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…貴方まで?どこまで広まっているのかしら。
[くすりと。近づくフィグネリアに自ら歩み寄れはしない]
体調ならいいわよ。ご心配痛み入るわ。
…穢れた血。
[駆け引きや戯れ事に時間を割く気はないと、態度で示す。
すなわち傲然と顎を上げて、血の染みがついたシルクを指先に挟んで見せた]
汚したのは貴方であってるわよね?
[血の薫は今は香油に薄まって弱い]
…何か、言うことがあって?
―庭園―
[赤と白の斑の薔薇。
城主の指先が瑞々しいその花弁に触れた]
どちらにも染まりきらぬもの……
まつろわぬ血……
[まつろわぬ者として真っ先に思い浮かぶのは
トリスという吸血鬼ではあるが――。
城主が彼女を求めたかといえば疑念が残る]
誰に似たのかしらね。
[ふつり、とわいた感情が指先へと宿り
斑の薔薇の生気は失われてその一輪だけ枯れてしまった]
返す?
貴方が?
[果たして、女は苛立ちを顕わにした]
これの正当な持ち主に如何してお前のような――!
[女の落とす黒い影から、深く昏い闇の気配が濃密にその場へ沁み出す。
礼拝堂の暖かい灯、月の光は、ふつりと空間が切り抜かれたように途切れてかき消えた]
[怒鳴り声をあげた事を恥じるようにつと瞬く。
表情のない深い碧眼をぬばたまが射抜くように見つめた]
[手を伸ばす。古風なレースの喪服の、詰まった襟を掴もうと。
背後に礼拝堂を負うフィグネリアへと向ける動きは鈍くとも、意志だけは明瞭に]
「同じ穴の狢」。貴方もでしょう?
その血。
――夜の民の匂いがする。
[ぶつかる苛立ちと、憤りの声。
さすがの娘も瞳に驚きを浮かべ、身を強張らせる]
正当な、持ち主……?
[ではハンカチは、ユーリーのものではなく…。
先ほどまで感じていた暖かな灯火、
その気配は消え身体をぬばたまの夜が包み込んだ。
瞳を逸らせない。魅入られそうに]
[間を開けて城主は本棟四階にある自室へと戻りゆく。
何の気まぐれか自らの足でその道筋を辿った]
―居室―
[重く堅固に見える扉も城主の前では容易く開く。
部屋の中に進むと背後では扉の閉まる音]
――…ロラン
あれもまつろわぬ者であったが――…
[其れも闇へと堕ちてしまった。
最期に城主を呼び此処にあることを望んだ青年。
請わずともそうなる彼、今は小鳥の許にあるか]
――では、あなたも夜の民だと?
[襟に触れる手を払うことはない。
首筋に感じる指先には、人間とは思えぬ冷たさがあった。
ああ、と理解する。
彼女は夜の民なのだと。でも、自分とは違うのだと]
あなたは吸血鬼、ということかしら。
[ぬばたまに意志を持って視線を返す。
飲み込まれはしない。そこに恐怖の色は浮かばなかった]
[イヴァンの呼びかけに瑠璃を持ち上げる]
なぁに?
[促す言葉を掛け彼の話を聞けばふっと表情が和らぐ]
イヴァンの優しさは変わらないわね。
それがあなたの美徳なのでしょう。
ユーリーはそう易々と殺される者ではなさそうだけど
心配ならば私が彼の安否を確認しましょうか?
[抗わない娘の襟を引き、折れそうな首に冷たい指を触れさせた]
――?
[困惑に目を細める。
痕がない。
どれほど旧くても消えないだろうと思える己の傷と引き比べて。
では勘違いなのだろうか]
[数秒で、重い腕を挙げているのが辛くなって手を離した。
元の褪めて皮肉げなそれへと表情を戻し、素っ気無く返す]
どう呼ばれようが知ったことじゃないわ。
私は私。それ以外のモノになった憶えはない。
吸血鬼なんて……
皆燃えて灰になってしまえばいい。
[闇色の火花がチリ、と辺りに散って、
女が腕を組むと宵闇に歪んだ夜は元の顔を取り戻すだろう]
[小さくも鈍い音>>+4が届き城主は柳眉を寄せる]
――…物にあたってはダメよ。
あなたが痛いのも、私はイヤだから。
[イヴァンは人から眷属へとなったとはいえ
全ての痛みを感じぬわけではないだろう。
吸血鬼である自分も、傷付けば痛みを感じるのだから]
そんな風には映らないけれど。
……そう。
若しその記憶を思い出すのが辛いのであれば
何時でもそれを忘れさせてあげる。
話すことで何かが変わるならいつでも聞くよ。
[過去を無理に語らせる事もなく
和らぐ彼の気配に微かな安堵が滲む]
遠慮しなくても良いのに。
この所、イヴァンは退屈する間もないね。
[彼女がなにを思ったのかは分からない。
どちらにしろ、穢れた血であることは間違いないけれど。
母親の代わりに叔父に抱かれる女だ]
……燃えて、灰に。
[その言葉に虚偽はないように感じる。
考えの纏まらないまま、褪めてなお秀麗な貌を向いた]
そのハンカチは、――ダニール、という方のものでしょうか。
ならば、あなたが持つべきものですね。
汚してしまって、本当に、申し訳ありません。
[丁寧に礼をする。戻る空気に、無意識に息をついて]
[踵を返しかけて、蝋燭の包みを無造作に、娘の胸元へ突きつける]
頼まれてくれる?私は中には入れないみたい。
[投げ遣りであるが故に虚飾のない笑みをフィグネリアに向け]
貴方、ところで――お名前、なんだったかしら? **
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