垂れ込めた雲。
おかされない白。]
……雨足の強くならぬうちに、
屋根のあるところへ向かったほうがよろしいでしょうな。
[去る者たちへ向けて。
野次馬の中に立つものに向けて。]
祟りもおそろしいが、
祟られる前に熱病に浮かされては
お話にならない。
[うたうように謂って、また空を見た。
正しくは見ているのは空ではなかったが。]
[邸の壁も空も越え、ひらりと自らの前に現れる白蝶。
そっと、黒き袖の先にのぞく指先差し出し、蝶はふわりとそれに乗る]
…嗚呼。
[小さく、唇が笑みの形に揺れ。
逃げも怯えもしない白き蝶に唇寄せて]
[雨が零れる。降るか降らぬか雲立ち込めた空。
その場を辞そうとする影居に労いの言葉をかけて]
うむ、ではここで解散を。ゆるり休まれよ。
白藤とやら、そなたも務めに励め。
[視界に入る白い蝶、白い鳥。何かその色がとても浮いて見える。
下官を従え、屋敷の門から出ようとすると薬箱背負うかむろ頭の少年らしきが。ふとこちらをみていたかの視線はこの者か?]
[二の雫の落ちぬ間に
つい、と腰のうしろへ手を回し
刀を抜くように、はじめから携行してきたかの如く
さり気なく唐傘を取り出し、あるじの頭上へ広げた]
[踵を返し、門へと向かう。
ちらりと鳶尾を横目で見、]
お前は思うように動いて構わん。
ただ、報告は怠るな。
[言い捨て、後も見ずに歩み去る。]
――羅城門――
[識が歩く度に 世の理は煌き空気へ紫紺と朱銀を遺す
幾何学直線の黄金の軌跡 指先を伸ばして 遊ぶ指先へ絡ませる 血色の悪い肌にひやりと染み入る肌の感触 おとこの指先を頬にあて 上から茫とながめた]
[縫われたように唇は微動だにしない]
[おとこの頭髪、薄茶の濁りの影は微か――闇と紅を孕んでいた]
[ふと。空を見上げれば。
澱んだ雲。小さき雫を落としていた]
…やはり。良い気では無さそうだ。
[小さく息をつく。
箱の上に括っていた布を手に取り、箱に被せようと]
…?
[手を動かす。
しかし、目は先ほどまで見ていた男の方へと戻っていた。
先ほどの言の葉が聞こえたのか…口を開こうとするも。
視線の先、下官を従え門を出ようとする役人に塞がれて。
開きかけた口は閉じ、道を譲るように脇へと寄った]
[蝶は答えるように二三度羽を開き閉じしていたが、]
「──これより、御許に参ります」
[寂びた男の声を伝えた後、はらりと二つ折りの紙片に変じて宮の手元に落ちた。]
[若宮が退室した後にもう一つ蓬餅を口に咥え]
……あれが、若君様、か。
[手に持った餅を眺める。女房に先ほどの態度についてのお小言を左から右に聞き流し、また餅を一口咬む]
おや…これは失礼をした。
[どうやらこちらの行列に押し出されてしまったのか。
薬箱背負う少年のようなその者へ声をかける]
雨降って商売道具が濡れてはまずかろう。
[人に命じ、傘を一つ]
使うとよい。そしてあまり不躾に人を見つめるのではないな。
中に何かいたのやも知れぬが。
[新米姫君の部屋を辞したあと、簀子を軋ませ少年は自らの領域へと戻る。
ちょうど、すぐ手前ほど。
綿殿まで来たところでふっと視線を空へと持ち上げれば]
…春も近いというのに。
[暗い空。
鈍色の雲は光の加減によって黒にも白にも見え、少しだけ空を見つめて]
…花散らす春雷には、まだ幾分早いというものを…。
[微かにつぶやいて、そのまま自分の部屋へと戻る]
・・・怒っていると思うか。
[先ほど中将と話していた時には、あれでもまだ愛想よく振舞っていた方なのだろう。
式の問いに答える声は素っ気無い。]
…あ……。
[蝶がはらりと、紙に戻る瞬間。
少年の瞳は切なげに揺れる。
確かに声は聞こえたのに、今となっては名残とばかりに残る白に、そっとそれを両の手で包んで大切そうに]
…お待ちしております。
[聞こえないとわかっていても零れる声。
懐に名残をしまって、その足は少しだけ急ぎ足で自らの部屋へと戻る]
もちろん、存分に。
[橘にまた頭を下げ。
不機嫌顔で去っていく影居と式神のおとこを見、
ちいさく息と笑みを零した。
その先、道を開ける薬売りらしき姿も視界に入れる。
橘が傘を差し出す様子を見るともなしに見て]
……物好きの多いことだ。
ああ、それともその筋かねぇ?
[そらから戻った、
尾の先を薄櫻に染めた式神を肩に乗せ、その羽を撫ぜる。
注意を促した白藤自身は、さして雨を気にするでもない。]
・・・おや、
[おとこは、盲目と云うほどではないのだが、昼間の光が堪えるほどに目が暗い。
幼い頃に見た景色は鮮明であったのだから、徐々に目は暗くなったのであろうが。暗いはずのおのれの目に、目の前に立つ相手──無我の姿が、ぼうと淡い光を帯びたように映ることが、不可解であったらしい。]
[幾何学模様の光の波紋が おとこの前に浮かんでは 消えた]
[気がつくと 無我の手がおとこの手に触れていた。つるりとした陶器のような感触──。手触りの所為か、おとこ自身が知らず死の側に在った所為か、触れたそれが、ひどく冷たいもののように感じられた。]
つめたい。
い、いえ、その様な事は…
[役人に声を掛けられれば慌てた様に。
しかし、傘を持つ者を見やれば、少し迷い]
…ありがたく、頂戴いたします。
[深々と頭を下げる。
その上、続く言葉に顔を上げることが出来ず]
す、すみません…と、鳥が。
白い、鳥が…居た、ものですから。
[空を見たときに見えた鳥。
真っ先に思いついたことを口にする。
顔を伏せ、男の言葉を待った]
くだらん。
この邸の妖異、祓う祓わぬという類のものではない。
出来うるなら、あのおとこに任せて家で書でも読んでいたい位だ。
[不機嫌そうに吐き捨てた。]
そのような意地のわるい事を仰らないでください。
[肩越しに言いながら、屋敷を振り向く*]
あやかしの類だけではありませぬ。
ひとも、よからぬ気へと惹かれて参ります故。
誰ぞ供をお付け下さい。
[少年と見えたそのかむろ。しかし様子からして己と年も変わらぬ様]
そうか。それはさぞ興味深い白い鳥であったろうな。
あれだけ長い時間見ても見飽きぬとは。それとも鳥やらあの屋敷から何かを感じたか?
