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修道女 ステラは学生 ラッセルに投票を委任しています。
吟遊詩人 コーネリアスは修道女 ステラに投票を委任しています。
医師 ヴィンセントは学生 ラッセルに投票を委任しています。
双子 リック は 吟遊詩人 コーネリアス に投票した。
修道女 ステラ は 書生 ハーヴェイ に投票した。
吟遊詩人 コーネリアス は 書生 ハーヴェイ に投票した。
学生 ラッセル は 書生 ハーヴェイ に投票した。
書生 ハーヴェイ は 双子 リック に投票した。
牧童 トビー は 書生 ハーヴェイ に投票した。
見習い看護婦 ニーナ は 書生 ハーヴェイ に投票した。
医師 ヴィンセント は 書生 ハーヴェイ に投票した。
書生 ハーヴェイ は村人達の手により処刑された。
次の日の朝、見習い看護婦 ニーナ が無残な姿で発見された。
《★霊》 書生 ハーヴェイ は 人間 のようだ。
現在の生存者は、双子 リック、修道女 ステラ、吟遊詩人 コーネリアス、学生 ラッセル、牧童 トビー、医師 ヴィンセント の 6 名。
[かつて主のもとへ戻ることあたわずと云ったのは、
あるじの側へ戻るときはこの身の怨を晴らすときと
そう決めたから。
未来永劫己のものにはならぬと知り、憎しと思い
ただその怒りのためだけに刀を抜く。
嗚呼、私は憤らぬだけで、やはり怒っているのだ。
酷く身勝手で、あさましい。]
−廃屋−
[何かを求めるように揺れた指先は、微かにふわり、暗闇に軌跡を描く。
ずっと耳元に聞こえ続けた怖い言葉は、今は感じることはなかったがその代わりになんだか体が重く、胸の上がひどく重い]
……、ぁ……。
[ひくりと小さく、喉が揺れて、霧が晴れるように目が覚める]
[怨]
[怨]
[ォオオオォォオオオオオオ────ン]
[何故あなたは、]
[喰らい尽くし、]
[永劫にお側に]
[お慕いもうしております…]
[堅く冷たい面の下の、
胸のうち、灼熱の劫火、]
[──消え去らぬ、]
(嗚呼、おれはあなたを喰らい尽くしたい)
(もう何も要りませぬ、充分に戴きました)
[浄と穢][怒りと哀しみ][愛しさと憎しみ]
[それら全てが混沌と、渦を巻き]
[どれだけ主の編んだ理をはずれようとも、
主のもとへ往くことなど容易いのだ。
跳び、
五重塔のうえ
そこで主が何をしようとしていたかを知るのも容易いのだ。
静かな従者のように主のそばへ現れて、
刀を抜き、
焼かれようとも、遮られようとも
ただ何かに憑かれたように
ただ呪に突き動かされ
ただ狂おしく刃を振るった。]
[愛しているのか、憎んでいるのか
求めているのは、果たして若宮そのひとなのか、
恋うる想い、それ自体なのか、
分からなくなってゆく。]
─東寺・五重塔上─
[言霊のちからか、思いのちからか
果たして恨みをはたせども
屋根をしとどに濡らす主の骸が
このまま置いては何れ黄泉還りでもせぬものかと
肉を暴き、
骨を暴き、
筋を暴き、
血を暴き、
何れは彼の若君と愛し合ったのだろう
身体のすべてを暴いては散らす。
雨の如く降る。
それから、はるか泰山へ向けて
どうかこれを現に戻すことのないように、
戻ることあらば幾度でも滅ぼそうと唱えた。]
[それら全て、抱えて
あかき怨の海に浸り、
たまごのように、
未だ生まれぬ胎児のように、
まるくまるく、
──おとこはねむる。]
[このことを知れば若君はかなしむだろうか、
もし主の魂が何処ぞにあってはそれを知って
少しでも悔しがるだろうか、
怨み辛みに身を焦がしでもするかと、そればかりを思っていた。]
[そうしてすこし息をついた。]
………。
[掠れを帯びた声が名を紡ごうとして。
上手く紡げず。
いつも包まれていたあたたかい気配がないこと、ひしと感じて喉が小さく震えた]
[狐は突然、ぴくりと身を強張らせ、頭を上げました。]
…ぁ。
[見開いた目に映る光景は、この座敷の中のものではありませんでした。
胸に、腹に、背に、肩に。
鋭く熱い恨みの刃。
幾度も幾度も、
幾度も幾度も。]
[自分が身を横たえていた辺り、ふと見回してみれば少年は後ずさることも逃げることも出来なかった]
…これ、は…?!
