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院長 高瀬顕尚 に 1人が投票した。
喫茶店のマスター ディビッド・ライス に 6人が投票した。
未亡人 瀧華伽耶 に 1人が投票した。
喫茶店のマスター ディビッド・ライス は村人達の手により処刑された。
今日は犠牲者がいないようだ。人狼は襲撃に失敗したのだろうか。
現在の生存者は、院長 高瀬顕尚、事務長 神威京斗、青年 雨宮紫苑、コック 須藤暁、未亡人 瀧華伽耶、女子高生 支倉桜子、水道修理業 遠藤明夫 の 7 名。
[ビデオを見せたのは賭けだった。もしかしたら、みんな逃げるかもしれないと思ったから]
よし、作戦は明日の夜明けだ。
みんなよろしく頼むぞ。
[皆の士気を高めるのに功を奏したことに安堵した]
[解決までの確かな道筋があり、それを目指してる人々がいる。
……わたしは久しぶりに安心して、眠る事が出来た]
……テスト勉強しなきゃね。
[安心すると、異常が続きすぎたせいで忘れていた、「当たり前」のことが心配になってきた。
わたしはため息をついて、寝がえりをうった]
[電話連絡で、明日の朝夜明けと共に神社に集合するように頼んだ。
表向きの消毒に必要な噴霧器などの手配もぬかりなく、
大掛かりゆえに炊き出しなどの手配もするようだった。]
……。
[村を守るための戦いが始まる]
―夜・神威宅―
はいはい、神威さん。
元気でしたか…?
[寝て居る傍らに膝をつき、声をかけた]
[手を取り、手首に牙を突き立てる]
…大夫、衰弱してやすね。どうぞ、屍鬼になって下さいやし。
ほら、行きやしょ。
[神威を促し、引越し業者のトラックに乗せた]
[俺、この村出るかもしれない…。
各自が散り散りになる頃、一人がぼそっと口にした。
村の裏切り者―非難も出たが、誰かがやめようと言った。
村を捨てて逃げることも選択肢だろう、相手は書割や時代劇の斬られ役ではない。即ち自分達も殺される可能性があるのだから。]
先輩、僕ら生き残って社長を助けましょうね。
家族を守りましょうね。
[別れ際、先輩に言った。
そこに居た数人で手を組み、村の平穏を目指そうと誓った。]
─支倉宅─
……ん。
[夜中、ふと喉が渇いて、わたしは目が覚めた。
せっかくゆっくり眠れているのだと思ったけれど、どうにも気になって寝つけない。
わたしは、口元にあくびを隠してひとつ。ポンポン付のスリッパに素足を差し込んで、階下へ]
[冷蔵庫の麦茶を、グラスに注いだところで、家の前に背の高い姿があることに気付いた]
先生?
[すぐに、そんなはずがないと否定する。近所のおじさんにしては、すらっとしている。新聞配達にはまだ早い。
ひとつずつ可能性を潰すごとに、言い知れない不安な気持ちがわき上がるのを感じた]
―自宅→―
[施錠もせずに招き入れた須藤の姿を見て、頷く。頭の何処かには、招いてはいけない、逃げなくてはならない、そんな言葉が渦巻いていたが、何重にも蓋をされたように、それらが確かな思考や言動となって浮かび出てくる事はなく]
……――
[抵抗なく、また血を吸われた。ぴくりと体が痙攣する。体から更に力が抜けていくのが克明に感じられた。
開放されると、青褪めた顔で、浅い呼吸を頻繁にしながら、須藤に支えられるようにしてトラックに乗り込んだ]
[かつて、屍鬼が二度目の死を迎えた時に出くわした事がある。
夜の川辺ではしゃいで居たら、足を滑らせて前のめりに倒れたあいつ。
胸に刺さったのは、コンクリートから飛び出た鉄の棒。
イヤだいやだ、と被りを振る]
そう、こんなものでも尖らせリャあ…
[呟き、じと視線を向ける]
[彼の"食事"の風景を、極力見ないようにしている自分が居る。
人の命が奪われる瞬間を見たくないから?
それとも、人ならざる者の生態を直視したくないから?
いや、違う。
屍鬼になれない自分、屍鬼になれるかも知れない人間に対しての嫉妬――
きっと自分の顔は歪んでいる。それを彼に見せたく無いから目を逸らす
巧妙に隠す表情、彼は何処まで気が付いているのだろうか]
大川酒店って…
[電灯の明かりが、消えた]
ありゃ、これはヘタしちまいましたかねぇ
[ぽりと頬を掻く]
まぁ、取り合えず瞳ちゃん家に行くとしましょうか。
近所だから、彼らの方が『招かれやすい』っしょ。
[わたしはキッチンにしゃがみこみ、ドキドキ言う心臓を抱えるようにして、必死で息を殺している。
何の音もしない。もう呼ぶ声は聞こえない。
でも、顔を上げたら、ガラス越しに誰かが覗きこんでいそうで……怖くて、怖くて、動けなかった]
[どのくらいたっただろうか。
少しずつ、少しずつ首を伸ばし、さっきの場所に「よそもの」の姿がなくなっていることを確認し、わたしはやっとためていた息を吐き出した]
―山入―
[そして、男は其処へと送られた。山入。先日全滅し閉ざされた筈の場所。そんな場所に来ている事に、そんな場所に気配がある事に、疑問を抱く余地は、男にはなかった。
男はとある小屋に入れられた。夜の山奥だからというのを考えても暗過ぎる小屋だった。暗闇の中で男は仰向けに寝転がり]
……、は……
[細く息を吐く。男の呼吸はどんどん弱くなっていた。脈拍も弱くなっていった。体温がみるみる下がっていくのが感じられた。もう、腕一本も動かせないだろう]
……
[ぼんやりと、だが不思議と先程までよりは明瞭に、男は思考した。死ぬ。俺は、死ぬんだ。どうしようもなく。