[これでも武人、気配を感ずるのは当然で。慌てる様に少し相好崩し]
緊張せずともよいわ。所でその方、薬氏か?
いづくの薬を取り扱う?
[御簾の向こうから雨の音がきこえ、表情を曇らせる]
厄介な雨だなぁ。
これじゃあ……。
(様子を見に行けないじゃないか)
[雨が降れば足の跡が付く。ごまかすことは可能だが、余り好きではなかった]
夜までに、止むといい。
[残った椿餅を女房に渡すと、自分はまた短冊に向かい、和歌を一つ詠む]
うん、おれにしてはなかなかの出来だな。
[自賛し、短冊は小卓の上に投げたまま御簾の外へと顔を出す]
[羅城門の埃を揺らし 吐息のように放たれた おとこの言葉]
[己(おの)が識を、陰陽師でもなきに見ている事を知らず …否。知ったとし、無我が何をしようというのか]
[暫しの間――おとこの背後へ抜けるように目を向け]
[無我はひっそりと身を引くと、羅城門の床へ座りゆっくりと礼を行った]
そのような意地のわるい事を仰らないでください。
[肩越しに言いながら、屋敷を*振り向く*]
あやかしの類だけではありませぬ。
ひとも、よからぬ気へと惹かれて参ります故。
くだらぬことであれど、誰ぞ供をお付け下さい。
それに、あのような素性も知れぬものが
大手を振ってあるくというのも、捨て置いて宜しいものでしょうか。
[部屋まで戻ってくれば、少しだけ疲れた様子で黒の衣を脱ぎ落として淡い若草色の衣に替える。
甘い濃い色目を好まぬ少年には黒は少し気分を難儀にさせるものだったようで、大きなため息が思わず零れた]
…少し、疲れた。
しばらく、独りにしてくれるかな?
[傍仕えのものたちに慣れた様子で告げれば、気に入りの侍従香を控えめに燻らせる。
そう間をおかずして、少年の部屋からは七弦琴の音色がぽつりぽつりと響き始めた。
それは、まるで不穏な空気を慰めようとするかのように、清浄な響きを*併せ持って*]
[ひそやかに流れ行く笛の音は、ぽつりと落ちた雨の雫にて止みました。]
おや、これは。
…涙雨でございましょうか。
[草の陰以外に雨露を凌ぐところを持たぬ身でございますから、
濡れぬように袂へと笛を収めて、ひとときの宿りの場所を探しにと歩を早めます。]
は、はい…
屋敷の中でも、この空の中でも。白き姿を保っておりました。
[顔を伏せたまま答えた。
ソレが良かったのか。屋敷やら、と問われた事に表情を見せることはなく]
い、いえ…私には、その様な事は…
ただ、この屋敷からは…如何様に、言えばいいのか。
重い、様な…
[強張った表情を戻してからゆっくりと顔を上げる。
しかし、今度は視線を合わせようとはせず]
…は。仰るとおり、薬師をしております…
渡来より伝わった物や、山より取ってきた草を、使ぅております…
[仕事の事になれば、ゆっくりと答え始めた]
[時折七弦琴によって奏でられる旋律は決まって人払いをしてから独りで奏でる特別な曲。
邸のものにしてみれば、いつもの曲で済まされるものも少年にとっては特別な意味を持って奏でられるもの]
……ああ、厭な風だ。
[羅生門、しびとの住処。罪びとの住処。
それに似たにおいが、都をつつむように、
波紋のように広がっていく。
屋敷の空気は澱んでいる。]
根が深いねぇ。
[幾度目か呟いて、ざりと土を踏み踵を返した。
屋根の下、段に腰を下ろして庭を見る。
花のかおり、それも滲む気配に沈むように見える。
影居は相変わらずの様子であった。
かれなら看破しているだろう、この屋敷のことを。]
さぁて、どうするかな。
[翡翠が揺れる。]
[扇子で顔を隠したまま、空を見上げ]
……楽の音がする。
若君様、か。
[今までも幾度か聞いた音だったが、あの白い少年が弾いているのだと想像し、自分の指を見た。
所々傷の付いた、細い指。手を見られることがあれば、一目で「病に臥した少女の手」でないことがわかるだろう]
いつまで、こんな事を続けるつもりだろうな、あの狸爺。
[漏らした言葉は傍にいた女房にも聞こえないような小さな声で]
これは。
役人に目を付けられるというのは。
[心の中で思うは、直ぐ傍に居る者のこと]
吉兆ならばよいが…弱った。
少なくとも。蟲毒を扱うことだけは知られてはならぬ…
渡来の草ぐらいならば、金子があればいつでも買いたたける…
[…視線を逸らしたときに、目に入った男。
笑って居った]
…く。
[かむろが答えることはあの陰陽師達と同じこと。少し首傾げる]
ふん。そなたも陰陽師と同じ類と申すか?
京の穏やかならぬ空気を感ずるは同じだ。こんな所からも同じことを聞くとなれば流石にのんびりともしておれぬか。
して、そなた唐の薬も扱うか?
公家の中でも唐の薬やらは専らの評判であっての。前々から興味はあったのだが。よければ一つ、所望したいがいかがか?
[名を聞けば公家の間にも評判の薬師ともすぐ知れよう]
「素性も知れぬもの」か。
[クッと唇を歪める。]
あれで済めばまだ良いが、な。
いずれもっと現れる。
さればさ、押し止めるよりはむしろ…な。
人に後れを取るおれではない。
また、おれの手に負えぬものならば、誰が共におろうと同じさ──
[嘯いて、濡れるのも構わず*足早に大路へと出る。*]
[おとこは、無我をしばらく寝転んだ姿勢のままで見ていた。まるで、唐突に現れたその識の纏う光と、所作の滑らかさに魅入られたかのようだった。]
何 ──を、
[礼を行う無我の動作に気付いてようやく身を起こした。]
わたしは誰ぞに、礼を尽くされるような男ではない。
わたしは──
[名を名乗ろうとして、改めて気付かされる。
おとこには記憶がなかった。
素性の知れた確かな身分の「兄」から、おのれの名に宛てられた文が届き、京の都に戻ることになったにも関わらず]
────……
[おとこは己の名を名乗ることが出来なかったのだった。
当惑して、色褪せた髪ごと頭を振り、おのれと無我の他に、羅生門に誰か──無我が礼を行う対象がいるのではないかと、気配を探ろうとした。]
[御簾の中に戻り、聞こえてくる琴の音に耳を傾けながら、文字読みのためにと置かれた書物を手にし]
こんなもん、若君様ならもっと簡単に読むんだろうな。
[頬にかかる髪を払って以前読んだ続きから読み始める]
[向かう先は、蝶の文を飛ばした相手──
薄い唇に浮かぶは、かそけき笑み。
常日頃不機嫌な顔を崩したことの無いこの男にしては、珍しいほどの穏やかな顔つきである。]
陰陽…?
