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……聞きたくないことを、いう相手の、
[目を開く。皮肉気な半眼が、慣れ親しんだ瞳に映り込んでいる。]
心配なんか、するもんじゃないわ。
[伸ばされた手から身を引く。そのまま、もう一歩後ずさる。]
――殺すだなんて。常盤。あなたにできるの?
それとも、"御狐様"に、頼むのかしら。
[声は淡々として、意味合いだけが皮肉気だった。
言葉を吐き出し終えた口を結んで、あなたへ背を向け、人間の姿のまま、歩き去ろうとする。日常の最中のような歩みは挑発的で、振り返りすらしない。**]
[――振り返りすら、しない。]
――。
[ぽつり。短い高周波。]
["一緒に"?]
[それは、この騒乱が始まってから、ずっと。
あなたに会えたら言おうと、とっくの前に、決めていたことだ。
キツネサマが人に与して。神使であるところのあなたも、そうせざるを得ないなら。そこにいてくれてもいい。
きっと、事が成せば。
この社にも善いことだと。わかってもらえるから。と。]
[もう、いい。**]
[ふわり、ふわりと飛び散っていた感覚が戻っていく。真っ暗でプツッときれた意識も同様に覚醒していくのを立花は感じた。遠くの方で幼馴染が泣き声が聞こえる。自分が泣く事はよくあるが幼馴染のこんな悲痛そうな泣き声は立花も初めて聞く]
(な、かない…で…おねが…い…いっくん…)
[そう慰めたくても、今の自分がどうなっているかわからない上、声すらだせない。すると真っ暗だった世界から光の粒子がふわふわと上から舞ってくる。立花は直感した。これは生前、常盤から死んだ人は黄泉の国行くのだと。これはそのお迎えだと。]
(まって…おねがい…りっかは、まだ…このまま…逝きたくないっ!)
[そう心の中でそう叫ぶと同時に真っ暗だった世界が光り、黒から一気に白になった。]
【秘密基地/早朝】
[その光が消えていくと同時に立花はやっとの事、目を開く事ができたのだ。]
ここは…秘密、基地?
[周りを見渡すとそこは雪で白くなっているが立花はすぐ自分がいた秘密基地だと理解した。白のところどころに赤い、自分が流した血が…何よりも証拠だった。立花は自分の両手を見ると、死ぬ間際と同じ透けているようで地面と自分の足元が見えていた。]
やっぱり、死んじゃったんだ…立花。
[わかっていた事だがやはり理解した後、気になったのは夢のなか、泣いていた幼馴染の事だが、どうやら本人はもうこの場にいないらしい。頭と背中が軽いから、帽子とリュック、あと右手に持っていた塊の一部も現世に置いてきたはずだがそれも見当たらない。]
いっくんが…持って、いったのかな?
[それならいつまでもここにいる訳にはいかない。明るいという事は早朝。自分が死んでから大分時間はたっている。支配陣営にいる仲間や自分を心配してくれた人たちにもう…自分の死が伝わってるかもしれない。とりかく、移動しないとと、立花は思う]
【閑散とした地域、空きビル近く・昼前】
[行動あるのみと決めたものの、右手をポケットに入れたまま街中を徘徊しているだけだ。綿の中はふわふわしていて、方針がなかなか定まらない。
結局たどり着いたのは少女が亡くなった現場の近く……詳細な位置を聞いてくればよかった、なんて舌打ちした。この辺りだとは見当がついても確信が持てない。
結局、電柱やポストに時折触れながら歩く羽目になった。]
このへんか?
[呟いたが自信はない。かの少女の残した遺品は小鬼が運んでいたし、距離があるのか“道具”からはうまく読み取れなかった。
だから路地裏──暴行事件、殺人事件が路上で発生する場合、8割は路地裏で発生するというドラマ仕立てのロジック──へと口を開いているビルの角で足を止めた。]
>>21猫
【閑散とした地域、空きビル近く・昼前】
[仲間が1人、居なくなったことはわかっていた。帰りを待って、待って、……そして帰ってくることはなかった。もう彼女にしてやれることはない。そんな事実は痛いほどわかっているのに、感傷はあの少女の最期の場所へと足を向けさせる]
[その途中で聞こえた足音と、小さな呟き。一瞬考えた後に、結局引き返すことはしないまま、その音の主を目指して歩く]
……今日は何、探してるのよ。
[そして、声をかけた]
>>23猫
持ってんのは白だけよ。力を使うと色が変わるの。
[質問に律儀に応えてから、あなたから少し離れた場所で立ち止まる]
ああ。……そっちの先みたいよ。
実際に見たワケじゃ、ないけどね。
[友だちだったんでしょ――かけられた言葉に、一度目を閉じる。再び開く。表情は、いつも通りの仏頂面のまま動きもしない]
そうね。
こんなことになる前から、良く私のとこ寄って来て……
妖怪としては、向こうのが年上なんだろうけど。でも妹みたいで、可愛い子だったわ。
【水タバコ屋付近/早朝】
[街をしばらく漂って、少しずつ事態を把握していく。実体化は全くできない。炎など動かせるはずもない。すれ違う男の煙草の火に意識を向けてみたが、炎はなんの手応えも感じさせることはなかった。]
…….変な感じだなぁ、こりゃ。
[胸に手をやりながらつく悪態に、もう深刻さはない。いささか覇気はないものの、元来が実体を持たぬ精霊である彼は、未だ死を実感として感じられぬのだ。]
……うちにはいねえだろ。何やってんだ俺は。
[ぼんやりと彷徨ううちに店が見えてくる。無意識の行動に、苦笑が漏れた*]
>>25猫
どうかしら。[肩をすくめる]
残念ながらそれは違うの。
もし聞けてたんなら、ぺちゃんこどころじゃ済まさない目に遭わせてやったんだけど。
[言っている間に、あなたがこちらへと向き直った。それを見ながら、胸の少し下で軽く腕を組む]
アンタも知り合いだったのね?ホント、誰とでも仲良くなっちゃう子だったんだから。
……成桐、って、そっちの人だっけ。そちらもご愁傷様ね。
この犠牲が直接、新しいものに繋がるかって聞かれたら……まあ、ちょっと違うんでしょうよ。
必要な犠牲だった、とも、言いたくはないけど。
だからって、インドに行く理由にはならないわね。
[目を細めて、つま先でトンと地面を叩く。……いつでも動けるように]
>>26歯
喪服も兼ねる。──ちょっと派手か。
[自分で、言ってナンセンスだ、とばかりにこちらも肩を竦めた。]
仲間割れってわけでもないか。
[あなたの感想に返したのは、それだけだ。]
そう。よく抱きついてきてねえ、可愛い子だったよ。
なるちゃんから様子がおかしいって聞いて、気にはしてたんだけど。全部が全部、後手後手だね。
──どうもありがとう。
ふぅん。りっちゃんの屍も越えていくってことか。
[ぺろりと舌が唇を舐める。じりと横にずれた。
綿の頭に幾ばくかの思考を巡らせて、あなたのつま先の鳴る音で結論を拾い上げた。
(よし、拉致ろう。)
そう決めれば、あなたの言葉の応えも待たず、あなたに向けて走り出した。もともと低い身をさらに低く、一気に距離を詰めて──あなたの腰の高さに伸ばした左手は胴を押さえんと、]
>>27猫
少なくとも、私らは関わっちゃいないわ。
間に合わなかったことを笑うんなら、……それでもいいけど。
[歪んだ口元から、吐き捨てるような自嘲]
良いヤツから居なくなるって本当ね。
でも、そうよ。私は越えていくの。
他人の誰かを奪ったヤツが――自分が奪われたからって、その掌を返すとか。そんな虫のいい話はないわ。
[頑なな決意の籠もった声を、動いたあなたが聞いていたかどうかはわからない。こちらはこちらでそんなことはどうでも良く、掌に闇を具現させる]
[白いドレスはまた黒く染まり――その場から飛び退きながらひとつ、まともに狙いを付けるでもない、牽制用の闇を投げた]
>>28歯
お互いさまだな。誰の後悔や慚愧の念を笑うほど、あっぱらぱあのつもりはねえや。
[あなたに笑顔や笑いを向けるほど、親しみを感じているわけではないので。こちらの言葉を吐き捨てる。]
そういう覚悟は、嫌いじゃないよ。
けど、こっちだってハイそうですかと道を通すつもりも、ない。
[それだけが最後にあなたに向けた言葉だ。
走り出す。あなたの腰を掴んでそのまま走り去って──その狙いを現実にするため。
──あなたの投げた、牽制の闇が視界の真ん中へと飛び込む。ギュリとつま先の向きを変えた。わずかにくの字を描いた軌道を作らんとすれば、わずかに勢いも死んだ。
左の耳で、闇が背後へと跳ねる音を聞く。それが頭の綿に届く前、つま先は地を叩き、あなたの懐へと飛び込まんと走る。]
>>29猫
アンタ、いいオトナになりそうね。[最後に返したのは軽口]
[当てられるとは思っていなかった。ただ、避ける動作で体勢を崩しているうちに――という目論みであったのだけれど、あなたは思っていたよりも、大胆に攻撃をすり抜けてきた]
[舌打ちを一つして、予定していた二撃目をを諦め身を翻す。伸ばされた腕から逃れ――るより先に、腕が引っかかった]
っうわ、わ。
[重心が変な方向にぐらつく。よろめく。場合によってはあなたも巻き込んで]
>>31猫
ちょっ、
[崩れたバランスを戻そうと頑張っていたところに、腕を跳ね上げられ、顔面に向けて手が飛んできた。そちらの思惑通り、直撃を防ごうと身を引く]
顔やめてよね!!
