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次の日の朝、夜の僕 アヴァクーム が無残な姿で発見された。
そういやダニールって、どこ行ったんだ?
そういや門番 メーフィエって、どこ行ったんだ?
そういや古よりの眷属 イヴァンって、どこ行ったんだ?
そういや灰色の亡霊 アリョールって、どこ行ったんだ?
そういや酒庫番 シュテファンって、どこ行ったんだ?
「それでは。 皆様、ごゆるりとお愉しみを――」
誰かの声を境に ふつり 使用人達の気配は消えてしまいました
豪勢な食事 お酒 準備は出来ているよう
宴の夜が はじまります
現在の生存者は、追われし者 ユーリー、城主 イライダ、アナスタシア、海賊紳士 トリス、敗残兵 ベルナルト、伯爵令嬢 カチューシャ、貿易商 ニコライ、忌み子 リディヤ、騎兵長 グレゴリー、オリガ、フィグネリア、遊牧の民 ナタリー、薄命の青年 ロラン、囚われし者 ラビ、ヴェロニカの15名。
[聞こえた娘の言葉にちらと肖像画を見やる。
そういえば、城主の姿を見ていない。
ここには現れないのだろうか?
そんなことを考えていたとき、ふっと聞こえた誰かの声。
得体の、しれない、悪寒]
――っ!
[蒼白な顔で息を引き攣らせ、周囲を見回した。
疲弊した神経が恐怖におののく。
それは、予感でしかない。何かが消えた気配、それも、ごっそりと――]
[礼拝堂の鐘が城内に鳴り響く]
[其は宴の始まりを示し]
[其は贖罪の音色のようでもあり]
[夜を告げる鐘の音はやがてしじまにとけて――]
-- 宴にて --
[すでに招待客達はそのほとんどがいただろうか。]
[真紅と真白の薔薇をあしらったドレスの裾をつ、とつまんでにこりと。]
[この場にふさわしいのかはわからぬが、明るい表情だった。]
ご、ごきげんよう、みなさん。
[緊張はトリスのおかげで十分にほぐれていた。]
[けど、言葉遣いは不安があるのかすこしぎこちない。]
[見回した際に、フィグネリアと目があった。
口元を無理やり吊り上げて、首を傾げる]
……鐘の音が聞こえますね。
合図なのでしょうか。
[気をそらそうと、そんなことを口にする。
あの鐘はどこで鳴り響いているのだろうか。どこかの塔か、それとも礼拝堂か]
[何者かの声を聞けば、ここにいる者でない事に気づき、首を傾げる]
……誰?
[しかし、ハジマリを告げる鐘の音で
其の疑問も忘れてしまうだろう]
[鐘の音が聞こえ、どこからともなく声がし、
使用人が消える。]
宴の始まり……です…か。
[けっして表情には出さないが心踊るような…不思議な感覚に陥る。すでにこの城の魔力に侵されているのだろうか**]
…オリガね。宜しく…
[挨拶を交わす相手の表情を見、
初めより幾分も表情は柔らかくなり]
…ご機嫌よう。丁度、始まりのようね。
[薔薇のドレスを着て現れた姿に、小さく声を返した]
[明らかな偽の笑顔に、同じように首を傾け]
ええ、宴が始まる合図なのでしょう。
[内心は出さずに柔らかな声で。
厳かに響き渡る音は、娘の身体に余韻を残し消えてゆく]
私も同じものを……、あら?
[見渡せど使用人の姿は見当たらなかった。
幻想の声といい不思議だらけだが、動揺は表に出さずに]
好きなものを取ってたべれば良いのではないでしょうか?
[上流階級の宴の作法など知らない。
とにかく、出されたものをなるべく上品に食べれば良いのだろうと考えていた。
フィグネリアにそんな調子で声をかけ、控えめながら食べ物を口に運ぶ。
味は碌に分からない]
[羽毛のあしらわれた背広に、白いドレスシャツ
女物のスカーフを巻いてるのは恐らくは洒落気を出す為だけで、自身が女性だと示す物ではないだろう
ロングブーツを履き、機嫌良く広間へとやってきた]
おうおう、御機嫌よう皆の衆!
[知らぬ人間もいるだろうに、まるで旧知の友であるかのようによく通る声で広間にいる者達に挨拶した]
── 宴の間 ──
[瓏々と鐘が響き渡る。
それは森を渡る狼の遠吠えにも似て。]
──…ああ、聞こえた。
[冷たく滑る女の声の、向けられた憤りをグラスの縁に乗せて、自嘲めいた笑みを零す。]
ご希望とあらば、脱ぎますよ。
この宴の後で──ね。
葡萄酒は良いですね。
こう……なんといいますか、心地良く酔えそうで。
[にっこりとした微笑み。
なるべく口元を歪めながら、彼女が口をつけるさまを見ていた。
やってきたトリスの様子には苦笑して。
もう一人、ナタリーの姿が見えれば小さく会釈を返す]
[食前酒へと手を伸ばす。
先刻、一瞬見た血の珠を思い出しかけ
──すぐに、意図的に忘れた]
…嗚呼、良い香り…。こんなもの、そう見られない…。
[目を細めると、静かに喉を潤して**]
ああ、寒い夜には――ベッドを暖めるものが必要ですね。
あなたの部屋にあるのでしたら、お伺いしましょう、
[革命からこの方、忘れかけていた言葉の戯れ。
そんなものを思い出させるこの女は、]
アナスタシア・ニコラエヴナ。
[コーシュキン──あの大貴族なら、皇帝へのパイプも太かろうと。
言い訳のように思い出す。
自分は復権のためにここにいる──はずなのに。
何かが少し、ズレはじめている。]
[グレゴリーとトリスのいる一角はことさら、騒々しかった。
二人の服装が変わっている事に気付けば笑みを閃かせる。
――いいわ、随分マシになった。 ]
ナティア・コサリコフ。可愛らしい方ね。
飲み物ばかりではなく何か召し上がる?このオクローシカおいしいわよ。
[談笑の輪に積極的に加わる気はしなかったが、斜め前に座った娘に、冷製スープを勧めて自分はパンを一つ取った]
[しばらくそんな調子でワインを嗜んだり、腹を満たしたりしていたが。
ふいに――おもむろに、席をたつ]
少し、用を思い出しました。
[隣りに座るフィグネリアにはそう言葉を残して。
遠巻きに宴を眺めながら、食堂を辞した]
―庭園―
[食堂を辞したのは、悪寒の正体を確かめるため。
ただの杞憂であると言い聞かせるため。
だが、食堂を辞しても――辞したからこそ]
なんで、だれも居ないんだ……?
[先程まで、使用人とすれ違っていたのに。
あっさりと消えた人の気配。気がついたら城を走り出て、庭園の薔薇の中に佇んでいた**]
―酒庫―
[城主はグラスに注がれた葡萄酒の赤を嚥下する。
酒庫番が勧めるだけあって味も香りも格別のもの]
おいしい。
[口直しには十分過ぎるけれど
酒気は城主を酔わせてはくれない]
――…嗚呼。
[熱の籠もる切なげな声は別の赤を思って零された]
―― 玄関 ――
は、……ぁ…。
[無駄に、駆けてきてしまった。つい逃げる様にして――。
体力を使うべきじゃないのに。
そんなことは分かっていた筈なのに。息が、切れる]
……く、…っつ……。
[胸が苦しい。辛い。青年は胸を押さえて痛みを遣り過ごす。
薬…そうだ、そろそろ薬を飲まなければ。
一度部屋に戻ろうと城内に入り、宴会場の横を通り過ぎようとして、
大勢の人の気配に、ふ、と足を止める]
あ、……やっぱりもう、宴って始まってたんだ…。
大遅刻だなあ、俺。
[ちら、…と横を見て苦笑し。
後から顔を出さなきゃと呟いてからまた歩き出した]
[いつの間にかグラスを満たすものは葡萄酒からヴォッカへと移り変わっていた。]
いやあ、舌も耳も、そして目までも楽しませてくれる宴とは素晴らしい!
はっはっは! 愉快、愉快!