高瀬の顔が思い浮かんだ。戸田や良美や、医院の他の職員達の顔が続けて浮かんだ。桜子や、ハルや、沢山の村人の顔が浮かんだ。そうして、母、房子の顔が。
結婚しないどころか、先に死んでしまうなんて。とんだ親不孝者だと、思った。御免。呟きは、掠れて声にならなかった]
[両親は、幸いにも貧血の症状は無かった。多少周囲の話も聞いているだろうが、先生の夜での言伝を一句漏らさず周知した。]
本当に、これ、使うことになるなんてな。
精々宴会芸が限度だろなんて、思ってたのに。
こんなことになるなんてな。
[もらい物や中古で手に入れたバットや物干し竿ではなく、ちゃんとした、この長い棒。自分の初任給で買った大事な一本。これが活躍するのは自分の妄想の中で、それ以上はないと確信していたものだ。]
手が、手が―。
[ビデオの内容がフラッシュバックされていく。同時に、普段なら考えも及ばぬような尾ひれが付いた妄想がすさまじい勢いで流れていく。
死、死体、屍鬼、その二度目の死。自分。そして見た目は村の仲間を明日はきっと―。
今夜、仲間内で何人眠る事が出来ただろうか。]**
―クレオール→屋敷―
[彼の食事は無事に終わり、二人で店を出た。
食事を終えた後の紫苑は美しく見える。
月明かりに浮かぶ彼の姿が、眩しくすら映る。
うっとりと見惚れていたい衝動とは裏腹に、先ほど感じた不安が過ぎる。事が上手く運びすぎてると、不安になるものか?いや、それだけでは無いだろう。根拠は無いが、動かなければならない……そう思った]
紫苑、少しだけ付き合って。明朝日が昇る前から動きたいの。少し仮眠を取ってから動くつもりだから、先に"人形"を屋敷に集めておきたいのよ。
今、この時間なら、家から抜け出してても他の人には気付かれないでしょ?良いかしら?
[彼が拒まなければ、4〜5軒程回って"人形"を呼び出し屋敷へとを連れ帰る。屋敷の居間に"人形"を待機させ、寛ぐ紫苑の傍で仮眠を*取っただろう*]
― 早朝・神社 ―
[早朝から若者、年寄り、様々な年代の人が集まっている。
まずは神主によるお祓いをし、若者には主に杭を、そして事情を知らない人には消毒の道具を持ってもらう。
そして全員にお守りをつけてもらった。]
まずは空き家を中心に消毒するぞ。
人がいるとろころは簡単に水回りを中心に消毒してもらえばいいが、空き家は床下、屋根裏、押入れなど徹底的にな。
まずは見つけたらすぐにみんなを集めろ。
ビデオを見てない奴らに説明する。
昨日集まってた奴らは作業を続けてくれ。
[二手に分かれて空き家を消毒するということで皆が出かけていった]
[炊き出しで残った女性たちに話をする]
万が一を考えてひとりで行動はしないでくれ。
多分杭が追加で届くと思うから、その都度お祓いしてもらって。
[昨日集まった若者の身内など、事情を知る者もいる。
その者に、事情を知らない人への説明を頼む。]
― 空き家 ―
[普通の空き家とちがい厳重に板が打ち付けてある家を見つけ、若者が乗り込む。
…――やがて。]
「見つけた!!」
[という声と共に引き摺り出される人…]
「なんでこんなところに人が」
[疑問の声が上がるが、男が説明する]
これは、人じゃない。屍鬼だ。
その証拠に触ってみろ。異様に冷たいし、脈もない。
[事情を知らない人が触って本当だ!!と騒ぎ出す]
この夏の異常な死人の多さの原因だよ。
こいつらが人を襲っている。
[口をこじ開け“牙”を見せる。]
ほら、この牙で人の血を吸うんだ。そうやってこいつらは生きている。
こいつらが生きている限り人間は襲われ、死んでいく。
やがて村が滅びる。
村を救うにはこいつらを一人残らず始末するしかない。
[村が滅びるという言葉に長老連も屍鬼狩りに参加希望する者もいた]
こいつらを始末するにはこうするしかない。
[男は若者に杭を鳩尾より少し上に当てるよう指示。
そして、槌で杭を打ち込んだ]
「そこまでする必要があるのか?薬でなんとかならんのか」
「それじゃ効かないんだ!俺はビデオを見た。ちょっと切ったくらいじゃすぐに傷が塞がっちまう。薬も効かない。
こうするしか打つ手がないのを見た!」
[昨日ビデオを見た若者が主張する]
―丑三つ時・屋敷→村内―
[数名の人形をを連れ屋敷を後にした。本当なら、早朝辺りが白む頃から動くつもりだったが、この時間に目が覚めてしまったから。
動くなら早いに越したことはないか……
そう思い、月明かりの薄暗さの中へ。この時間なら"僕"も動けるだろう、村を回りながら"僕"を見掛けたなら、村の様子の話を聞き、いつもに比べて"閉ざされた家"が多くて"食事"がしにくい話を聞いただろう。胸騒ぎの元、その"僕"に紫苑へと知らせに行かせる]
これが…本当の目的だ。
[静かに宣言した。勿論皆が納得したわけではない。]
「おれはこんなことはしたくない。
もし俺の息子がこの状態になってたら…俺は息子に杭は打てない」
だったら普通の消毒で普通の家を回ってくれ。
終わった家には庭か玄関脇でいいから杭を目印で打ち込んでくれ。
[表向きの消毒にも…意味はある]
[男は“作業”の合間に語りだす]
大元は境地蔵が壊されていたところから屍鬼が入り込む
余地を生んだんだろうな。
そして兼正に人が入ってから病人、死人が劇的に増えた。
俺も大田爺を見つけなかったら原因が分からなかっただろうさ。
だから神社でお祓いした杭を目印、かつお守りにして打ち込む。
とにかく屍鬼を一人残らず始末しないと駄目だ。
そして親玉は…