[再び少し距離が開いたのと同時に、文句が飛んだ。そんなやりとりの中でもじわり、再び女の周囲に闇がわだかまり――女の手の中に収束して、黒い短刀のような形を作る]
>>32歯
カッパの軟膏あるから大丈夫。
[離れるあなたの叫びのような文句に返したのは、軽口だ。あなたが軽口ととるかはわからないが。
あなたに近かった足を遠のけるように向き直り、前になったつま先がタンタンと拍をとるように地面に打ち付けられて、鳴った。
そのこちらの隙に収束した短剣に、フードの下の目をすがめる。
近接で殴り合いも辞さぬか──
あなたが短刀を握る腕の側の1m先の地へと、あえて低姿勢で飛び込む為、地を蹴った。]
[飛び込めればそのまま左の手が地を支え、短刀を握る腕を胴に押しつけるように靴のかかとを叩き込まんと蹴り上げる。]
>>33猫
尻子玉抜かれちまいなさいよ。
[女の命に傷をつけて、軟膏だなんだで済むものか。ジト目で舌打ち混じりに呟き、即席の短刀を握り直す]
[内なる声に、本能の叫びに従うことで、確かに力は手に入れた。しかし力は力でしかなく――闇は妖怪を軽々と押しつぶし、その闇から生んだ刃も、鋭い切れ味を宿している。ただ、]
っ!!
[あなたが飛び込んできたタイミングで、短刀を振った。しかし思ったよりも少し遠く、刃は空を切るに留まる。――力はあれど、彼女の身体能力自体は、ごく平均的な女妖怪のそれだ]
あ、だっ、
[腕に、昨日味わったよりも重い靴の感触が当たった]
>>34歯
尻子玉、欲しいねえ。
[こっちがカッパのような戯言を口にした。]
[足に短刀が突き刺さる危惧など捨てた。死にやしない。それは闇の力を舐めた思考で、間違いなく運勝負に近かった。切り飛ばされたって仕方なかったが──幸運の女神の前髪を、動かぬ右手でむしり取ったようなものだ。
なんでもいい。
入った蹴りを戻す反動は、あなたとの距離をまた作ったやもしれぬ。蹴り込んだ足を上部に押し上げて、片手倒立さながらに引き戻さんとした矢先、ぶらぶらとした右手が地面にぶつかってバランスが崩れてしまう。]
わ、ふぁっ、
[肘が曲がり、上がった足はそのまま反対側に。べしゃっと音を立てて、地面にひっくり返る。
すぐに身を返し膝の布が裂けようと構わずに、ライフセーバーのごとくしゃがむ姿勢に戻り、そんな数秒の間のあなたの動きを目に入れようと顔を上げた。]
[蹴られた腕で握った短刀が、自らを傷つけなかったのはこちらも幸運だった。鈍い痛みに顔をしかめながら、それでも武器を取り落とさぬよう握り締める。はしたないとかの言葉が頭を掠めることもなく、足を広げて倒れぬように踏ん張り]
――こぉの!
[見れば相手は地面にひっくり返っていた。お返しだとばかりに地を蹴ると、黒い刃を振りかざし、しゃがみこむあなたの左腕へと向けて振り下ろす。狙いはその腕に刃を突き刺して、地に縫い止めること。動かれるから面倒なのだ]
>>36 >>38猫
[フードの下の容貌に一瞬目を丸くしたが、顔面偏差値に点数を付けている場合でもない。短刀であなたの腕を捉え、そのまま強く刃を地面に突き立てる]
さあっ、命乞いの準備は――、うわっ
[動きを止めたと勝ち誇った声を上げようとした矢先、足払いが飛んできた。突き立てたままの短刀からは手を離して、その場を飛び退く]
>>40猫
[短刀の形を取ってはいるが、元々は主やあなたの腕を押し潰した闇と同じ性質のものだ。小さくともそれなりの重量は持っている。少し時間をかければ抜くことは出来るだろうが、多少の時間稼ぎくらいには――]
[「重い?」 短刀が重い、と取れば互いに幸せであったやもしれぬ。だが女のカンは鋭いもので、あなたがその一言に込めた意味を無事悟ってしまった]
潰すわ。
[ぶわ、と周囲に闇の塊が増えた]
>>41歯
あ── っべ、
[シンプルな怒り、あるいは憤激に、己の失言を悟る。煽る言葉を口にするのはやぶさかではないが、今はその時ではない。
膨れ依り集まる闇、主をへし潰したあれがくるのか。あれはさすがにぬいぐるみで受けたとしても──あまり、面白くない話になりそうだ。
身をひるがえさんとして、刃が地へと引き戻す。甲虫が身をひるがえそうと無様に転がるようなものだ。]
ッくそ、
[こうなってはやむを得ない。奥歯を食いしばって、思い切り、縫い止めている短刀へと、倒れた身を転がす。全体重で短刀をへし折らんと、(あるいは地面を切り裂かせ──?)]
──ンッ、……く、
[いずれにせよ、突き刺さったままの刃は、左の腕をばつりと切り割いた。かろうじて繋がってはいるが──
短刀が折れようと地に転がろうと、さらに身を転がしてあなたから距離をとらんとする。]
>>42猫
[あなたへ向けて、闇の塊を投げつけようとする。――そこには戦闘の高揚があった。頭に血が昇る状況があった。フルパワーで発動させていた能力があった]
[理由は様々だっただろう。何が原因かはわからない。もしかしたら、あの声に耳を傾けた瞬間から、それはじわじわと始まっていたのかもしれない]
――、あ?
[闇を投げる瞬間。自分の身体にも、妙な重さがかかった。そしてあなたを狙っていた闇は、短刀を折ったあなたの決死の回避行動の甲斐もあり、少し離れた地面を抉るだけに留まった]
[己の腕を見る。黒い。ドレスだけではなくて、自身の身体そのものが、闇の色を宿している]
[――わからない嫌な予感に、言葉もなく踵を返す。このままこうしていてはいけない気が、したので]
>>43歯
[身を転がす間にも、冗談みたいにバタバタと音を立ててペンキのような偽物の血が地を舐める。幸いにしてその血は闇を誘導することなく、躱した先から離れて、闇が地を抉る。
砕けたコンクリートから五感を守る術は目をつむるのみ、瞼のない左のガラスがまたぱきりとひびいった。]
──く……っそぉ、 …… ?
[もう一度身を転がし、あなたに飛び掛かろうとしても──戦いの高揚、それをこちらも感じていないわけではない──上半身を支える腕が、動かない。ガりと肩を地面にこすりつけて、なんとか立ち上がろうとする間に、あなたはきびすを返してしまった。]
……へっ、どうしたんだよ。
負け猫には興味がねえってか?
>>44猫
[そういうんじゃないの……と言い返したかったが。混乱した頭のまま挑発に乗る気は起きなかった。返答はなく、黒いドレスの女は走り去った]
[何が起きているのか。自分はどうなるのか、どうすればいいのか――女がそれを悟り、あるいは決めるのには、もう少しの時間がかかる**]
【街のどこか/朝】
[烏が飛んでいる。それは何かを探すように、何かを問うように鳴き声を上げる]
[建物の屋根の上、電線、路地裏を。それの目的は向こう側の居場所か、向こうの動きか、それとも]
[昨日少女が辿った、または辿ったであろう道、場所の周りを、飛ぶ。それで何かがわかるのだろうか。わらかない]
[はぐれている間の時間を、埋められる何かは見つかるのだろうか。]
[烏はまた群れの中に消えていく**]
【薄暗い路地裏/午前】
[そこは、朝も、昼も、陽の光が薄く、暗い場所。
そこに、烏が何かに群がっている。
烏の羽ばたき、鳴き声にまざり、啄むような咀嚼音が響く]
[群がる烏の中心には何かがいる──いや、あるといったほうが正しいか。]
[元は、人か、妖怪か、それとも別の何かか、烏の群れの奥ではうかがい知るのが難しい。
そうでなくても、その形から、見た目で推し量るのは困難だ]
[それは元は妖怪であった、あちら側か、こちら側か、それはもうわからない。
でもそれはきっと敗北をした。誰が、何が、どうしてそうなったのか、その痕跡は失われていく]
[本来ならば、妖怪としてここで朽ちていくはずだっただろうか。
烏はそれを許さない、己の血として、肉として糧とすべく、それを啄んでいる]
[その烏の群れの中に、一回り大きな烏が中心に居た。
がー、と鳴き声が響く、周りの様子を互いに連絡し合う。]
[どれぐらい時間がたっただろうか、そこには、もう何もなかった。
大きな烏から、何か形容し難い力が発せられている、それはその烏が持っていたものか、それとも元の妖怪が持っていたものか。]
[ぎらり、と烏の目の奥が光る、いやそれとも濁ったのか。
いずれにせよ、それは今はもうこの烏の中にある。烏の群れが飛び立つと、そこには何もない**]
>>18,>>19,>>20 鼠
[彼女の名前を呼ぶ。けれど向けられる表情は眉根が寄せられただけで、煩わし気なものにも見えた。]
……嫌いな相手なら、心配なんかしないさ。
[あなへと伸ばした手は空を切る。鳥居を挟んだ向こう側、あなたの姿が遠のく。
手を引き戻して僅かに視線を落としたけれど、皮肉な響きに対して再び上げた顔には険のある視線が覗いた。]
――、 馬鹿にしてんのかい。自分の感情の始末くらい自分でつける。
[背を向けたあなたが、更に遠のいていく。歩き去っていくあなたの背中はこれまでも見たことがある日常の歩みのようで、止めるなら、殺すなら、その背に攻撃をすれば良いのだけれど。
薄く開いた口が音を形作らずに息だけ零して、あなたの名前すらその背にぶつけられないまま、視界からあなたは消えた。**]
>>+7 花
[おそらくあなたは足音を立てない。実体がないから。そして前に意識を向けている成桐に、後ろから近づくあなたの気配を察せるはずもなく。]
うおっ!?……あ?
お前、リッカ……だよな?