[矢継ぎ早にグラスを呷る。
男が漂うのは酔いに任せた恍惚の世界。
翌日に地獄を見ることとなる事は、誰の目から見ても明らかだっただろう**。]
[スープとサラダ。そのどちらも美味だった。
肉類にはあまり手をつけずに、食事を終えて席を立つ。
幾杯かの葡萄酒が身体を火照らせていた]
……さすがに、飲みすぎだったかしら。
[慣れない飲酒の限度は分からなくて。
冷えた空気を感じようと、静かに食堂からバルコニーへ**]
[外へ出てゆくベルナルトを視界に隅におさめる。
彼が居心地よくなさそうにしていたのは気づいていた。
何も無理をして居続けることはない。
ただ、あれでは食い足りないだろうから、後でコールドミートでも届けさせようと思ったのみ。
この時はまだ、城から人が消えたことに気づかずに。]
[アナスタシアの誘いに、借物の服の胸をついと撫でる。]
この機会を作ってくれた「ダニール」に感謝しないとならないかな。
[その名のもたらす反応を見守りつつ。
料理と周囲の客人たちの有り様をゆっくりと咀嚼している。**]
[出された料理には、少しだけ口を付ける程度。
暫く他のものと話をしていたが、]
少し、失礼しますわ。
[席を立ち、間近で肖像画を見ようとその下へと向かった。**]
―酒庫―
シュテファンとアヴァクームは飲まないの?
[ことりと首を傾げ二人に問う仕草]
客人の世話はもう良いから……
後は常の通りに、ね。
[言い添えてチラと扉を見遣る。
この向こうでは人間をもてなす為の宴が行われているはず。
そういえばメーフィエも此方に来るような事を言っていたか。
思い出せど、彼が訪れるのは何時になるか知れない]
[ありがとうとダニールが言えば]
礼を言われるような事はしていないから
その言葉はその時までとっておくと良いよ。
それに私も愉しむのだし――…
おあいこ、でしょう?
[孤独は退屈に通ず。
闇の住人を傍に置きたがるのは退屈を嫌うから。
そんな言い訳染みたことを考えながら淡い囁きを返した]
―― 自室 ――
薬、くすり…は、鞄の――。
[荷物の殆ど入っていない、薄いくたびれた鞄の中に
手をつっこんで、小さな布袋を取り出す。
此れが己の生命線。
効果が切れれば、痛みは和らぎ方を忘れて躯の奥で暴れるだろう]
あといくつ……残って、………
[布袋を手のひらの上で逆さまに。
すると、…コロン、と。落ちてきたのはたった一粒だった]
え…………嘘………、もう……な、い…??
[何時の間にこんなに減っていたんだろう。
気づかなかった。気づかなかった…!
愕然とした表情で其の白い一粒を見下ろす]
[震える手で薬を口に運び、部屋の水差しで嚥下した。
ほっとする気持ちと、これからどうすれば良いという不安が
同時に去来する]
どう、しよう…どうしようどうしようどうしよう…ッ。
[いつか無くなるとは分かっていた。
でもそれが今だなんて。まだ、早い――まだ…。
青年はゆるゆると首を振った。不安を払う様に]
だいじょうぶ、大丈夫だいじょう、今日は、飲めたんだから。
吸血鬼の城、だもの。何か…代わりになる何かがあるかもしれないし。
[楽観視を自らに無理やり押し付けて、行かなきゃ、と呟く]
招待客は宴に顔を出すのが当然だもの…ね。
[流石にこのままの埃塗れの服装は気が引けたのか、
部屋に用意してあった清潔な白シャツとズボンに、簡単に着替えて。
足早に宴会場へと向かった。]
―― 宴会場 ――
あ、あの…遅れてすみません…っ。
[宴も盛り上がってきた頃。身体を縮こませて入ってきた人影ひとつ。
謝罪を述べてから名を名乗り、そしてこそりと末席に座る。
着飾った人たちが、高貴そうな人たちが沢山いる。故の末席。
俺ってやっぱり場違いかな、そんな想いが浮かんでは消えて。
自ら会話を振るよりも、緩い笑みを浮かべながら周りの会話を
見聞きすることを優先しただろう。
食事は、軽く。手をつける程度で。
お酒は勧められても遠慮を。
ただ――其の宴の席に、ニコライの姿を見つければ。
驚きに目を見開くと共に、期待を込めた眼差しを…どうしても
抑えられずに向けたことだろう。**]
―酒庫―
[城主が望むはささやかなる酒宴。
葡萄酒の赤を口に運びながら耳を傾けるは闇の者の囁き]
――……、……。
[くすくすと愉しげに時折漏れる笑声。
宴の場には意識を向けぬまま城主はグラスを傾けた**]
なんて酷い事を…。
わたくしが今、助けてさしあげます。
気をしっかり持って。
[大きな鋏で、少女が縛られている布を切り裂いた]
んっ…
[部屋より持ってきた毛布に少女を包み
床に横たえた。]
わたくし、あなたにお伺いしたい事がありますの。
ああっ
[あからさまに少女は衰弱していた]
どうかしっかりなさって…
あなた、確か仰っていたわね。
この城には不浄なる魂―吸血鬼がいる、と。
そのお話は本当なの?
それに何故あなたはこの様な目に?
[宴に遅れてきた青年に、男は見覚えがあった]
あれは…ロラン?
彼も…招待されたのか?
[確か心臓を患っており、先は長くないであろうことも知っていた。
ほんの一瞬何故彼が招待されたかとの疑問はよぎったが]
城主様の…お戯れでしょうかね…
[自分のもとに招待状がきていることを思えば、あり得ない話ではない―そう結論づけた]
― 回想 ―
[ロランとの出会いは男の仕事場だった。
病の体をおして来たのだろう。男と会うなり倒れてしまったのだ。]
(あの時はさすがに焦りましたね)
[医者に診せると、心臓の病と長旅の疲れで倒れたのであろうと診断された。
そして、ロランの荷物から心臓の薬が出てきたことから、薬を求めて態々自分の元に来たのだと知る]
― 現在 ―
なんという…幸運…というべきか…
[薬を無駄にせずに済んだと喜ぶべきか、
ここで出会ったことを嘆くべきか男の心境は複雑だった**]
[アナスタシアが掲げたイライダへの乾杯にグラスを合わせて応え、告げられた部屋の位置を唇だけで復唱する。
宴の間を去ってゆくアナスタシアの背とくびれた腰のラインへ視線を投げながら、空いたグラスをテーブルに置いた。]
…氷の花もさまざまだな。
[待っても新たな酒が給仕されないことをいぶかしんで目を細める。
使用人たちは別室で彼らだけの時間を許されているのか。
ここの風習はわからない。]
[礼拝堂で会った少年がだいぶ遅れて入ってくる。
囚われの娘を逃がしたか、自分の言葉を信じて放置したか、問うことはなかった。
あの件に関して助けが必要ならば、おそらく自分以外の者に接触するだろうと思ったのみ。
はきはきとした明るい口調の娘(ナタリー)の提案で交わされた自己紹介で、ユーリーは少年他、この宴に集まった者の名を知る。]
[唯一、紹介されるまでもない男は、給仕のないことを逆手にとって、ヴォッカをハイペースで臓腑に派兵していた。
やがて、その上体は、空になった酒瓶よりも安定を失うにいたり、料理の皿に顔を突っ込む前にとユーリーは立ち上がってグレゴリーの肩を押さえる。]
誰か、こいつの部屋をご存知か。
[問いかけたが、案内役の使用人はこの期に及んでもまだ姿を見せず。]
──仕方ない。
わたしの部屋へ。
ご迷惑でしょうが、手を貸していただけますか。
[ニコライ・ミハイロフと名乗った貿易商に声をかけ──他に頼めそうな男手はなかった──椅子を担架代わりに、脚の方を持ってもらう。]
[マホガニーの椅子の重量を差し引いても、グレゴリーは重かった。
酒のせいではなく──これは筋肉の重さだ。
見てくれの軽薄さとは裏腹に、この男の腕力が相当なものであることは身をもって知っている。
思い出したくもないことではあったが。]
くそっ、フリガーン(ならず者)め。
[彼の所属隊の悪名で罵りながら苦労して階段を運び上げ、自分に宛てがわれた部屋のベッドにグレゴリーを放り出す。]
ご協力ありがとうございます、ニコライ・ミハイロフさん。
[元軍人らしく民間人への感謝を伝え、グレゴリーひとりを残して部屋を出る。
ベルナルトが戻ってこちらの部屋を覗いたら主が変わっていることに驚くだろうが、グレゴリーが騒ぎだしでもしない限り、勝手に入ることもないだろうと、考慮しないことにした。]
食堂へ戻られますか?