[成る程…先ほど話して居った男が気になっていたのは陰陽師だからか。
一人納得するが、弱ったような声で返した]
いえ、その…その、陰陽師、という方々の様な者ではございませんが…
ただ。嫌な予感、と、言いましょうか…
[…言葉に迷う。弱ったように言葉を濁して居ったが]
は…はい。
唐の薬。根や葉も扱ぅております。
ご所望なれば…この空の下では。
[もう一度頭を下げると、少しだけ空を見やり視線を戻す]
[雨を避けるようにたどり着いたのは、立派な方のお屋敷のようでした。
塀の庇の下へと身を寄せて、灰色に染まった空を見上げます。
庭から聞こえるのは、どうやら琴の音。
先ほどの川のせせらぎよりも、もっと清浄で澄んだ音色に誘われて、
いつしか寄り添うのは鳥の啼く音のような笛の声でした。]
[――ひらり 翻す衣の裾は水面にえがかれる極彩色の多重円。揺れる衣は黒と墨の間を揺れ続ける色。
――視線こそ茫としておとこに向けられているかすら分からぬが、おとこだけに顔を向けている。当惑、苦悶似る心の揺れ動きに、表情は変化せず。全ての動きが見える程にのろく指が動く――
薄蘇芳の影を指に纏いつかせ懐より取り出した文(ふみ)
然(さ)る陰陽師からの文であり、最期の文だった。彼(か)が遺した識神についての事が書かれている。
都守りしが為、同じく人を守らんが為――辰星(しんせい)と術師の識が織りいだした式神。身体の些少な特徴と形代たる力について、魚のようにまろみ持つ流麗な筆跡で書かれていた。おとこが名をと求めれば]
[ * 辰星 無我 * ――…‥そう、指先で綴るであろう ]
季久さま──
季久さま。
[やがて庭より現われたる男の衣冠はしっとりと濡れていようか──
艶含んで低く囁く声も、姿も、邸の者は一向に気付く気配も無く。]
影居が罷り越しました。
[端麗な笑顔を見せて、*微笑んだ。*]
[現れた気配に気付いても、音は終演を迎えるまでは止まない。
途中で曲がとまれば、周りの者が心配して見にくるからだ。
漸く最後の一音奏でれば琥珀の瞳持ち上げて]
[暫く書物へと目を走らせていた、が]
笛の音だ。外、から?
[手に持っていた書物を小卓に置き、外を覗く。誰かいるような気配を感じるわけでもなく、ただ、笛の音がどこから聞こえてくるのかは見当が付いたのか]
見て来たいが、余り姿を見られるのもな。
どこかの楽好きの貴族が、通りすがっただけかも知れない、か。
誰も彼もが厭な予感という。一人二人なら軽く流せたがな。
いやすまぬ。この件はもう聞かぬよ。
唐の薬はまた。是非とも所望したいものよな。興味もある。
そなた名をなんという?私は橘中将。
確かにこの雨はお互い不都合。日を改めるかよければ今我が屋敷に参るか?
は、はぁ、すいません…
[安堵の息が出かかるが]
は、はい。ありがとうございます…
私の名は…汐、と。言います。
私は、今から橘様の屋敷の方へ…参ることになっても、構いません。
[その名を聞けば、息を呑まざるを得なかったと言おうか。
貴族の家をまわっていれば、何度か聞いた事のある家の名である…
自身の名を告げると、小さく頷いて]
ここか。
[たどり着いたのは立派な屋敷だった。人気はあるようだが、どうも気配が淀んでいるような気がする]
虫の知らせという奴か。任務とは言えどうするか。
[門から少し距離を取り、中の様子を伺っている]
[律も作法もならぬ笛の音でしたが、不思議と琴の音色には沿うているようでした。
軒より落ちる雨音すらも、その楽の音の合いの手のごとく聞こえます。
けれどもそれは、唐突に途切れるのでありました。]
…嘆いて、いらっしゃる。
[かすかな言葉が、笛より離れた口元より零れます。
視線はどこかをじっと見据えているようで、
けれども何を見ているのかは、他のものにはおそらく判らないことでしょう。]
・・・・・・
[先の討伐の時からだろうか。体の異変を感じている。
血が沸きあがるような衝動。破壊という欲望]
まさか、な。
[人食いが伝染するものなのか。それとも本来の姿を思い出したのか。だがそれはまだ自分にとって信じ難い事であった]
違う、某は断じてそのようなものではない。
[女房の方をちらり、と見て、それから庭へとおりる。後ろ髪は紐で結い、傘を被り笛の音がするほうへと]
(声は……めんどくさいからかけないほうがいいか。あんまり出したくないし)
[門へと急ぎ、外を見る。女性の姿のまま外へ出るのは初めてだった]
[立ち上がろうとして、蛆のたかったやわ肉を潰してしまうのは、おとこが弱っている所為だろう。
記憶を失うて以来、おとこは、田舎では、水晶の数珠を片手に屍骸の世話ばかりをしていた。墓穴を掘り、ムクロを地に埋めるところまでを汗水垂らして手伝う墨法衣のおとこに、田舎の者たちは手を合わせ感謝の言葉を絶やさなかった。]
汐と申すか。ほう、その方が。
名は聞き知っている。名の知れた薬師らしいな。
では参れ。入内している姉のご機嫌伺いにぜひ進呈したかったのだ。
色々と話を伺おう。なに、緊張するには及ばぬよ
[指示を出せば供の者が慇懃に汐を扱う。屋敷にても至れり尽くせり。後ほど中将自ら薬について問うがそれをここにくだくだしく記述する必要もなし*]
人の肉は食えない
食ってはならない ・・・決して
二度と。
[何処かから 声が響いた] [低く 地を這うような 声 が──]
[大殿邸に、不穏な影は絶えぬし
野次馬も、訪れるものも後を絶たぬようだ。
中をうかがう気配も増える。
片目を瞑って]
――……、
[何やら言葉を唱える。
枝に結んだ白が淡くひかり、吹いた風が白となったのは
ほんの瞬きの間。
――ああ、厄介だ。
それは唇だけの動きで、声には乗せない。]
…おや。
[雨音に混じる衣擦れの音に、首をかしげて振り向きました。
白糸のごとき長い髪が、肩から音もなくさらさらと流れ落ちます。]
これはご無礼を。
雨に追われてひと時の凌ぎを探していたところ、
聞こえ来る見事な琴の音に誘われてしまいました。
…ご迷惑だったでしょうか?
