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―― 12月23日・展望台にて ――
ぼくも、凌と一緒じゃなきゃ、此処には来なかったよ。
[とうに日が落ちた山道を。
歩きたいと、寄り添いたいと、手を繋ぎたいと想うのは。
ぜんぶ、最初の時とは違う気持ち。
でも、このひとと一緒が良いという気持ちだけは。
近すぎてぼやけていた視界が、深くなった凌の笑みを映す。
ふわり吹き込んだ白雪が、そらの明かりをうけて、淡く輝いた]
……どうしよう? 綺麗で泣けそうだ。
ここに居てくれて、ありがとう。
[抱きしめられれば、抱きしめ返し。
そう呟いて肩口に顔を押し付けるも。
腕が緩められて、どうしたのだろうと自然、上向けば。
こつり、額に触れる熱と、またぼやける程近い、茶にちかい黒の瞳]
りょ、 …――ん。
[長すぎる返事は、名すら呼びきる前に塞がれた。
時間にすれば、わずかな秒針の移動に過ぎない触れあい。
けれど、ほのか過ぎるぬくもりが、大事なことだけちゃんと
伝えてくれる気がして。
目を瞑ると、そのぬくもりに応えることにだけ、集中した]
…… … …――。
[やがて、ぬくもりが離れれば。
お互いの間にしろく籠る吐息さえ、もどかしく。
熱の燻る瞳で凌を見上げると。
もう一度手を伸ばし、今度は自分から。
溺れるように。あるいは、繋ぎとめるように。
深く、深く――…]
あっ。
[素っ頓狂な声をあげたのは、顔の熱も大分引いてきた頃か。
猫のポーチを開くと、ちいさな包みを差し出した]
メリー天皇誕生日っ。ほんとは、ペア狙ってたりしたんだけど……
[その後の出費を考えると、断念したのは良い判断だった。
ともあれ、いかにもクリスマスっぽい顔をした包みの中では、
桜が透かし彫りされた指輪が収まっている。
指につけるものだと外す機会が多そうなので、
チェーンも一緒に*]
[杏奈の出発が近付いた春休み前のある日。杏奈に手を引かれやってきたのは
学園の裏手にある木陰の深い一角。鶴亀石の伝説>>0:830があるという場所]
じゃあ、ここで誓いを立てれば離れても大丈夫かな
応援するって言ったのは自分。
1年なんてすぐだって言ったのも自分。
だけどその時が近付けば、離れたくないって想いも強くなって
[白い頬にそっと触れる。最初は指先で、そして手で愛おしむように。
少女の上目の視線と交われば、気持ちを抑えることは不可能で。何度もその唇を求めてしまう]
好きだよ。何度言っても言い足りないくらいだ
杏奈のことしか考えられなくて、こんなに誰かを好きになるなんて
好きになれるなんて思わなかった
ずっと、いつまでもこの気持ちが消えることなんて、ないって──誓うよ
神様にじゃなくて、杏奈に、ね
─ 1年後/杏奈帰国日/空港 ─
[今日は特別な日だから、学校はサボった。一応「風邪で休みます」とは連絡を入れたものの
クラスメイトには知られている。今日は杏奈が帰国する日だと]
[成田の第1ターミナル到着階のミーティングポイントに着いたのは、
杏奈の飛行機が到着する8分前]
1年待った。焦る必要なんてない。
1年待った。あと数分待つなんてなんてことない。
[ミーティングポイントのソファに座って、シマウマストラップのスマホで何度も時間を見る]
時間経つの遅えよ……。
今更焦っても仕方ないのはわかってるけど。
だけど、1秒でも早く逢いたい。
[到着のアナウンスのあと、しばらくするとフロアがざわめき始める。
ソファから立ち上がって視線を走らすと手続きカウンターから手続きをすませて]
あ……。
[俺の姿を見つけて、手を振ってる]
人の目なんてどーでもいい
この手で抱き締めたい
それだけ。
───杏奈あっ!
[駆け寄ってちから一杯抱き締める。杏奈がなにか言ってるような気もするけど、抑えきれなくて]
電話もメールもネットも全っ然足りなかった
杏奈に触れられない1年がこんなに長くて辛いなんて思わなかった……!
[その存在を確かめるように何度も何度も抱き締めて]
おかえり…杏奈……。
[ようやく杏奈を解放すれば、スーツケースを手に]
こーいうのは俺に持たせてよ。
杏奈が持つのはこっちでいいでしょ
[いつか言ったのと同じセリフを言ってから、空いた手を差し出して歩き出す。
目が少し赤くなっていたのは杏奈に気付かれただろうか*]
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