わたしはここで失礼させていただきます。
──よい夜を。
[挨拶をして踵を返す。]
[向かうは、黒衣の女が教えた去りがてに教えた客室。
三階への階段をのぼってゆく。
扉の脇、壁に沿うようにして立ち、指の節でドアをノックした。
銀のリングが硬質の音を重ねる。]
― 三階・自室 ―
[ヴォッカの齎す酔いの海に泳ぎ、しまいには大声で歌い出すにいたったグレゴリーに嫌気がさしたのか、それとも食事を終えても皿を下げに来ない使用人に訝しんだのか。
女は宴の場を早々に辞した。
ロランとは入れ違い、軽く挨拶を交わしたが名を記憶に残す事はなかった]
……誰もいない。
いなくなった? 馬鹿げているわ。
[別棟の厨房まで覗きに行ったのは酔狂だったが、そこには誰もおらず。
ただ竃の火の余熱で湿気た空気に、微かな息遣いが潜んでいるように思えて気味が悪かった]
[薔薇の薫の室内に、女自身の香をたなびかせ、窓から宵闇に沈む庭を見ていた。
硬質な音に振り返り、ドアを開いて男を招き入れる]
……宴はオシマイ?
それとも――お腹を空かせたのかしら。
[宴の場よりも、客室の灯は暗い。
男の表情は杳として知れなかった]
[重いドアが開かれる。
わずかな隙間から、ユーリーは室内へ滑り込んだ。
木々よりも高い位置にある窓を背に、部屋に居るのは女ひとり。
――少なくとも、ユーリーの目に映る者は。]
アナスタシア・ニコラエヴナ、
約束を果たしに。
さもなくば、おやすみの挨拶を。
挨拶で仕舞になさるおつもりなの?
[滑り込んだユーリーが己が名を紡ぐ。硬質で意志の勁い声。
兄とは似ても似つかぬ響きに、皮肉の笑みを浮かべ]
もちろん…脱いで頂くわ。
その服は貴方に相応しくない。
[胸の前で組んでいた腕を解いた。
手を伸ばす。
左の指は袖口の金糸へ、右の手は男の襟元、ホックに触れるか触れないか]
その為に来たのでしょう…?
[女の指が喉にかかるに任せる。
それが刃であれば、続く言葉も紡げぬと知りつつ。]
この服の由来のみならず──あなたは、わたしの知らないことを知っておいでのようだ。
城主が、あれら雑多な客たちを、何のために集めたのかも、おそらくは。
それを教えていただけませんか。
書庫へ行こうとも考えましたが、どうせカバーの間で過ごす夜ならば、暖かい方がずっといい。
[外側から腕を回し、女の髪を束ねているピンを抜こうと指を伸ばす。]
私が何を知っているというのかしら?
[ホックを外しただけで指は一度離れ。凍るぬばたまを猫のように細めた]
貴方も招かれたのならばご存知では?
御城主様は日々の無聊を慰めるため、時に宴を開いておられるのでしょう。此処は山の奥――訪なう者も多くはないでしょうから。
[男の首筋にかかる温かな金属質の光沢を、戯れに絡めて緩く引く。
後頭部でほつれたシニヨンは、留めを抜かれれば容易く形を失い、さらさらと女の背に流れて広がった]
わたしは、招かれた客ではないのですよ。
つい先日、血族も領地も失い、こちらに身を寄せているだけ。
宴に着てゆく服にも事欠く始末です。
[長大な針にも見えるヘアピンを指の間で器用に回し。
夜の帳に見まごう摺墨の黒髪をおろして艶を増した女の姿に、狩人の視線を向ける。]
けれど、それではあなたの話を聞くのに引き合いませんね。
では、お返しに、ひとつ情報を。
知っていますか?
礼拝堂に「居る」もののこと。
あなたであれば、あれを見ても恐がりはしないと思いますが。
[自尊心を呷るようにそそのかす。]
── 吸 血 鬼
[囚われの娘が漏らした言葉を不意に投げかけて。
アナスタシアの反応を見る。]
父上はご健勝と伺っていたけれど…そう。
大地を舐める怒りの炎が、貴方の”日常”を平らげたのね。
だから此れ程に、こわい色 をしているのかしら。
[不作が続いていることは、興味がなくとも知らぬはずもなく。憐憫を――飢えて狂っただろう民衆へ向ける。
健強なようで、闇の淵を覗き込むように危ういユーリーの瞳を、揶揄う。
銅色の髪に遊ぶ指を後頭部へ滑らせて、―――]
礼拝堂?
[唆す意図に僅か眉を顰め、次の言葉を聞いた]
――― 、ふふっ
[不意に投げかけられた言葉に、抑えきれない笑みが毀れる]
なぁに。それ――
ではこの城の宝物を護る魔物は、ドラゴンでもデモンでもなく、ヴァンパイアだったということかしら?
[くつくつと笑みながら、冷ややかな双眸をぶつかるほど近く、ユーリーの瞳に寄せた]
いいわ。何だろうが。構わない。
ダニールはこの城に招かれて、タナトスに魅入られた。
貴方が知りたいのはそれかしら?
[左の指が袖の返しをついと引く。そこに縫い留められているだろう兄の名を、握った]
もう門扉は閉ざされたのよ。魔物に成り変わるか、魔物を食い滅ぼさぬ限り出られはしない――命落としたとて、檻の虜なれば、同じ事。
[間近な唇に、甘く囁きを塗り込めながら――犬歯を触れさせる。逃れないなら噛み付く、と煽る素振り]
貴方も眠りにつく前には、それが真にオネイロス(夢)を連れているものかどうか、よく目を刮いておくことよ。
ぼんやり微睡んでいたのでは、目覚めた時には、吸血鬼になっているかもしれないわ。
[バルコニーに出る前、リディアの名を知る機会もあったろう。
ふっと頭を過ぎる、叔父の話す忌み子への辛辣な言葉。
応接間から聞こえたそれは、強く強く娘の脳裏に残っていた]
あの子が、
[娘はそっと近づくと、僅かに膝を折り]
初めまして。
あなたのように幼い方もいらっしゃるのね。
[彼女がここにいる理由。思い浮かばぬ訳はない。
感情の浮かびにくい瞳に、
かすかな哀切と、柔らかな慈愛を。
リディアは娘の周りになにかを視ることがあるだろうか]
―礼拝堂―
[辿り着いたのは、少女が虜囚を繋ぐ布を引き裂き、彼女を床に横たえた頃合い。
事情を尋ねる少女の声は耳に届かなかったが、月明かりに照らされた二人の姿は見えた]
何かあったのかい?