[あなたと身長差があまりにもあるから、腰を捻ってもあなたの頭がかろうじて見えるだけなのだが。自分を呼ぶ声でわかる。慌てて身を離そうとするが、いつもは冷たく感じられていたあなたの体温は感じられず、自身から炎が失われていることをあらためて思い出す。]
……お前、俺が見えるのか。ていうか、触れるのか。
[いかな鈍感な彼でも、あなたの身に何が起きたのか、その帰結くらいは理解できる。固く目を瞑った。こんなことになるなら、怪我をさせてでも手を引いていればよかったのだろうか。]
あー……なんだ。おう。
……えーと。あれだ。
…………大丈夫か?
[見当違いなことを言っている自覚はあった。しかし言葉は他に思いつかず、仕方なしに背中側に手を回し、あなたの頭をぽんぽんと叩いた。]
>>+8水
[生前、彼に近づいただけでも暖かさを感じられたのに、今はこんなにも密着しているのに何も感じなかった。わかってはいたがこうして再会し触れて、改めて思い知らされたのだ。自分は目の前の彼を殺し、死なせた。そして自分も死んでいるという事に。彼の問いかけにぶんぶんと首を縦に振るしかできなかった。怒るどころか自分を心配し、ぽんぽんしてくる彼の優しさに立花は我慢していた涙をぽろぽろ流した]
っ……
[でもそれでは駄目だと立花は思った。咽ぶ前に、言わなきゃいけない事がある。立花はバッと彼から離れ彼を見る。そして涙をぽろぽろ流しながら、こう言った]
じんっ、にいぢゃん!!ご、ごめんなざいぃ!!!
【河川敷/夕方】
[夕暮れに空が赤く染まる頃。ゆらゆらとした足取りで、河川敷を歩いていた。昼間の戦いで黒く染まったドレスは戻らぬまま、その両の腕までも、闇で出来たかのような黒へと色を変えている]
…………。
[考えて、考えて。そうして出した結論は――これが、己が"妖怪"である証なのだろうということだ。想いから生まれた妖怪は、己の想いでも形を変える。人から恐れられる妖怪であろうとするならば、"そう"なってしまうのだろう]
[――"そう"なる前に、会っておきたい相手が居た。自分を探していたという、あの小鬼。この対立が始まってから一度も顔を会わせていない彼を捜して、一人、歩みを進める]
>>+9 花
[あなたが離れたので、あらためて体ごとあなたの方に向き直る。泣き顔を見て、死んでも泣けるもんかね、と思わず感心したが、その涙が地面を濡らすことがないことを見るとはなしに見ていた。]
おー……なんだ。泣くな泣くな、俺が困る。
そりゃ何に謝ってんだ。俺を死なせたことなら、ありゃ俺が弱かったってだけだしよ。気にすんな。
[気を遣っているように聞こえるかもしれないが、ほぼ本気でそう思っている、そんな口調である。]
でもまー、そうな。
家出して二晩もほっつき歩いたこと、俺はともかくトキワとか大人に話さねーでいろいろ決めたこと、あとなんだ、あの変なドロドロは、あんなもんと関わったこと!そーいうことならよーーーく反省しやがれこの
[一息にそう言うと、握りこぶしをあなたのつむじの上でぐりぐりと回した。]
……とりあえず、あっち帰ったら家の掃除な。お前が散らかしたんだからな。帰れんだろ、俺たちはバケモンなんだし……
[楽観もここに極まれりだが、根拠はある。炎がないとはいえ今も意識があるということは、現世との繋がりが完全には断たれていないということだろう。そう考えている]
>>51 歯
[夕暮れの中ねねと遭遇した河川敷に再び訪れていた。
白いドレスのあなたを見かけたのなら、「インド行くんだって?」なんて日常会話をして、躊躇したかもしれない。だが黒く染まったドレスのあなたにはそうできなかった。]
――沙霧サン。
[いつもと違う真剣な声色であなたの名前を呼びかける。名前以外にも呼びかけるべき言葉はあったはずなのだが、なかなか出てこない。一つ呼吸をして、ようやく口に出した。]
もう、やめようよ。
>>+10水
だって、だってっ!
[慰めではなく本気で“自分が弱かった”という彼の言葉に立花は首を横に振った。あの時、もし自分がトラウマを穿り返されなければ、自分がもっと立派な雪女だったら、そもそも事が起きる前日に、1人で母親の墓に行きその帰りに何かに出会わなければ、唆されなければ。立花は頭の中は罪悪感でいっぱいになりそうだったそんな時。]
ふえっ!?…やっ、ちょ…うええええ…!ご、ごめんなしゃい!!
[その後の彼の一息の言葉と同時に振ってきた拳。痛覚がない為変な感じだが、立花を正気に戻すには充分すぎる優しさだった。]
[彼の楽観すぎる言葉に、立花はまだ本当に帰れるかどうか信じられず不安でいっぱいだった。なぜなら彼女の母親は死んだっきり帰ってこなかったのだから。でも、なぜか目の前の彼が帰るって言うなら本当に帰れそうな、そんな事も少し思ってはいる。立花は自信なさげに浅く頷いた後、自分の左手で彼の右手を繋いだ。とりあえずしばらく一緒にいたいらしい。]
>>52天
[声が聞こえた。探し回っていた相手の声だった。そうと認識すれば、すぐにそちらを振り向いて]
……やめる?
何を、やめるの?
今更よ。
[ことり、首を傾げた]
>>+11 花
おう、反省しとけ[そう言うと、デコピンをひとつして、それで仕置きは終いにした。]
ま、俺にも方法が分かるわけじゃねーんだが。
トキワが確か、いっぺん死んだニンゲンなんだろ。
そしたらいっぺん死んだ化け物もなんとかなんじゃねーの?
[常盤本人に聞かれたら呆れ顔で睨まれそうな話ではある。]
それに、俺のここで火が燃えてないのに俺がいるってことは……なんかあっちに俺の火を置いてきてんじゃねーの?って思ってな。そしたらうまくやりゃ戻れるかもなっと。
[実のところ彼の言うところの「火」は、昨晩真っ二つになっているのだが、彼が知るはずもないし、今このように存在しているから大丈夫なのだろう]
[あなたが手を繋ぐのには、黙って握り返した。あなたを見つけるという目的を果たしてから、足元の穴が大きくなったように感じる。静かにそれに抗うように、今触れられる唯一のもので杭を打つ。そして勿論、あなたもその「穴」に落ちぬようにと。]
……とりあえず、どっか行くか。誰かはいんだろ。
>>53 歯
[首をかしげるあなたの様子がいつも通りのように見えてしまい、困った。だが続けないわけにはいかない。]
……人間を支配するとか、反対する妖怪を殺す。とか。
聞いたんだよ。
じいちゃんを殺したのは、……沙霧サンだって。
……今更なんてさ。言わないでよ。
まだやる気なら、もう……。やめようよ。
見たことないものなら、他にも沢山あるよ。
[ところどころ言葉に詰まりつつも必死に訴えかける。]
>>54天
[あなたをじっと見つめたまま、いつもよりも真剣なその言葉を聞いていた。あなたの言葉が途切れれば、ふ、と息をついて]
そうよ。私が、おじいちゃんを殺したの。
だから今更。邪魔をするやつは叩き潰して、人間達に私達の恐ろしさを知らしめる。
……私が、人のフリをする生き方しか知らない私が、本当に"妖怪"になるための道。
どうして、やめないといけないのよ。
[肩をすくめるような動作。……持ち上げた手は、その衣装と同じ闇の色]
>>55歯
人間達にえばって、それでどうしようってんだい!怖がらせたって人間は言うこと聞かねーぞ!
人のフリしかできないって!それでいいじゃんか!どうして弱いもんいじめみてーなことするんだ。
そんなことしなくたって、沙霧サンは沙霧サンだろ!
沙霧サンはそっけないけど、優しかったろ……。
なあ、帰ろうよ!
[その闇色の手を取り繋ごうと、背伸びをして手を伸ばす。]
>>+12水
[デコピンを見事にくらうとあぅっと仰け反る。痛みはなく変な感じだが思わず立花はくらったおでこを右手でさするだろう。]
え、ええっー…確かに、常盤さんはそう、だったけど…
それ、常盤さんが聞いたら怒りそうだよぉ…
[脳裏で睨む常盤を想像しふるると震える。なんだかんだ立花は怒る常盤が苦手であった。怒るとすごく怖いというのもあるが怒らせて困らせるのが嫌だったっていうのもある。]
火?………ぁ。
[彼の火という言葉を聞いて立花は昨夜のあの瞬間を思い出す。刺されて自分が倒れたあの後。あの時痛みとショックでボーとしていたけど、確かに近くでガラスが割れるようなパキッと音がしたはずだ。立花は思わず小さく呟くが彼にそれを話すのは駄目だと思い空いている右手でお口チャックをした。]
…神社、行きたい。常盤さんなら、もしかしたら、立花達、見えるかもしれないし…
神社なら、なんかあるかも…しれないし…
[そう提案する立花には彼が見える「穴」は見えない。代わりに気がついたら光の粒子が先ほどより多く舞っている、気がした。それを雪だと思えば世界を見る分にはジャマにはならないので立花は気にしないようにしている]
[片手はないが、潰れた手は治してもらった。まあ、もう片手だって経験上、多分、しばらくすれば生え直すんじゃないか。繋げばもっと早い。
だからさして怪我は気にしていない。]
【東景タワー・夕方】
[今日はタワーは休みのようだった。
でも高い所から街の様子を確認したくて、こっそりと忍び込む。バレたらバレたでぬいぐるみの格好にでもなればいいのだ、忘れ物扱いになるだろう。
そんな楽観を手に、一応足音を忍ばせてタワーの非常階段を登る。]
>>56天
威張りたいとか、そういうんじゃないの。
人間のフリして、人間みたいに幸せに生きられるならそれでも良かった。
でも私は、……人の未練が形になって生まれた、妖怪よ。
それをなくしてしまったら、私は何になってどこへ行くの?私はいなくなってしまうんじゃないの?
