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―本棟廊下―
[ぶらり歩きながら独りごちる。
喧騒は遠く、確かなのは手元のボトルの感触だけ]
アナスタシアさん……流石に食堂には居ないよな、もう。
[間違いなく、何かはあったのだ。
例えば城主に会ったとか?]
結局、宴の正体が何なのかも気になるよなー。
皆殺しの宴だったら、とっくに吸血死体の一つや二つは出ててもいい頃だろ。
[虜囚の首筋に吸血跡はなく、リディヤの死も知らないが故。――もっとも、知っていたとて、それが吸血による死ではないとしたら同じこと。
濃厚な鉄にまみれた死の匂いに比べれば、むしろ心地のよい死の気配だった]
― 自室 ―
[ユーリーからの事情徴収を終え、部屋に戻ってきた。
懐からロザリオを取り出し、見つめる]
『…生きて!』 『…戦って!』
[―突然自らの意思とは真逆の思念が頭を駆け巡る]
やめろ……
[この城に来てから、いや、この城に来る前からとうに生きる気力を失っていた。
そして、リディヤの死により男の心は射干玉の闇のごとく暗く、暗く打ち沈んでいた。
そんな男にとってこの思念は到底負いきれるものではなかった]
[イヴァンの問い>>+21には直ぐに答えられない。
同じ頃紡がれたダニールの言葉>>+22に状況を理解する]
ごきげんよう、ダニール。
血の匂いと騒がしかった理由はあのケープのこが原因ね。
結局、聖別を自らの血で為そうとした、か。
――…血は、私にとって糧、と言ったのに。
[聖別は聖水と聖者の祈りによりなされると記憶している。
人の世では血を穢れとするところも多い。
それは魔性が血を好むからなのかもしれぬと密やかに思う]
さすがに零れた血を啜る趣味はないから……
後で誰か片付けてくれると良いんだけど……。
自らの血で十字架に聖別を施そうとした少女が
命を自ら絶ち闇の住人へとなった――。
それを見つけた者が騒いでいる、という所かしらね。
[イヴァンへと予想する其れを紡いで億劫そうな様子]
[挿話のほとんどは客観的に捉えたら人間の方に非があるような気がした。]
[例えば、手ぶらで狼の領域に立ち入って噛み殺された…そんな印象。]
[そこで覗き込むアナスタシア>>78を視界の隅に感じ、頁を捲る手を止めた。]
いいえ、難しくはないんですけど…
やっぱり伝聞だとわかったようなわからないような。
[ううん、と息を一つこぼしてアナスタシアの方へ顔を向ける。]
[さらさらとこぼれ流れる黒い絹糸の間に見えたのは、紅い―小さな華二つ>>79]
――っ?
[挿絵にあった噛み痕のイラストを思い出し、紅い華をじっと見た。]
[そこへストレートな言葉>>80。]
当事者?えっと…えと、あは、はは。
[そういえば、彼女はグレゴリーの問いに、なんと答えていたか。]
[あは、と苦笑しながら敢えて一度とぼけた。]
[ああ、自分も怖がっている。]
[噂は本当で、吸血鬼は―居るのに。]
[読んだ挿話を素直に信じた自分と、好奇心でそわそわとし始める自分。]
[怖い。]
[でも―。]
[見て、みたい。]
[吸われて、みたい。]
[―その先を、知りたい。]
[もう、郷里に帰れなくなってしまうのかもしれない。]
[それに…すぐ傍にいるアナスタシアが吸血鬼になってしまった可能性もある。]
[だとしたらもう、遅いのかもしれない。]
[でも。]
[嗚呼、これ以上は抑えられない。]
そうですね。
吸血鬼のこと…私に教えて、ください。
[くすと笑って返した言葉は、とぼけた時とは違う柔らかな声音で。]
[けれどその向こうには貪欲な知りたがりが見え隠れしているのだろう。]
[アナスタシアの首元から視線を動かせぬまま、口元だけに笑みを見せた。**]
―ロランの部屋―
[考えてみれば客人をおかえりと迎える城主の姿など滑稽か。
血を得て艶めく眸をロランへと向けたまま]
――…はじめまして、が妥当ね。
ようこそ、――あのこの宴の客人。
[自らの宴だとはもう思っていない。
表舞台に立つことなど望んではいないのだから。
連れてゆくのかと問われるとゆるく頷き]
小鳥が自らの望んだから、連れてゆく。
――…ロランも、と小鳥が言うのだけど
あなたがロランであっているかしら?