[黒髪がうねる床の上、崩れかけた屋根、蜘蛛の巣、埃。
少年が暮らした邸とはあまりにも違いすぎる、場所]
[羅生門、
そのあかぐろきあなぐらのようなところに、
何時の間にやら居るのだった。]
──やれやれ。
おれは、死んだか。
[顔を顰める様子も声音も、常のもので]
[己がこころは、己のものでありながら、他の方のもののようでした。
ただただ、そこにあったのは、胸焦がす想いのみでした。]
…何処に。
[幾度も切られ、刺され、貫かれようとも。
その身が幾千もの欠片となろうとも。
ただただその思いは、失せし想い人を求め虚空へ手を伸ばすのです。]
[ふらふらと、大路を歩く童子の姿。知らぬものが見れば、飢えで死にそうな子どもにも見えて。けれど、その腰には短刀が一つ]
(あいつの邸に、人はいなかった。式がいたけど、それだけ。若君様は、あいつは、どこにいったんだろう)
[下る大路。遥か遠くに、羅生門が見える]
[何処となく、何かを失くした様な心地がする。
そう、まるで今生まれたばかりのように心許無く、
半身を喪ったかのようにぽっかりと虚があるのを感じる。
それでいて、何処かへと繋がる細い糸がこまかい震えを魂に伝えてくるような──]
──廃屋(生母の屋敷)──
[おのが身体を戒める ははの黒髪]
母上は あの時も わたしに
この硯を貸してはくださらなかった。
そして、わたしは────
あなたの声を《聴き》つづけるだけ
…・・今も
[おとこは、あきらめたように首を横に振り、硯からゆびを離した。]
髪を切った後は、
あなたとは、二度とお会いするつもりはなかったのですけどもねえ。
[また暗い目を伏せ──そして まばたき。]
…・目の前で抱き合う恋人たちを見てしまったがゆえ。
めおとも 睦みあう恋人も 許さぬと云う──
あなたの処に還って来てしまった。
[歩く。歩く。歩く。ただ歩いて。辿り着くのは幾度も見た門で、午前のうちに既知のものが死んだ、場所]
……白藤さんの体が、無いや。
その代わりに、灰?
[白藤の倒れた場所まで来ると、そこに散る灰を見つめて]
誰かが、灰を集めた、のかな。汐さん、?
汐さんは、どこに行ったんだろう。白藤さんの灰を持って、どこに。
[あたりを見回して、姿は見当たらず]
――羅生門――
[思いはただただ、赤く煙る雨となりて
いつしか洛中へと、降りしきるのです。]
…あぁ、永劫に…
永劫に、離しは…せぬ……。
[途切れ途切れに呟いて、狐はくたりと倒れ伏します。
その白い肌にはところどころ、彼の従者の髪の色の如く、
朱赤の線が疵のように、刻まれ浮き出たようでした。]
[黒髪は、呪を紡いだ文を送り終えたことに満足したのか、おとこからゆるやかに離れ──ただ、うごめく くろい海となる。]
…若宮さま
目覚められましたか。
[おとこは、ゆっくりと若宮に近づいて行く。]
[その思いは、切られ貫かれながらも、
彼の従者の式のことなど、省みなかったのやもしれません。
けれどもそれは、今となっては誰も判らないのでした。]
……貴方、は…
[誰、と聞かずとも誰かなど知っている。
ゆっくりこちらへと近づいてくる足音、見えていても、聞こえていても、少年は彼から逃げることあたわず]
…ここは、一体……何のために、僕を。
[めおとも、睦みあう恋人も許さぬと思ったのは誰の念か。
裂かれ、嘆き悲しめば良いと思ったのは私の念だ。
刃が脂で鈍れば爪を使い、手指が萎えては歯を用いたから
歯の隙間から、唇を伝って顎から血が滴る。
呪は離れ、そらの上を漂う不吉な雲となる。鳥瞰。]
[ぼう、と暫し灰を見ていたが、道行く人の肩に、背に、血のようなものを見つけて首をかしげ]
[指摘をすると驚いたようにその人は後ろを振り返り]