それが怖いから――私は私の手で、私の未来を探したのよ。
[取られた手が小さく震えたが、振り払うことはしなかった。握り返しもしないまま、背伸びするあなたを見下ろしている]
[だいぶ上まで登れば、夕焼けもしずんだ夜景が眼下に広がっている──が、視界を遮るフェンスが邪魔だ。なにか嫌だ。物足りない。そうじゃない。]
んー。
[しばしの逡巡。辺りを見回す。非常灯がついているだけで薄暗い。人の気配はしない。空だってもう、薄暗がりに包まれている。]
いいや。
[そう零せば、非常階段の突き当たりから鉄骨へ、隙間に身を潜らせた。
人が落ちれば即死のような高さだが、高い所は好きだ。右手を念のため添えながら、トットと具合のいい所を探して鉄骨の上を歩く。]
[ひょうひょうと上昇気流がフードを揺らしている。バランスを崩しそうになれば、鉄骨に添えた右手に力をこめた。
あまり歩いていれば、地上から──あるいはどこかのビルから目立つかも知れない。そんなことがようやく過ぎって、V字の鉄骨が生えている根元に、すとんと腰を下ろした。
尻を落ち着ければ、ぶらんと足を宙へと放り出す。]
ふー……。…… ……
[地上200mから、東亰を一望する。
空から降りるベールのような暗がりが、この街を覆い始めている。──目視できぬ闇もまた降りてきていることを、街の人々は知らない。知らぬまま、車のランプを、ビルの明かりを、街頭の明かりを、街に千々に零している。]
[ゆら、と足を風に泳がせる。]
>>58歯
[身長の都合上見下ろされるのには慣れているが、今日は一段と距離が遠く感じる。視線を合わせて。あなたの産まれについては知っていたが、そんな気持ちは初めて聞いた。]
……。おれは人間みたいに生きれてないし馬鹿だから、沙霧サンの怖いやつ分かんなかった。
ごめん。
でも、未練、なくなってもいいじゃんか。結婚しよって言ってたのは未練無くすためだろ。
式するって話、いっぱい話してくれたじゃんか。
ずっと未来の話だけど、いつかするって言ってくれたし。
妖怪だって変わってく、昨日と今日とで違うやつになるなんて……ないんだ。
ないんだよ……。
だから、おれは沙霧サンは沙霧サンだって言い続けたいんだよ。
もう、やめよ。
沙霧サンが楽しくなさそうなのはおれはしんどい。
[あなたの手を握れることができれば、そのままどこかへ連れて行こうとあなたの腕ごと引っ張ろうとする。
恐らく共存派でも過激な妖怪の踏み込まない場所を考え、そこに連れて行こうと考えているのだろう。]
[背中から落ちたなら多分死にやしないが──残った右目が割れれば別だ──怪我をむやみにしたいわけでもない。右手で鉄骨の縁を掴んだまま、泳がせた足のつま先を見下ろす。]
[別に、人間を守りたいとか思っちゃいない。支配する、そんな発想にことさら文句を言うつもりもない。]
[でも多分、他の──常盤や一平、成桐や主、その他諸々のあやかしよりは、付喪神という化け物の一部は、人間により親しみを覚えるものなのだろう。
人への恨みではなくて、人の思いが、投影が……何らかの霊力を引き寄せて、命を持った存在であれば。
そして、自分はそういった生まれだ。その生まれから、まだきっと、抜け出せていない。]
>>61天
[ごめん、だなんて。何も悪くないはずなのに謝ってくるのがなんだか可笑しくて、苦笑の吐息を漏らした]
一平ちゃんと話してるときは楽しかったわ。
ちょっとだけ、怖いの忘れられてた。
だけど、私の後ろにはいつだって、何にもなれない恐怖がついて回ってて――道を選ばない私を、追い立ててたように思うの。
今まで、私は今を生きてただけ。都合のいい未来を夢見てただけ。
本当に未来を望むなら、選び取らなきゃいけないのよ。
あの声を聞いたとき、そう気づいて……選んで……
それから今、もう一度、選んだのよ。
[引かれる腕を、力を込めて引き留める。そして――あなたの手を、払った]
"妖怪"に、なるの。
[唇を開く。喉から声を出すように、]
[言葉が風に紛れただけならば、どれだけよかったか。
かじられて、痛かった。痛いのは嫌だ。痛くて、死にたくないと思った。──それだけで、動いてしまっただけだ。
生きて何をしたいとか、まだなにをしたいとか、そんなことを思ったわけじゃなかった。
(だって、もうあのこはいなかった。)
(あのこのともだちのぬいぐるみは、もうおやくごめん。)
(せめて、あのこをまもるためにめをさましたなら、どれだけよかったか。)
──だから、なにも定まらない。]
>>63歯
[あなたの苦笑の意図は彼にはうまく伝わらなかっただろう。少々首を傾げたか。]
おれが、ちょっとでも楽しみになってんならよかったけど……。
いつか叶うよ!
だって…。
こんなにウェディングドレスが似合う人は、沙霧サンしかいないんだよ!
あの声ってなんなの?
そんな声だけのより!おれや!他の友達だっていんだろ!
[疑問を投げかけたか、払われた手に遮られたか。あなたから感じる気配に思わず後ずさる。]
さ、ぎりさ……。
[あなたの名前を言い切ることができない。背筋を震わせ、目を見開きあなたを見つめる。]
……べつに、……。……
[死にたいとか、考えたことはない。
ただ、……あのこのための命が今更、なんて思いがないのは嘘になる。だから、“鼠”にはあのまま朽ちさせてくれなかった恨みのような泥のような感情が渦巻いてしまう。
それでも──あまりにもタイミングが遅すぎたけれど、自分が命を得たのはあのこのおかげなのだ。だから、死にたくないと思わせてくれた、それには間違いなく、恩を感じている。
そんな背反、自分が思うだけでも重たすぎて、──件の鼠に話せるものか。
それに、……何かが、見えてきた。そんな気がする。]
[もし、あの“鼠”にまだ伝えることができるなら、それは。]
──……そっちの方が、いいやんね。
>>65天
[あなたの言葉を、今よりもうちょっと早く聞けていたら。自分の本音を、もうちょっと早く伝えていたら。そんなことを頭を隅で思いながら、この状況に不釣り合いなほど穏やかに笑う]
さっきね。あきらちゃんだっけ、あの猫フードの子。
あの子とやりあってたときに、こうなっちゃったんだけどさ。[自分の黒い手をひらり、振る]
想いが形を成すなら。
恐れられようとする私は、"そういう妖怪"になるんだわ。
私は立ち止まる気はないから。
アンタでも邪魔するなら、叩き潰して――その先を掴むわ。
[陽炎のように、女の周囲の空間が揺れ、闇の塊がふわりと浮かぶ]
[……あの鼠も、人を支配するという者たちと手を取り合っている。
理由は知らない。あの公園で見送ったあの背を最後だ。
こんなことなら。]
……、トリモチ……。
高尾に投げるより、鼠の通路にしかけまくる方が、よかったか。
[(すごく怒って飛んできそうだ。)
小さく笑った。笑っただけで、すぐに口の端から力も失せる。]
>>67歯
あきらと!?じゃああの腕は……。[負傷していた友人の腕。そのときは特に気にしなかったが。まさか。]
まだ間に合うってば!
沙霧サンが好きなのはおれだけじゃないんだぞ!りっちゃんだって!
――ッ!
[闇の塊にたじろぐ。恐怖から一歩、一歩とあなたから離れてしまったものの。踏みとどまり。]
やめろ!
[飛び掛るようにあなたに向かって腕を向ける。恐らく腰のあたりを叩き、バランスを崩そうとする。]
>>69天
そうよ。昨日も、今日も、あの子突っかかってくるんだもの!
[高らかに叫び――消えた少女の名をあなたが口にすれば、表情を歪めた]
立花ちゃんはもういないわ。
[静かに呟いて。向かい来るあなたへ向けて、黒球を飛ばす。それは強い重力と、暗い思いを帯びていた]
[(そりゃ、そうだよな。)過ぎった言葉に頭を振る。
顔を付き合わせれば文句を、挑発を、悪態を交わす相手を面倒がらぬ者が、どこにいる。
それも何も知らないで、好き勝手に──……。……あれが、あたりまえだ。]
にぶったねえ。
[かすれた声が漏れてしまったのは、漏れなかったことにした。耳からも聞かなかったことにした。
嫌いだが、嫌いではない。嫌われていても構わない。
そんなことは知るか、とそう、決めたのだ。
人の愛情から生まれた付喪神が、気に入らないとか、嫌いだとか、そんな負の感情を得たことが、たぶん。]
[ぶん、と足を振り上げた。少しバランスを崩しかけて、鉄骨をぎゅうと握る。]
[第一歩だ。これが、たぶん。]
>>70歯
――知ってる。
いなくなるまで、見てた、から。
だからだよ!今までりっちゃんがくれた分!
おれらが幸せになるんだよ!
[もう言い淀みはしなかった。まっすぐにあなたへ向かおうとしたが]
う お。
[黒球を避けようと、膝をつきかがむ。黒球が当たっても避けられなくても、黒球の隙間を縫い進みあなたに近づこうと腕を伸ばし続ける。]
[人に使われる道具が、愛情を向けられていた道具が、そんな“感情”を持つ必要なんてない。
必要とされている“感情”は、きっと主の役にたって、主のことを思うことで、機能を保全して、機能を発揮して、使えなくなったらはいオシマイ。
それが悪いなんて思わない。誇りにすら思っている。
あのこの幸せを願うだけで、綿の詰まった胸が暖かくなって、幸せに思えるくらいに。この手足が、綿の詰まったこの身体が、あのこの役に立てるかもしれないとそう思うだけで、震えるほどに嬉しくなるくらいに。
だけど、それでも──自分に他の、“感情”があっても構わない。
……構わないと、そう思えたのだ。]
>>72天
っ、だから、私は――!
