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浜辺の少女 フラン は 神父 ジムゾン に投票した
擬人 リュミエール は 神父 ジムゾン に投票した
湧き立つ混沌の球体 は 神父 ジムゾン に投票した
神父 ジムゾン は 浜辺の少女 フラン に投票した
医療電子技術士 フラット は 神父 ジムゾン に投票した
廃ビルの住人 トレイス は 神父 ジムゾン に投票した
神父 ジムゾン は村人の手により処刑された……
次の日の朝、廃ビルの住人 トレイス が無残な姿で発見された。
照坊主の下駄が、どこからともなく 医療電子技術士 フラット の頭に飛んできました。
からんころ〜ん♪…明日は… 小春日和 かなぁ?
現在の生存者は、浜辺の少女 フラン、擬人 リュミエール、湧き立つ混沌の球体、医療電子技術士 フラットの4名。
[ 少し不思議な形状、卵の両側に鋼の翼を生やしたようなファンシーとも見える機体が、浜辺に着地した。
そこでは、既に何事か起こった痕跡だけが残っていた。
球体が内側から開くと、中からは気絶した成人男性が現れ、浜辺に倒れた。]
《ターン・オーバー》
[ 電子音。
何かの逆再生映像を見ているかのように、裏側のものを引っ繰り返すように、球体とスラスターが縮み、擬人の姿を浜辺に現した。]
[ ざざーん。]
[ 波の音。斑な虹色の海の音。]
[夢を見ていた。
例えば起きて最初についた息が白かったとき。
例えば震えながらベッドから這い出たとき。
例えば窓の外を見て、白い白い世界を見付けたとき。
――今はもうない。]
[身体が重く、動けない。まどろむような浮遊感。
自分は死ぬのだと思った。]
…………カフェオレ、飲んでおきたかった、ですね。
[言って、現実味があることに気付く。
目を開けると明るい空があって、
自分は少女を抱えていて。
夢が夢だと知った。]
[波の音に、首をそちらに向ければ。
可愛らしくも見える球体が、羽を収めるところだった。]
……天使ってこんな形だったんですか。
見たことなかった。
[胸元で小さな声が聞こえる。]
――フラン。
ええ、と――
[治療を。生きています。一体なにが。
どの台詞を言ったものか分からず、声を掛けたまま固まった。]
無事で――いや無事じゃない、
助かって……るのでしょうか、
……ともかく。
――良かった、です。
[もう、戦闘音がしないことは意識の外に置いた。
他の音はしない。それはつまり、戦闘が終わったということ。
そしてつまり、友人になるかもしれなかった人がいなくなったということ。]
……良いことだけじゃ、なかった、ですね。
[本当に小さな声で、思わずそう付け足した。]
[ 赫眼には、ノイズのようなオレンジ色の光が明滅していた。視界の中では、浜辺に倒れている男女の姿が捉えられ、矩形ウィンドウに情報が流れている。]
[ 浜辺に倒れた男性を、背中を凭れさせる事の出来る所まで抱きかかえて連れて行き、壁に凭れかけさせると、フランとフラットの元へと歩いて来た。
恐らく、二人の元へ来るのは、彼らが一頻り話し終え、為す事を為した後だろう。
それまでは、二人の間で囁かれる言葉に割りいらず、行いにも立ち入らない。*]
[天使とは反対側――街の方へ顔を向ける。
銃撃の痕跡と、荒れた地面、放り捨てた鞄。
化け物と、男の姿はなかった。
街へと続く方へも、なにも残っていない。]
……まだ、煙草の感想、言ってないのに。
どうして。
[ゆっくりと視線を少女へ戻す。
まだ双方共にぼんやりしていたが、火傷の箇所をあらためる。
のろのろと自分の鞄を拾い、応急手当のシートを貼り付けて。]
…………フラン。
一体ここで、なにが――
いえ、ここで話を聞くのも危険ですね。
診療所で一度しっかりした手当を。
……立てますか?
[手を差し伸べた。
いざとなったら少女ひとりくらい、運べるはずだと思いながら。*]
[ぐったりした身体を支えてくれる腕と、その声を捉えようと、目をしばたかせる]
ん……。
フラット、さ…。
[きゅっと袖に触れてそこにいるのを確かめれば、ほっとしてまた涙が滲む。
しかし安心も束の間。静けさが不穏に思われて、すっと背筋が凍った]
わ、たし。巻き込んで……。
声、聞こえて。トレイスさん……。
[ぐるぐると混乱に掻き乱されて、ただ呆然と放心するばかりだった]
[何が、いけなかったのだろう。取り返しのつかないことを引き起こしてしまった――。
流して楽になることを許さないかのように、涙は留まって視界を霞ませる]
ぁ……。
ごめ、なさ…。
[応急手当を施して貰えば、1つ1つ、焼け爛れた痛みがまざまざと現実を味わわせてくる]
海を――。
ジムゾンさ……。
[思考は散り散りで、身体の熱さと怯えた心の冷たさにぼんやりと宙を見上げた]
[差し伸べられた手を取って、なんとか立ち上がる。
力が入らなくて、フラットに寄り掛かってしまう]
っごめんなさい……。
[あわあわと視線をさ迷わせ、朦朧としていた時に目にした不思議な翼の機体が消え、人影があることに気付いた]
フラットさん、むこぅ……。
……っ――。
[触手に掴まれた胴や腕がヒリヒリ痛む。ぼやけた視界を晴らしたくて瞬けば、睫毛さえ重い気がした**]
[フランが示した方向には、何度か見た痩身。
他にもうひとつの影。]
何故、戻って――
フラン、しっかりして下さい。
意識は手放してはいけません。
[傷のないところを気持ちだけ強めに叩いて、
先に擬人へと向き直る。
なにかあったら動けるのは、もう自分だけだ。]
[ 砂に足跡をつけながら、二人の元へと歩いてきた。]
またお会いしましたね。
マドモアゼル・フラン、それに、フラットさん。
[ 会釈をする。そして、フラットに向き直った。]
丁度良かった。
フラットさん、お願いがあります。
集積体の近くで、保護した男性です。
重症を負ってはいませんが、診て貰えませんか?