[振り返った先を見つめて、其方へと歩き出す]
あれはまだ、新しかった。
[肉片があったようにも見えた]
[東寺のほうへと進んで、五重塔を見上げた]
ここは、わたしの母だったおんなの屋敷です。
歳月とは無情なもの。
荒れ果てておりますなあ
[おとこは若宮のすぐ傍まで来ると、身動きがとれぬらし、若宮の足元にひざまずいた。]
─…あなたさまにも、呪が絡みついておりますゆえ。
失礼…。
[そう云って、節くれたゆびで絡んだ黒髪をほどく。
ぬばたまいろの糸の呪縛は── おとこのゆびが触れるたび、煙のごとく空に溶けてゆく。]
・・禍ツ星の 巡るさまが見たいと──
若宮様がおっしゃられましたゆえ
[くろ糸の呪をほどく手は止めずに、おとこは暗い目で若宮を見上げた。]
…────
─花山院邸・奥座敷─
…今の、は……。
[痛み未だ残るまま、ぼんやりと目を開けました。]
何方かが、怨み篭る刃に散りました。
高い高いとこ、都を見渡すところにて。
…奪われた何方かを、捜し求めておいででした。
[かすかな吐息のような、掠れた声で伝えます。]
強き思いに身を焦がせども…あの方は未だ人であったようなのです。
[憎い 悔しい 嫉妬 怒り 嘆き 愛欲 ――殺意]
[水盆に落とされた血は 最初は水に紛れゆく代わりに 波紋を投げかける
次に落とされても同じこと
一度あかく染まりきれば 盆より払うか 多くの水でなければ色消えぬ
喩え色は消えても 薄いか濃いかの違いのみ]
[屋根の端からひたひたと滴り、
下段を流れてまたその下へ、細い糸を引きながら、
近くで見ればそれと知れるだろう──血は流れてゆく。
高いところでは風が吹くから、
纏った血のりが乾いて心地が悪い。]
──東寺・五重塔うえ →地上──
[舞い降りた。
元から髪が赤いから、物の怪にでも見えるかも知れない。血の所為なのか、声を出しにくいと思った。]
……桐弥か。
[遠くで水音がした。]
[揺れる水面]
[どこか――闇の奥 どこかで]
……
[式があるじをころす。]
[霞の向こう見えた]
[それは――愛憎の果て]
[五重塔の上にあるはずのない人影を見つけて、目を瞠り]
あれは……。
[体に入り込んだ何か――甘さかも知れず――が、体のどこかで悲鳴を上げ]
――式。
[名を知らないままだった、と呟いた頃、目の前にそれは降りてきた]
[渦巻く思いに押し流され、吹き飛ばされかけた己がこころは、
その手へと重なる滑らかな手に、繋ぎとめられたようでした。
息乱れ、視界霞むとも、
そのひんやりとした指の感触だけは、己が彼方ではなく此方にあるとしっかり思わせてくれたのです。]
[黒にとけかけた己の体が何かの気配にぴくりとゆれる。
一度は殺意さえ抱いた今となっては昔の悪友]
…お前まできたら、あの桜が穢れるな、影居。
ただでさえ、陰の気こもる場所なのに。
[ぼそり呟く。既に友とも思わぬその相手]
──廃屋(生母の屋敷)──
[呪が 成就したことを その髪は知ることが出来るのか]
[東寺の尖塔より 安倍影居なる陰陽師であった 血肉断片 あかい雨となり 都にふりそそいだ ── そのとき]
[その廃屋の四隅より]
[なきながらわらう おんなの声が響きわたり 黒髪の海は はげしくのたうった。]
[何故、どの様にして死んだのかも、おとこはさだかには憶えておらぬよう]
……まあいい。どうせ碌な死様ではあるまい。
[くっと口の端片方歪める笑いは、自嘲であろうか。]
……なんてこった。
[花、散らす]
こうして恨みは降り積もる かねぇ。
[瞑目。]
[溶けかけた気配が戻るのには]
[少しばかり笑み浮かべ]
[慣れ親しんだ声に、眉間に深い皺浮き立たせ、振り返る。]
……余計なお世話だ。
お前こそ、死んでも大して学ばぬようだな、智鷹?