そちらの子――具合が悪そうだけど。
[数歩礼拝堂内に踏み込んで、声をかける]
夜も更けたし、ここは冷える。
……手が必要なら、貸すよ。
[横たわる少女の様子にまず抱いたのは焦燥の念で。
様子を伺うように――しかし、心配を隠さず、中の二人にそう声をかけた。**]
[女が口にした警告は、救えなかった「ダニール」への後悔とも感じられ。
後頭部を押さえられ、薄い唇に食い込む晧い歯に掻き立てられる、狂おしいほどの官能。]
ああ──…
あなたは、 そちら側のひと だ。
氷の美女のそんな表情を見られただけでも今夜は収穫がありましたよ。
[腕をあげて上着の前を押さえる。]
アナスタシア・ニコラエヴナ、
本来であれば、この服をお返しするのはやぶさかではないのですが、奇しきことに使用人たちが姿を消してしまい、わたしはこの服の他に着替えをもっていません。
あなたの知ったことではないでしょうが、わたしにとっては凍死するかどうかの瀬戸際だ。
替えの服を出していただけるまで、あるいは──
わたしの肉体が寒さを感じる必要をなくすまで、
しばしの猶予を。
[流れるように身を引き、部屋を辞さんとする。
手には女の髪留めを納めたまま。]
[身を引くユーリーに、あっさりと手を、体を離す。袖に触れた左の指だけは躊躇うように揺れ]
ええ。貴方が裸で城内をうろつこうが、氷像と成り果ててくたばろうが、知ったこっちゃないの。
返してもらうわ。穢らわしい血で染みなどつかぬうちに。
[雑に口調を乱した。
辛辣な毒を滲ませ、別れの会釈をする]
けれど礼拝堂の件は興味深かったから、ここまでとしましょうか。
――”お話”の続きは、またいずれ。
[にこりと、辞するユーリーを見送った]
── 廊下 ──
[指先の未練と強気な口調。投げかけられた作り物の微笑と、仄見えた好奇心。
女の二面性が如実に現われていた。
あの黒衣の下に隠された白を思えば、落差もむしろ好ましい。]
──門扉は閉ざされた、出られはしないと。
[ふたたび暗い廊下に戻り、文字通り女が「口にした」脅威に思い巡らす。
窓から外を眺めれば、礼拝堂に揺らめく灯火。
吸血鬼の仲間か、あるいは──]
…タナトスに魅入られた者。
[手にしたヘアピンを軍靴の隙間に挿し、部屋へ戻りかけたところで
グレゴリーにベッドを占拠されていることを思い出して、書斎へと足を向けた。**]
――…眷属を増やしたいだけならこのような事はしない。
[ラビの血を奪わず与えるだけにしたのは彼女への責めに他ならない。
作法通り血を与え隷属させるは城主にとって容易い。
其れをせぬのは城主なりの拘りがあるから]
自ら望まぬ者を眷属にはしない。
これまでそうだったように、これからも……
[考えなしに眷属を増やせば身を滅ぼす事を本能で知っている。
個体数が増えすぎた種は何れ淘汰されてしまう。
理解していて宴を開くのは何処かで何かを期待するからか]
―ユーリーの部屋―
ぐごごごごごごごご、ぐごごごごごごごご……
[地鳴りのような響きは、ベッドから響いている。
酒量を遥かに過ごし、無残な姿で横たわる男の断末魔に似た鼾に、もし部屋を訪れる者がいたならば顔をしかめるだろう。
腹の奥底を震わす低い音は規則正しく響き……。]
ぐごごごごごごごご、ぐごッ――!
[突如訪れた静寂に、聞く者がいたなら慌てふためいたのかもしれない。
つまり、呼吸が止まったからだ。
静寂が二秒、三秒……六秒と続き……。]
――すぴー、ぐごごごごごごごご……。
[……再び、地鳴りが訪れた**。]
[肖像画の傍へと歩み寄り、見上げる。
間近で見る絵は美しく。しかし、描かれた人物の本当の美しさの半分も表現できていないのだろうとも思った。]
いずれ、お会いできますわよね。
[うっとりと呟き、その肖像画の額に口付ける。]
[笑みを浮かべたまま、その場を離れ席へと戻った。
ナティアとヴェロニカへ、]
宴と言うから、ダンスもあるかと思っておりましたわ。
でも楽団もおりませんし、それに……。
[騒々しい一角へ、ちらりと視線を向ける。およそ舞踏とは縁の遠そうな者たち。
視線を戻し、笑みを作る。]
殿方は政治の話を。女たちはドレスや宝石の話をするものだ、と。
お父様の口癖でしたわ。
きっと、難しいお話で盛り上がっているのでしょうね。
[上着のみならずシャツの釦も2つほど外して、大声で歌い出した男の声など聞こえていないように。
卓上の華に手を伸ばして、一輪抜く。]
私、そのドレスには作り物ではなく、生花のほうがよろしいか思いましたわ。
ほら、やっぱり。
ナティア様の若々しさにも、やはり生花のほうがお似合いですわね。
[ナティアの髪にその華――深紅の薔薇を挿して満足そうに微笑む。
健康そうなその頬に手を滑らせ、そのまま胸元の白薔薇のコサージュに指を止める。]
こんな作り物よりも、本物の方がずっと綺麗。
[くすりと笑いながら、顔を近づけ。すぐに離れる。
正面に座っているヴェロニカへ、視線を向ければ]
ヴェロニカ様も、きっとお似合いですわ。
赤でも良いかもしれませんがその綺麗な黒髪には白のほうが映えそうですわね。
[今度は白薔薇を花瓶から抜き。
手を伸ばしてヴェロニカのドレスの胸元へと挿す。]
髪にお挿ししたかったんですけど、届かなくて。
そちらでも、お似合いですわ。
[紺色のドレスの胸元に咲いた白薔薇へ、愉しそうに視線を向ける。
満足したように、笑みを零すとゆっくりと立ち上がり。]
それでは、私も失礼しますわ。
ごきげんよう。
[立ち去る前にもう一輪花瓶から花を抜く。ドレスと同じ、ピンク色の薔薇。
本来流れるべき音楽の代わりに聞こえていた歌声は、既に聞こえなくなっていた。**]
―酒庫―
この赤も好いけれど――…
別の赤も欲しくなる、ね。
[城主の望むは血の色。
吸血鬼の咽喉を潤す甘美な色]
欲しいと言ったら私に捧げて呉れる?
[酒庫に集まる眷属たちに艶やかな眼差しを向ける。
血に飢えているわけではない。
ただ本能の赴くままに動いているだけ。
望む応えが聞けるか否かも分からずに尋ねの態を見せた]
― 自室 ―
礼拝堂 ――吸血鬼。
[顎に指を添え、俯く。
あなたは そちら側のひと だ。
ユーリーの声。
赤い血を吸った、白い薔薇。なのに半分かけているから、赤くなれずに黒くなってしまったの。
リディヤの声]
いいのよ。
[誰に聞かせるでもなく。ほどかれた髪がさらり、流れた]
半分のまま、朽ちて往くよりは。 ――。
[喪った者は喪われたまま。
城主に心を傾けながらも堕ちる事なく
穢れなき美しさを持つ人間の娘は儚くなった。
彼女から向けられる想いは心地好いとさえ思った。
彼女が居た間――、宴が開かれることは無かった。
その間は“退屈”を感じる事がないほど満たされていたから]
そのままでいて……
[先ほどとは相反する言葉が紡がれて切なげに漏れる吐息]
[イヴァンへと血を与えたのは随分前になるか。
人間でなくなる事を理解した上で城主の血を望み眷属となった者。
生きながらえ帰る為の手段とされた事を知っても
城主は彼を引きとめようとはしなかった。
引き止めても無駄であろう事を感じていたから。
代わりに戻ってきた時は
「おかえり」の言葉と
「迷子にでもなっていたの?」なんて揶揄の二つ。
あるがままを受け入れるは血を分けた者だから――]
[応えを待つ、ほんの少しの間。
城主の姿は揺らぎ消える。
それはほんの僅かの間。
気紛れは何時もの事。
だから、誰もさして気にもせぬだろうけど]
―酒庫―
[ささやかな悪戯を終えた城主が酒庫へと戻る。
シュテファンのおすすめの赤は飲み干してしまった。
空になったグラスに名残惜しげな眼差しを向ける]
あの小鳥にも分けてあげれば良かったかしら。
[ふと思い出したように言葉を紡ぐが
彼女が望むのは葡萄酒の赤ではないだろう。
それだけで癒されるほどぬるい毒ではないのだから**]
ボクは捕まえられて、お師匠様は…
[城主の声が頭に聞こえる。]
もう……来ない…
[眸を閉じれば更に真珠のように丸い涙が連なって零れる。]
[ドレスに華を与えたオリガを見て、その動きの高貴に嘆息し]
…嗚呼。綺麗ね。
[呟いた先は、ナティアの姿か、オリガの姿か──]
…あ、有難う…
[紺の中に咲いた白と目前の華と、何度か視線を行き来させて、感謝の言葉]
──ごきげんよう。良い夜を…
[その立ち去る姿にも己の理想を重ね、その目を更に細めた]
―礼拝堂―
ここにいてはいけない……?
[虜囚の言葉は途切れ途切れにしか耳に届かず。
しかしその声音のただならぬ様子に、焦りの色を濃くする。
立ち上がり、礼拝堂を出ようとする虜囚。
招かれた者にしては、あまりにも異質で]
……そんな身体で、一人で出歩くものじゃないよ。部屋は何処?