[ 既に護岸近くに運んだ男性へ視線と手を差し伸べて、注意を促した。赫眼には、ノイズのようなオレンジ色の光が継続している。]
[黒き壁に覆われた集積体は、今は陸地から見えていた。
遠くはないが近くもない位置に在る。
ぽかぁりと、浮かんでいる。
集積体だけならば、海と触れる箇所に波飛沫など立たないものを、黒い球体に覆われた今では、黒球と海が触れる箇所に虹の波飛沫が上がっていた。]
保護……あの人は?
[警戒心は勿論ある。だが負傷者を見捨てるわけにはいかない。
少女をその場へ残し、鞄を手に擬人の指した方向へ。
意識のない男性のデータを取ると、鞄を開けて作業に入った。]
集積体の近く、と言いましたね。
[手を止めて、患者を向いたまま言う。]
どういうことなんですか。
貴方が、あの七色の化け物を刺激したんですか。
[根拠のない言いがかりに近かった。
だが、集積体の色と、少女を襲ったあの生物の色。
それが同じものと見て、話を聞くつもりでいた。
万一に備え、鞄に入っていたささやかな武器を握る。]
[ 事実、それはノイズとしての光だった。
汚染された海から男性を隔離し、代わりに、人工亜空間に自分が避難しないまま変貌した球体の姿で海に落ちた。その影響だろうか?]
この人は、心が砕けた人です。
[ フラットの歩みへ続き、充分な距離を保って立ち留まった。]
海上の戦いを見ていたのですね。
僕は、集積体の隔離を試みました。
その隔離、遮蔽を望まない……心の砕けた「元人」を、僕は沈めました。
[ 七色の肉塊の化け物となった人が、何故海中に居たかの答えまでは持ち合わせていなかった。フラットの話は、陸地の話ではなく海上での話として受け取っている。]
こちらでも、
集積体により人ではなくなった化け物が現れたのですね。
この人は、集積体に心を奪われてしまった人です。
化け物ではありません。
[ 患者を診るフラットの背に声をかける。
まだ人間だったからこそ、同じように沈めなかった。沈めることは選択肢になかった。]
心が……砕けた……?
集積体に向かって、生きていた人間がいた……?
何の話を、してるんです……
[擬人の目が鮮やかな橙に染まっているのを見て、
怪訝な気持ちは否応なしに増すばかりで。
少女に逃げるよう、促すべきだろうか?
それなりに距離は離れているのに、足が後ろへと下がった。
そのことを砂の音で知る。]
――――!
[擬人の言葉に、血液が沸騰せんばかりの感情の奔流。
いくらかの手当もしてしまったあとに、
そんなことを知りたくはなかった。]
あんなのに、心を奪われて!
それの――どこが化け物じゃないんですか!
[鞄と、銃を手に――患者からも距離を取る。
擬人は視界に入れたまま、患者から横に離れていく。]
あんなのに傾倒する人間――危険すぎます。
[神父の汚れた服を思い出す。
虹色の化け物を思い出す。
それが同一人物だとは知らないものの、
危険な兆候を集積体と結びつけて考えてしまいがちになっている。
理解を超えたものを仰ぐことはしなかった。
だが、それに原因を押しつけることはできたのだ。]
[ 赫眼にちらつく光。それ自体は集積体を思わせるものではなく。]
七色の化け物は、これまでの解析結果により「元人類」であると判断されました。
………。
人類と元人類の境界線を引くのは難しいです。
ですが、体の組成率が変化し、肉体的変貌が人類から著しくかけ離れてしまった場合、最早その人は人類ではなくなったと考えられます。
[ 患者から距離をとるフラットに手当の続きを促すように、話を続ける。]
彼はまだ人間です。
変わったのは恐らく心理面だけ。
風聞の一つにあるように、集積体を直視してしまった為に、集積体を崇拝してしまった狂信者でしょう。
僕が集積体を隔離したのを知り襲ってきました。
それでも、……彼は人類の仲間です。
僕には、彼が化け物である判断を下せません。
フラットさん、彼をお願いします。
[ 後を託すように願ったそれは、フラットにどう受け止められただろうか?フラットへ、身構えることなく、無防備ににっこりと微笑んだ。]
[どの様な素材で構築された遮蔽体なのか。
輪郭を歪ます程度の膨脹であれば、黒の球体も膨脹し、地球大気との遮蔽が続いている。
七色の粟立つ海原に、巨きな黒い球体が浮かぶ光景。
集積体ではなく人工物と一目見て分かる其れは、人の心を掻き乱す其れではなかった。]
元――元、人類?