[見たところ、まだ若い姫君のようだと思いました。
けれども…雨の中でもその鼻は、先ほど川原で見かけた童と良く似た匂いを嗅ぎ付けていたのです。
不思議そうに首を傾げますが、じろじろ見るのも失礼だろうと目を背けます。]
は。ありがたきお言葉…
傘を下さった御礼の分も含め、承らせて頂きます…
[橘様にもう一度頭を下げ、其の後をついていく。
お供の方々の丁寧な接し方に、少し戸惑いはしたものの。
屋敷へとついた後の事を考えれば、まだまだ序の口なのであった…
最も。しっかり商談にはこぎ着けて居ったのだが*]
[塀の傍に立つ男を扇子の隙間から見やり、その手に持った笛を目に留めた。吹くのをやめて何か言葉を発したようにも思ったが、声はここまでは届かずに]
(人、だよな)
[振り向かれ、かけられた声に少しだけ困惑気味に首を振る。
問われれば答えたくなってしまうのは性分で、喉を押さえ]
迷惑などではありません。
わたくしも、ここに厄介になっている身ですから、何の文句が言えましょうか。
……その笛は、貴方様のものですか?
[どこかで見たような笛だと思ったが、それがどこだったのかは思い出せず]
[風は再び澱む。
薬売りは橘と共に去っていった。
ひとり去って、またひとり。
つと立ち上がり、門の外から中を眺める影を見る。
雨はぽつぽつと地面に染みを作った。
――客人の多い日だ。
――もっとも、おれも此処のものではないが。
眼を細める。門のそばまで歩いていって]
このような雨の日に如何されたか。
御用なら、伺いますがね。
[と、武士の出で立ちをした男に問う。]
[いかにも陰陽師、という人物から声をかけられる]
うん?いや・・・・・・
遣いでこの屋敷にやって来たのだが、ここで良かったのかと迷っていた所だ。
して、陰陽の御仁とお見受けしたが、この屋敷の者か?
あぁ。
仰るとおり。
“今は”この屋敷に仕えておりますな。
[首を傾ける薄笑み。翡翠が揺れる。]
遣いの方ですか。
此処は大殿様の屋敷ですが、其方の認識と相違ないですかな?
ならば正しかったようだ。かたじけない。
今は、ということは雇われか。
雇われた意図は・・・某の務めと内容は同じという事かな。
[僅かに目つきが鋭くなる]
…いえ。
此れも私も、道に迷うておるのです。
[恭しく捧げ持つのは、見事な漆塗りの竜笛でした。]
この笛が申すには、紅葉の山へと連れられていった折、
あるじとはぐれ、都へと帰れなくなってしまったと。
対なるもう一つの笛とも、離れ離れになってしまったそうで。
哀れに思いて山より降りてきましたが、都も広うございます。
あるじには未だ行き会えず、こうして迷うておるのです。
それは何より。
[鋭さを帯びた眼にも表情は其の侭で。]
おや。其方も雇われでありましたか。
さぁて、どうでしょうな。
おれが為すのは刀では斬れぬものを祓うことでして。
が、斬れると思うたひとがいたのかもしれませんな。
[謂うと、刀を見て軽く腕を組んだ。]
……務めとはなにを?
道に、迷い?
[まるで笛に魂でもあるかのような物言いに首を傾げる]
京は広く、人も数がおりますゆえ、見つけることは困難でしょうね。
ですが、その笛はわたくしにも見覚えがあるのです。それがどこであったのかまでは憶えていないのですが、それほど昔ではない……。
対となる方を見たもかもしれません。
[この姿で人に会うことなど稀で、だからこそ憶えはなくとも見当がつき]
もしかしたら。
橘の中将様のものかもしれません。
[以前に一度御簾越しであったが声をかけてもらったことがある。慣れない女性の姿に辟易して、こちらから言葉は掛けなかったが、笛を嗜んでいた事も義父の口から聞いた覚えもあり]
ただ、どこに行けばお会いできるのかまでは。
[急速に、空が暗くなって来たようだった。
透明な水滴がぽつりと一つぶ、頭を振ったおとこの額に触れた。探しても、羅生門には生者の気配は無かった。在るのは、おとこと目の前の識。そして──ぬるくあかい匂いと、なつかしき肉のぬかるみを晒す屍骸が在るのみ。
おのれの他におらぬことに気づき、慌てて腐肉のついた指先を法衣で拭う。]
[おとこは、目の前の光の波紋のおごそかさに薄い唇を震わせ、無我の取り出した文を覗き込んだ。
文字を読み取るためには、おとこは息が掛かりそうなほど、無我の傍に寄らなくてはならなかった。とは云え、相手の息がかかるとは到底思えはしなかったのだが、それ故におとこはおのれを息を詰めた。]
…ああ。
悪いね。わたしは、目があまりよくないのだよ。
日の光が強い日などは、眼球の奥がくらくらとゆれるほど。
こうやって近づかなくては、文字が読めない。
な ん──
[おとこの目に、淡く輝いて映るしろい指先が取り出した、筆者の知力をうかがわせる流麗な文字で書かれた文──そこにあったのは、]
たちばな、の。
[その名を心に留めるように、口にしました。]
どのような方なのでしょうね。
この笛のあるじならば…
[白い指がするりと、艶やかな漆塗りの笛を撫でていきます。
その御方が、先だって例の屋敷で行き会った生真面目な役人であるなどとは、狐は思いも寄らなかったのです。]
雨が止んだら、探しに参りましょうか。
[ゆれている、
ゆれている。
澱んだ気配が揺れている。
何処まで結界がもつやもしれぬ。
あかもぬかるみも沢山だ。
此処には死臭が満ちている。
花も咲いて
緑も揺れるのに
あやかしもひとも絶えない。]
――ほんとうに、物好きの多いことだ。
[わらう。
此処から先はなにもない、と謂うように。]
そうかも知れん。むしろ、それが陰陽でどうにかなるのかそれとも某のような武士の力が必要なのか分からぬ。
某の務めか。大した物ではないし、笑うな。
人を喰らうものがいる、らしい。
わたくしも、一度目にしただけですから。
ですが、悪い方ではないと、存じております。
ああ、そろそろわたくしは戻りませんと。案内できればよいのですが、出歩くことは許されていないのです。
[舘の方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、其方を向く。女房の一人が、自分を探しているようだった]
然様、分かりませんな。
斬れば終わるか、祓えば終わるか。
怪異はひとにも憑くと申します。
それと知らず闊歩するか、それと知って振舞うかはさておいて。
[続いた言葉には眼を細め]
――人喰いですか。
……ああ、笑いはしませぬよ。
大したものではないと仰るとはご謙遜を。
それはやはり、この屋敷において起こった
ここ数日の奇妙な人死にに端を発するのですかな?