[あの子を失ったからこそ、止まるなんて出来ないと思った。あの子のため、なんて言いたいわけではなくて、自分への一つのけじめとして]
[闇の塊はあなたの手足を吸い込み、捻ろうとするだろう。でもそれを避け、あるいは抗うなら、]
――あ、
[手は届く。それに怯えるかのように、女は自らの手の中に、闇色の短刀を生み出した]
[だから、もう一度、]
……、気張れ。歩き出さなきゃ、どこにも行けねえ。
[もう俯くのはやめて、顔を上げた。
見下ろした街は漆黒の闇に包まれはじめている。
黒いドレスも、黒い烏も、いかなる隙間も駆け抜ける鼠も、この闇の中に確かにいるのだ。
──この街に。街の中に。]
[その街を、じっと見つめていた。ガラスの光彩に焼き付けるように。]
[腰を上げるのは、もう少し先だ。**]
>>74歯
!
ぐ、ぐぐぐっ……。
[無防備な手足はあっさりと闇の塊に吸い込まれる。
捻られそうになった手足に力を入れると――メリリ。子供の細腕から筋張った筋肉が盛り上がりる。乱暴に手足を振るい闇の塊を放り投げようとして、抵抗する。抜けられたかの可否に関わらず、手を伸ばし続ける。]
ぐうううざ、さ――沙霧サン!
[手を力強く握りこちら側へと引っ張ろうとする。
だが、闇の塊へ意識がいっていて、短刀に気付けていない。「早く、こちら側へ」その意識のあまり、腕の力も方向も調節があまりなされていない。]
>>76天
[あなたのことを、か弱い小鬼だと思っていた。けれども、小さくても鬼は鬼であると、初めて見せつけられた事実に目を見開く。その間に腕を取られて、強く引かれて、]
は、離して!
[短刀を振ってがむしゃらに抵抗する。このままこの腕に収まってしまったら、決意だとか何だとかが、全て吹き飛ばされそうな気がして――]
>>77歯
[額からは角が普段二重の目は赤黒く濁りつつある。子供のサイズであるが一見すれば鬼だと分かる程度には彼は妖怪の形を取っていた。]
やだい!沙霧サンは!んな暗いもん投げつけるやつじゃねーもん!
[抵抗するあなたに言い放つ。逃がしたくない。幼馴染のようにもう次会えないかも知れない。
短刀に気付けば武器を持っていたことに驚き、腕の力を緩めるだろう。]
>>78天
じゃあ、もう私はアンタの知ってる沙霧じゃないのよ!
だからもう――
[そこで腕の力がゆるんだ。その隙に振り上げた短刀で、あなたの腕へ切りつけようと]
>>79歯
え――!
[向かってくる短刀を反射的に弾こうとして腕を振るった。防衛本能。その振るい方は大振りで、力加減がされていない。振るう手の爪は鬼のもので鋭い。あなたの腕を弾くか――それとも ]
>>80天
[あなたの鬼の力は、女の細腕など易々と弾いた。否、弾いて尚余りある]
あ、っ
[だから。鋭い爪の勢いは、黒いドレスに包まれた胸元までも、簡単に刺し貫いたのだ]
>>81歯
[この小鬼は自分の立場の低さから北の国でも争いを避ける傾向にあった。故に力加減が身についていなかったのだろう。あなたを防ぐために必要な力は分かっていたつもりであった。だが、とっさの反応にまでは反映できなかった。]
あ、?
[さっくりと。突き刺さる爪。
どこに?
あなたを見てパチクリとまばたきをした。]
へ…?え?
[腕をひき爪を抜く。ぽっかりと空いた穴は闇色のドレスと一体化しているようだった。]
【神社/朝】
[死者の道行きは静かなものだ。すれ違う人々にぶつかることもない。それでも敢えて人やものをよけながら進む。あまり死者の条理に慣れてしまうと、それだけで戻れなくなる気がした。]
……。
[神社に近づくにつれて、知らず、口数は少なくなる。あなたの手をぐいと引いた。異郷の神とはいえど神域に、死者が立ち入ることは憚られる。何か障りがないとも限らない。鳥居のあたりまでが、相応だろうと踏んだ。]
この辺で、待つとするか。
[そう立花に声をかけ、佇むうちに。現われる人影、しかしそれは神社の内側からでなく、階段を上がりやってくる。]]
>>82天
[あなたの爪に貫かれた本人もまた、何が起きたか完全に把握できていないかのように、目を丸くして己の胸を見ていた]
[爪が引き抜かれる。胸に、穴が開いている。黒い短刀が知らず手から滑り落ちる。黒く染まった指先を胸元に伸ばして、]
…………ああ、
そうなの。
[何かを理解したような呟きだった。河川敷の草の上、どこかゆっくりと、黒いドレス姿が崩れ落ちて]
(>>4 鼠 から 一連の狐とのやりとり)
(ねね……か)
[こちらに気づく様子は、ない。そしてこちらからできることもない。襲撃か、と身構えたが、しかし旧知の鼠は、自分たちと同じように、鳥居をくぐることはない。]
[玉砂利を真っ直ぐに、奥。聞きなれた、けれどひどく研ぎ澄まされた声がした。常盤。青白い顔の中で、瞳だけが痛いほど強く、]
……俺が死んだのも、リッカが死んだのも、別にお前のせいでもなんでもねーのに。
なんだってトキワ、お前、そんな顔すんだよ。
[ぼそりと呟いて。2人の友人の間で交わされる、張り詰めた会話を眺めることしかできない。隣にいる立花のことは、手だけ離さないようにしながらも、気遣う余裕はない。]
ねねのやつも、何も、わざわざトキワに会うこと、ないだろ。
なんでこう……くそ[舌打ちして、罵倒を飲み込む。]
>>83歯
[倒れたあなたを見てようやくこの小鬼が自身が何をしてしまったのか理解した。]
――ああ…ぁぁあああっ!
[倒れるあなたの元に駆け寄ろうとしたのに。膝から崩れ落ちその場に座り込んでしまった。
その鬼のものの目からは涙がポロポロと溢れ出る。涙が溢れると共に、盛り上がった腕も、赤く濁った目も、人の子供のもののように戻っていく。]
いやだ……。いやだよ……!
[少年の見る方角に倒れるあなたがいなければ駄々をこねる子供のようにも見えただろう。草原の向こう、夕日を浴びて川は穏やかに流れていた。]**
[この雌ネズミは駆けまわっていた。自らもが伝達ネズミとなったように方々を駆け、共有派の潜む先を暴くべく注力していた。それは他のネズミ達も同様で、故に、悪友の最期も、知りえなかった。]
【結界前:深夜】
[それは努力の結果というより、まったくの偶然であったといい。その微かな揺らぎに気付けたのは、あるいは神社をねぐらとした日々の、皮肉な賜物であったのかもしれない。]
(……やっと。見つけた。)
[触れれば、風景は水面のように揺らいだ。数が集まれば。妖力が集えば、おそらく突破はなるだろう。数は小妖怪どもが力を増すための、最も単純な理(コトワリ)だ。故に、この雌ネズミは、一斉に伝達を走らせた。"こちらの群れ"の全てを、呼び寄せる為に。]
[先に集った妖どもは、見る目に脆弱であった。ただ、数だけは、ぐんぐんと増え、やがて攻め込むに至る、一応の力を得た。]
[伝達ネズミの意を一早く解した妖獣の類、どの物陰にも潜む小妖ども、意志持つ蟲の類、そして、最も多数の妖鼠どもが、この群がりの大半を占めていた。ちらほらと力あるものも見られたが、そのようなものは皆、昨晩からの争いに逸っていた。
[故に、事は簡単に済んだ。
"こちらの群れ"の集結を、一度は待とうとした連中に、「驚かせてやりましょうよ」と、声をかけただけだ。
それだけで、侵攻は始まった。]
[とかく、急いていた。探り当てたことを知ったであろう相手に、また身を隠されるわけにはいかなかった。報を受けた"こちらの群れ"は集い、続々と数と力を増すだろう。それで構わない。ただの時間の問題だ。群れはこの先行隊の足跡を通り、必ず事を成すだろう――。]
【東亰の主の屋敷付近:深夜】
[結界を突き破った"群れ"が、屋敷目掛けて蠢き進む。]
――――。――――――――。
[高周波。駆けながら、うねるように、響かせ続ける高周波。それは、周囲を濁流のように往く、数多の妖鼠達への鼓舞だ。一体一体の力は弱く、ただの賢いネズミとされてもおかしくないそれらは、その数を力として、意志持つ力強き一塊となって突き進む。]
[
この東景に。どれだけのアタシ"達"がいるか。
人間どもより先に、知らしめてあげる。
アタシ達の"トモダチ"が、同胞が、仔が。"子"どもが。
どれほど、この都の暗がりに息づいていることか。
どれほど、畏れの再来を望んだか。
どれほど、人間どもの無知を食ってやりたいと騒いでいるか。
全部、全部。忘れられないように。
片っ端から、刻み付けてやりましょう。
]
(そうして、この諍いは、もうすぐにオシマイ。)
(そうやって、隠れて、長引かせたから。)
(こうして、無理にでも、攻め入らなかったから。)
(皆が皆、血みどろになんてなるんでしょう。)
["止めるなら早く、傷が浅いうちの方が良い。"]
(その通りね、常盤。)
(止めてあげる。――"こちらの群れ"が、事を成して!)
[駆ける。屋敷がぐんぐんと近づく。先頭を行ったものどもと、まだ遠くどよめく"向こうの群れ"とがついに衝突するかという瀬戸際、小妖どもの群れが、にわかに惑う様子を視認する。恐らくは術の類、あるいは第二の結界か。]
(時間稼ぎ? そんなの、)
[駆ける。駆ける。人の脚など、最早遅い。地を蹴り、手を前に突き出すようにして前へと跳ぶ。手が地に着けば指は鉤爪持つそれと化し、腕が、身体が、頭部が、ぶわりと膨らみ、波打つ。次の瞬間には、脚まですっかりと毛皮に覆われている。その姿は縮むことなく、一頭の獣と化す。
鉤爪が土を抉り、いよいよに速度を増して、跳ねるように駆けるこの獣こそ、高さ三尺に至る大鼠。"ねね"の正体だ。]
(今更がすぎるわ!)