[男は兼正の屋敷を睨みつけた]
そう、貴方達はここに居なさい。合図は"寺で火の手が上がったら"それが見えたら"ここを破壊する事"良いわね。
[自分の狙いは【ライフライン】の掌握、破壊。こんな田舎でもライフラインが止まれば、混乱は避けられないだろう。
電気、ガス、水道。それぞれに詳しい"人形"を配置し、指示をしていく。全ての配置が済む頃には、空が白み*始めていた*]
「そういや、ここに来る前に寺で小火騒ぎがあってね。
みんなが神社に向かうところで人手があったからすぐに消し止めたんだけどさ」
[そんな話が聞こえてきた。]
[自分は人間だ。ライフラインが止まれば、自分も命を保つ為の食事や水分を取ることが出来なくなる。
それは解っている。しかし、彼ら"屍鬼"達には関係無い。夜に明かりが灯らなくても動ける、"食事"は都会から人間を間引いて来れば済むだけの話、水分補給すら必要無い。
しかしライフラインの破壊はあくまでも【最終手段】
表向きは普通の村としての生活感を出すためには、完全に止めてはならないもの。これらを破壊する様な事態に、陥らなければいいのだけど、と思っていた]
[始まる屍鬼狩。
まだ自分は、気が付いていない
ライフラインを破壊する刻限が、直ぐ其処まで迫っていることを――]
――丑三つ時――
[日暮れ時、そして夜。外を歩く人影が減り村は奇妙な静けさに包まれていた。
まるで何かに備え、怯えるように。
医師の説明に全ての者が納得したわけでもない。話も末端になれば、昨夜の喫茶店の主のように軽視する者もあった。
同じ人の姿の者を狩ることに全ての者が応じられるわけもない。
しかし、狩りを拒んだ者――非現実を受け止め切れなかった者もまた、何がしかの空気を感じていたのだろう。
堅く扉を閉ざして、自然、出歩くことを避けた。
そして今――その静けさとは反対に、村には人影が増えていた。
しかし、彼らもまた、不穏な空気に怯えていた。
怯える――そう、ただ人を食事とするイキモノであるというだけで、決して無敵の怪物ではないのだから。
どれだけそれが恐ろしくても、昼にはただの屍になるしかないのだから]
― 休憩時 ―
[神社に戻ると電気、水道、電話が繋がらないとい話を聞く]
田辺くん、遠藤くん、君たち、水道修理できるよね。
できるだけでいいから修理に回ってくれないか?
破壊されているということは“破壊した奴”がいるかもしれない。奴らは吸血時に催眠をかけるから。
修理以外に見張りも付いて行って。
電話は使わなくていいようになるべく人を神社に集めよう。
電気が使えなくて杭が作れないなら人海戦術で作るんだ。
[指示をあたえていく]
[向こうが無防備な時に襲うのかという声がすれば]
奴らは夜動く。
こっちが無防備に寝ているときに襲って殺して行ったんだぞ。
むしろこっちは防衛しているんだ。
共存はあり得ない。
屍鬼がいる限り、この村は平和にならない。
[この言葉で表向きの抗議の声はなくなった]
[>>26僕の報告を受けて、喫茶店での客の態度と聞いた話を思い出す]
(思いの外、あの医者、仕事が早い。
……あれを出すか)
[銃の携帯の許されない日本でのこと、大した数は用意できていないが、堂々と伽耶が許可を得て所持している猟銃が二丁、拳銃もいくつか用意がされていた。
そして武器はもう一つ。"人形"。その最大の武器は生きたこの村の人間であるということ。場合によっては銃よりも強力な武器。
躊躇いもなく見知った人間に攻撃できる者は少ない。だが、"人形"の方に躊躇いは――ない。
目立ち過ぎぬよう、日中の彼らの駆使は避けてきたが、既に気づかれているのであれば、躊躇う必要はない。
もし、村がそんな素振りを見せる事があればその時は――]
[神社で、桜子を見かける。今の状況は彼女の目にどう映っているだろうか]
桜子ちゃん。認めたくないだろうが…これが現実だ。
でも、これが終わればまたいつもの日常に戻るはずだ。
[男は踵を返し、村の世話役たちのもとに向かって行った]
−支倉製材所−
え……何してる、の?
[外が賑やかなのは、「消毒」のためだと思っていたのに。
様子が変わって来たのは、日が高く昇った頃合い。
わたしは、家の前を通り過ぎる声に、何気なく外を覗く。だが、腕を振り回し、のたうつように走るその男性の様子は、どこか異常で]
[だが、もっとおかしかったのは、それを追う人々。手に手に持つのは、今まさにこの製材所で作られている木杭だった。
人々は男性に追い付き、引き倒し、そして……]
いやぁぁ! やめて!!
[身の毛のよだつ、という表現が相応しい悲鳴があがり、わたしは両手で顔を覆った]
い……いやっ、いや! ひぃ、ひとごろし!
お父さん! お父さん! お父さん!
[納得の行く「理由」を考えた。
考えて、考えて、でも、どれもどこかおかしかった]
[外へ飛び出して行ったお父さんが戻って来て、まだしゃがみこんだままの、わたしの前に立った]
あ、あの男性が「動いていた」か?
どうしてそんなことを聞くのお父さん。
見たよ、わたし。叫んで、逃げてる男性を、追ってる人たちが捕まえて……酷いことを。
[そして、わたしは聞いたのだった]
元から死んでた……?
どういうこと、お父さん。死んでる人が逃げるわけないじゃない。
わたし、見たのよ。
……え。
その人は、昨日お棺に入れて埋めたハズ……じゃ。
−神社−
元に戻れる?
[だから、先生の言葉は、わたしには救いの糸のように思えた]
本当?
皆、元通りになる?