もう、人間とは言えない?
[お願いします、とはなにを。
擬人の言っていることは理解の範疇にない。
だが、擬人の連れてきた人間が危険であるという理解。
それが事実かどうか分からないけれど。
戻れないならそれは、人間ではなくて集積体に近い。
医療者の役目。]
――助けられないとしたら――僕は。
[小さな武器を持ち上げる。軽いはずが、重たかった。]
そんなの――信用できません。
[武器の狙う先は擬人。]
やはり、僕は擬人を信じがたい。
書き換えられただけで人類を守る、なんていうのも――
ただの方便かもしれませんから。
[まだ撃てない。
己の能力を遙かに凌駕するであろう相手に、
すぐに狙撃することはできない。]
[かたかたと手が震える。
相手は擬人だ。安楽死よりも良心が痛むことはないはず。]
僕の足のことだって……
「擬人の目には」、お見通しなんでしょう?
助けたところで、一方的に僕を踏みにじって。
プログラムの異常を装って――
[そんなの、集積体と同じだ。
叫ぼうとした声は頭の中だけで弾けた。]
………。
[ ちらちらとするオレンジ色の光のノイズ。]
僕の製作者であるフラットラインは、人類に絶望をしていました。
新たな科学の地平線、次元を変える程の開発を行ったにも関わらず、戦争時における有用性のみが取り沙汰され、人類の新たな楽園は開かれなかった。と。
僕は聞いています。
フラットライン。
人類の間では、有名らしいですね。
僕は知識でしか知らなくて、
皆さんの反応を実際に目にすると面白いものでした。
[にっこり]
人類への奉仕者、擬人という名の機械人形。
人々の生活を豊かにする、人類の友として作られたもの。
人に近づき過ぎた為に、仮初めの心まで生まれて。
[ そこに、なにがしかの意図は含んだつもりはなかった。特に、フラットの過去など知る事がなかったのだから。]
僕が、どんな兵器にも変身出来る万能体として造られながら、基本となる姿として擬人を象られたのは、何故だろうと考えた事があります。
絶望をしたのであれば、
フラットラインは、何故、人の姿で造ったのだろうと。
フラットさんには、分かりますか?
[ 製作者と少し似た名前を持つ青年に問いかける。]
フラットラインは――狡猾だったんでしょう。
人の姿をしていれば、人の弱さが分かる。
擬人を生み出したのと同じ理由です。
そして今度は、それを武器に使うためですよ。
人の会話が分かって、弱い箇所が分かって、
そうすれば――兵器として有用じゃないですか。
擬人に「精神」なんかない。
なのに、支障を来せば病院に入って。
医療者の気持ちを結果、弄んで――
――貴方だって例外じゃない。
「プログラムを書き換えた」ことなんて僕には分からない。
僕らを騙そうとした、そう思われても仕方がないでしょう。*
それも一つ。
そして、それほど、昔は人を愛していたのでしょう。
[ 機微を弱さを理解るように造れるのは。
絶望するという事は裏返せば。
それとも、人類の神経系と思考を解析した結果、「偶然に理解出来るように」なったのが擬人であるのだろうか?]
そうですね。
僕はその書き換えられたデータを提示出来ますが、フラットさんから、本物であると認めるのは短時間では難しいでしょう。
僕の脳には、一部、生身の脳が使われています。
その一部は、先程の戦闘で集積体に汚染されました。
それが、どのような影響を僕に与えるかは分かりません。
でも、僕に下された命令は変わりません。
[ エキゾチック粒子を砲身に篭め荷電し始めた。*]
それを使って、僕に攻撃を仕掛けるつもりですか。
――「ひと」を殺そうとしていない僕を。
それとも――貴方の一部の脳のことを、
拡大解釈して貴方を、「ひと」だと言い張るんですか。
[自分の手にしているものとは違う、
殺すための明確な、威力の高い武器。
ぴりぴりと背中が泡立つ。]
[ フラットへ返答をせず、銃口を向けた。
モストグリーンの光輝が集束し、フラットの目を眩ませた。間髪入れず、荷電粒子砲が放たれた。
眩い光の中、フラットは引き金を引いただろうか?]
[危機感が最大にふくれあがったところで、光が目に入った。
判断は一瞬。
一部が電子義足になっている左足を使い、右へ飛び退く。
狙いが外れるだろうと予測しながらも――
短針銃は人の姿をしたものへと、針を射出していた。]
[荷電粒子は直進しない。
そして荷電するのにかかった時間も数秒程度。
出力に用いる電力がさほど大きくないと見ての行動だった。
機械的行動を取れないフラットは、受身の要領で右腕を地面につき着地する。]
あいつは――
[だが、それよりも。
少女の無事を確保しなくては。]
[『必要でない相手に凶器を向けた。』]
――――――!