[かそけき煙と消えるくろ糸の
呪を解き終えたおとこは、
薄やみの部屋にしろい雪花石膏、若宮の御脚からゆっくりとゆびを離す。]
──誰が殺されたか、知りたいですか。
淡いろの若宮さま
[やさしいと云ってもよい、おとこのささやき声]
[肯定の言葉を聞き、俯く]
(若君様は、なんと、思うだろう。憎いと、この男を殺しに来るのだろうか。それとも。同じところへ送って欲しいと懇願するだろうか)
やっぱり。心は晴れない。
あんたは、それで満足?
聞くのは愚問か。
でも。その血を見ただけでは、死んだ実感は沸かないな。
死んだというのに、おれの心はまだ曇ってる。
[手は腰に挿した短刀に伸び]
この手で、若君様を斬れば、晴れるのかな。
死して何を学ぶ。どうせ私は来世を待つのみよ。
[皺深い眉間におなじく額に深い溝を刻んで。
浮世から離れても腐れた縁は切れぬものか]
お前がくるとあの桜が穢れる。
悪霊はそこな陰陽師に調伏してもらわぬとな?
[いつぞやの羅生門でのやりあいを思い出し]
穢れる、だと?
[何かこころの痕に触れたか、鉄面皮に少し傷付いたような色が浮かんだが、それも一瞬──]
ならとっとと来世に行け。
お前の顔を見ずに済めば清々する……と言いたいところだが。
お前本当にここから出られると思うているとは、愚かの極みだな。
[ふん、と鼻を鳴らす。]
大体言うに事欠いて、悪霊とは何だ。
おれが悪霊ならお前も死霊だ。愚か者が。
[久しぶり──と言うても僅か一日か二日のことなのだが──に再会した所為か、口調に容赦がない。]
[ふたつのたましいの遣り取りを、
苦笑のようなそうでないような、
曖昧な笑みのまま耳を傾けながら]
櫻は、誰の傍でも櫻だよ。
[やわらかく謂って、眼を閉じる]
出られぬなら出られぬで構わぬ。それも己の業であろうよ。
前世に転生も許されぬ罪犯した身なら神仏恨みもすまい。
お前が狂う様と私が学ばぬ様とどちらが見ものであったかな。
よくも長きにわたって誑かしてくれたものよ。
お前が私がどんな厭う陰陽師であっても人だと信じてはいたのにな。
[過ぎった魂に刻まれた疵は、その肌へと痕を残し、
未だ夢から現へと戻りきれぬまま、寄り添う方へと身を預けるのです。]
…無我、どの……。
[かすかに呼ぶは、その優しい手の方の名。]
ふん。
[白藤の仲裁の言葉にもやはり眉間の皺はゆるまずにいたが]
石木は情を持たぬとはいえその姿は誰に対しても変えぬ所は…人よりずっと好ましいもの、か。
桜め。情はいらぬよ、あんな者に。
だから、お前の業であるとかそういう問題ではない。
この羅城門自体が、呪で死んだ死者を引き付けて離さず留め置く、罠のようなものだと──
[と言い掛けて「誑かして」の言葉に瞠目し、]
お前、何故、おれがひとでないと、
[愕然とした表情で、橘中将を見詰める。]
お前を想わぬ若君が、憎いと思うたのでは無いと言うのか?
何を悲しむ。
若君の哀しむを思うてはお前も心さびしくなると?