おかしくなっちゃった人も、村も…全部?
[先生を見送り、わたしはポケットに押し込んだ、お守りの片方のことを思った]
変なことが全部終わったら……言えるかな。
終わらせなきゃ……。
早く戻らなきゃ……。
[わたしは、安置されていた杭のひとつを、手にとった]
[傍らの女が何を思うか、それは知らない。
人間を喰らうこと、傍に人間を留めおくこと。矛盾する二つの事柄を全く別々に飲み込んでいる。
彼は、彼女が違う生き物であることを受け止めながら愛でている。
であるならば――彼女もまたそうであろうと。
時折、彼女が寂しさを滲ませることを意識のどこかでは見つけているのだろう。
だが、言葉にも思考にも明瞭にのぼることはない。
何かを避けているかのように。
食事が終われば。人を喰らう鬼が奥に潜んで、ただこの夜の世界を愛する夢が戻る。
ぐるりと店を見渡せば、BGMの色も変わる。
太陽に怯えて、夜に隠れて生きる世界の冷たさは、静けさは、月の世界。
月に酔うのも悪くはない]
なかなか……いい店だ。
伽耶、ここが屍鬼の村になったら、俺たちの時間にまたデートしよう。
―山入―
[屍鬼狩りが始まった外場村の片隅。屍鬼の拠点と化している場所、山入。日が昇り、再び沈んだ頃――男は、目を覚ました。覚める筈のなかった眠りから、覚めた]
……、
[ぼうっと、天井を見つめる。壁や床に視線を向ける。
まだ夢の中にいるかのようだった。此処は何処だろう。まず考えたのはその事だった。自分は何故此処にいるのだろう。自分は、一体何をしていたのだろうか。
記憶が混然としていた。医院。例の患者。兼正。家。母。瞳の捜索。夜道。様々な光景が、モザイク模様のように散り散りに寄せ集まって頭に浮かび上がっていった。
少しずつ、思い出す。確か自分は医院にいて、瞳の捜索に参加して、夜道を帰り歩いていた。それから、……それから?]
……
[それから、一体どうなったのだろう]
――道端――
["消毒"にまわる者たち。
人の姿をしたものを引きずり出し、杭を打つ、そんな作業を繰り返していれば肉体も精神も磨耗してくる。
集団が乱れてふと、ある一人の村人が仲間との距離が開いていることに気がついた。
だが、知覚した時にはもう遅く――唐突にそれは起こった。
ずぶり。包丁が、胸に深々と刺さるのを呆然と見下ろす。
刺された方も、そして刺した者もまた呆然としている。
虚ろな目で自分が何をしたのかも理解していない。
屍鬼――ではない。
その顔は村で多く死んだもののそれによく似ていた]
[屍鬼が人間を狩れば、人間が反撃をするのは当然のこと。
ならば、人間が屍鬼を狩れば反撃をするのもまた当然のこと。
生きる為の戦い――どちらにとっても。
放たれた"人形"はただ、武器を与えられ、殺せそうな人間を見つけたら殺すことだけを命じられて。
虚ろに徘徊を繰り返す。
流れを押し留める力には到底足りるものではないだろうが。
多少は、村人の力を削ぐものにはなろう]
[ふわりと笑う微笑みだけが、本当は彼の本質なのかもしれない。
月明かりの下で堂々と笑う。
彼が求めているのはただその一つだけなのかもしれない]
(分かっている)
[本当は――本当は――
とても弱い。無防備に眠る昼に人に捕まれば、もう助かる術は残されていない。
人間を喰らう癖に、恐らくは人間より弱いのだ。
不完全な、ひどく脆いイキモノ。
彼が伽耶を生かしているように、伽耶もまた彼を生かしている。
起きた時、彼女が消えているのではないか? 本当はその逆があり得るのを知っている。
"だから"彼は冷酷に人を殺して]
[意識がはっきりしてくるにつれて、強い不安が胸の奥から湧き上がってきた。この場所について、己の置かれた状況について、わからないという事が、恐ろしかった。何か、大切な事を忘れてしまっているような気がした。
改めて周囲を見渡す。窓や照明はなかったが、視界は何故だか薄明るく見えた。見覚えのない場所だった。何処か小部屋に入れられているらしかった。牢屋のようでもある造りだった。
ぐっと、床に手をついて体を起こし、座り込んで]
……、……!
……
[すみません。誰か、いませんか。不安に駆られてそう叫ぼうとしたが、声にならなかった。眉を寄せ、喉を押さえて]
― 神社 ―
[そろそろ暗くなるから神社を拠点に動こうということになり、集会所などが開放される。]
兼正は明日の朝早くに行けばいいな。
[すると、若者たちが一人の男を捕まえて戻ってくる]
「こいつ、仲間を刺しやがった!でも人間なんだ。脈がある」
それは催眠をかけられた人間だろう。
どこか神社の敷地で逃げ出せない場所に監禁しておけばいずれ正気に戻る
[世話役の大川が異を唱える]
「先生!こいつらは奴らの手下だ、容赦しちゃならんのじゃないか」
だが、こいつは生きてる。コイツに手を下したらそれは殺人だ。
[大川は不承不承ながら承知した]
[フラフラとこちらに向かう人がいた]
「お前、どこいってたんだ」
[大川が言うのも聞かず、フラフラと男のほうに向かい銃口を向けた]
―――…バァン!!
[男は咄嗟に身を低くしたが、隣にいた女性に当たり倒れた。それを見た大川が逆上し]
「そいつは屍鬼の手下だ!捕まえろ!!」
[近くの男達が取り押さえ大川が杭を取り、発泡した男に杭を打つ]
大川さん!!