そちらもだ。
ただでさえ、使用人の方の姿も見えないのだから。
[語気を強めて、虜囚の肩に軽く手を触れる。
そのままカチューシャに向き直り、目線で礼拝堂の外に出ようと示した*]
― →礼拝堂前 ―
[宴の折の装いのまま、玄関を出て階段を降りていく。
右手奥に望む礼拝堂に揺れる灯火を認めた]
だぁれ。
[ユーリーに煽られたと自覚はある。
礼拝堂に「居る」もの。
女は以前より、好奇心の導きには逆らわない性質だった。好き嫌いの基準と同じく、その独自の線引きは気まぐれで共感は得られにくいが。
惹かれるものに気をとられているうちは、楽しめる]
― 礼拝堂前 ―
[三つの影。顔が見えるよう、手燭を少し高くする]
こんな夜更けに、お祈り?
[宴の席から早々に去った、おどおどと線の細い男。部屋の窓から見かけた少女。
どちらの名も憶えていなかった。聞いていなかったのかもしれない]
体調でも悪いのかしら…?
[心配そうな表情を浮かべることには失敗し、微かに眉を寄せて問うた。
二人に両側から支えられるように、毛布に包まったいっそう小さな影。伏せた顔は確かめられず、代わりに、]
――履いてないわね。
[靴で護られていない足を見た]
── 宴の後 ──
[潰れてしまったグレゴリーは貿易商>>118と仕立ての良い服を着た男>>72が運んで行った
全くこうなってしまうと興醒めである、折角話の合いそうな男だったのに]
さて、と
[廊下に出ると、窓から月が見える
月は魔性だ、夜に属する生き物である自分はあれを見ると血が沸騰する感覚を覚える
ふと下を見ると礼拝堂に向かう人間達が何人か>>63>>89>>117
しかも、男ーーーベルナルドと名乗っていたかーーーは少女を1人連れている]
あれは何だ?
[その娘は聖邪が混濁している様に自分には見えた
自分達を狩ろうとする者をイライダが飼っている?相変わらず酔狂な真似をする女だ
しかし、そう言う真似をさせたいと思う程魅力ある娘だったのだろうーーーああなるまでは]
―礼拝堂―
[ラビとカチューシャと共に礼拝堂を出ようとする。
見えた灯火と聞こえた声。宴の席に座っていた時よりは、怯えの表情は弱まっているだろう。
アナスタシアの指摘に、暗がりの中ようやくラビが裸足であることに気付く]
……あ、本当だ。
おぶったほうがいいのかな。掴まれる?
[虜囚の瞳を覗き込んで問いかける。
甘さを含んだ声に、不審そうに眉を寄せた]
[少女の下肢を伝い流れる透明な雫。
熟れて腐り落ちる寸前の果実が放つ、甘い甘い眩暈を覚えるような香気]
――嗚呼。ひどいわね。
[狂気に似た興味と、震えるほどの怒りと、嗜虐の衝動がない交ぜになり、女のぬばたまの眸はただただ褪める]
貴方、その足で背負えるの?城への階段が大変ね…
手伝うわ。
[触れれば微かな啼き声をあげて身を震わせるラビをベルナルトの背に預け、荷重を分かつ様に純白のドレスの腰のあたりを支えた。
カチューシャも反対側からラビに触れるだろうか]
靴もないようじゃ、部屋があるかどうか。サロンに長椅子があったかしら?
… あなた、たち… もうボクのことは良いから
[男に覗き込まれれば熱の灯る眸を逸らして。
毛布を掛けられたまま後退しようとした。]
…あぁ、まさかもう、門は…――――
[問いかけは女の一声で終わる。
黒く塗り込められた眸が此方を見ている。]
……ぁ、あぁ…――…まだ去れるなら、去って…
[身を引こうとするが遅く。
女の手によって男の背に半身を委ねる事となる。]
ありがとうございます。
よっ、と……
[支えられながら、なんとかラビを背負う。
左足が僅かに軋んだが喉の奥で声を黙殺する。
夜気に晒されるであろう肌に毛布がかかるようにして、彼女の足をかかえた]
そうですね。
この様子では……とりあえず、一旦サロンで休んでもらったほうがいいかもしれません。
[アナスタシアの提案に頷く。この様子では、部屋への案内を頼むことは無理そうだと悟ったから。
そして、カチューシャに目線を落とし]
一段落ついたら、事情を聞かせてもらってもいいかな。
[控えめな問いかけを]
―酒場―
――…嗚呼、小鳥が啼いてる。
[啜り泣く娘の声に呼ばれ顔を上げる。
淡雪のような笑みをそのくちびるにのせて]
心は決まったのかしら、ね。
[産毛を撫で上げる女の吐息に更に涙を零し、]
……ここには、吸血鬼がいる…それでも、
あなたたちは、戻るの…―――?
[道中、男の背中で一度だけ囀る。]
── 書斎 ――
[使用人たちが居ようと居まいと、そこは静謐を約束された場所。
もう外へは出られないと、アナスタシア・ニコラエヴナは言っていた。
それが事実ならば、皇帝へ送る嘆願書を書くのも無駄でしかないのだが、自分の時間をどう使おうと構わないだろう。
書物の聖殿へと歩み入る。]
[客の娯楽に供するためか、手前の書架には気軽に持ち出せそうな雑誌や小説の類も置かれていたが、部屋の奥へと進めば角に金銀をあしらった革装丁の貴重書が、昔の修道院書庫さながら、一冊ずつ区切られた棚に納められていた。
試みに一冊、書見台へと引き出せば、盗難防止の鎖がジャラジャラと重い音をたててついてくる。
それはどこか、礼拝堂のクーポラから吊るされたあの稚い娘を連想させた。]
ミツゴ
『濃霧はそそぐ……声もなき声の密語や。
官能の疲れにまじるすすりなき
オビエ ネ
霊の震慄の音も甘く聾しゆきつつ、
シ タハ メ
ちかき野に喉絞めらるる淫れ女のゆるき痙攣。』
[かつて獣の膚だったものの上に、ぬばたまの闇をもって官能の情景を綴る古詩。
ユーリーはふと、この書架にあるのは、この城に囚われた魂なのではないかと錯覚した。
記憶のみを文字に留め、城に囚われたまま出ること能わず。
衣服のあわせを探るような手つきで、白く漂白された羊皮紙を捲ってゆく。
時のたつのも忘れて。]
[それは此方も同じ、とでも返されただろうか。
招待状のことに話が続けば、ちょっと周りを見回して
自分たちの直ぐ傍には誰も居ないことを確かめてから、
あの、実は…と、囁きつつ相手を見上げるだろう。
いたずらがバレてしまった子供の様な顔をして、]
実は、招待状持ってないのに押しかけちゃったんです。
内緒――ですよ?
[細い人差し指をそっと、自らの唇に押し当てて。
緩く笑んで秘密と告げる。
ニコライから己の体調を気遣う様子を見せられれば、
不意に笑みを消して必死な顔を浮かべたことだろう]
あの、そのことなんですけど…っ
無茶を承知で言います。あの薬、今持ってませんか…?
実は薬が……切れてしまって。
…どうしたら、って……俺……
[震える拳を、ぎゅっと。背に隠して握り締める。
だが唇に僅かに漏れ出た震えが、
彼の想いを勝手に伝えてしまうことだろう。
不安、恐れ、焦り。…恐怖。
だが其れらは――持っていると容易く応じてくれた
ニコライの言葉に、瞬時に霧散する]
── サロン室 ──
[喉の渇きを覚える
月に魅入られたからだろうか、血が本当に沸騰して気化してしまったからかもしれない
地下の酒蔵から瓶を一本失敬した。煩い酒庫番がいない事に機嫌を宜しくする
サロン室できゅぽん、と開けると直接口を付けた]
っはっ
[味を感じて美味しいとは思うが、酔う事はない
足音が聴こえる、誰かがこっちに近づいているのだろうかーーー]
―→サロン―
吸血鬼……?