[前方へと躍り出る。蛇を思わせる太尾を引き連れて。"敵方"の一群を目掛け、立ちはだかる全てを食い破らんと、群れと共に駆け迫る――。*]
【神社/朝】
>>+16水
[早朝と比べて人が多い朝。若干前を歩く彼が生前と同じように人やものを避けながら進むのに立花はなぜそうしているかわからないが、とりあえず真似をするよう人やものを避けながら歩いていた。たまに避けきれず、そにまますり抜けてしまう事があったが。]
[神社の鳥居に着くとふと、彼を見る。神社に近づくにつれ口数も少なくなる上に自分と繋ぐ手も引く力が少し強くなっている事に立花は変な感じだなぁと不思議に思う。だからか、彼の待つという声かけも無言で頷くしかしなかった。]
[そうして待っていると神社からではなくその反対側の階段から見える人影。それは目的の人物ではなく、自分がよく見知っている相手だった。立花はその人物を見てパァと顔が明るくなる。]
ねね姉ちゃん!!!
>>+17 >>+18水 (>>4以降の鼠と狐のやりとり)
[見知った人に会えた嬉しさで思わず彼女に駆け寄ろうとするが彼と手を繋いでいたことを思い出し、一歩踏みとどまった。そして気づく。神社の方からも自分を最後まで心配してくれた常盤が現れたのを、ねねの表情が生前最後にあった時と比べて一転していたのを、そして常盤も隣の彼を呆れ睨むそれと自分を怒る時の怖いそれと全く違う表情をしていたことを。]
っ!…だめだよっ!もうやめようよっ!
敵だからって理由で大切な人を殺さなきゃいけないなんてっ…おかしいよ…
立花も迅兄ちゃんも何とかして、生き返るからっ!だからこれ以上争うのは、そんな悲しい顔するのはやめてよっ!
ねね姉ちゃん!常盤さん!!
[二人のそんな雰囲気に何か既視感を感じたのか、叫ぶ立花。でもその叫びを聞くのは隣で歯噛みしている彼だけで、肝心の二人には届かない。悲しすぎる現実に涙を流す。それから少し経ち立花が話を聞けるようになるまで待ってくれた彼が宣言する]
っ…うんっ!!
[彼の宣言に大きく頷き同意する。立花も彼と同じように何もしないよりかは少しでも何かできることをしていきたい。そういうタイプなのだから。**]
【河川敷/夕方】
[ここへきたのはなんとなく、だった。さきほどの見知った二人のやりとりのあと隣にいる彼と町をうろついていた。町全体の雰囲気は昨日と比べると確実に悪く、暗い方へと落ちていた。そうなるきっかけを少なくともつくったのは自分だと立花は思い知らされているようでつらそうな顔をし繋いでいる彼の手をいっそうぎゅっと握った。]
[だからこそ、残していった幼馴染の彼が気がかりだった。彼がよく話してくれた自分も慕っている女性の妖怪は彼と敵対している。朝のねねと常盤のような悲しい事になってなきゃいいと案じていた。大丈夫だと、言い、きかせていた。]
[それなのに、不幸にも、立花は見つけてしまうのだ。幼馴染の彼と自分が姉のように慕う、彼女との、やりとりをーーー]
(>>70以降の歯と天のやりとり)
[二人を見かけた瞬間、立花は思わず隣いる彼の手を離し、一心不乱に駆け出した。突然の行動に隣の彼は驚くだろう。呼び止めるかもしれないが立花は聞こえずただただ二人を止めなければと近づいた。]
[近づくにつれ状況が見えてきた。凄くきれいだった彼女の黒い両手、短刀、力。その全てふいに昨日の自分を似ている感じがした。そして聞こえる二人の会話、でてくる自分の名前。自分と同じにならないように必死に手を伸ばす幼馴染、それを抵抗する彼女。立花は二人にかけより大声で叫んだ]
沙霧姉ちゃんっ!!!いっくんっ!!!やめてええ!!!!!
[そう叫んだのと同時だろうか、彼の爪が彼女の胸に突き刺さったのは。]
>>+22続き
あっ……あぁぁ……
[引き抜かれた爪、ゆっくりと倒れる彼女、滑り落ちる短刀、崩れ落ちた彼、目から落ちる涙。その全てがゆっくりとスローモーションのように、だが一瞬にして、立花の目の前で流れた。立花はただただ立ち尽くすしかできなかった。ショックが大きすぎて涙も出てこないらしい。]
[そして今まで追いついた迅は目の前の光景を見て驚くと同時にさすがにわかってしまうだろう。ここで何があったのか、目の前の少女が何を見てしまったのか。彼は今だにポツンと立ち尽くしている立花に近づき、頭をぽんと叩いてくれるだろうか。]
[そこでやっと現実に戻った立花は振り向き、迅を見た。そして、立花は時が動き始めたのか。目からボロボロと涙を流し、迅に抱きつき号泣した]
[大声をあげ、まるで子供のように。]
[その間にも、幼馴染の彼はどこかへ行き、倒れた彼女はそのままーーー**]
>>84天
[悟ったのは自らの終わりだ。遅れてやってきた痛みと、胸に開いた穴からどろりと流れ落ちる黒い血の感触に、徐々に意識は遠ざかる。ぼんやりとした頭に、あなたの泣き声だけが聞こえた]
泣いてんじゃ――ないわよ。
(誇りなさいよ)(アンタは、東景の主の仇を討ち取った)
[……そんなこと言ったところで、小鬼の慰めにならないことなんて、わかっていた。故に女は口を閉ざす]
[アンタなら良いとか、悪くない最期だとか、そんな綺麗な気持ちも湧いてこない。胸の傷は酷く痛んで不快だし、死ぬのは怖いに決まっている。けれども、「仕方がない」とは思った。殺した者が殺される、成したことが返ってきただけだ]
[腕はもはや持ち上がらない。泣いているあなたの涙を拭えないことが、少しだけ悲しいと思った]
[焦点の定まらない視線が河川敷を泳ぐ。悪友の従える鼠の姿は、少なくともこの川の付近には無いようで。最期の言葉も伝えられないということは、素直に――彼女絡みのことに対しては、初めて素直に寂しかった]
[視界は回る。その端に、黒い染みのような何かが居る。河原の草の間から、微動だにせずこちらを見るのは、一羽のカラスだ。恐らくは、仲間たる彼の目であり、耳である]
(ごめんね)
[だからそのカラスへ向けて、声にもならぬ声で告げる]
[それが最期だ]
[女の瞼は永遠に閉ざされ、冷たい一つのモノとして、ただ土の上に横たわるだけ**]
【河川敷/夕方過ぎ】
[夕日はまだ落ちていない。照らしてくる夕日が朝日のようで一晩泣き明かしたようにも思えた。
その間烏が見ていても飛び立っても気付けないだろう。]
[彼女を置いていくことはできなかった。現実問題、主殺しの犯人の死亡を共存派に伝えなければならない。
そろそろと彼女だったモノ近づく。顔を見ることができない。目をくしゃりとつむり視線をそらした。]
[自分の背より大きいモノをかつぐのには少々難儀したが、力は鬼のものであるので背負うこと自体は苦ではない。そのはずなのだが、背負ったものはずしりと重く、自分が歩く事を否定されているように感じた。黒いドレスの裾を引きずり、歩き出す。
人通りの少ない道を選び、河川敷を後にした。]**
【河川敷/夕方】
[見張る、とは言ったものの、身を隠して動くことにおいて、鼠たちに勝てる道理はない。ねねの姿は見失った。とあれば、常盤を見守るのみだったが。彼女がほとんど屋敷で過ごすことを考え、一旦は目を離しても平気だと考えた。あの屋敷の結界は立花を弾くだろうし、何より今の常盤を見ているのはつらかった。]
[時折とりとめもないことを話しながら、街の中を歩いた。ここがよく遊ぶ公園、こっちは良いものが見つかるごみ捨て場。立花の案内で歩く街は、ほとんど毎日を店の中で過ごしていた成桐には新鮮なものだった。]
[こうして存在できているからか、死、というものに感慨は湧かない。立花がそうなってしまったことも、自分の意識が落ちている間に起こったことだからか、どうにも感情が動かない。しかし、あの瞬間の焼き切れるような冷たさを、常盤やアキラに一平、ねねにも味わってほしくはなかった。]
>>+22 >>+23 花
[さて、河川敷ーー立花によると、ここは一平がよく来るところらしいーーが近づいてきた頃。ふと、羽音に顔を上げた。空を1羽、カラスが旋回している。こちらが見えるはずもないが、思わず空を見たまま身構えた、その時だった。立花が驚くほどの勢いで自身の手を振り払い、駆け出したのは。]
……っおい、待てリッカ!止まれ!!
[鋭く叫ぶが、彼女は止まらない。彼女の視線の先を、遅れて把握する。一平と、あれは黒い服の女が、戦っている?]
くそっ……リッカ見るんじゃねえ!
[自身の叫びに立花の悲鳴が重なる。舌打ちをして、ただ移動する。]
[あなたは立ち尽くしている。目を見開いて、目の前の光景を見ている。後ろから追いついて、ため息をつく。どうにも、うまくいかないことばかりだ。一歩進むごとに、空を切るような感覚、足元の奈落を無視して。]
……おい。もう見なくていい。
[肩をぐいと、掴んで一度揺する。あなたが振り返って、やがて自身に取りすがって泣き出すのを、ただ黙って受け入れている。もう彼女が抱きつけるものが自分しかいないことを知っているから。]
>>+25 続き
おう泣け、泣いとけ。お前くらいしか泣いてやれるやついないだろ、今。
[そんなことを肩に手を置いて言いながら、視線は一平と倒れている女の方へ向ける。]
(バカ野郎、お前は戦いになんて出るべきじゃなかった。そんなことはもっと図太い連中に任せときゃよかったんだ。お前、もう、どうせ俺たちのことまで背負ってるんだろう。……アキラとトキワに、少しでも、背負ってもらえよ)
[知っている中でも、彼はとりわけ心根がすなおで、その分繊細だったと思う。誰かの死を、しかもその原因を担うには、まだ小さすぎるのに。]
(……そして。沙霧って、リッカは言ったな。)
[見やる。倒れた女の服は見知らぬものだったが、顔には見覚えがあった。集会に顔を出した時、妙に話が弾んだ女。ヨソモノであることを殊更意識してしまうあの場所で、何も詮索しない彼女との会話は、随分と気晴らしになった、のに。]
(……お前かよ。)
(俺、お前のことほとんど知らなかったけど……こんなこと、するやつ、だったっけ?)