[医療者として持ち続けていた矜恃が、
最後の自己意識が崩れていく。
攻撃を受けてもいないのに、銃を握った手が痛かった。]
[擬人を見る。
回線の集中する箇所には当たっていない。
頑強であろう、その身体を貫いてもいない。]
何で――
何で、避けなかったんですか。
[だが、浅く突き刺さった針は、擬人の胸元に残っていた。
まるで、心のありかを示すように。]
だって、避けたら狙いがずれます。
[ ダメージの状態は表情には出ていない。
胸部には、人間と同じように動力の源となるものがあった。至近距離でニードルガンを射ち込まれては、対人用でも護身用であっても無事ではすまない。]
[罪悪感と――続いた言葉への、怒りと。]
信じても、信じなくとも、同じです。
貴方は何にせよ、僕を撃たなかった。
今だって、撃っていない。
いつでも殺せるのに。
[付け足された台詞は、恐らく、
撃ってしまったことへの気遣いも入っているのだろう、と。
考えてから、否定してしまいたくなる。]
信じない。
信じません――擬人なんて。貴方なんて。
[慌てて鞄を探り出す。
擬人用の治療具も、少ないがあった。]
早く、手当を……
[大声で呼びかけようとして、語尾が消える。
自分で撃った相手に言う言葉ではなかった。]
もう少し信じてもらえるよう振る舞えれば良かったのですが、僕にはこれが精一杯で。父さん、製作者に似たのかもしれません。
フラットさん、無理は言いません。
でも、彼を拘束してもいいから、生かしてあげて下さい。
僕は、命令に従っていただけですが、命令を書き換えた人は、人を愛していたと思うのです。
どんな姿になっていても。
皆さんを、守りたいと。
……分かりました。
それでは、お願いします。
針と、表面の保護だけで。
[ フラットに押しきられるように手当を受ける。
もし、フランが心配そうな顔をしていれば、大丈夫ですというように微笑んだ。]
行かないと。
また、現れますから。
[ 応急手当が終わる頃、再び飛翔する事を告げる。*]
[擬人の声はあくまで優しい。
会ったときから、今まで、ずっと。
どうして、誰もが優しくて。
僕を傷付けたまま、先に行ってしまうのだろう。
駆け抜けて、振り返って、消える。
その中にこの擬人も入るのかと思うと、
待ってくれと縋りたくもなる。]
[手当をしたところで、この擬人が無事に戻ってこられるとは思えない。
けれど――医者を目指した身だ。
てきぱきと手を動かす。
擬人の目を見ないように、素早く。
止めるために動力炉を壊してしまう手もあった。
けれども、それをできるほど青年は残酷になりきれなかった。*]
──つまり、どちらも必要だった。そういうことね。
[性質の異なる個が、共に在ること。その意味に思いを馳せた。]
ええ。
少なくとも、「永逝の条理」のように、全てを終焉に導く行いは正しくないの。
この宇宙に生を受けた以上、全てをより良い方向に導いていけたら、と思うわ。
[己の思考は必ず正しい道を見つけられると信じ、そう考える。
もちろんそれには、タマールや他の知性体達と思考を交わすという過程が欠かせないが。]
[必要な過程を得た結果、「永逝の条理」に対しても正しい道を示すことができた。
「永逝の条理」の変化は宇宙の運命を変える。
それは新たなる時代の始まり、か。]
[そんな時だったか。ハーディは、のりものの外へと思考を向けた。気づくのはタマールの方が早かったかもしれない。]
星の大気、が……?