「先生、敵に容赦しちゃ…駄目なんだよ!」
[大川の血走った目を見て、男は何も言い返せなかった]
[何故声が出ないのか、すぐにはわからなかった。叫んで人を呼ぶのはひとまず諦め、立ち上がった。扉を開けようと試みたが、鍵がかけられているようだった。扉のある壁は一面が格子状になっていた。木製のそれを掴み、がたがたと揺らす。
誰かがいるならば、気が付いてくれるように。誰かがいるように。そう祈りながら音を立て続けた。
すると、離れた場所から足音が聞こえ、やがて一人の青年が姿を現した。村人のように見えたが、詳しく知る者ではなかった]
「ああ、おはようございます。
どうですか、気分は?
起き上がり、おめでとうございます。……って言っても、あんまめでたい状況じゃないですけどね、今は」
[青年は室内の男を覗き込みながら、軽い口調で喋りかけてきた。此処は何処なのか、と尋ねようとしたが、やはり声が出せなかった。そして次の瞬間、それに気が付いた]
……、
[起き上がり。青年は確かにその単語を口にした。
一体何の話をしているのか。一瞬思考が止まりかけたが、確かに理解してしまえる己がいた]
[起き上がり。死者が起き上がり、生者を引いていく。昔嫌という程聞いた話だ。本当に起こりなどしない――
否、そう思い込んでいた、ものだ]
[箱を倒して中身をぶち撒けたかのように、様々な事が一気に思い出された。起き上がりは、本当にいた。兼正の住人は起き上がりで、それが全ての異変の原因だった。自分は襲われた。襲撃者の命令を従順に聞く傀儡となった。
自分は此処に――此処が何処なのかは、死に掛ける中でろくに見ていなかったせいだろう、まだわからなかった――連れて来られて、死んだ。そう、確かに、死んだのだ。それでも、自分は此処でこうして存在し、思考している。自分は、]
[自分は、起き上がった、のだ]
……!
[息が詰まった、ように思った。其処で、詰まる息のない事に気が付いた。声がうまく出せなかった原因に、ようやく思い至った。首を、胸元を、焦燥して探る。脈も熱も、何処からも感じ取れなかった]
……あ、……あ……
……どう、……し、て……
[呼吸について自覚したからだろう、今度は声を出す事が出来た。掠れた、弱々しいものではあったが]
「……まあ、最初は誰だって動揺しますよ。
死んだと思ったら、こんな身で蘇っちゃうんですからね。
あ、ちなみに、起き上がりは今は屍鬼って呼ばれてます」
[同情はするが仕方がない、という態度で青年は言った。男は愕然と己の掌を見つめたまま、その場にへたり込み]
「……で、俺、見張りなんで。
食事をさせるまでは出すなって言われてるんですよね」
[そう言いながら指差される方、部屋の片隅を、恐る恐る見遣る。其処には、今までは茫洋と不安と衝撃のせいで気が付かなかったものが、毛布に包まれた人影が、あった。心臓が高く脈打つような錯覚がした。震える拳を握り締めて、青年を*見つめ*]
……これ……は、……
「見ての通り、人間ですよ。
他所から連れてきましたから……情も少なくて済むでしょう。
屍鬼は血を吸うって、知ってますよね?
貴方にも、生えてきてる筈ですよ、牙」
[毛布に包まれた姿を見る。見知らぬ若い女らしかった。
口内を舌で探ると、確かに尖った感触があった]
……そんな、事……
出来ません、出来るわけがない……
[震える声で零す。見知らぬとはいえ人間の血を吸うなど、出来ようとは思えなかった。更には、女は随分と衰弱していた。もう一度血を吸われれば、恐らくは死んでしまうだろう]
「別にいいんですけどね。貴方が出られないだけですから。
……どうせ、耐えられないでしょうし」
[呟いて、青年は何処かへ去っていった。
呟かれた言葉の意味は、すぐに思い知る事になった]
―村内→寺―
[空が白み始めてきた頃、クレオールのマスターの話から、これ位の時間になれば寺には朝のお勤めに人が集まってる頃だろう……と思い、寺に足を運ぶ。
目的は、寺に関わる人間と親密度を上げる事。自分が再び寺を訪れても、誰も不振に思わないようにする為……の筈だった]
[寺に向かう石段をゆっくり登っていくと、境内の方から聞こえる怒鳴り声に我が耳を疑う]
「小火が出たぞー誰か消火に回ってくれー!」
[足を止め、振り返えり村を見渡す。
"人形"達は、言われた指示は必ずこなす、しかし自分で考える思考能力は失われるため、融通が利かない。
あの小火を"合図"として受け止めたのは明白だろう]
(タイミングが悪すぎる……)
[夕闇に紛れてライフラインを破壊し、暗闇の中で絶望を植えつけようとした計画は脆くも崩れ去った。
こんな明け方から何か有れば、他の人間達によって対策が施されるだろう……]
――夕刻、屋敷・隠し部屋――
[目覚めた時、そこがいつもの"寝室"ではないことに気づく。
背に当たるのは棺の硬い感触ではなくて。柔らかく沈むクッションの――上質なソファーの上。
目を開けると同時に視界に入るのは、疲れを滲ませた伽耶の顔。
村で異変があったのだということは容易に知れた]
伽耶……何があった?
[彼女に身を預けたまま、見上げたその頬をそっと撫でる。
長すぎる生に飽いた――そう何度も思ったはずだというのに、安心する自分がいる。
今はまだここに存在できている。
まだ夢が続いて――いる]
……う、……あ……
嗚呼、あああ……
っ、……ぐ、……!
[床に這い蹲り、呻く。爪でがりがりと床を引っ掻き、身を捩る。青年が去ってからそう経たないうちに、それは襲ってきた。――餓え。今までついぞ味わった事のない、あまりに強大な、絶対的な、飢餓感。ぎり、と歯を食い縛る。強く強く、拳を握る。
だがどうしようとその苦しみが紛らわされる事はなかった。これを解消する手段は一つしかないのだと、わかっていた。
部屋の片隅の女を見る。餌として用意された女。血を吸ってなどならない。殺してなどならない。それは理に背く行為だ。だが。生命の理に逆らってしまった屍鬼が、守らなくてはならない、守る事の出来る理など、あるのだろうか?