あのこ…? 貴方の宴じゃあ、無いの?
[不思議そうに瞬いて、じゃあ他にも吸血鬼はいるんだ、と。ぼんやり頭の片隅で思う。
――小鳥が望んだ。
予想出来た台詞を聞けば、薄く笑みを引いた唇を苦く開いた]
嗚呼、…やっぱり。
ラビの魂は、貴方も望んでいたから。
肌で触れたらそれが…解ったから。
俺の手の中に、留めておきたかったけれど――…
[仕方ない、小鳥だものね、と淡く笑う。
続く言葉には、再び長い睫を瞬いて]
……俺も? ああ、うん。俺がロランなのは間違いないけど…。
――あのさ、連れて行かれたら、どうなるの?
[今更な質問を、投げて]
……今回は私の宴ではないわね。
[肯定をロランに返し
物分りの良い様子に淡い笑みを浮かべる]
望まれていたとは知らなかったけど。
[少なくとも求めを自らの耳で聞くまではわからなかった。
その点ではこの青年の方が彼女を理解していたのだろう]
――…あなたの手の中で小鳥が朽ちるのを待つの?
[ラビの望みは既に聞いているから
彼女に関する望みは聞かず問いのみを向ける]
ロラン
[ポツと名を紡げば問いへの答えを綴る]
闇の眷属となり永久を生きることになる。
……あの子は、なにかを選んだのかしら。
[リディヤはほんの数分言葉を交わしただけの少女だった。
でもこれは誰かによるものではないと。
まるで娘は少女がそう教えてくれているかのように、感じる。
理由は分からない。直感か、幻の囁きでも聞いたのか。
落ち着きを取り戻した表情は今までと変わらず、
その様子は、駆けつけたユーリー達に何を思わせただろう]
<<薔薇の刺に、気を付けてね。――鬼灯のお姉さん>>
[狂気を孕んだ純粋な笑みを思い出す。
愛らしくとも毒を含む、Lily of the valley(鈴蘭)のようなそれを。
じくじくと、未だ塞がらない傷>>3:69が痛んだ]
―食堂―
皆さん、落ち着いて聞きなさい。
――リディヤ嬢が何者かに殺されました。
[極めて感情を排した声色で、告げた。
周りの空気が一変する中、冷静な反応を返したユーリーに向き直る>>76。]
場所は礼拝堂、状況は周囲に人の気配、争った形跡まるでなし。
リディヤは胸部を刺されていました……心臓まで届いておりましたので、即死の可能性もあり得ます。
凶器は……ロザリオ。
時刻は断定できませんが、血の乾きようから見て、半刻経ったか経たないかと言ったところです。
発見者は私、ニコライ殿、フィグネリア嬢。
[一息に報告を告げる。
血相を変えて飛び出したヴェロニカを制止することはせず見送り、トリスにリディヤの特徴を述べた>>61>>82。]
彼女が吸血鬼と見紛われた?トリス殿、貴方なら――。
[懐に手を差し入れた。]
凶器のロザリオは、貴方の目の前にあるこれの一回り――いや、二回りは小さかった。
貴方の掌でも覆い隠せそうなほどに、だ。
[トリスの眼前に突き出した短剣を下ろし、胸元に収める。
昨夜の宴会で交わした握手。
男にしては――と疑問を抱いたことは告げず。]
さて、トリス殿。そんな頼りない得物で吸血鬼と相対し、見事それを討ち取れるとでも?
私なら勘弁ですなあ、まだ素手の方が使いようがある。
殺人者は吸血鬼に怯える人間か、はたまた吸血鬼か――どちらにせよ、リディヤ嬢は人だからこそ、死に至ったのだと思いますな。
[そう告げ、再び礼拝堂へと引き返しただろう**。]
今は人の眼には映らないだろうけれど
門番や宴の仕度をしていた侍従を見なかった?
私に連れてゆかれるということは彼らと同じになるということ。
[眷属に吸血の衝動は見られないから
宴の主となっている存在の其れとは少し違うのかもしれない。
何処か儚く見える青年の姿を見詰めながら小さく息を吐く]
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