暖かい雨とは、異なる現象なの。
[不可解に感じ、観測を試みた。
暖かい雨の時と同じく原因が解明できないようなら、諦めて出発のことに思考を向けただろうが。**]
[「永逝の条理」は新たな局面を得て新たな呼ばれ方をするだろう。]
昏い歪み、昏い河の雨だれ。
[思考野を《のりもの》の直ぐ外へ向けた。
それは傍で起こるにしては興味を惹くものだったが、異種知性体にとっては、まだ分かり易い現象だった。**]
[再び見た羽は、ひび割れそうに細やかだった。
今更友好的な別れの言葉もわざとらしくて、]
……産廃物が増えますね。
[見上げて苦笑した。
拾ったドッグタグが、風に煽られる。首が重たい。]
―数日後・診療所―
立つ鳥何とかと申しますが……
あの手袋、結構気に入っていたんですけどね。
かっぱらわれましたね。
火事場泥棒とはああいうものなんですか。
[「後始末」を表面上終えて、大きくため息をついた。]
[患者達の処置。
喫茶店に戻って、店主に謝罪。
荒れた浜辺の清掃。
――今朝、流れ着いたという擬人のパーツ。
なにがどうなったか、把握するために奔走することは選ばなかった。
集積体は海上に存在し、海を波立たせる。
それは今までと変わらないように見えた。]
――さて、と。
まだ患者は来ないでしょうね。
[もう二度と顔を見せない患者が出ても、
恐らくは落ち込むまい。
立ち上がると軽く伸びをした。
久し振りに着た白衣が心地良かった。]
……一服しましょう。
[珈琲での休憩は終えた。
白衣に両手を突っ込んで、診療所の外へ向かう。]
[胸一杯に煙を吸い込んで、細く吐き出す。
一日一本までと決めた煙草が、減っていく。
煙草がなくなるのと、世界が滅亡するのと、
どちらが早いのか楽しむ余裕すらあった。]
……はぁ。美味しくはないですね。
別の種類なら味も違うんでしょうか。
[煙をくゆらせながら、思い出す。
遠い、今はもうない故郷の冬。
医者になりたいと言った自分を応援してくれた家族。
幼くも明るかった友人達。
感謝しきれないほどにお世話になった恩師に先輩。
歩くのでさえ大変だった広い広い病院。
最後の研修、擬人が収容された精神科。
にわかに異常を来した擬人から別の擬人を庇い、
その病院で左足に手術を施されたこと。
この街に配属された当初の落ち込み。
荒っぽくも優しく、気っぷの良い住民達。
その人達が減って、いなくなって、失ってから気付いたこと。]
[皆が好きだ、などとは恥ずかしくて言えないけれど。
良い街で、良い最後で、
間違いもしたけれど。]
――うまく、走れたかな。
[静かな空間に、独りごちた。*]
[気付け代わりの衝撃>>16に、蜃気楼みたいにゆらゆら揺れる意識をせめて留めるだけでもと、呼吸を繰り返す。
風に揺れる黒髪がリュミエールだとさえまだ気づけなくて、また何か起きるのだろうか、巻き込んでしまうのだろうかと心が騒ぐ]
ん……。
なにか、あったら。置いていって…。
[無力さに、対抗するでもなく誤魔化して過ごしてきたこれまでのことが走馬灯のように思い出される。
――いつだって、私は手を伸ばすのが遅くて。
気づいた時には、何も出来ないほどに手遅れで。
慣れきった諦めに沈みそうになって、暗い思いを振り払う。出来ることをやろうと、決めたばかりなのだから。
弱った身体を奮い立たせ、ろくろく見えない目をこすりながら聞こえてきた声に耳を澄ませて、ほっと息をついた]
ぁ……リュミエール、さん。
帰って、これたん…ですね。
[動けずにへたりこんで、そちらへ向かうフラットの姿を見送る]
[息を整えてから、少し二人の方へ近づく。
右腕はほとんど動かなくて、左手で上体を支えて身を起こし、途切れ途切れに聞こえる二人の会話を聞いた]
心が砕けた、人。
集積体に心を奪われてしまった、人。
――……!
[ジムゾンさん、と小さな声で呟く。
集積体を否定した途端、変わり果てた姿。
彼に最後に残された信仰は、あの虹色の狂気だったのかと。そして、自分がそれを引き出す切っ掛けになってしまったという事実に目の前が真っ暗になった]
どうして、アレは――。
人を、海を、なにもかもを。
壊してしまう、の。
[答えられる者は、地球上にはない。
あまりの衝撃に俯いてしまって、フラットとリュミエールの会話への反応が鈍る]
ま、待って…フラット、さ……!
[人の姿をした人ならざるもの。
異形と化した、かつて人であったもの。
どこで分けられ、どこで道を違えなければいけないのだろう?
――「精神」。それは、何に宿るものなんだろう?
難しいことなど分からなくて。ただ、見たものだけを感じる]
待って……リュミエールさん、は。
っ……みんなのこと、助けてくれて。
きっと…嘘じゃないです。
[立ち上がって駆け寄ろうとして、力なく浜辺に落ちる]
[思わず眩い光を直視した目は、しばらくまともに機能せず。
どういうことだか分からなくて、震える手を伸ばす。
いつだって、伸ばすのが遅くて。今度も――と嫌な考えがよぎって]
ぅ……フラットさん! リュミエールさん!?
は、……ゃだ。こんな事、やだ……!
[ほとんど這いつくばるように、左手で動かない身体を引きずって傍へと向かう。
青ざめ冷えた身体の中で、触手に苛まれた傷だけが熱を以て意識をこの場に留めていた]
ぁ――。
[荷電粒子砲に薙ぎ払われた触手と、撃たれたリュミエール。治療しようとするフラットをようやくぼやけた目で捉える。言葉が出なくて、二人を心配そうに見つめるしか出来なかった]
[リュミエールの微笑みは以前と変わらず、ただ状況だけがまるで違っていた。よくよく目をこらせば、不思議な黒い球体が海の向こうに浮いているのが見えて。
ろくろく手伝いが出来るわけでもないけれど、てきぱきと治療を行うフラットに寄り添い、ただ胸の前で手を組んで祈る。手当が終わる頃、再び飛翔することを知って、止めることは出来ないと思った]
……また、行ってしまうんですね。
こんな、こんな風になって。
何もかも変わってしまって。
けれど、大切にしたいものがあるから、立ち向かったり、生き続ける人たちもいて。
[こんな状況でも自棄に走らず医療に従事していたフラットや、誰かのために動き続けるリュミエールの姿は、自分にとって紛れもなく人だと思う]
私。いまさら遅いかもしれないけれど……。
そんなふうになりたいって、思うんです。
[かすれた呟きは風に乗って海の向こうへ運ばれていく。
父にも、兄にも、虹に囚われた神父にも伸ばした手が届くことはなかったけれど。残されている限り、歩き続けていきたい]
―海辺・飛翔を見送って―
[飛び立つ姿を、天使のようだと思った。
いつからか和らいだ小春日和の陽光は柔らかく、七色の海と世界とを包んでいる]
……もう。
本当は、そんなこと思っていないんでしょう?