[喋るたび、舌に絡む血糊を吐き捨てた]
[気付けば、
おとこはささやきながら。
すでに少女の姿ではなく、元の少年の姿にもどった若宮を抱き寄せた。]
あなたもよく知ってる者ですよ、おそらく。
[おとこの声が 若宮の至近距離にある暗い姿が ][ゆぅらり]
[ゆれる]
[ゆぅらり] [ゆらり]
そうか、それならずっとお前や白藤の顔を見て過ごさねばならんのか。…それも一興、と思っておこう。
京の死霊を留め置くなら数多の魂がたまっていように、ここは静かだな。
…ずっとお前達を見ていたよ。
お前はまるで鬼のようであったな。途中から見るに忍びなくもなったが。
[おのれ自身を怨み それをわらうように]
あなたさまを影居どのから引き離したがゆえに
呪は成りました。
あなたさまは、
おのが目で ──しか と、確かめるがよろしいでしょう…
[おとこは、片腕で若宮を*抱きこんだまま*────]
あるがままに咲く。
あるがままに在る。
……櫻はどう思っているかねぇ。
[こういう仲だったのだろうな、と
そう思いながら見守るように。]
出られないか、そうだろうな―――
[と、口を噤み。]
[愕然としている影居と、その次に橘を見て]
[最後に鏡へ――汐のすがた、其処には映らず]
[何処へ、と小さく呟いた。]
おれを想わぬのが憎かったのじゃない。
そんなものは、初めからわかっていた。
若君様は、自分の姿を嫌っていた。その姿があることで、他のものからの好意すら、信じていないように見えた。
その若君様が、愛しいと思えた人がいなくなり、どれだけの哀しみが襲うのだろうと、思えば――。
悲しいと。おれが、他の人が死んだときに感じたものよりも強い哀しみが、彼の人を覆うなら、やはりそれは悲しいものだ。
あいつを殺したことを、責める訳ではないんだ。もし、あんたがやれなかったら、おれが殺していた。
それは、確かだよ。
[人を、恨み抜くことは難しいと、思う]
でも。そうだな。
これは全部、ただのおれの感傷だから。
若君様がどう思うのかを見て、それからまた変わるんだろう。
おれの中に燻る想いが、ただの情なのか怨みなのかどうか。
自分だけでわかるにはまだ、おれは子どもすぎるんだ。
[赤く染まった式を見上げて、笑う]
…宮のことは?
お前が羅生門でかどわかした宮のことを覚えているか?
その時のお前はまさしく鬼であったよ。
そしてお前の式が…お前を手にかけた。
まさに恨みつらみの一幕というわけか
[白藤にも同意を求めるように視線をよこし]
[橘の視線に、沈黙したまま小さく頷いて。]
――……愛憎、それからうらみ。
糸がいくつもいくつも、絡み合っていたねぇ。
[白い袖をゆるり、翻すと
指先にかかる赤や銀の糸がみえる――幻視。]
宮?
誰だそれは。どの、宮だ。
[本当に心当たりがないようで、]
それに、おれの式がおれを手にかけるなどある筈が……いや、まさか、あれか。
あやつ、おれの素っ気無いのを根に持ってとは言わぬだろうな……
[何やら自己完結してブツブツ呟く。]
矛盾――。そうだね、矛盾してる。
自分でも時々、自分が何言ってるんだかわからなくなるよ。
[肩を竦める。それでも短刀は手放さずに]
殺すかもしれないし、殺さないかもしれない。
それはまだ、判らない。
憎い、と殺したいと思う気持ちと、ただ悲しいと思う気持ちが、おれの中でぐるぐるしてるんだよ。
[眼を瞬かせ]
[不思議そうに影居を見つめて]
……記憶を、落としてきた か?
[手繰り寄せた糸を離す。
ぱらり、闇の中に解けていった。]
分からない、判らないから
――――それで、
私に訊ねるのか?
それらしきものを持つといえ
[そう言うとき、憎憎しげに顔を歪めた]
人でもない私に訊ねるとは気が違ったとしか思えぬ。
[桐弥の胸元に指を突きつける。
赤く、指のあとをつける。]
おまえ自身に訊ねれば良いだろう。
その為の鍵は既に渡した――――
お前の素っ気無さに根を持っているものがいれば命がいくつあってもたりないな?私もそのうちの一人だが。
よびだした者にまで恨まれるとはどういう躾をしているのやら。
[本気で問うてくる様子にまたもや眉を顰めて]
…宮様だ。式部卿宮様。今上帝の末子でいらっしゃるお方。
忘れたのか?あれだけの執着を持っていたのはお前だろう?
おれが記憶を失くしていると言うのか?
式部卿宮……見たことはある、いつぞやの…
[と記憶の糸を辿れば、ぽっかりと穴が開いていて、
顔も姿も声も、何を話したかも無のまま。]
……本当におれは忘れているのか?
