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――、欲したりはしません。
[明らかな嘘。
短剣に滴ったアナスタシアの血はひどく甘い香を放ち、
娘の奥底の熱と渇きを鎮めさせてくれない。
それでも一度口にすれば、戻れないのではと思って]
[コン、コン]
[タイミングよく鳴らされたノックに、扉を開いた。
感情の一切を消した表情で迎え入れる]
じゃ、あとでまた持ってきましょうか。
[笑いを返しながら、水の入ったグラスをそっと置いた。
自身は入り口の扉に身をもたれかけさせて、水を口に含みながら二人の様子を伺う。
門を開いて、皆を外に――?
ユーリーの言葉に首をかしげた。何故それを、彼女に問おうとするのだろう]
血をお求めでないのなら、――何か?
[顔を上げ、静かな深碧はグレゴリーを見据えた。
手の短剣は下を向けたまま動かすことはない]
[宴が続いても、満たされる事はない。
恐らくは終わらせても、満たされはしないけれど
檻を開いて解放できたらと、心から願っている]
…。
[困ったように、僅かに目尻を下げて、置かれたグラスを持って水面を揺らした。口に含めば、甘いベルナルトの残滓が流れていってしまう]
それが私には可能だと、思うのは何故なのかしら。
残念だけど…全員が出る事は出来ないわ。
[サロンから出ると、フィグネリアの部屋へと歩き出す。…自分には武器がある、何かがあった場合に対処できるだろう。そう思って、ユーリーと別れて]
……アナスタシア、フィネグリア、グレゴリー…
[血を受けたものの名前を呟く。その誰もが、はじめは人間だったと思われて。
気付けば、その足取りは早くなっていた]
門を閉ざす「ルール」を守り定めているのは吸血鬼たる貴女――違うのですか?
[アナスタシアの示した戸惑いは本心のように見えたけれど。
少なくとも、アナスタシアは門が開かれる条件を知ってはいる。
「全員が出る事は出来ない」そう宣告するからには。]
あなたの知っていることを、教えてほしい。
わたしは、皆を逃すための解――それを見つけるための材料がほしいのです。
[両手を広げる彼を、ただ見つめるだけ。
横をすり抜けると扉を閉めた。――鍵はかけずに]
ええ、随分お若いお母様に。
あなたは……ストロガノフ様はどうして、吸血鬼に?
そう望まれた訳ではないのでしょう。
[答えがあるとは思っていない。
グレゴリーを部屋の奥へ導きながら、ぽつりと]
嗚呼、あの方に誘惑でもされましたか。
[唇の端を上げる。
その言葉は、彼にどう届くのかは分からないけれど]
[ヴェロニカに促され、フィグネリアの部屋に来る。
そこには――半ば予期した事だったが
忌まわしい存在と化した
グレゴリーの姿があった。]
―城門前―
[懐から取り出した布袋。
手の平にのせた其れと前方を交互に見比べる。
やがて目許を和ませ頷き一つ向けると
その布袋を丁寧にまた懐へとしまいこむ]
……別にいいのだけど、一つお忘れじゃないかしら。
最初の晩、貴方は髪を結い上げた私と”お話”したでしょう?私が主催だと筋が通らないのではなくて。
[ピンを抜き去る男の仕草を覚えている。あの夜女が人間だったことは間違いなくて……それが随分と滑稽なことに思えた]
――まあ。そうね。今となっては同じ事だわ。
[嘆息してユーリーの暖かい銅色の髪を見上げる]
いいわ。貴方の知りたい事、ね。
城門はただ閉ざされているだけではない。
”理”を歪める事は、城主にも出来ない――もしくは、難しい。
[低い体温で暖まらないボタンをくるりと掌の中で返した]
全員が「生きて」城を出るなら、全員が吸血鬼になればいい。
[出られないと言った口で、それをまず口にする]
だけど、それを是としない人がいるなら。
――客の中に混じる吸血鬼を滅ぼせば、門は開くそうよ。
一度知った闇の世界。
完全に戻る事は出来ないでしょうけれど
血を求めて彷徨うと言う
人ならざる衝動だけは堪えられるようになりましょう。
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