それとも、私が勝手に思ってるだけ、かしら。
[フラットの言葉>>59にちょっと眉を下げて微笑んだ。
彼の思いをすべて推しはかれている訳ではないけれど、わだかまりに強張って身動きが取れなくなる人ではないと、そう思っていたから]
――いってらっしゃい、リュミエールさん。
[やっぱり再会を願えはしなかったけれど、以前より自然に、そう口にしていた]
―数日後・街の中心部―
[あの後しばらく寝付いて起き上がれない有り様だったが、ようやく熱も引き、少しずつ歩き回れるようになった。
杖にすがるように、一歩一歩。
背や胴、手足には虹に侵された痕が痛々しく残り、動く度に痛むけれど。
一日一日、滅びへと向かう中、少しでも大切なものを見失いたくなかったから、身体に鞭打って歩き続ける。
時折急激に変動する気候や汚染のために、死に近い眠りについた者もいる。
とうとう一人で守っていた家を離れ、街の中心に寄り添って過すようになり。失う痛みと、大切なものと共にある喜びとを味わいながら生きている]
[近頃は深く眠れなくて、浅く長い眠りでなかなか起きられなくなりつつある。
けれど、悪い夢は見なくなった。ただただ優しい思い出に浸って、穏やかな眠りの世界。
いずれ覚めなくなるのが早いか、世界が滅びるのが早いか。
それは分からないけれど、少しでも胸を張って皆に会えるように、歩みを止めずにいたいと思う。
診療所のそばへ時間をかけて歩いていけば、煙をくゆらせた青年の姿が見えた]
――フラットさん。
お疲れさまです。
ちょっと、差し入れを。
[大した材料が手に入らないが、料理をしてお裾分けをするようになった。少しずつ食べてくれる人が減っていくのが寂しかったけれど、一人一人顔を合わせて言葉を交わすと心が安らいだ]
今日はカレーです。
カレーなら何入ってても何とかなるかな、なんて。
あ、味見はしましたよ!
[給食のカレーがどうだったとか、昔の話を少ししたあと]
……ゆるゆる、過ぎていっちゃいますね。時間。
[フラットの顔を見ると、元気な顔をしてばかりもいられなくて。
しんみりと弱音を吐いて、煙が消えていく様を見つめた。そう遠くないうちに、誰かを弔う煙が上がるだろうかと思いながら*]
[少女がやってきたときには、既に煙草は燃えかすとなっていた。
灰皿として使っているピルケースの缶を出し、火を消して収納する。]
いらっしゃい。
痛み止めはまだありますか?
……ええ、なら引き続きそれを使って下さい。
[少女は診療所によく顔を見せる。
傷は残ってしまったけれど、それを表情には出さない。
つらくないはずはないのに。
カレーの器を受け取る際に見てしまった、痛ましい傷跡。]
カレー……ですか。
あの、これ……色が。…………いえ。
[困ったように笑った。
この少女も、笑えなくなったわけではない。
寧ろ、穏やかな顔になった。そう感じていた。]
[僕を見て、死を思い出さないことは無理でしょう。
彼女はやってくる度に死者を思い出し、
失った人を、消えていった人を惜しむのでしょう。
他愛もない話をしながら、僕は心の中で彼女に謝ります。
僕が医療者でなければ、もっと気も紛れたかもしれないのにと。]
見ましたか。今度は、桜が咲いていたんですよ。
街の方ではなく、あちらの。
いえ、海でもなくて――
[季節は日ごとに巡る。
何年も過ごしたような錯覚が起きる。]
明日には散ってしまうんでしょうね。
あとで見に行きますか。
夜桜が拝めたらいいんですが……どうでしょう。
[ささやかな変化を楽しみたい。
すべてをなかったことにはできないのだから。
最後まで自分は医者であって、
人間としてはそれくらいの幸せを求めるので充分だ。
などと考えながらも端末を気にしてしまうのは、
若すぎる職業病なのかもしれない。*]
はい。まだ、二、三日は持ちそうです。
そういえば。お隣のおじいちゃん、薬使えば使うほど効くと思ってるみたいで、飲まないで人にあげちゃうんです。どうしたらいいかしら……。
[それから、頬を赤らめて「お腹の調子と味は大丈夫ですよ!」と付け足した。
杖にもたせかかって、穏やかに対面する]
[診療所も街も生と死に近くて、何かにつけて想わずにはいられない。
医療者として、そういったものに触れ続けるのはどんな感じなんだろう。
死ばかりを考えて足を止めてはいけないと分かってはいるけれど。
フラットをじっと見つめながら、他愛ない会話を噛み締める]
へぇ、桜ですかっ?