失った理を、守る事など、出来るのだろうか]
……、……
[わからない。
理はあるのか。罪と罰はあるのか。
わからない。
一瞬、その全てが、どうでもよくなった。
ただ――お腹が、空いた]
―寺→屋敷―
[下唇をぎゅっと噛み締める。自身の運の無さを呪いつつ、寺には向かわず今登って来た石段を降りていく。
その際、神社の方へ人が集団で移動して行くのがチラリと見えた。
こんな時間から、寺ではなく神社――
嫌な予感がする。夜中に遭遇した"僕"は紫苑にちゃんと伝えただろうか?
居ても立っても居られず、走り出すように屋敷へと*向かった*]
[気が付けば、その首筋に牙を突き立てていた。血を啜る。肉の脂のような甘みを感じた。餓えが癒されていくのがわかった。代わりに何かを失ってしまったような、気がした。だがそれも今はどうでもよかった。ただ身を満たす事しか考えられなかった]
……
[女は解放するとそのまま動かなくなった。死んでしまった。殺してしまった。頭の片隅に追いやられていた罪悪感と後悔が、滲み出るように生じてきた。頭を抱え、その場に蹲り]
……嗚呼、……
[嗚咽にも似た声を漏らす。やがて再び訪れた青年によって、男は外へと出された。視界が青褪めて明瞭だった。此処が山入である事を知った。其処此処から話し声が聞こえてきた。死んだ筈の人々が、辺りを歩いていた。山入は、屍鬼の住処と化していたのだ]
[それから、男は先達の屍鬼に様々な事を聞かされた。屍鬼の特性、現状、村が屍鬼狩りを始めたという事。その主導者だという高瀬の顔を思い浮かべ、目を伏せた。
どうして、こうなってしまったのだろう。そんな事を考え続けながら、男は他の数人の屍鬼と共に、山入を*後にした*]
――夜、クレオール――
[満足行くまで、食事を楽しんで。
ぼうとした目でこちらを見やる大男に、一連の襲撃などなかったかのように再びにこやかな物腰で話しかける]
ごちそうさま。なかなか、美味しかったですよ。
"ほとぼりが覚めた頃"に深夜の営業をして下さると、嬉しいです。
後ほど引越しの手配をさせますから。とりあえずは一度そちらの方に。
いいですか、あなたは引越し屋を名乗る者が来たら、その者を招き入れ、言われる通りに引越しをします。
表向きには、店を閉めて国に帰ることにでもして下さい。
―寺→屋敷―
[既に日は昇りきり、じわりと暑さが滲む中屋敷へと駆ける。回りの景色は目に入らない、誰かに自分の姿を見られていたかもしれないが、それすら気付かないままに。
ようやく屋敷へと続く坂道まで辿り着く。息は上がりもう走る事は出来なかった。
坂を上りながら、歪む景色。眩暈を起こしその場にへたり込んだ。連日の睡眠不足から来ているのは間違いない。自分の弱さを呪う]
(早く、行かなければ……)
[下唇の内側を、血が滲む程強く噛み締めた。
痛みと共に口の中に広がる鉄が錆びたような味……
気力を振り絞り立ち上がると、再び屋敷へ向かって歩き始めた]
―屋敷―
[通用口から敷地内へ入り、屋敷を見上げる。
正面2階部分に有る見晴らしの良い居間や、自分の部屋の辺りの鎧戸は開いているが、紫苑達がいつも寝ている1階部分の部屋や廊下の鎧戸は全て閉まっているのを見て、少しだけ安堵する。
が、しかし……。あの神社へと向かう集団の事を思うと得体の知れない不安が込み上げてくる。
人という生き物が、集団で動く時、それは何かを行う時。昨夜の"僕"の報告。今ここにあの集団が来たら――
早鐘を打つかの如く、心臓の鼓動が早くなる。息苦しさに顔を歪めながら、屋敷の中へと消えていった]
─夕暮れ時─
……おばさん?
神威さんのおばさん!
[神社からの帰り道、人を探している風なおばさんを見かける]
え? 神威さんが今朝から出かけたまま戻らない?
病院にもいなくて?
神威さんは……先生の補佐みたいな人だから、先生の指示で何かをしてるの……かもですけど。
いいえ、集会には出てなかったです。いたら解ります。
……もう、日も暮れるし、おばさんは家に戻った方がいいと思います。
ひとりでいるのが心配なら、神社に行くといいかも。何人か、泊まりこむ人もいるみたいですし……。
わたし、先生に会ったら、神威さんのことを聞いておきます。
――夜――
[村の電気はまだ復旧しない。蝋燭や懐中電灯、篝火が用意されたが、それでも村の夜は暗い。
村は不安に包まれていた。
日中、村のあちらこちらで、神社で襲い掛かってきたのは人間。それを村は――殺してしまった。
狂気が少しずつ、村の空気を濁らせていた。
例え、屍鬼を全て殺したとしても村は果たして――?]