[サロンへと向かう途中。はっきりと聞こえた単語に眉を寄せた。
門は閉ざされている。戻れない。
ふと、城主と交わした会話を思い出した]
……吸血鬼に殺されるのと、夜の冷えた空気に晒されて死ぬんだったら、俺は前者を選ぶかなあ。
[わざと冗談めかした調子で告げる。擦り寄る少女の気配に苦笑しつつ。
やがてサロンに辿り着けば、長椅子にラビを横たえ、毛布をかけた。アナスタシアや、付いてきているのならばカチューシャの手も借りただろう。
長椅子の前に座り込み、ラビの顔を心配そうに見やった]
― サロン ―
…何も知らずに、ここへ?
[男の顔に映る娘の貌は上気し眸は烟っている。
毛布の端を握り体を隠すようにかき寄せた。
純白のドレスの内側が、ひやりと臀部を濡らす。]
そうね。
この季節、夜に山道とあの森を抜けるなんてちょっとぞっとしないわ。
[移動はもっぱら馬車で長距離を踏破したことなどない。
道を失わなかったとしても、華奢なヒールの靴は裸足とどちらがましか。
長椅子に横たえれば、世話をするでもなく小鳥の薫から離れた椅子へ腰掛けた]
…皆、宵っ張りだこと。
[サロンに人影を見れば呟いた]
血色の良くなる飲み物?
[小馬鹿にしたような言葉を、物憂げに]
…血でも飲んでみるとか?
その子、ここには吸血鬼がいるって仰ってるようだし。
[身を起こすラビを、片眉を上げて見遣った]
血、って。
……確かに血色は悪いですけど。
[冗談か本音か。
アナスタシアの言葉に苦笑する。
彼女が、吸血鬼?彼女自身が――噂とは、そういう事なのか?
しかし白いドレスを纏った少女は、伝承に語られる吸血鬼の姿からはやはり乖離していて。
これからの事を考えあぐねている間に、ラビは身を起こしてしまった]
行くって、どこへ?
部屋に戻るのなら、送るよ。一人じゃ……
[立ち上がった彼女に瞬き]
メーフィエの故郷の味……
[興味深げにメーフィエの持つグラスの液体を見詰め
それから彼の口許へと視線を移し]
味見しても構わなくて?
[悪戯な笑みを浮かべメーフィエへと身体を寄せる]
―― 自室 ――
[心の底から御礼を言ってニコライと別れ、自室に戻った。
自分を気遣ってくれる人がいた。
そのことが、なんだかとても嬉しい。
自然と唇に笑みが浮かぶ。
薬も此処にいる間は持ちそうだし、…否、
寧ろしばらく暮らしていける位の充分過ぎる量があって。
くしゃりと表情が歪む。
……俺、悪い子だなあ。
[ぽつり、言葉は零れた]
[欲しかったのは。望んだのは。
あと少しだけ生きること。
この吸血鬼の城に居る間、病で苦しまず普通に…過ごすこと。
そうして、
そうして―――]
吸血鬼に俺を……
[だが其処で…先程礼拝堂で逢った、囚われの小鳥の姿を思い出す。
吸血鬼に食べられることなく、玩具にされた哀れな虜囚。
其れは己の望んだ結末とは明らかに違って]
[薬の入った皮袋を握る手が震える。
無駄にしてしまうだろう好意を、沢山貰ってしまった事への申し訳なさと、
残念な砂糖菓子の様に、見た目は美しくとも酷く甘すぎたかもしれない己の希望と、
それでも後戻りはもう出来ぬという想いと――…
震える手を胸に掻き抱いて。
もう片方の手をそっと添えて。抑える様に。
両の眦をきつく閉じれば深呼吸をひとつ。…ふたつ]
……俺はまだ、何も知らない…。
[あの娘が、どうして『ああ』だったのか。
理由が分かれば、此の不安は治まるのだろうか。
だが逆に今度は別の想いが、去来しそうではあるけれど……
紅い眸。駄目だ。一度見てしまったら――もう忘れられない]
……、…おねがい、イライダさまの元へ…連れて、いって
もう、…
[潤んだ眸で男を見上げた。
男が頷けば手を取られるがままに向かうだろう。
男が迷うのであれば記憶の中に在る城主の居室を教えて。]
…美味しい。
[宴会場より、位の高そうな姿が減る。
すると、気が緩んだのか食欲に襲われて──
先刻迄より、手を早めつつ、ゆっくりと食事を楽しんだ**]
……。
[ラビの素足も、城内のカーペットは傷つけまい。
女は今度は手助けする意思はないようだった。
二人が去るなら無言で見送り、酒の瓶に直接口付けるトリスの方へぼんやりと視線を流して黒髪をかき上げた]
イライダ様?
……わかった。一緒に行こうか。
[申し出に頷く。
使用人の姿が見えない以上、城主に任せるしかないのだろう]
それじゃあ、俺は彼女を送ってきます。
おやすみなさい。
[差し出された彼女の手を取り、教えられたとおりに城主の部屋を目指す]
…――よし、決めた。
[顔を上げて、力強く前を見る。窓の向こうの礼拝堂。
気になるなら……聞けばいいのだ。
全てを知っているかもしれない城主に。
答えをはぐらかされるかもしれなくても――
此処でうだうだしているよりは断然マシだ。
薬の皮袋を、ちょっと迷ってから…でも身につけておいた方がいいかとズボンのポケットに捻じ込んで。
城主の部屋はよく分からなかったが、
偉い人はとにかく一番上だろうと勝手な予想を打ち立てる。
そして青年は部屋を出て、上へ上へと階段を上る――…]
―城主の居室前―
ここだね。
[足を引きずりながらも、ラビと共に城主の部屋の前へ。
一度扉に指を滑らせてから、軽くノックをした]
夜分遅くに申し訳ございません。ベルナルトです。
こちらの方が、城主様にお会いしたいと仰っていたので……
[そう声を上げて]
―深夜―
[バルコニーにいる内に、グレゴリー劇場は終わっていて。
まだ残る人に丁寧に挨拶をし自室に戻った。
湯浴みを済ませ、ベッドから窓外の闇夜の空を見つめる]
…………眠れないわ。
[そのつもりもないのだから当然だ。
用意されていた絹の夜着は、娘の細い身体の線を浮かばせ、
窓に近づく歩みに裾が揺れる]
あれは、……?
[北塔からは礼拝堂が望め、そこには人影があった。
少しの迷いの後、用意されていたドレスに着替える。
それは珍しく首元が開いたオフホワイト。
偶然だろうか。鎖骨の下、昨晩の朱い跡ひとつは隠すほどの]
――回想・四阿――
[グレゴリー。
宝物達が帰れる事を祈る、と述べた彼の魂。
塔に似ていると称した、それ]
(うーん、でも、ちょっと違うかな?)
[兄弟達の怨嗟にも潰れないその心は、軍医の彼に救われた者達の感謝の念も確実に有って。
悲哀に満ちた塔の姿とは、そこだけが、違っていた。
偽善も含みながら、人生の経験を支えにして立つその姿は、紛れもなく人間のもの]
(……お父さん)
[少女を殺そうとした、父親の姿が頭に蘇った。
父親なりの、経験の判断として、あまりにも壊れた娘を排除しようとしたのだから]
――回想・宴――
[宴の席には、沢山の人。
人間と、給支の眷属と、それを見に来た亡霊達。
少女の瞳には、その場は華やかなパーティ会場のよう]
(黒薔薇お姉さんの、半分)
[一目見て分かる、ダニールの半分の黒薔薇の魂。>>1:363ダニールが、ユーリーの横へと並ぶ。
何故か両者、同じ服を着ているのに。
一方が纏うは暗鬱な黒い薔薇。
他方が纏うは気高い真紅のアザミ]
(服じゃ、タマシイは着飾れないよね)
[そんな事を思いつつ、適当に空いた席へと座った。
こんなに沢山の人に囲まれた、華やかなパーティ等始めてだ。
そう、華やかなパーティと思っているのは、少女だけ]
― 居室前 ―
[娘にとっては男より長い道程。
眸は恍惚の色を宿す。其れでも、この時ばかりは]
……、あなたは馬鹿だ…
何も知らずに、来たなんて。
ここは吸血鬼の城。
古から続きし吸血鬼の棲家…、"宴"とは…
吸血鬼の"宴"には必ず血が伴うのに。
[室内からの返事はあったかどうか。
男が振り向けば、娘は傍らの壁に寄りかかっている。]
――回想・宴――
[ごぉ……ん、と鳴り響く、礼拝堂の鐘の音。
それと同時に、周囲に居た全ての客が、消え失せた]
(あ、れ……?)