[もやもやとした、重たいものが胸に溜まるような感情。やるせなかった。なんで、こんなことになるんだろうと、ようやく、ようやく思った。]
【東景の主の屋敷:深夜】
[人間社会で暮らす妖怪たちは夜に休息をとるものも多い。勿論、妖怪の時間は夜だという者たちもいるだろうが、殺された者たちも出ているなか、どんちゃん騒ぎをやるような場合でもない。屋敷は、静かだ。]
(……、今のは、)
[静けさの中、ふと身じろいで起き上がる。眠る意識の水面に何かが触れて波紋を作ったような、そんな感覚。
屋敷は、まだ静かだ。静かだ、けれど。
見回せば、起き上がっているのは共に結界の類を施した者たちばかりだろうか。一瞬、視線を交わせば動き出す。一挙に屋敷はあわただしくなった。
力の弱い物や子供たちから逃げる手立てを取り、そちらを守るものと屋敷の前で敵と相対するものとに分かれて走り出す。]
[そんな中、千里を見通す目を持った妖怪たちからの報告が聞こえた。
「妖鼠を中心とした小妖の大群だ」「波のようにこちらへと向かっている」]
――、
[遠方からの術での時間稼ぎや、子供たちのカバーへと動こうとしていたのを一転、結界へと触れた気配があった方角へと駆けだした。]
[結界が突き破られる気配がする。濁流のような鼠たちの轟音が遠くから髪の間突き出た狐の耳へと届く。
「――殺すだなんて。常盤。あなたにできるの?」。轟音があの時の彼女の声を頭に響かせる。
そう、この狐は虫をも殺さぬ、とは言い過ぎだけれど、暴力沙汰はもとより、小動物を駆除するのさえもどこか苦手としていたけれど、]
(馬鹿にしてんのかい。それとも馬鹿なのかい。)
(このまま続けるつもりなら、そういったのに、)
[時間稼ぎの術に惑う小妖たちが見えた。屋敷の前に集う屋敷の者たちを通り抜け、敵の群れへと駆ける。後ろから、呼び止められる声がしたけれど、無視して駆けた。深夜の暗闇、取り巻く狐火が姿を照らす。
敵の群れの中、前方へと踊りでた一度か二度見たっきりの大鼠。
けれど、その姿や駆ける様子は間違いようもない。]
取り返しのつかない傷をつけられたいのかい!!ねね!!
[駆けたそのまま真正面から挙げた声と同時、あなたや周囲の小妖へと大きな炎の塊が走った。*]
>>94 狐
[荒れ狂った川、あるいは時化の海原に似て、轟々と鼠達は流れ往く。その行き先に立つもの全てを呑み込まんとして! その濁流の中、小島のようにあり、自らも一つの波であった大鼠は、ぽう、と前方に浮かび上がった火種を視界に捉える。]
[火妖の類か、いや。あの火に照らされた姿は間違いなく――、]
――――ヂィィッ!!
[周囲への警笛を発しながら、迸る炎の塊を高く跳び越えんと身体を跳ね上げる。周囲をひしめく小妖どもは、その密度故にかわしきれるはずもなく、走る炎に呑まれ、炎の軌跡となる。この大鼠も、身体に遅れた尾が炙られ、ギュリ、と歯を軋ませた。勢いを殺されながらも、なおも前へ、正面には、]
(常盤、)
[声を張り上げた後、狐火の灯に照らされ、世闇に浮かび上がるように立つ、よく知る姿。]
できるものなら! やってみなさいよ!!
[大鼠の姿と言えど、まったく変わらぬ声を投げながら、あなたへ向かってひた走る。それは、原始的な体当たり。この身体そのものとスピードを持って、取り巻く狐火ごとあなたを弾き飛ばさんと。]
>>96鼠
[炎を放って立ち止まる。自らの放った炎に鼠や虫といった小妖たちが呑まれていく。小さな虫たちは特にその中で灰と化してしまっているだろう。
ぎゅっと一度だけ唇を噛みしめる。けれど、炎を高く飛び越え、こちらへと走る大鼠の姿に、その表情は睨み付けるように鋭いものとなった。]
やらせるなって、
[世闇の中、大鼠が迫る。耳と尾を晒した女はその場から逃げようとすることなく、体当たりを仕掛けるあなたを防ぐように、両の腕を十字にして体を庇った。]
っぐ、う
[重さとスピードを伴った体当たりに弾き飛ばされて呻き声を上げる。周囲の狐火が火の粉を上げてはじけ飛び、薄い一瞬体が浮いた。
かろうじて両足で地面についたものの、数メートルの距離を押されて地面に擦れた後を作った。]
[そんな強い衝撃を受けた刹那、弾き飛ばされながらも、片方の腕を伸ばしてあなたの耳を掴もうとして、]
―――、っやらせるなって、言ってんだろ!!!
[霧散した炎が再び集う。耳は掴めているか、つかめたとしても、力はさほどない。掴んだままでいられているだろうか。
至近距離で、狐火を胴体めがけて放とうとしている。]
[昼間に直してもらった右腕の分と同じだけの綿を、夕方には買い込んでいた。
ここ2日、リサイクル品の売りつけもできていなくて、元から薄い財布はすっからかん。とはいえ、今はそんなことを言っている場合ではない。
今を越えなければ明日は来ない。]
【東景の主の屋敷・深夜】
[本来、ぬいぐるみに睡眠は必要ない。それでも昼間の痛みや思案は、綿に休息を要求する。だから大人しく目をつむっていた。
すぐそばで身じろぐ気配に目を開けた。何が起きたのかはわからねど、見上げた強ばった表情に暗闇の中で唇を尖らせた。
──
慌ただしくなる屋敷の隅に集まった、厨房に働くだけの女妖、まだ幼いもの、老いて力を失ったもの、ただそっと佇むだけで満足するような非力なもの──彼らに、しぃ、と唇の前に指を立てて見せた。
そんな仕草で注意を引けば、]
大丈夫。
押さない、離れない、しゃべらない、戻らない。
──さ、こっちにおいで。
[人の世に伝えられる言葉を、ささやくような声で知らしめた。
守るに長けたあやかしたちで彼らを囲み、屋敷の裏、わずかに伸び始めた結界へと走り出す。]
[あらかじめ聞いていた、こことは異なる“結界地”の候補へとそっと伸ばされた、避難の経路を駆ける。
急ぎすぎて足がもつれた小妖の手を、引く。もたもたしてはいられない──今はその道も結界の残滓が守ってくれているけれど、一刻もはやく、その余力を彼女に返さねばならない。]
──ッ、……?
[なんの異変が起きたか、周囲の音が変わった。その気配を察したか、手を繋いだ小妖がそのくりくりとした目を不安に彩らせて、こちらを見上げる。
周囲を覆う、“護り”の気配が消える──大丈夫、ともう一度伝えるようにぎゅっとその手を握った、その瞬間。]
[布の耳が、空気を切り裂く音をとらえた。ぎゅっと握った小妖の手をぐいと引き、]
受け取れッ── っふ、
[前方を駆ける、守りのあやかしへと叫ぶ。引いた勢いを殺さず、身を反転させて彼へ小妖を放り投げた。
反転の勢いもまた殺さず──ふわと浮かせ回し上げたかかとが、飛来した目玉のあやかしを叩きつぶす。]
[身体の回転の勢いを殺しきれずに、ト、トと後ろに下がり、真闇の空を見上げる。ただの一打で地に落ちるようなその目玉は、けれど先手の一匹で、闇を切り裂いていくつものあやかしが──身体を傾けて、羽織ったパーカーを急ぎ脱いだ。]
走って! まっすぐ、
[怯え足の止まった小妖へと、叫ぶ。雷を受けたように彼らは悲鳴を上げ、走り出した。こちらも残るつもりはない──追い来るあやかしへと視線を投げれば、自然しんがりとなるか。
同じくしんがりへと回った仲間と一度だけ、呼吸を合わせた。パーカーを掴んだままの右手に、ぐと力を入れる。]
……来るよ!
[薄くなった結界を突きぬけてくる者ども──それは先ほどと大して変わらぬような、力なき、数で押してくる者ども──へと、その身をむける。すぐ隣で足を止め、かかとを打ち合わせた仲間が、巨大な壁へと変わっていく。]
ッらぁ!!
[轟、力なくとも数があればそんな音までするものか──パーカーの布を広げ、仲間の取りこぼしたあやかしをたたき落とし、蹴り落とし、時には自身の綿へと食らいつかせ踏みつぶし──]
>>98 狐
[激突。狙い通りの。その一瞬、目は合っただろうか。鋭く射貫くような眼を前に、あの神社の頃のように戦く事はない。妖鼠の濁流の中、停滞などありえない。聞こえた呻きを、ギュリギュリと歯ぎしりで掻き消す。]
やりたくないなら、――、
[弾いたあなたを更に突き飛ばさんと再び四肢の爪が土を掻く、しかし、激突の反動で、突進の勢いは更に削られていた。故に、あなたの手は届いた。]
――っ、なん、……!
[あなたがこれほどに反応できるものと、この大鼠は知らなかった。あなたの叫びが鼓膜をつんざいた。振り解く動作が瞬時、遅れたのはそのせいだ。至近距離の狐火が、胴の毛皮に迸った。毛皮の、生きた蛋白質の燃える臭いが立ち上る。]
ギイッッ……!!