― 神社 ―
[明日の段取りを話し合う]
とりあえず明日の朝一に兼正に行こう。
どんな手段を使っても中に入るんだ。
[桜子が来たら話をしたかもしれない]
―屋敷―
[屋敷へ入ると、厳重に鍵を閉める。
電気を点けようとしたが点かない。やはりあの小火で"人形"達が動いたのだと確認出来た。しかし、タイミングは悪すぎる。手探りで1階を移動し、発電室へと辿り着く自家発電に切り替えると、必要最小限の電気のスイッチだけ入れて彼の部屋へと向かった。
いつもと同じ静寂の中、いつもと同じように蓋の閉まった棺が有った。そっと近寄りゆっくりと蓋を開ける……。
完全な"死体"と化し、安らかに眠る彼の顔を見てほっと胸を撫で下ろした。しかし、非力な自分の力ではとてもではないけど抱えて行くのは不可能だ。人形達も居ない。
一旦棺を離れると、彼のクローゼットを開ける。彼のお気に入りの洋服がズラリと並ぶ、大きなウオークインクローゼットの奥から出してきたのは車椅子だった]
―村中―
[男は数人の屍鬼と山を降りて移動し出した。闇に乗じて人々を襲い、また情報を流し合って、屍鬼狩りに対抗するために。――だが、男は途中でその集まりを抜け出した。屍鬼として村を襲う手伝いをする気になど、なれなかったからだ。
己は間違いなく屍鬼となったのだと知っていながら。屍鬼を倒す村人となる事など、屍鬼を倒して元の生活に戻る事など出来ないのだと、知っていながら。
男は村中を潜みながら進んだ。死体となっているのを確認されていない、行方不明扱いになっているだろう身故に、他の死を看取られた屍鬼よりは大胆に。されど堂々とはいかずに]
……
[闇の中を駆ける。幾ら走っても苦しくならなかった。
走りながら、男は周囲の光景を見、また考えていた。顔見知りの村人達が暴動に走る様は、恐ろしかった。杭や槌やから想像される苦痛と二度目の死も、恐ろしかった。己が異形になってしまった事が、人を殺めたという事が、恐ろしかった。
幾多の恐怖と悲しみが胸を占めていた。走り続けたのは、それらから逃げたかったからなのかもしれない。こうなった以上、その全てから逃げられないと決まっているのに。心中で呟いて、自嘲した]
─村中─
[諦めるタイミングが遅かった。わたしは不安にさいなまれながら、帰途を走る。
たいまつで照らされる人の顔は、いつもと違って、一瞬誰か解らない。誰もかれもが「よそもの」に見える]
大丈夫、急いで帰れば大丈夫……。
[昨夜のことを思い出すと、膝が震えそうになる。建物の影ごとに、あの人が潜んでいそうな気がする]
―村中―
[男はとある場所に行こうかと考えていた。神社。村人達が拠点としているらしい場所だ。考えるだけで、胸がざわざわと騒いだ。想像するだけでも、生前には神聖さや安らぎを覚えていた筈のその場所から、不穏な気配を感じた。先達に教えられた通りだった。入る事は、不可能ではないかもしれない。だがあまり奥に行ったり長居をしたりは出来ないだろう。危険なのは確実だった。
そんな場所にあえて行こうなどと考える理由は、高瀬に会うためだった。屍鬼となった事を知られたくないという思いはあった。狩りの主導者だという恐ろしさもあった。それでも、どうせ逃れられないのなら。どちらの道を選ぼうと、終わりに待つものが同じなら――]
……、
[結局、一番の理由は、単純に会いたいからというものなのかもしれないが。そう考えては、眉を下げて笑った。同僚達や、ハルや、母や――幾つもの姿を思い出し]
……っ、
[足を竦ませた。神社に辿り着いたからではない。その様はまだ全く見えなかった。思い浮かべた姿の一つが、視界に入ったからだ。闇の中、立ち止まった男に、その姿は、桜子は気が付いただろうか]
[ヘッドサポート付きの車椅子を棺の横へと着けると、棺の中から彼を抱き起こす。
体力的にも限界が近いが、最後の力を振り絞るが如く、ゆっくりと棺から引きずり上げ、なんとか車椅子へと移動する事が出来た。
向かうは再び発電室。車椅子を押しながら、一瞬須藤の事も頭を過ぎったが、もう其処まで手を回す余裕は無かった。
とにかく早く、安全な場所へ……。逸る気持ちを抑えながら、発電室の奥に有る隠しエレベータを使って屋敷地下に有る隠し部屋まで辿り着くことが出来た。
ダウンライトが幾つか灯る、薄暗さは有るものの雰囲気の有る良い部屋。上質なソファーに小さなテーブルが一つ。
念には念を入れ、エレベーターのスイッチの蓋を開け、エレベーターの電源を落とした。]
[屍鬼と変えられた村の者たち。命令に逆らえば――制裁が待っている。
自らの意思で嬉々として従っている者もあれば、仕方なく従う者もいる。
新しく屍鬼となったばかりの者の動向には特に気を配るよう、"忠誠心"の強い者を中心に厳命してあった。
何かあれば、責任を持つ者が罰を受けることになる。
新入りの姿を見失ったとあれば、血眼に探すことだろう。
人間を見つければ襲い、さらに"それ"に人間を襲わせる。
それとは別に、高瀬は最優先で襲うよう命令が出されている]
……?!
[ふと、わたしの足が止まった。
背の高い……男の人。わたしはとっさに、「よそもの」が追いかけてきたという恐怖に襲われる。小さな手下げに隠した木杭に手を伸ばす。
……でも]
……ぁっ……。
神威さん? 神威さん!!
[わたしはほっとして力を抜いた]
神威さんも「狩り」に参加してたんですか?
……こんな時間まで。お昼も食べてないんじゃないですか?
おばさんが心配してましたよ。
早く戻るか……神社に行ったらいいと思います。おばさんにもそう勧めましたし。
[ようやく少し落ち着き、ゆっくりと部屋を見渡す。
部屋の隅には小さな冷蔵庫。その横には二丁の猟銃。
これは自分の物だ。引っ越して来た時に、自分でここに置くよう指示した物。だったら、冷蔵庫の中には冷えた水が入ってる筈。猟銃も手入れは出来ている。
それらが視界に入った瞬間、思い出す喉の渇きと血の味。
冷蔵庫から冷えたグラスと水の入ったピッチャーを取り出し、グラスに注ぐ。ゆっくりとグラスの水を飲み干し、人心地ついた。
ふっと彼の方を見やる。彼も"食事"をする時はこんな感覚があるのだろうか……?]