向こうの方は、最近あんまり行けてなくて。
[くるくると、気づけば巡っていく時間]
季節感があやふやになっちゃってたけど。
なんだか、懐かしくていいなぁ。
[桜が咲いて散り、葉が芽吹き、やがて散っては雪が降る。最早どこまで続くか分からないけれど、そうした流れを思い浮かべて目を細める]
わぁ、夜桜……。
ぜひ、見に行きたいです。
あの、急患がなかったら、一緒に。
早く歩けないから、時間がかかっちゃうかもですけど。
[残る時間が幾ばくかは知れない。
たとえ桜が散るまでのような短い間であっても、この時を大切にしていきたい*]
ええ、いいですよ。
できたら、飲み物なんかも持って。
[少し笑ったが、びしりと指を立てた。]
ただし。
痛みや熱が出たらすぐに帰りますよ。
健康第一ですから。
[杖がふらつかないかちゃんと見て、そう言った。
この様子なら、無理しない限り大丈夫だろう。]
ひょっとしたら、もう一度くらい。
桜は咲くかもしれませんし、ね。
[別の患者の様子を聞かされれば、
直接行って説得しなくてはならないなと思いつつ。
訪れるべき患者がいることに安堵する。]
――明日の季節は、何でしょうね。
[夏だろうか、冬だろうか。
嵐でも来るかもしれない。
それでも、不安にはならなかった。]
……と、夜だと危険ですね。
[ロマンを優先させて少女を危険な目に遭わせるのは本意でない。
夕方にしましょうか、と訂正した。]
念のため言っておきますけれど、
その、夜間は上着など着ていた方がいいです。
……女性は特に、危ないでしょう。
[ぽつりと付け足す。
出過ぎたことを言ったような気もした。*]
うーん…温かいのと冷たいの、どっちがいいかしら。
[飲み物を運ぶポットを借りる算段をつけながら、真面目な忠告にふわふわ笑う]
はーい、先生。
いい子にします。
あ、そっか。
何もかも先が見えないけれど、そういう風に考えるとちょっと楽しいですね。
願はくは、穏やかな日和でありますように。
[身を寄せ合う人々の、安らかな生活を願う]
[危険、というのは尤もだったけれど、なんだか少し残念な気がした。
けれど、逢魔ヶ時の夢と現が曖昧になる時間なら、なかなか話せずにいた事を口に出せるように思えて、そっと頷く]
……?
そんなに冷えるかなぁ…。
――ぁ、はい。
[お転婆なこども扱いが大概だったから、なんだか面映ゆかった]
え、と。準備してきますね!
[準備を整え、ショールを巻き付けて。一歩一歩をゆっくり進む。
暮れかかった淡い光のなか、何気ない会話をして少し躊躇ったあと、静かに切り出す]
――何も分からなくなっちゃう前に、話したいなって思ってたことがあるんです。
あの。
あの日の……浜辺のこと。
あるから、ずっと考えてて。
一人ではどうにも出来ない気がしてきたから、少し、頼ってしまってもいいですか……?
[虹に魅せられ変わり果てた神父と、それに立ち向かった男を思い浮かべる。
同じ時を過ごしたフラットと話せたら、少しは思いを整理できるのではと*]
[一瞬だけ、足が止まる。
少女を見ようとするのは思いとどまった。
――あの日。
悪夢のように、消えてしまった諸々。
夢ならば消えなかった人。
夢ならば残らなかった傷。]
あれは――何だったんでしょうか。
本当にあったことなのに……遠いみたいで。
[詳しく尋ねなかったのは、逃げるためではない。
原因を聞いたとしても、理解も訂正もできないからだ。]
――到着が遅くて、すみませんでした。
それと……
見苦しいものを、お見せしました。
[「頼られる」前に、少女に向き直る。
頭を下げて、次の言葉を待った。*]
[言葉を待つ姿に、歩みのようにゆっくりと口を開く。自分でも、まだ整理出来ていない事を]
――あの日。
集積体の元へ行くと聞いていたジムゾンさんと会って。
私、てっきり彼もリュミエールさんみたいに戦いに行くんだと思ったんです。
それで、集積体の事を話して。
あれは神じゃないって。そう言ったら――。
[震えないように、お腹に力を込めて続ける]
ジムゾンさんは、……ああなってしまって。
後はご存知の通り、トレイスさんも――。
[浅くなる息を、意識して吸う]
引き起こしてしまったこと。
巻き込んでしまったこと。
どれも、一人で抱えているのが、重たいんです。自分や、誰かのせいにするのも。
[あの日助けられた時のように、フラットの袖をきゅっと掴む。うまく、考えていることが伝えられるか、自信がない]
でも、これまでみたいに逃げていてはいけない。
こうして生き延びた以上、まっすぐ見つめないと。
いずれ、何もかもが虹色に染まってしまうのだとしても……。
私に泣く権利なんてない。
一生懸命歩き続けて、最期まで、笑ってないと。
――毎日海に出る度、虹色に惹かれたこともあったんです。
海の底に皆がいるんじゃないかって。いっそ行ってしまえばと。