[其処まで謂ってふと気づいたように]
……ああ、このままでは濡れてしまいますかな。
屋根のあるところに行きますか?
[屋敷のほうへ顔を向けた。]
えぇ、手がかりだけでも得られて助かりました。
わざわざそこまで手数をかけさせる訳にもまいりますまい。
[若き姫君に礼を言い、恭しく頭を下げました。
呼ばれる声を耳にし、その名を胸へと留めます。]
ではまた、いずれ。
[一陣の雨風に、舞うは薄紅の櫻の花びら。
はらはらとそれが地面に落ちる頃には、白糸の若者の姿は既に其処にはありませんでした。]
奇妙な人死に・・・否、詳しい話はこちらでと聴いていたもので。成る程、そのような事が起きていたのか。
ならば”人喰い”と称されて某がこちらに出向くのも頷ける。
屋根がある所か。出来れば長旅で疲れている故少し休みたいのだが、案内して貰えるだろうか。
都を守らん 陰陽師の── 識神 とな。
術師はもう居らぬの…か。
[ぼうとした無我のまなこ。
近づけば、目の暗いおとこにもその色を覗くことが出来る。名を尋ねれば、指先が 辰星 無我 と綴った。
おとこは無我の陶器で出来たかの如きゆびさきと、文をしばらく見つめていた。近目とは云え見つめすぎて「痛」と一度、こめかみを押さえた。]
・・奇縁、なるかな。
わたしは、「兄」に呼ばれて都へ戻らされたばかり。
僅かばかりの法力があるならば、怪事に役立つようにと。
わたしは、花山院の者らしい。
[おとこの記憶には無いのだが、かれ自身が兄に宛てた文におのれの成した修行の成果を書き送ったことがあるらしい。
とは云え、おとこを今になって呼び寄せた「兄」の意図は分からぬ。
真名を知られれば、魂を奪われるやも知れぬと云うのに。何故かおとこは無防備にも、目の前の識に「兄」からの文を見せようと懐を探った。]
ああ、雨だ・・・濡れてはいけない。
こちらの梁の下へ おいで──
春の雨は 冬の雨よりも沁みて つめたい。
[羅生門の下には、皮肉なことにおとこが巻いたはずの車が、にわかに降り出した雨の所為で戻って来ていた。
花山院 師輔の使いの男は、半ば自棄になったように、おとこを*呼んでいた*。]
なるほど、では説明が必要ですな。
おれの知っていることならばお答えしましょう。
長旅とのこと、お疲れ様で。
[すいと手を屋敷へむけて差し伸べる]
ご案内しましょう。
……あぁ、そうだ。おれは白藤と申します。
必要があれば、そうお呼びください。
[と、屋敷へ向けて歩き出す。
話をすれば、部屋が用意されるとの旨を伝えた。
休むまでの間に怪異について聞かれれば、余さず答えた。
雨が散り敷く花びらを叩いている*]
かたじけない。某は富樫影秀と申す。
これでも守護大名の家計だが、某はまだまだ奉公の身だ。
暫く世話になると思うがよろしく頼む。
[今までの経緯を聞きながら、*白藤の後に付いていった*]
[去る男に頭を下げて、自身も戻ろうと振り向く。
雨を避けるかのように走り、そして自身の間へとようやく辿き、待っていたとばかりの*女房の小言を聞き流した*]
嗚呼…影居、さま。
[嬉しそうに、やっと楽を奏で終えた少年は微笑み立ち上がって庭先近くまで]
…お会いしとうございました。
さ、こちらへ。
それ以上濡れては、花だけではなく貴方様まで冷えてしまう…。
[両の手を差し出して招く様は抱き締めるを求める子供に似て]
[微細な粒子が流れを表す―― おとこが文(ふみ)へ目を落とす間(ま)も、無我は茫と顔の向き変えぬままであったから横顔を見つめることになる]
[あかく ぬるく 底なる人々の想いが重なり重なり羅城門は、またゆぅるりと隅から鬼をうみいだし――]
「術師はもう居らぬの…か。」
[後を託す事になったおとこへ頷く]
「わたしは、花山院の者らしい。」
[文を探り、傍へと呼ばうおとこのもとへ 擁かれるように]
[俄かに雨が死臭をくちくちと冒し 誰その声が響いてきた]
[暗がりの中、無我はおとこのこめかみに指を伸ばし――ひたり。手のひらを頬、顎へと*触れさせた*]
[庇へと上がったおとこは、差し招く若宮の傍に跪き、面を伏せる。]
私もお会いいたしとうございました。
若宮さま……いえ。
[すっと顔を上げ、若宮を正面より見詰める。]
季久さま。
[本来は口にすることさえかなわぬ筈のひとの名を呼ぶ声には、幾分かの情がこもっていた。]
[正面に近づく姿をじっと見つめながら]
…貴方様はいつも…樹の影から姿をお見せになるのですね。
[最初に出会った内裏で迷子になった日を思い出したのか、少しだけ口許に笑みが生まれた。
血の繋がりを持つもの以外が呼ぶことはない自分の名を呼ぶ声に滲む感情に、微かに瞳が揺れる。
そろりと、指先は彼の指先に触れられたらとばかりに躊躇いがちにのばされ]
[「いつも樹の影から現れる」という若宮の言葉にクスリと笑う。]
それ故の名ですから……
[目の前の若宮の瞳に宿るいろに、気付いて居るのか居ないのか。
涼しげな顔で、伸ばされた指先をそぅっと手に取り、*恭しく戴いた。*]
[少し瞬き、そして小さく笑む]
影に居る…ですか。
本当ですね…。
[自分の指先を掬う冷たさに少し睫毛が頬の上に影を落とした。
自分の熱が彼を驚かせはしないかと、ばかり、少しだけ*不安でもあった*]
―大殿邸―
[粗方の状況説明の後、休憩もそこそこに
先に挨拶をしてくるという富樫を
白藤は門まで見送った。
庭では薄紅梅と桃花色の花びらが緑の苔に映えている。
雨を吸い、澱んだ空気の中でさえ鮮やかだ。
富樫の薄紅の着物にも似ていたかもしれない。
傘をさした富樫の背が見えなくなるころ
屋敷の方へちらと視線を向けた。]
大殿さまの様子は――相変わらずか。
[腕を軽く組んで、開け放たれたままの門に凭れた。
常の笑みが薄れて、ふと物憂げなかおになる。]
足りないだろうねぇ。
……おれでは。
[通りへ向けた筈の眼は、何処か遠くを向いている。
屋敷の死のにおいは、
羅生門から広がる陰のにおいと似ている。
祓う祓わないではないと影居が謂ったのを
白藤は知る由もなかったが、
聞いていたならば同意しただろう。]
……否、何人でかかろうと同じか。
本当に、根が深いことだ。
[呟く。人の気配。表情は、薄笑みに戻っていた。]
―橘様の屋敷・門―
ありがとうございました。
また要り用なれば、汐の名をお呼び下さい…
[頭を下げれば頂いた傘を開き。
屋敷を出て通りへと出る。
屋敷に背を向け。其の全貌も見えなくなりつつあるとき。
小さく息を零した]
ふぅ、あんなに良くして頂けるとは。
是非とも馴染みになりたいもの…
[薄く笑みを浮かべて居ったが。
其の足を向ける先や、次第に感ずる気。
次第に表情も引き締まっていく]
…陰陽師。ならば、祟り…か?
