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✼ ✼ ✼ ✼ ✼ ✼
夜の交流時間が終了する間際、彼女はそっと"しょくいんさん"のへやに赴いた。扉を開けなくてもわかる、甘美な香り。甘くて美味しいアップルパイの香りだった。
極上の甘味。そう呼ばれる人間を漸く見つけた。お腹はもう限界だった。早く満たしてしまいたかった。
ノブを回し、ドアを開けて中に入る。
ひんやりとした空気と共に、様々な甘味の香りがマカロンを包み込んだ。どこを見ても人だった甘い死体が転がっている。
────美味しそう。
…けれど、一直線に向かったのは今朝見つかったパイの死体。溢れ出るアップルパイの香りに誘われ鳴く腹の虫は、無残な姿をした彼を見てもなきやむことをしらないようだった。それ程までに、極上の甘味は彼女を夢中にさせていたのだ。
カチャリ、と手近なナイフを一本取る。
そっと首筋に刃を当てて、流れ出す血を指で掬いとる。
血をひと舐めしただけで、今までの死体とは比べ物にならない程の美味しさだった。それならば、他の部位を食べればどうなるのだろうか。
ゴクリ、と喉が鳴る。
食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、
「……………………」
ナイフで、彼の後ろ髪を切っていく。ジャキジャキ音を鳴らしながら。
やはり、肉を食べることはできなかった。どうしても、嫌悪感の方が勝ってしまう。……それでも腹は空いている。これ以上食べないと気が狂ってしまいそうだった。
だから、あの時と同じように、髪の毛を。
「……………あぁ、美味しい。」
感嘆の声が漏れ出る。空腹が、ゆっくりと満たされていった。*
✼ ✼ ✼ ✼ ✼ ✼
キャンディを苦しめたかったのは、パイの言うように安心したかったからなのだろうか。
もしかしたら、彼女には“僕”を見てほしかったのかも知れない。
……だから、あの懐中時計を、預けたのかも知れない。
けれど、彼女も結局僕のことなんて何も分かっちゃいなかった。
分かっていないくせに、彼女は僕を殺そうとしている。
「……なあ、ウィンター。明日もし僕が死んでいたらこの舞台はキミの大嫌いなハッピーエンドになってしまうけれど。
でも、少しはこの物語に後味の悪さを残せるかな。スフレを信じて考えた結果、最終的にスフレを殺すんだから。
彼女はたくさん傷ついてくれるかな。」
──*──────────────*──
✼✼ 年 ▓▒ 月 □█ 日
本日は、極上の甘味を見つける事ができましたわ。……パイさんでした。
彼の血と、髪の毛を頂きましたの。
とってもとっても、美味しかったですわ。
甘さが口いっぱいにひろがって……
本当に、これでよかったのです…よね。
私は、極上の甘味が見つかったと、喜んで良かったのですよね…?
人を疑うことに疲れてしまいました。
私は、どうする事が正解だったのでしょうか。
昨日と今日、部屋の前に落ちていた紙もそうですわ。あれは、いったい誰が書いたものだったのでしょうか……私の選択は、正しかったのでしょうか………
……嘆いてばかりはいられませんわね。最後は楽しいことも書かなくては。
本日、キャンディさんにヘアアレンジをまとめたノートをお渡ししましたの。嘉永みたいに絵は上手く書けませんでしたけれど、それでも一生懸命書きましたわ!
ふふ、とても、とても喜んでくださいました。
約束を、きちんと果たすことができましたわ。
本当に、よかった 。
あぁ、もうこんな時間。早く寝ないと明日の朝起きられなくなりますわ。
どうか、今夜で終わりますように。
それでは、今日はここまで。
おやすみなさい、また明日。
──*──────────────*──
「………お嬢様、目が覚めましたか?」
優しい声がする方を見れば、執事の嘉永が心配そうに私を見つめていた。
「………っ………………?………っ!」
必死に返事をしようとするけれど、どうにも上手く声が出せない。それに、身体も上手く力が入らなかった。
「……大丈夫です。ご心配は要りません。
ただいま、お医者様をお呼びしましたから、もう少しだけお待ち下さい。」
嘉永の言葉の意味がよく理解できなかった。お医者様?どうして?……あれ、それにここは──
「……………………??」
見覚えのない天井、見覚えのない真っ白で清潔そうな部屋。自分のいた屋敷ではないと直ぐに理解する。意識がどんどん覚醒するにつれ、その他の事も理解し始める。ここは病院なのだろうか。
…どうして私はこんな所にいるのだろうか。
「目が覚められましたか、それは良かった。」
白衣姿の男性と女性が部屋に入ってくる。
「目立った外傷はありませんから、しばらくはこのまま安静にして──」
「…………………………ぁ。」
思い出した。
「…………あぁ。。。」
思い出してしまった。
「……あああああ!!!!!!!!」
私は、誘拐されたのだ。
兎に手を差し伸べられて、私はその手を取ってしまった。
暗い部屋に閉じ込められて、
ずっと、ずっと、何日も──
「いやああああああああ!!!!!!」
そうだった。
父と母がおかしくなってしまったのも、私をあの庭のある屋敷に閉じ込めるようになってしまったのも、全ては私のせいだった。
パパとママは私を守ろうとしてくれていたのだ。
あの記憶も、あの夢も、全部私の体験したもの。
心の奥に鍵をかけて閉じ込めていた私の記憶。
怖かった、悲しかった、辛かった。
けれど、全てを忘れてしまえば、もう一度あの頃のパパとママが戻ってくるんじゃないかって思ってた。
だから、私は私に催眠術をかけたんだ。
嫌な事も悲しい事も、全部蓋をして、鍵をかけて、隠して。
ネガテイブな事は、全て消し去って。
私は明るくて強くて優しい女の子なんだと思い込んで。
そうしたら、そうしたらきっと──
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