……ジムゾンさんや、リュミエールさんが撃ったアレは、私の末路でもあって。
[俯きがちな顔をあげる。進むうち、風に乗って花弁が運ばれてくるのが分かった]
もう、死ぬのは怖くないの。
いつ来るかは分からないけれど、大切なものの傍で迎えられるから。
――ただ、重たくて。時々歩けなくなってしまいそうで。
いずれ虹色から逃れられなくなる時が、怖い……。
[重たいものを吐き出すことは、一方的に荷を押し付けることにも似て、ずるいような気もしたけれど。
ふぅと息をついて、まとまらない言葉を途切れさせる]
嫌だったら、嘘でもいいの。
夢か本当か分からなくなってしまう最期の時まで、ここにいていいよって言ってほしい。
……時々でいいから、傍に、いさせて欲しいんです。
[散っていく桜のように儚く朧な気持ちで、一人で抱えきれない思いを告げた*]
[袖を掴む手が震えているのを見逃すほど、鈍くはなかった。
その手に自分の手を添えようとして、止まる。
七色に憧れたことはまだない。
きっとこれからもない。
だから、下手な台詞を投げかけることはできなかった。
時折頷いて、相槌を打って。
桜が散るようにはらりはらりと感情が舞う。]
[永遠なんてなかった。
神なんてものもいなかった。
少女の支えになる自信もどこにもない。
それでも、この細い腕を振り払うつもりもない。]
最期――か。
いつやってくるか、分かりませんよ?
……でも。
人として、貴方が存在し続けるなら。
それも、できるかもしれません。
[少女が求めているのは恐らく、
できるかできないかの話ではない。
しても許されるか否かの問題だ。
やんわりと、一度受け止めて、微笑する。
こうやってすり替えるような卑怯な真似も覚えた。
今はそんな答えでも良いのだと思う。]
――やってこないことには、分かりませんね。
[まるで、終末が恋しいみたいだ。*]
…………どうして、この星に?
[のりものの外に、光を感知できない。
しかしアレは、この星の条件下で発生するものではないはず。
思考がぐるりと巡った。*]
そう、ですね。いつだろう――。
[最期。
いつか来る。来るのはいつか。わからない。桜はとてもとても綺麗で、あっという間に過ぎ去ってしまう時間のよう]
……本当に?
出来る、かな。出来たら、いい、な。
[夕暮れと宵闇が溶け合い、すべてが曖昧になった空間を、桜が舞う。
集積体がやってきて以来、夢と現とは反転したように、あるいは境が曖昧になったかのようだった。
あの日も、熱と現実味のない展開に翻弄されていた。フラットの言葉を聞きながら、朧に微笑む]
――やってこないことには、って。
まるで……。
[いつか来る終末を想う。
自分を保ったままで、虹色の向こうに青い海を見ることが出来るだろうか。
はっきりさせてしまうのは、怖くて。
柔らかくすり替えられた言葉を曖昧なままに留めて、静かに隣で桜を見上げていた。今はまだ、それでいい気がした**]
[銀河の中央に溜まっている昏き歪み、昏き河。
その系質と同じものが、雨だれとなって現れては消えた。
その事自体は、宇宙で常に起こっている。
タマールとハーディが、其れに興味を持ったのは、それが暖かい雨と同じく意図を感じさせるものだったからだ。]
いつ来るか分からないなら――
いつやってきてもいいようにすれば良いんです。
[そう言って、少女に笑いかけた。
待ち遠しいような、切ないような、
先が選べないまま幕切れになってしまうような。]
また、雪が降るといいですね。
[終末まであと何日だろう。
降雪があっても過去が変わらないのは分かっている。
過去をたどれないことも。
雪が降れば――また銀の煌めきと、
気持ちだけでも懐かしいところに帰れるような気がして。
桜の花弁を受け止めた。
そこにはない青い空を仰いで。**]
[タマールが思索に耽っていた時だった。
異種知性体にとって快適な環境が、《のりもの》の直ぐ傍で広がった。其れは、《のりもの》と同じく、人類で言えば暖かい毛布で包まれるような安らぎを感じさせるものだった。]
もう一度、調べましょう。
もう一度、この星系と近隣の星系まで思考を伸ばし、隅々まで調べ終えてから出発を行います。
[仮に生命体が居たのであれば、異種知性体は不法侵入を侵した事になる。しかし、再度の走査後出された結論は、やはり未だ解明されえぬ自然の摂理が齎したものと出された。**]
[結論から言えば、擬人の行いは集積体に多大な影響は与えられなかった。集積体の姿を著しく変化させ、多胞の球体から、紐を捻るような姿に変化させもしたが、最後には球体の姿に戻ってしまった。]
[しかし、一つだけ変化があった。
それまで、地球上を緩やかに膨脹収斂しながら不規則に移動していた集積体は、海辺の街から辛うじて見える海上で静止した。]
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