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[神父が一礼したのを見て、慌てて礼を返す。
擬人は常と変わらぬ様子で佇んでいる。
傍らの男がどちらかに用事があったのか、と尋ねようとしたとき。
空間がふわりと輝いた。]
[灰色の空に、青白い光が瞬く。
目を灼くようなそれは、しかし厳しいものではない。
顔を覆いかけた腕を下ろす。
銀の翼が伸びきる。
フラットに注ぐはずの雪が、少しだけ遮られて。
微笑んだ擬人は視界から消えた。]
――浜辺――
[擬人と神父。
彼らの間でどのような会話がなされているのかさほど興味の無い男、
空から浜辺に視線を戻して、神父>>107に向かって片手を上げる]
面倒を見に来た………っつーところやな。
[風にさらわれない程度の大声をあげて、一歩進めば、
先程まで立っていた場所にうっすらと足跡が残る]
つーか、そっちの擬人とお取り込み中じゃなかったんかい。
[話は終わったのか。
まあそうだとしても、至福の喫煙時間の間に見える景色が変わるだけの話。
煙草をくわえた後、しばらくは火をつけずに周囲を傍観していた]
[先程の台詞には、「誰の」面倒を見に来たのかが足りていない。
それどころか傍らの歳若い医療従事者には、そもそも誰に用があるのかすら話していない。
しかしそれらに構うことなく男は煙草に火をつけようとして―――]
………………!?
[男の口から煙草がぽろりと落ちた。
赫い眼の擬人>>113からたちどころに銀の翼が生えた。
飾りなどではなく、どこへでも飛んでいけそうな。
開かれた擬人の眼と視線がかち合う]
お、おい、何処に行くんや………!
何で、あんな……
[ぽつりと呟いた。
旅立ちとは思えない。
本気にはしたくなかったが――恐らく、あの擬人の向かう先は。]
――何で。
何で、あんなに綺麗なんですか。
[悔しそうにも鳴きそうにも見えた表情は、
言葉にも、声にもならなかった。
たかだか組み込まれた決まりに従って、
そうやってどこまでも進んで、
七色の海を照らしていた。]
[まるで秘め事を呟く様に唇に人差し指を当てて、「空を飛べば良い」と機人は言っていた。>>92きっと機人は集積体のもとへ向かったのだろう。
男の問いに答える機人に、自分の推測が当たっていた事を知る>>121。
機人が消えていく海の彼方を見る。この向こうに神が居ると確信めいたものがあるのに。翼を持たない自分には海を渡ってゆける筈も無く――。]
はあ……。面倒を見に来たんですか?
それはどうもお疲れ様です。
……少し世間話をしただけですよ。
[機人が立ち去った後。ゆっくりと口を開いて、男からの返事に曖昧に頷いた。>>117
浜辺にはトレイスとその連れの他には自分以外の姿はなく、一体誰の面倒を見に来たのだろうと純粋に疑問に思う。何処か惚けたような溜息が口から漏れた。
擬人とお取り込み中だったのではないかと訊かれれば、世間話をしただけだと答える。世間話にしては機人と交わした会話は重々しいものだったが、男が知る由もないだろう。]
[「集積体の元へ」。
それはそう遠くない過去に聞いた言葉と全く同じだった。
反射的に赫い眼の擬人に向かって手を伸ばす。
………まだ届く。
スラスターの零す光がペンダント代わりのドッグタグに反射して周囲を仄明るく染める]
……………置いて
[だが、あの時飲み込んだ言葉を最後まで口にするより先に、
弾かれたように伸ばした手を引っ込めた]
[空を舞う雪は白い魚のよう。
七色の海で死にゆく魚のように、病み衰えてゆく地上よりも、よほど健全で生き生きしているような、そんな錯覚を覚える]
はー。
はーっ。
うーん、酸欠に、なりそう……。
[指先に遊ぶように息をはきかける]
[音を吸い込まれたように、人気のない街角は奇妙な静けさ。なんだか足音を立てるのも決まり悪くて、そっと歩く。
りりりり。
不意に鳴り出した小型端末をぱっと取り出して、ふっと息を止める。
アラーム音さえ止まってしまえば、本当に何もないみたいで]
……。
[基地から来た返信は、ひどく簡潔で。
添付された死亡証明書と、地図とを眺めながら、やっぱり手を伸ばす意味なんてなかったのだと。
しばらくして、思い出したように吐いた息がぷかりと消える。
かつての青さは一片もないのに、海の底にいるような心地がした]
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