[残ったのは、席へとつく人間達のみ。眷属も、亡霊も、全てがいきなりその姿を消す。
楽しかったパーティは、これでお仕舞い。
ここからは、人間と、吸血鬼によって行われる、血の宴――。
タマシイを纏う衣が消え失せる。
負傷兵の左足を掴んでいた悪意も、軍医を縛っていた兄弟からの柵も、何もかも。
残るのは、自身に刻まれた心のみ。
半分の黒薔薇も、邪なものを祓う聖気を纏う少女も、一人だけ人間でない海賊も。
裸の貴方の心のままに、血の宴で踊りましょう――。
周囲の歓談をよそに、少女はぼう、と人の居なくなった虚空を見つめていた]
夜の散歩でもしようかしら。
[手燭に灯りを点し、服の内のそれを確かめて。
静かに北塔の部屋から廊下へと]
宴の夜は眠らないもの、というわけではないでしょうけれど。
[本塔へ向かえば、人の気配の多さにそう漏らした]
[日中に仮眠をとっていたからまだ眠気は覚えなかったが、酒の酔いもひいて、書庫にいるのが肌寒くなってきた。
鎖につながれた書物を元の位置に戻し、書斎を出る。]
[将来ある若者―たとえ大病を患っているとしても―
自身の好奇心から大胆な行動を取れるようになった若者に
いらぬ心配をかけたくなかったから]
頼もしく…なったものだ…
ロラン、お前にはここに…来てほしくなかった…
[窓からは庭が望めた…月夜に照らされた薔薇は妖しくきらめいているようだった]
[イライダは何処にいるのだろう?
アナスタシアは礼拝堂を訪れただろうか?
ベルナルトはもう部屋に戻ったか?
使用人たちが消えたことが、不安となって皆の胸に広がるまでどれくらいかかる?
グレゴリーが、二日酔いの頭痛に悩まされることだけは確信していた。]
―廊下―
[ふらふらと大広間にまろびでて、見回す――前後、左右、右左、上下。]
……使用人は何処行ったんだー?
[注文すべきことを思い浮かべる。
ひとつ、寝間着――はこのスーツと同じ、部屋に戻ればあるだろう。
ふたつ、預けた剣――汚らしい礼拝堂に少女を吊るす趣味の持ち主だ、有って困るものでもない。
みっつ、水《ヴォッカ》――今欲しいのは言うまでもなく之だ。
使用人は何処だ――うろうろと人影を探す。]
……?
[誰かが廊下に立ち止まっている。
気付き、背筋を伸ばし、頭の痛みに少し顔をしかめた。]
誰か、そこに御出でか?
[落ち着いて声をかけた。]
[背後からの声に、振り返る。
廊下が薄暗くとも手燭の灯りが娘の姿を照らすだろう]
――ストロガノフ様。
[こちらからは近づかないが、声は静かに柔らかく。
顔をしかめる様子に思い当たり]
あの、お水でもご用意いたしましょうか。
……では、エスコートをお願いしようかしら。
[隠しナイフを帯びていても、警戒はなかった。
吸血鬼は城の主。そう思っていて。
ユーリーを帰らせた後、熾のように燻っていた冷たい熱情に、物憂げに首を傾ける。
腕を伸ばし、 トリスの 手を取った]
あいつ、凍死するくらいなら酔死すべきだ、と主張して、雪中行軍にもヴォッカを引きずっていったくらいだからな…
[あの時、ヴォッカを「燃やす」という使い方を彼に教わらなかったら──…
あまりいい思い出とは言えなかったが、教訓は教訓だ。
思い出してしまったついでに、部屋にヴォッカを1本、置いておこうと考えた。]
――バルコニー――
[>>88バルコニーにて出会うは、お屋敷様と呼称されているフィグネリア。女性の姿を、少女はよく知っていた。
フィグネリア本人ではない。彼女に瓜二つの、彼女の母親の姿を。
見守る事しか出来ないの、とフィグネリアの母親は述べていたと言う。
勿論、彼女の死後の話。亡霊達の噂話を聞いただけだ。
フィグネリア自身の噂は、詳しくは知らない。
ただ街の噂話に上がるのは、少女本人に対する忌避と、お屋敷様への邪推が多かった記憶。
普段なら母親の愛が彼女を覆っていたのだろうが、今この空間で、フィグネリアを纏う他人の意識は見えない。それが、ここの理]
こんばんは、お屋敷様。
お姉さんは、歪んでいるね。お母さんになんて、なれないのに。
[母親のようにあれ、と歪めたフィグネリアの魂。
彼女自身が、我が身を縛る。その形は、艶やかな深紅のほおずき]
鬼灯のお姉さん。
ニンゲンの血を吸って、生きていくのって、どう思う?
本物?
……吸血鬼、は、本物。
[現れた青年の言葉。少女の言葉。繰り返す。
背後の扉を見上げ、ラビに向き直った。
吸血鬼の実在の証明に恐怖を抱いたのではない。少なくとも、今は。
血を見る。そう自覚していて、尚死地に向かう少女の心中は敗残兵の理解を超えていて]
そこまで分かっていて、どうしてお前は――っ
[荒い声が夜の闇に響く。しかしそれは最後まで告げられることはない。
息を呑んだ。
少女が、青年――ロランに向かって手を伸ばしていたから]
[首を振り、そして痛みを堪える様子を見つつ]
とても楽しそうにお酒を飲まれる方だと、思いましたわ。
[醜態というのを否定してから]
使用人……?
そう言われますと、宴の始まりから見かけませんね。
もうお休みになっているのでしょうか。
[すぐ傍の食堂の扉を開け、中を覗いてみる。
しかしそこにも使用人の姿は見えなかっただろう]
[サロンへ下り、食堂へ向かう。
入れ違うように、反対側の階段をアナスタシアとトリストラムが上ってゆくのが見えた。]
──…
[エスコートするトリストラムの肘に重ねられたアナスタシアの指。
まだ背に流したままの奢れる黒髪。]
…魅入られたのは、どちら?
[呟き、微かな溜め息。]
―酒庫―
[眷属より受けたヴォトカも城主を酔わせはしない。
けれど零れるは甘やかな吐息。
愉悦の色を微かに湛えた眸は酔うたようにも映るか]
――…嗚呼。
[地階の酒庫には四階の声は届かぬけれど]
少し、騒がしくなってきたかしら。
[燻る熱は静かに冷めゆき少しだけ物憂げな声が漏れる]
[ひたり。
熱い指先が青年の頬に触れた。」
…――――…、………、
[記憶の棚は1年に及ぶ責め苦で炙られ簡単には開かなかった。
だから、誘われるように青年にもう一歩を踏み出す。
青年の唇を注視して。]
―城主の居室前―
[知り合いなのだろう。それ以上の間柄なのかもしれない。
ラビとロランの逢瀬に口を挟むことはせず。
振り返り、大扉に再び指をすべらせる。ノックをしようとして――やめた]
吸血鬼……
[亡霊ではなく。
そうどこかで安堵している自分がいて、おかしかった]
[彼女が近くに居るから。思い出す。其れは過去の――
―― 回想 ――
村で苛められていた娘。
強く庇うことの出来なかった自分。
黒い長衣をひらひらと。大人びた貌をして。
その癖、装飾品の行商人が来た日は、年相応に眼を輝かせるのだ。
だが此方の視線を感じると、直ぐいつもの姿に戻ってしまう。
惜しいな、と思った。
もっと輝くあの眸を見ていたいと……
だから、貯めていた小遣いを全部使って、
自分だとばれないようそっと…紅玉の胸飾りを贈ったこともあった。
質の悪い硝子で作られた、玩具の様なアクセサリ。
けれどそれで、嬉しそうに微笑むあの眸が見れたから。
充分だと思っていた。あの時は。其れだけで。
[やがて彼女が師匠と呼んだ大人と一緒に村を出て行って――
…何故、欲しいと云わなかったんだろうあの時。
掴もうと想っても、もう手は届かない。
知らない場所に行ってしまったあの紅い眸。
諦めるしかないと思っていた。
忘れたとばかり思っていた。
こんな執着は。もう…]
[一瞬の回想は、思考を混濁させる。
頬に触れた熱さ。彼女の吐息。
近づく、其の距離…]
今度は君が……欲しい、――ラビ………
[甘く切ない掠れた声を紡ぎながら、心の何処かで、
自分ももう囚われているのだ、と、訳も無く思った。
想いながら、娘の熱い唇に…冷えた青年の唇が、ふわりと、触れた]
[近づく青年の貌に記憶の棚が音を立てた。]
ロ、ラン ?