[愕然と呟いた。]
あんたに尋ねてるって言うよりそうだな。
言いながら、自分で確認してるんだ。
確かに、あんたは式だ。でも、主を欲してたんだろう?
その思いは、人も式も変わらないさ。
誰かを欲しいと思う気持ちは。
[まだ、欲しいと思うのだろうか]
…忘れて、いるな。
なぁ白藤。憑かれていた者は憑き物が落ちた後はどうなる?
記憶は落ち面もこのようになるものか?
[あの凶相とは程遠い、しかし顰めたその顔は比べてみれば穏やかとも言える程の違い]
ふうん。
変わらぬものかな。
お前が云うのならそうかも知れぬし、
童の戯言かも知れぬ
……それは私には判らない。
欲したことだけは事実だ。
未だ満たされぬ、が
それを満たす術も知らぬ。
……そうだな。
[橘の言葉に同意し。]
憑かれて――いたものは。
その間の記憶も抜け落ちることがある。
形相が 穏やかにも、なる。
[答え、影居を見て]
――……どうして?
何やら──気色が悪い。
おれ自身の知らぬことを他人が詳しく知っているとは……
おれが何かに憑かれるなどと。
考えられぬ。
お前が知らぬ、ではなく忘れているのだろう。
その空白の間が真実ではないのか?
陰陽師形無し、だな。名高い陰陽師、阿部殿?
生きるためのものなら寧ろそれを誇れぬものか、お前は。
案外情けないのだな。
[くつくつと笑うがあきれてもいる。ことは重大かもしれないがどこか力が抜けているのはここが死後の世界だから]
誇るだと?
[眉間の皺が一層深くなり]
おれは生まれつき、人とは異なる力を持っていた。
養父がおれに、陰陽の道や召鬼法や符術を覚えさせたのは、無差別に使って周囲を傷つけぬようにするため。
きちんと呪力を制御する術を身につけるようにと、
おれは相当厳しく躾けられたさ。
[思い出したくもない、と言う様な表情に。]
満たす、術、ね。
本当の式であれば、主に聞くのだろうけど。
おれも、あんたも。もらえない答えを探してるんだろうね。
[短刀から手を離し、鳶尾の頬へと当てて]
誰が生きるための術(すべ)に苦労せぬものか。
お前がどのように修行したのかは知らんが私に同情でも求めるのならお門違いだな。
お前の未熟さは事の結末に現れているだろう。
お前がそれを認める認めないは知らぬよ。
死んで安んじるか…。それもありなのだな。
私は逆に未練を持ちそうなのに。己もやはり未熟か
[自嘲気味に唇歪め]
さて…少し疲れた。お前達はまだ…残るものでも見てるのだな
[白藤が咲かせた桜の下、寄りかかるように座るとそのまま眼を閉じた──*]
[橘が目を閉じるを眉間に皺刻んだまま見遣る。]
(欲しかったのは、憐れみではなく)
(……)
[何だったのだろうか?
*何か引っかかるものを感じながら*]
[指が、触れた先から仄かに藤の匂いが立ち上り、はらりはらりと怨みの痕が剥がれて行く。自身は、落ちればいい、と思うただけだったが]
おれの手は、もう汚れてるんだ。
[指で唇に触れ]
[はらり]
[怨みの落ちたそこに、以前されたと同じように唇を重ねて]
[甘い香りが、より色めき立つ様に]
[踊る]
さっきの、お返し、だ。
[甘さに酔わぬ前に離れて]
おれは、若君様を探す。安倍がここにいたのなら、若君様とは別だったのかもしれない。
汐さんも見当たらないから……あの法師なら、あの後どうなったのか知ってるかも。
[その手のここちよさに、未だ消えぬ痛みはやわらいだようでした。]
ありがとう、無我。
ご恩を受けたら返さねばならぬのに…わたくしにはどうしてよいのか分からぬのです。。
[問いには答えず
もし葛木が拒まぬなら 白く透ける衣を肌蹴
ほそりしなやかな胸板に身を寄せ 朱線と痛みを全て請け負うであろう]
[その後]
[文字を狐の繊手に綴る]
双子 リックは、学生 ラッセル を投票先に選びました。
[触れる指、寄り添う肌。
狐は淡く、吐息を漏らしました。
手へと綴られる言の葉のおもい。狐はハッとしてそれを見つめ、
もう片方の腕で、包み込むように
その裂け乱れた墨色の衣纏う肩を抱き寄せるのでした。]
…重うございましょう。
それのほんの僅かでも、代わりに背負う事ができれば良いのに。
―廃屋―
[――――誰が死んだのか]
[けたたましい女の笑い声、うねるぬばたま、足に触れる指先、うっすら感じる、足りない気配]
――――――っ、ぁ―――
[ひくりと、喉が震える。恐怖によって]
[枷のように伸ばされた腕、払い除けて]
―――――っ!