あの屋敷の周り…上手くすればあの屋敷にも取り入る事が出来ようが。
問題は其の祟りは同業による物か。か…
―件の屋敷・門前の通り―
多少…其方の知識があるとは言え。
同業が出した手なれば、此方が下手に手を出す物ではない、が。
[ゆるり。傘を少し持ち上げ、見ゆる先は先刻訪れた屋敷]
…はて。そういえば。
彼の男の言葉はいかな事か。
[門に凭れる人影。其の目は細くなり。
一見すれば見定めようとしているようにも見えるかも知れぬ。
歩み寄るべきか否か…はたまた、其の男自身か]
[雨はなおも降っている。
故か人通りは多くない。
歩いてきたのは目立つ箱を背負った禿の薬売り。
傘から雫、此方を見ていた。
顔を其方へ向けると、翡翠が小さく揺れる。
笑むように眼を細めた。]
行商目的ならば橘中将で十分だと思うがねぇ。
[届くかどうかはさておいて、
揶揄するか、素直な感想か、そう呟いた。]
[…耳は良いのか。
細めていた目とは裏腹、声を掛けた]
流れな物で、ね。
[其の笑みに返すように。
すぅ、と口元もつり上がる]
典薬寮のに、何時お得意を取られるか分かりませんので、ね。
[往来で派手な騒ぎは起きぬと思ぅたのか。
それとも話せる者と思ぅたのか。
一歩ずつ近づいていく]
兄さんは…役人、かい?
そうかい。
[歩み寄って来るのを止めるわけでもなく、
腕を組んだままその様子を見つつ]
典薬寮か。
確かに上客を取られるのは一大事だ。
[薄笑みのままで謂う。]
いいや。おれは流れの陰陽師だ。
故あって今は此処で雇われの身だがね。
[と、屋敷を顎で示して見せた。]
牧童 トビーが「時間を進める」を選択しました。
今は根を張れておりますが、ね。
何時発たなければならぬか。
[ふふ、口から息が漏れる。
顎で示された屋敷。ゆるりと見上げて]
成る程…兄さんも流れ、か。
私と比べちゃあ、いけないのかも知れませんが。
[口元。目。どちらも薄い笑みを携えたまま。
屋敷を向いたまま尋ねた]
所で。この屋敷の…気、と申しますか。
これは、他の屋敷…他の者にも移りますかねぇ…?
[ゆっくり。傘で男からの視線を遮りつつ]
一時でも根を張れるならよいことだ。
まぁいつかは流れる根、早いか遅いかだけだがね。
[見上げる薬売りを流し見て]
さぁて、流れは流れさ。
比べてどうのという話は雅でない。
[軽い調子で謂った。
傘で視線を遮る所作は眼に入っているだろうが別段何も謂わず]
――其方も気になるか。
ああ、そういう意味でもある種同業だねぇ。
伝染るだろうな。
否、既に伝染っているかもしれないねぇ。
今は大人しいが、いつまでもつやら。
[門の上、配置された白い鳥の式が小さく羽を広げた。]
[雨の音が耳をつく]
この分じゃ今晩はお預けだな……。
一つ聞くけど、他の貴族の女もこんな風に暇なの?
[後ろでカツラを湯で洗っている女房に声をかける。付の女房は二人で、二人共に年老いていた。女性に興味を持たせぬ為なのか、その逆であるのかはわからなかったが]
「そのようなことはありませぬ。皆、それぞれに笛を嗜んだり、交わす文のため懸想したり、見目麗しく保つため日々の努力をいたしております故」
……おれには、関係ないな。笛くらいなら吹けるようになっても良いが。
[なおこの姿のまま留まるのには理由があった。京からでようと思えば出られたが、おそらく門を過ぎたところで捕まるであろう事と、もう一つ]
[探している屋敷があった。朧気に記憶に残るだけのその庭を、そこに住む主を見たいと言うだけのもの]
なれば、なるたけ水気を吸っておきたい、って…ね。
[例え話。くつり、と笑いを漏らしつ]
そうでしょうか。
兄さんほど、何が出来るってわけじゃあ、ありませんからねぇ…
[ある種同業。其の言葉に視線を遮っていた傘を外し。
其の目は何処か楽しげに]
陰陽五行説…それは薬師の中にもありまして。
…ゃ、兄さんは知ってるかも知れませんが。
[門の上。紙の鳥が居った。
澱んだ雲の中でも、其の身は白で保ち]
そうですか…伝染りますか。
それは。難儀なものですねぇ…
[目を細め其の羽を見つめた]
…そうか。伝染りますか…
なれば、程良く遠き位置にある橘様のお屋敷は良いお得意様となりそうだ…
[瞳に映る白。
其の白は何処か眩しい]
…陰陽の兄さんが居るのにかかわらず、伝染るんじゃあね。
同業では無さそうだ。
[捕らえられたことは不覚だったが、毎日の食事と宿があることは魅力的で、結局居座ることに余り抵抗心もないまま]
後で若君様、の部屋でも覗いてみようか。
[ぴくりと女房の肩が動いたが、何も言うわけでなく。止められるわけではないのか、と思い]
この姿の方が、いい、んだよな。
眉は抜きたくないんだけど、どうしたらいい?