[獣の悲鳴を上げながら、今度こそあなたを振り払わんと身を大きく捩る。黒々とした鼠の目が、炎に、あるいは身を護る為の本能の興奮に、爛々と輝いていた。あなたが手を離そうと離さまいと、この大鼠は大きく跳ねるように暴れ、あなたへ己の武器を、鍬の刃を思わせる鋭い前歯を向けようと――。]
>>103鼠
[激突の一瞬、目が合った。苦痛を堪えるように眉根を寄せてたけれど、あなたから目を離すことはなかった。
あなたへと手を伸ばして距離を取られないようにと掴んだ耳を握りしめ、至近距離で狐火を放つ。自身で放った炎に煽られたのと、あなたが大きく身を振ったのとに耐えきれなかった手が耳から離れた。
燃えるたんぱく質の臭いに顔をしかめる暇もなく、暴れたあなたに弾き飛ばされるように地面へと投げ出された。向けられた前歯が刃のように炎で光ってみえて、一瞬竦んだ身が反応を遅らせる。]
っが、あぁ……ッ!!―――
[避け損ねた肩へと前歯が突き立って、悲鳴を上げる。
その一瞬、狐の目が輝いて、あなたを見た。
あなたの目に、あなたの前歯を突き立てられて死んでいるあなたの大事な誰かの姿が映るだろうか。]
[それは一瞬の幻術だけれど。戦いの中では大きな一瞬を作りだせるはずのもの。
あなたはその幻に気を捕らわれただろうか。
その一瞬の隙を狙って、肩から血を流す一匹の狐が、あなたの喉笛へと牙を剥く]
>>104狐 >>105狐
[しっかりと肉を噛んだ感触、あなたの悲鳴。興奮状態であった獣は、瞳の輝きそのものに怯みなどはしながったが、]
――――。
[口の端を波打つように引き攣らせ、獣は、動きを止めた。幻術は、おそらくあなたが思うよりも、多大な効果を見せた。この大鼠は、その身の力さえ抜いただろう。]
[――何故なら、大鼠が貫いた命は、
これまで戦っていた相手となんら変わらぬ、神使狐だったから。]
[ゆる、と前歯を離そうとした動作も緩慢で、狐の牙は、大鼠の喉笛を的確に捉えた。
まん丸に見開かれた目、ヂ、というもはや鳴き声とも取れぬ音。喉を震わせ、血を滴らせながら、牙を振り解かんと暴れるが、牙に抑えられた呼吸が、その抵抗を徐々に弱まらせていく。]
>>106鼠
[大鼠が動きを止める。投げ出した身へとかかっていた圧力も、己の身に突き立った前歯の力も、全てが緩んで抜けて、]
――、
[一瞬の動揺を誘うためだけのその術がもたらした効果に、動揺して、その動揺で戦いの興奮から一瞬冷めた頭が僅かな迷いを抱いたのも、確かだ。]
(でも、ねね、)
[幻術から飛び出すように、牙を喉笛へと突き立てる。見開かれた目を確認することもできず、ただ目の前のあなたの命が通う首筋を見つめて、強く牙を突き立てた。抵抗を前足でのしかかるように抑え込んで、封じていく。]
(こうしないと、もう止まってくれないんだろ)
[あなたの抵抗が無くなる頃、ゆっくりと牙が外れて、人に戻った狐が揺れた瞳があなたの目を覗き込む。]
[牙が外れ、ど、と大鼠は地に伏す。視界がひどくぼやけていて、覗き込むあなたの瞳もとらえることができない。
地面を通じて、ネズミ達の足音が聞こえた気がした。この事が成れば。人間が他の存在に畏怖を抱く未来の東景で、どこまで数を増やすだろう。己のような大鼠ははたして数を増やすだろうか。]
(立花にこの姿を見せてやりたかった。)
["ケチめ。"一平の糾弾が蘇った。]
(ナルへの金は、彼が忘れる前には払ってあげるつもりで、)
[あきらと交わした食事の約束は未だ果たされていない。]
(沙霧は、高尾は、今頃どうしているのか。無事? 連絡は、届いた?)
[取り戻そうとした呼吸は、ごぷ、と音を立て、血液を押し出した。]
(――、缶詰を、ひとつくらい、残していってあげればよかった、あれは本当においしいんだから、でも、社に来る人間が増えたら、常盤だって、常磐のことを、いくらでも――)
[どうしてこんな、どうしようもないことばかりが、ぐるぐるぐるぐると目まぐるしく、浮かんでは消え失せ、思考を塗りつぶすのかわからなかった。そんな状況でないことは確かなのに。]
[ひく、と鼻が動いた。血のにおいに紛れた、あなたのにおいに気付いた。
身体はなお重かった。どれだけ力を込めたつもりでも、脚先すら動かせずにいた。自分の呼吸を、鼓動を見失った。重く、重く、自分が消えていくようで、ひどくおそろしかった。雌ネズミはようやく気付いた。これが――。]
[流血に擦りきれた声が、微かに空気を震わせる。]
とき、わ、……、
……った、とおり、ねえ、
しぬのは 。 くるしい
[それを最後に、大鼠は沈黙した。
ネズミの黒々とした眼も、ひくりと端が痙攣した口も、虚ろに開いたまま。二度と動かなかった。**]
【河川敷/宵の口】
[立花が泣き止んで。子鬼が彼女を連れて歩き去った後。誰もいなくなった河川敷に、片膝を立てて座っている。立花は、隣にいるだろうか。]
……俺な。
[川面を見つめ、誰に言うともなしに言う。]
タカオやらねねのやつに聞いたけど。住みやすいようにしたかった、だけなんだろ。妖怪とか、同胞とかが。
でもさ……あれだろ。死ぬまでするようなことかよ。仲良かったやつと闘って、殺したり、あんな冷たい思いしてまですることかよ……そう思ってたんだけどな。
[頬杖をついて、ぼんやりと]
……そこまでするくらい、悩んでんならさ。
もっと、話聞いてやりゃよかったかな。
そしたら支配するーとか、言いだす前に、なんかこうさぁ……あーだめだ、やっぱ分からん。
[髪をぐしゃぐしゃっとやって、立ち上がった。]
ぼちぼち屋敷に行くか。お前多分入れないけど……俺も一緒に、外で待つから。
[あなたを覗き込む視界がなぜかぼやけていて。目を瞬く。視界が煌めいた。その頭を頬を撫でようとして、伸ばしきれずに一度手を引く。殺した相手に何をしようというのか。]
――、ねね、
[けれど、耳にあなたの声が届いてしまった。]
ねね、
[震える声で繰り返しあなたの名前を呼んで傍らに膝をついて、その首へと手を伸ばして抱え込んだ。]
……っ、……
[くるしい、と最後に言い残した彼女に息を呑んで。開いた口は1度、2度、震えて閉じてを繰り返す。触れる体温だけは暖かかった。
息を呑みこんで、ゆっくりあげた視線で周囲を睥睨した。]
――、大鼠は私が殺した。……同じように死にたいやつは向かっておいで。
死にたくなければサッサと引きな!!!
[頼るべき大鼠を失った小妖どもに、そう声を張り上げた。]
[中心を失った波は共存陣営の妖怪たちに散らされ、逃げていき、そうして第一陣が形を成さなくなったころには、その場所に屋敷の姿は跡形もなかった。
そうして、大鼠の姿も。**]
【主の屋敷/深夜】
[そうして、夜。屋敷の結界のほんのすぐそばで、立花と共に夜を明かすことにした。今更何か感じる体ではないが、もし寝にくいのなら片方の膝くらいは立花に貸したかもしれない]
……!
[まどろみかけては、それは奈落への誘いだと気づき、我に帰るような夜の中で。なにかの、物音を聞く。それは、かすかな波音のような。それでいて、嵐の前触れのような。遠くから近づいてくる、スコールのはじまりのような……]
リッカ……見たくないなら、目、つぶってもいいからな。
[そういって、見据える。闇を往く妖の群れを。それを先導する者の姿を。]
【ビルの屋上/夕方過ぎ】
[東亰の夕方過ぎ、烏の鳴き声が東亰の空に響く。それは習性か、連絡か、それとも東亰に漂う死の予感の臭いに反応しているのか。]
[そこにほど近いビルの屋上に男はいた。
今日何度目かの食事を済ませたか、見た目に変化はないが、男には確実に何かが混じり合っていく。]
[空からの捜索。報せは入るが、向こう側のねぐらは見つからない。そんな中、一つの報せが入る]
…そうか…。
[それは聞き間違いもない死の報せ。
また一人、そこに帰ってこなくなる──*]
【東亰の空/深夜」
[報せが入る、その時男はこちら側の集う廃ビルにいた。向こうの巣を見つけた鼠からの報せは、こちら側を駆け巡る]
[夜空に烏の鳴き声が木霊していた。第一波の、これから形成されるであろうその後の波の情報を受け取るために]
[第一波が向かってからどれくらいがたっただろうか、烏の姿の男は知らされた場所へと向かう。
それは第一波のあとか、第二波か、とかくまっすぐにそこを目指す]
[そこにつくのはいつ頃だろうか、
いや、たどり着きようもない、そこであった場所に。
それは第一波の鼠より、きっとずっと遅い**]
[そうして、見ることになったのだろう。かつての友人たちが、殺し合う姿を。その光景に何を思ったか、何を言ったかは、今は語るまい。]
[ただ、手を離さないように。ずっと掴んでいる、隣にいる存在に、固い声で話しかける]
……いいか。俺らは俺らにできることをすんだ。
あいつらもきっと、「ここ」へ来る。
「ここ」から「あそこ」へ、あんな穴の底へ行かせちゃなんねぇ。
……お前、できるな。あのサギリってやつと、ともだちだったんだろ。
……俺は、ねねのやつを、何とか呼んでみるから。だから。
[そう言って。彼らの手を掴むために、息をひそめて待つのだった。*]
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