[墨染纏う男を突き放して]
…っ……ぁ……
[上手く、言葉がつむげない。
何かを言おうとしたのに、それは言葉を成さない泣き声に変わって]
[憎いのだと思っていた。それは、確かで]
[鳶尾の赤く染まった姿を見、まるで霧散したようにその気は薄れて]
[それでも]
若君様を探して、おれはどうするんだ。
[震えるのは手と心]
――羅生門――
[その大きな門を見上げる。朝の内は共に見たはずだったもの。日は傾いていて、夕日を受け屋根は橙に輝き]
白藤さん……。
ここで、死んだんだ。
[風にさらわれて、既に灰は薄く残るのみ。それを見下ろし]
おれが同じように死んだら、誰か泣いてくれるのかな。
[ぽとりと、*雫が落ちる*]
[式部卿宮はたしかに居なかった。
居れば居たで怒りもしたろうが、居なかった以上はどうでも良かったことだった。桐弥に言われて思い至る。
――おれの手は、もう汚れてるんだ。
一体なんの罪を犯したと云うのだろう。
盗み、殺しでもしたというのか。
――お返し。
一体何を返されたものだろう。
それとも、桐弥はそうしたかっただけなのだろうか。――それならば滑稽なことだと思った。
小さな背は、何を求めて何処へ向かったのだろう。
気づけば往来が騒がしい。
あちらから人がやってくるようだ。
口々になにか]
――嗚呼、これではまるで悪霊だな。私は。
[桐弥のしたように、己の唇を指でなぞる。
乾いて粘る血糊が指から唇へうつる。
主無く、人にも在らず未だ晴れぬ辛みを抱いては、
己はやはり悪霊怨霊の類に近いような気がする。
一度、東寺を仰いだ。
血、骨、肉。髪。誰が死んだものか、分かるものだろうか。衣の切れ端くらいは、きっと分かるに違いない。
ひとびとの騒がしい声を背に、何処へなと歩いて*いった。*]
[真っ暗な闇の中に時折、現在の現世の有様と思しい場面が切り出されて浮かび上がる。
おとこは渋面のまま、無関心にそれを眺める。
──今生の世には、少しは面白いことも良いこともあったが、それでも胸に開いた虚無を埋めることはできなかった、と思う。
段々とひとに何かを求めたり与えたりすることが面倒臭くなり、結局こころを堅く鎧ったまま、なるようになれと思い日々を過ごしてきた。
その報いが今の有様なのだろう。]
[だが。
廃屋で泣き崩れる少年が映った時、おとこは不意に胸が締め付けられたように息苦しくなり、思わず心の臓のあたりを掴んだ。]
[ふるふると、糸の端から伝わる震え。
……その糸は何処へ繋がっているのだろう?]