[差し出された小さな小刀を見て溜息を一つ。剃るのも厭だ、と零した]
水が無ければ萎れちまうしな。
[傘を上げる、その顔の方へ向いて]
薬の方が余程信用できるというやつも多いさ。
[例えばあの中将とかな、と
眼を細めて小さく呟き]
へぇ、薬師にもそういう話があるんだねぇ。
[と、首を傾けた。飾り紐が雨の雫を弾いた。
白い鳥、同じく白の蝶は恐らくは影居のもの。
アレは何処へ行ったろう。]
まったくだ。根が深くてな。
羅生門からの陰の気も穏やかじゃなくてよろしくない。
[薄紅が滲んだ紙がひらりと落ちてくる。
手にとって袖に入れた。代わりがまた必要だ。]
[薬師は商売人らしくその手の話に遠慮はない]
ふむ。なるほど。その方も中々に知識豊富とみた。
どうも典薬寮の連中は融通利かぬものが多くてな。
入用な時にそなたがこちらに生薬都合してくれればありがたい。
取り急ぎ人参と牛黄をもらおうか。また何かあればぜひに頼む。
[薬師を送り出すよう周りに言いつけて。それらの薬はすぐに御所へと運ばれる。さて自身はといえば鷹匠に己の鷹を連れさせて]
どうやらこの先面倒が起きそうだ。お主にもようよう励んでもらわねばならんが気を抜くでないぞ?あの羅生門あたりも改めねばなるまいな。お前にも来てもらおう。
[鷹は止まり木の上にぐるる、と甘えるように鳴いている。この鷹、さる唐の贈り物にあったもの。下賜され、己の手で手懐けた]
[小さく頷いて意を示し。
おやおや、と視線を男の方へと向けた]
確かに良くして頂きましたが。
私は…陰陽も信用。しておりますが、ね。
其の話は橘様の御前ではしないでおきましょう…
[ふふ、と口から息が漏れる]
ええ。
最も、私の知っている五行と、兄さんが知っている五行では話が違うのでしょうが。ねぇ。
[首を傾げる男に。
面白そうに話をしていたが。続く言葉には片眉を上げて見せ]
…羅生門。
彼処はただでさえ気が澱んでいる。
其れが本当ならば…暫くは其方の方にも近づかない方が良さそうだ。
…やれ。一体何が起ころうとしているのでしょうかねぇ。
[”誰が共にあっても同じ”とまで言われては、あるじのあとを追うのも憚られ、傘くらいは持てとは思うものの、あるじの人混みへ消えるのを為すすべなく眺めていた。
元より偏屈なあるじだとは思っていたものの、雨のなかおとこは途方にくれるばかりであった。]
[さていつまでも往来に立ち尽くすのもおかしなこと。
ほんとうは傘の柄など持たずとも構いもしないのだが、それをしないで居るのもおかしなことなので、やはりひとのように振る舞いながら歩いた。
あるじはあそこへ何やら残していったようだけど
さしづめ件の屋敷へ戻るべきか。]
眼に見えない者も多いし、
仕方がないといえば仕方がないがね。
そうしておいてくれると良い。
[人差し指を立てて、唇の前に立てる仕草。]
似通ってはいるが同じではないだろうねぇ。
[片眉を上げる薬売りに、笑みでなく眼を細めて]
もう都の何処でも同じやもしれないがね。
波紋みたいに広がっていくような感覚さ。
後は……ひともあやかしも引き寄せられてるように見えるな。
これも呪のちからかねぇ。
この事態、あの陰陽師なら黙っちゃ居ないと思ったんだがな……。
[かの高名な陰陽師が既に亡く、
その識が羅生門に居るとは知らず呟く。]
さて、なんだろうな。
都を巻き込んでの百鬼夜行か、
はたまた春に相応しくない真赤な花の宴か。
[白い折鶴を取り出して、
ふ、と小さく息を吹きかけた。
羽ばたいて、鳥になる。]
何、兄さんには色々教えて貰ったからねぇ。
それぐらい。
[同じく人差し指を唇の前に立て。
其の手を下ろすと顎へと持っていき]
病は払えるが、魔は祓えないので、ねぇ。
波紋…広がるんじゃ、逃げようが無い、か…
まぁ、直ぐ傍にいるよりはまだまし、でしょうよ。
…?
人も、あやかしも…?
[其の後の言葉にも疑問に思ったようではあったが…
口に出して、分からぬ、と言った表情をして見せた]
[鉄嘴もつ黒い鷹。自身に呪力はないがこの鷹はまた別物。
式神は勿論鬼でもとらえるだろう。
自身の知識が陰陽五行に通じぬ訳ではない。しかしそれが好かぬだけ。好かなくとも家臣や父の手前、方違えや物忌はせねばならないのが余計に苛つく]
…陰陽師か。あの安部影居があぁも言うのなら確かにゆゆしきことではある。しかし最近の羅生門の変といいあの屋敷といい、何が起こっているのか。陰陽寮の天文官たちも何かしら注進があって良いものを。
[ひとくさり愚痴こぼし。雨があがればまた外へと赴く心算で*]
百鬼夜行、か。
それは…おぞましい。薬を売る売らぬの問題じゃあない。
最も。
赤き花の宴も私には趣が合いませんが。
[小さく肩を竦めて見せ]
どちらにせよ。吉兆には見えない、って事ですかねぇ…
[野次馬が雨であらかた流された分、件の屋敷は全景をよく見て取れるようだった。]
四つ辻―――
[おとこはまずは屋敷ではなく、屋敷のまわりを歩いてみることに*した。*]
[同じような仕草にを見せる薬売りに眼を細め、
腕をまた先ほどと同じように軽く組んだ状態に戻し]
おれには病は祓えんこともある。
ま、住み分けだねぇ。
……波紋の中心よりは外の方がまだいいか。
[分からぬ、という表情には薄笑みで]
――物好きが多い、ということさ。
[茶化したように謂った。
例えば白狐、例えば影居の式、
未だ知らぬが記憶をなくした僧と
それと共にある無我もまた
引き寄せられるように都へ。]
ふふ、兄さんが病も祓えるなら、私は生きてけませんよ。
…ええ。恐らく、は。ですけど、ね。
[口元を吊り上げて見せ。瞼は閉じる]
物好き、ですか。
それは兄さんや…私も入る、のでしょうか。ねぇ…
生業である以上、否、と言えないのが辛いところでありますが。
[肩を揺らせば、開いた眼は男を映し]
まぁ。兄さんが病に伏せたら薬を持って参りますよ。
薬売りが平和に薬を売れるような世がいいがねぇ。
[わらった。]
おれも赤い花の宴は御免こうむるねぇ。
死人花が咲くにはまだ季節が早すぎる。
吉兆ではないな。
よろしくないことだ。
[感嘆の声には笑みを向ける。
白い鳥は命ぜられた場所へと飛び立った。]
そんな世が出来るなら是非ともして欲しいものですがねぇ。
[ふふ、とつられるように。
もう一度肩を竦めて見せた]
最も。薬が売れるのがそういう時、なので。
本当、喜んで良いやら悲しんで良いやら。
ま。吉兆じゃないなら…気だけは確かに持たなければなりませんねぇ。
[笑みが見え。飛びだった鳥を見つめ。
其の姿が見えなくなれば]
…紙の鳥、か。
便利そう、と思うよりも先に、童が喜びそう、と思ってしまうのは。
失礼なのでしょうかねぇ。
[困ったように笑って]
そりゃぁそうだな。
[しとしと降る雨、
長い前髪を右の手でついと避けた]
恐らくは、ああ。恐らくは、だ。
全く厄介だ。
[首を横に振る]
物好きには、そうだな。入るだろうねぇ。
生業であるならば、それは染み付いているゆえ仕方がない。
[肩を揺らす様子には瞬きひとつ。]
それは有り難いことだ。
まけてもらえればもっと有り難いがね。
――ああ、薬を買うようになるかもしれないなら名を知らねば不便か。
おれは白藤というが、薬売り、そちらは?