[桜子に、会えて嬉しいという気持ちはあった。だがやはり同時に、会ってしまったという感覚もあった。己は死んでしまっている。桜子はまだ生きている。生と死の狭間を、強く感じた]
……桜子ちゃん。
[ぽつりと、名前を呼び返し]
今晩は。……いや、私は……
ちょっと、別に様子を探っていたんだ。
……母さん、……そうだね、心配しているだろうね。
[生者であるように装って、言葉を返す。母について触れられれば、一瞬、寂しそうな目をしながらも]
神社に……先生は、今も神社にいるのかな?
……先生にも、暫く会えていなくて。
あ、やだ。……わたしったら、挨拶もしないで。
今晩は!
[わたしは、ぺこりと頭を下げた]
[仮にも、わたしは村の棺桶製作を一手に背負っている家の娘だ。どこで誰の葬儀があったか、あるかは把握している。
製材所で、神威さんの名前を聞いたことはない。聞いたらすぐに解る。
だから、わたしは神威さんを一片も疑っていなかった]
そうなんですか……何か危険なことをしてたんですね。
……ごめんなさい、わたし……。
本当に今日の今日まで、何一つ信じてなくて、自分の今までを守るのに必死で……。
でも、今は少し、解りましたから!
わたし、協力します。
[神威さんは、先生のことを聞く。何か報告でもあるのだろうか]
神社を拠点に動いてらっしゃるみたいなので、いる可能性は高いと思います。
でも、はっきりとは……。
[わたしはわたしを守ってくれる家に帰りたかった。
でも、そこへ行くまでの暗闇も、「今わたしは家にいない」という事実と同じくらい怖かった]
神威さん、一緒に神社、行きます?
―屋敷・隠し部屋―
[グラスに再び水を入れると、水の半分残ったピッチャーを再び冷蔵庫に入れ、グラスはテーブルに置いた。
車椅子の所まで戻ると、そっと紫苑の頬に触れる。冷たい、"死体"の感触。夜の間に動いて居るのが不思議な位、それは本当に"死体"でしかなくて。
しかし自分にとってはそんな事はどうでもいい事だった。
彼が声をかけてくれる、優しく笑いかけてくれる。
それが全て。
確かにここに居る、"存在している"
"死んだ時間"から連れ出してくれた、"自分の生きた証"
彼を車椅子からソファーへと移すと、自分も彼の横に座る。しかし"眠っている"時の彼は酷く不安定で。
ゆっくりと彼の体を傾け、膝枕をする。暫し彼の顔を眺めていたが、安堵と共に意識は闇へ――]
……いや。私だって、大した事はしていないよ。
屍鬼の話も、なかなか信じられなかったし……
とにかく、これからを頑張らないとね。
桜子ちゃんには、無理をしないで欲しいけれど……
[そう言ったのは、本音だった。桜子が凄惨な光景を見たり、あまつさえ己の手を汚したりするというところは、想像したくなかった。少なくとも前者は、もう手遅れなのだろうが]
そっか。……
うん、行こうとしていたんだけれど……
[口ごもる。実際に神社に向かおうとしていたところではあったが、改めて確認されると、やはり躊躇われるものがあった。とはいえ不自然な態度をして悟られるわけにもいかず]
……そうだね。まだ少しやる事があるから……
近くまでしか行けないかもしれないけれど。
[曖昧な肯定を返す。会う事は叶わずとも、せめて伝言が出来たならいい。そんな事を、考えて]
[気遣い>>68が嬉しかった。でも、わたしは静かに首を振った]
今は無理をする時だって、解ったんです。
今さえ、頑張れば、早く元に戻れる時なんだって。
[手下げに思いを馳せる。人を刺したことなんてない。たぶんすごく力がいる作業だろうとは思う。自分に出来るかどうかは解らない。腕力的なことだけじゃなくて、性格的なものでも……。
それでも、わたしは無防備ではない、と思うことは、わたしに力をくれた]
……よかった!
本当は心細かったんです。
[わたしは、愚かにも神威さんの微妙な話ぶりには気付かなかった。
ただ、この状況なら寄り添って歩いても不自然ではない、ということが、不謹慎ながらも嬉しかった]
行きましょう。
[わたしは神威さんの傍に駆け寄り、……一瞬ためらった後、その袖を握った]
―夕刻、屋敷・隠し部屋―
>>*8
[どれ位眠っていたのかは分からない。
不意に彼の声が耳に届き、目を開けた。視界に入ってきたのは普段なら見る事の無い、"安堵の表情"を浮かべた紫苑。
問いかけつつ、彼が自分の頬をそっと撫でた。
その手に自分の手をそっと重ねる]
貴方から借りた"人形"達を使って、ライフラインを夜になったら止めてやろうと思ったのに、アクシデントが有って失敗してしまったの。いえ、ライフラインの破壊は成功はしてるのだけれども、早朝では手を打たれてる可能性が高い……。
あと、村人が"神社"に集団で向かってるのを見たの。何か有るかもしれない……。
[説明を入れながら、彼をこの部屋まで連れてきた経緯を簡潔に伝えた]
……そう。
[力強い返事を聞けば、頷く事しか出来なかった。桜子はこの異様な状況に精一杯対応しようとしているのだろう。ならばせめて、その思いが壊れる事がないようにと祈った。
屍鬼などという存在になって、神や仏に祈るというのか。そのような思いも、頭を過ぎったが]
こんな状況だからね。
大の大人の私でも、怖いくらいだから……
なるべく、一人では出歩かない方がいいよ。
[気恥ずかしがるような表情を作りつつ、そう注意して]
うん。じゃあ、一緒に行こう。……
[手が伸ばされれば、肌の異様な冷たさに気が付かれはしないかと、ふっと緊張したが。袖を掴むのを見ればひとまずは安堵して、ゆっくりと道を歩き始めた]
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