(かげ、い、さま―――――)
[澄んだ、か細い声]
[それが糸の震えとともに、ぽかりと胸に湧いて。
隅々にまでじんわりと、染み渡っていく。]
──……誰だ、これは。何故おれの名を呼ぶ。
[全く見覚えがない。
にも拘らず激しくこころが騒いで落ち着かない。]
[ 否 ]
[ 役目 ]
[狐の朱線と痛みを請け負うた証は青の徴と刻まれて]
[ 消えるは正しく ]
[ 時至りて消えぬは ]
[ 不可思議 ]
[ひたりと面を狐の首下につけ]
[ つねひと ]
[ 疾く消えぬなら ]
[ 希う ]
…それがお前の未練なのだろうよ。
無意味と言いながらもその中に意味を見出すのが人たるものよ。
[悪友とはいえ長い付き合い。薄い目を開けて静かに呟き…*]
[東寺と羅生門を離れ、
衣を着たまま川で身を濯いだが、水を離れども髪や衣にさしたる濡れた様子も無い。
血の匂いは、薄らいだところで消えるでもなく、ぬらぬらと身の回りを漂う。]
おれの未練……。
[呆然とただ眺めるうち、霧に浮かんだ景色は変わりて]
[総身を血濡れの緋(あか)に染めた己が式]
鳶尾。
やはりお前がおれを殺したのか。
何故だ。式が仕える主を殺す理由は何なのだ。
誰かに操られたのか。
それとも、おまえに自由なこころを与えたおれが間違っていたのか。
[分からぬ、何もかもが──と惑う声音、低く呟いた。]
[櫻の木に凭れて立って、
戸惑う影居の様子を見ている。]
――未練、ねぇ。
[鳶尾の名が出ると瞑目し]
あいつが、あんたに焦がれているからさ、影居。
恋しすぎて憎い――ほかの者を愛したあんたが。
[暫く佇んでいたが、ようやく顔を上げて]
あの法師もいない、か。誰か、見た人はいないのかと思うけど、もういないかな。
[北へと向かう]
――夕暮れ・羅生門→朱雀大路を北へ――
[人も輛も少なくなった大路を歩く]
(若君様は一人でどこかへ行かれたのかそれとも。あの法師も、若君様に興味を持ってるようだった? 連れて行った、とか?)
[無事でいるのか気がかりではあったが、手にかけたい相手の無事を祈るのも変な話だと、思い]
[まだ遠く、人の顔も見えぬような先に、夕暮れには珍しく人だかりがあって]
なんだ?
[向こうからやってきた男たちの話に聞き耳を立てると、なんとむごい、と小さな声が耳に入る]
[嫌な予感がして、駆け出した]
修道女 ステラは、双子 リック を投票先に選びました。
修道女 ステラは、学生 ラッセル を能力(襲う)の対象に選びました。
[辿り着くのは、八条の大路との四辻。そこに]
ちょっと、どいてくれ。
[人だかりを分け入り、見つけたのは、何度か見た、彼の人が背負っていた箱と、腰から下だけとなった、姿]
――なんだよ、これ。
汐、さん?
[膝を突く。そのまま倒れそうになるのを両手で支えて]
[白藤から聞かされた答えもまた男を愕然とさせるものだった。]
焦がれている──鳶尾が、おれに。
あいつは…そんな素振りなど見せたことは。
いや、そうではなく。
おれが愛した、だと。
まさか、それは、
[最後に見たのは、白藤を見て呆然とする姿だった。
違う人だと思いたかった。けれど、着ていた物は見覚えがあり、その箱も]
違う。……っ!!
[強く頭を振って]
なん、で。こんな姿に。
[違うことを証明しようとして、箱へと手をかける。中には、薬が入っているらしい壷や箱に白い布がいくらかと、そしていつか塗ってくれた軟膏が入っていた]
……。汐さん。白藤さんのところへ、行けた、かな。
[入っていた竹筒を開けると、灰が入っていて、それがなんであるのか一瞬わからず]
[箱を閉めて、汐の姿を眺める]
[屍など何度見ても気持ちいいものでもなかったが、知っているものとなればなお更で]
人が、死ぬのは嫌だ。
それはやっぱり、嫌なものだ。
ごめん、汐さん、おれの力じゃ運べないから。後で誰かに頼むよ。この箱は、誰かに取られないように持って行くから。
灰も、汐さんと同じ場所に埋めてもらえるように、頼むから。
[箱を持とうとして、手を見た。巻いてもらった布はいつの間にか外れていて、掌には傷がまだ残っている。
軟膏を彼がしてくれたのと同じように塗って、布を裂き、両手に巻く]
――!?
[鏡に映ったその光景に、櫻から離れ鏡に近づく]
汐。
[つめたい靄の幕に手を触れ、
眉を寄せて]
――どうしてだ。
なんで――
[言葉尻が掠れた。
首を横に振る]
[残りの布を汐の体にかけてやり、箱を背負って立ち上がる。そして汐を見下ろし、もう一度首を振って]
汐さん、色々ありがとう。
[六条院へと*歩き始めた*]
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