兄さんでも、恐らく、って付けるんだったら…
本当に厄介なのでしょうねぇ。
[傘を少しだけ傾け。傘の斜を雫が滑った。
端から飛びつ水。地に落ちれば雨と共に弾けた]
そう…兄さんとは気が合いそうだ。
まけるかどうかは…私の気分次第でしょうか。
[禿の髪を一房。指で摘めば小さく笑んだ]
白藤…ね。
私の名は、汐、と。言います。
白藤…
なかなか、面白い?
…ふふ、病に伏せる様な。柔な方では無さそうだけれど。
[薄く張り付けた笑みの下。
小さく思う]
…祟りの前に。
熱病に冒され、か。
薬師が熱を患ったら、世話ぁ無い。
[其の意味を測り切れぬ薬師。
若気の至りか。思うは軽く、あしらうは言葉]
[押し戴いた手をそのままに立ち上がれば、冷たいその手がさらりと若宮のそれを撫でる様に滑り離れ、]
ここは寒うござりますれば、中へ――
[冷えた指先のみが僅かに留まりて、中へと導く。]
ふ、随分高く買われてるもんだ。
陰陽寮のものでもないんだがねぇ。
[冗談めかしてひとつ笑うと、後ろ髪の翡翠が揺れる。
落ちる雫はまだやむ気配なく。]
それは嬉しいことだ。
堅い言葉使わずにすむ相手ってのは貴重でね。
薬を売るときも気分がいい事を祈るさ。
[汐、と名を復唱し]
海の――満ち引きのことかね?
まぁ、なんにせよ。よろしくというところか。
私には分からぬ物ですからね…雇われるほどの技量があるなら信に値するでしょう。
[摘んだ一房。指の腹で潰せば微かな音が鳴り]
貴族や役人の方には…堅い言葉でなければ縁を切られてしまいます故…その苦労も分かち合い、ですか。
なんともはや。
…ええ、海の傍の出、でして、ね。
[苦笑を零すと、ゆる、と辺りを見回し]
さ、て。
そろそろ、お得意の所へまわってきましょうか、ねぇ。
[背負う箱を担ぎ直し。小さく笑んだ]
私には気の流れが深くは分かりませんので。
白藤の兄さんの話は助かりましたよ…
それでは、また。
成る程ね。
[頷いて、ありがとう、かね?と眼を細め]
そうだな。礼儀作法には厳しいもんだ。
下手な口をきけば叩き斬られかねないというもの。
[肩を小さくすくめた]
海か。随分遠いな。
流れ流れて都まで……か。
ああ。行って来な、根付いて、水を遣るために。
[小さく手を挙げて、ひらり、振る]
役立てたんならよいことだ。
それじゃぁな。
[順繰りに辻を巡り、屋敷のぐるりを巡り、いまは屋敷へ入るべく門を目指す。
薬売りの姿をしたものが、屋敷から出て雨のなか何処かへ向かって行った。]
……やまいあらば、薬の入り用もあろう。
さしずめ、商いどきといったところか。
雨とて、無碍に花を散らすばかりでは無いな。
[いずれもっと現れる。
さればさ、押し止めるよりはむしろ…]
[流れ者の術士に目を留め、]
……御身、まだこのようなところに居られましたか。
お勤めご苦労に御座います。
して、わたくしなどには何ぞの変わった風にも見えませぬが、
ことの進捗は如何に御座いましょう。
[穏やかな涙雨は未だに止まず、
橋の下にて雨露を凌いでいた白狐はつまらなそうにため息をつきました。
ふと思いついたのか、河辺に育った大きな蕗の葉を、一つくわえて折りました。]
[門から屋敷へ戻ろうとしたが、
椿の花の横で立ち止まり]
影居の使いかね?
[肩越しにゆったり振り向いて]
おれは呪に対する呪を施しているからな、
そう容易には動けない。
で、進捗の程か……芳しくないがね。
場つなぎにしかならんだろうな。
[ごまかすことも無く謂って、眼を細めた。]
祓う祓わんではない、ということだ。
[御簾の内、几帳の中。
降り頻る雨のざわめきが、衣擦れの音掻き消して……
薄闇に覆われた室内をも満たしてゆく。
それより後は、密か事(みそかごと)――*闇の中。*]
ほう。
[対して目をすこしばかり見開き、術士をみた。]
……あるじも同じ事を申しておりました。
わたくしも辻辻を巡って参りましたが、見たところ埋められた呪もの、掘り起こして如何するという類のものでもありますまい。
して御身、これからどう出られるお積りで。
影居もか、さすがは。
[世辞でもなんでもなくそう謂って。]
そちらの見立ても同じだな。
厄介この上ない。
[少しばかり眉を寄せ、椿の花を流し見る。]
さて、どうしようかねえ。
妙案が直ぐに浮かべばいいんだがな。
――まずは、冷えた体をあたためるかな。
[茶でも淹れるか、と軽く謂って屋敷へ戻る。
拒まれなければ式にも進めた*]
[さすが、という言葉に満足げに頷いた]
茶、ですか。
――気の長いことに御座いますね。
折角のお誘いですが、失礼します。
そも、わたくしのようなものに茶なぞ勧めて如何なさるおつもりか。
飲んで飲めぬこともありはしませぬが。
[術士の男が目を離すと、椿はぽとりと首を落とした。
落椿から目をあげ、術士とははんたいに通りへ出た。]
[1]
[2]
[3]
[4]
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