[紅い舌が覗く。
白薔薇の衣の中で、
濡れた眸と対になる紅さ。
相手に吐息が触れそうな距離。
青年ロランを見つめる眸には、
あの時と同じく爛熟した熱。]
―回想:バルコニーにて―
[歪んでいる。その言葉に目が瞬く。
そして続くそれには、見えぬよう掌に爪先を食い込ませ]
その通りだわ。私は母にはなれないの。
[母の記憶を持たぬ、生き写しの娘。
きっと最後まで、かの人が望むようにはなれなかった。
そして、自分を見てもらえることも]
人間の血……吸血鬼のお話かしら。
[少しの間思案するように、薔薇園に目を向けて]
――…ぁ、
[熱い唇に触れる冷たい唇。
鼻にかかるような甘い声を上げ、
おずおずと、けれど内側の燻りに動かされるように、
もう一度、唇を押し当てる。
今度は、前よりも強く。]
目の前で彼女が泣いているのでしょう?
泣かせたのでなくても胸を貸すのが甲斐性ってものよ。
[驚きを露とするイヴァンに言葉を重ねる。
問い掛けには嗚呼と何か思い出したようで]
風習はなかなか消えぬものよ。
魔女狩りにしろ、生贄にしろ、拷問も人の生み出したもの――…
ユーリーという名の客人に聞いた話だけれど
革命があり犠牲が出たようね。
――私にも注意しろと忠告してきたわ。
人間が人間を残酷に殺す――…
何時の時代も変わらないのかもしれないね。
[イヴァンの紡いだ風習に微かに柳眉を寄せて吐息を漏らす]
―食堂前―
え? ユーリー……ザハーリイン様ですか。
私は存じませんけれど、お部屋では?
[そして諸々の理由を聞けば、小さく首を傾げ]
食堂にも居られないなら……サロンでもありませんね。
[サロンにも、どちらの姿も見えなかった]
―城主の居住前―
わたくしは、わたくしは……
あなただけがわたくしの胸中を分かち合って
下さると信じていますの…!
[その様子は傍からみたら唐突に過ぎただろう。
だが、”狩る”側の同じ同士として
少女達には不思議な使命感が漂っていた]
[白薔薇の娘が己の名前を呼んだ、気がした。
驚いてぎゅっと彼女の両肩を強く掴んだ。己が方に固定するように…もう手放さぬように……]
…俺のこと、覚えてる…の……?
[期待等していなかった。
ありえなかった。
故に、唯、呆然と]
[かつていた村。かつてあった景色。
師の逗留は予定よりも長くなった。
その村でもよく苛められたが、一人だけ苛めに加わらず少女を見つめる少年が居た。
不思議な少年だった。
何かを心奪われウキウキとしていたら必ず視線を感じていた。
ある日、逗留していた仮家に届けられていた紅玉の胸飾り。
子供騙しのそれでも、少女には嬉しくて嬉しくて。
その日は、飛びきりの笑顔を浮かべていた。
澄ましていようと思っても無理だった。
狩る者として歩んだ人生の中でも、
幸せな、一時。]
――回想・バルコニー――
[フィグネリアの思案顔は、尚更美しく見えた。悩む姿は、とても人間のようで。
あなたはどうなの、との言葉に、狂気染みた微笑みを返す]
血を吸っても、吸わなくても、どっちでも良いな。
生きても死んでも、同じなのにね?
[きゃらきゃらと笑う。生死の違いなど無いからこその答え。
死にたい、と望めば。現実が辛いと言えば、その人物を殺すように仕向けた事も有る(友達、と呼ぶ亡霊達や人間でないものの力を借りたけれども)
現実が辛いなら、死後の世界へ行けば良い。そう思ったからこその、それは少女なりの好意で。
それでも、フィグネリアの心からの心配を感じ取った。純粋な愛を受けるのは、久しぶりで]
ありがとう、鬼灯のお姉さん。
薔薇の刺に、気を付けてね。
お姉さんは、綺麗なものに呑まれちゃいそうだから。
[くるりと身を翻すと、バルコニーを後にした]
[彼女から求められれば――もう止める術は何処にあるか…]
――…、…ラ…
[再び名を呼ぶ前に。
誘うような熱さをすぐ傍で感じれば、
その熱い吐息ごと包む様に、…彼もまた深く唇を重ねるだろう]
[けれど、師には誰が送ってきたのは直ぐに分かって。
教えられた先には、あの少年。
それでも、嬉しかった。
大事にしていた胸飾りは年経るごとに形を崩していったが、
最後まで。
この城を訪れたその時まで、
黒衣の下へ身に着けていた。]
――現在――
[消えた亡霊も、眷属も、相変わらず視えない。しかしそれは視えないだけで、存在はしているのだと薄々気付いていた。
ラビの嘆きの言葉をちらと聞いたが、それに大して反応はしない。宴の席でトリスを見れば、人間を糧に生きる者だと一目瞭然。
死は怖くない。少女にとって、生死の違いなど触れられるかどうかだけであったから]
(凄い呪いだなあ)
[むしろ少女の目を引いたのは、ラビを縛る紅薔薇の血。
邪を祓う清純な覇気は、その血によって完全に締め上げ封じられる。
城主の力、始祖吸血鬼の強力無比な力。
それでもラビが一線を越えずに踏みとどまっていられるのは、彼女を護る愛が有るからなのだろう。
彼女が師匠と仰ぐ人の、最後の慈愛を]
(愛されていたのなら、幸せだよね?)
[狂気の脳内は、ラビを幸福であったと結論付けた。少女は笑顔のまま、また城内を歩き回る――]
[ピンク色の薔薇を抱いて、ゆったりと廊下を歩いていた。
城のどこかで、人の騒ぐような気配を感じている。
それが使用人たちではなく、客として招待された者たちだろうと、どこか愉しげに。]
私、これがとても素敵な宴になると信じてるいますのよ。
[赤にも白にもなれない、中途半端な色の薔薇。その花弁を食み、クスクスと笑う。]
――ッ。
[指先に痛みが走る。
卓に飾られていた華。棘はきちんと処理されて残ってはいないはずだったが、取り残されていたのだろう。
小さな棘が指に刺さり、小さく紅い粒が指先に。
それを舐め取ろうとして、ふと思いとどまる。]
吸血鬼は、薔薇よりも血の馨がお好みかしら?
[窓辺に近寄り、月明かりが射すその窓へ。
宴の席にて、騒々しくも美しかった者の名を書く。]
トリストラム・シアー……あの方も、お姉様が心奪われた存在なのかしら。
[愉しそうに笑みを零し、その場を立ち去る。
ガラスに書かれた文字は、月の光に照らされて――すぐに消えた。]
[そして、――ひとまず小鳥を己の腕に抱けたからだろうか。
名残惜しそうに唇を離し、満たされた吐息を零して……
周りの目という現実に気が付いた。
頬が一気に真っ赤になる]
……あ、あの……あの……あの…っ
[気恥ずかしさと申し訳ない気持ちで言葉にならない。]
……今は、あちらの人と大事な話があるようだから。
[声を上げるカチューシャに告げ、ロランとラビから目線を外す]
イライダ様……城の主が吸血鬼。
『宴』って、俺達はどうなるんだ?
[血を見る、と、彼女は言った。
食事が用意されてから――宴が始まってから、未だ城主の姿を見ない。
瞳を廊下の先の闇へと向けた]
[グレゴリーの笑い声に、かすかに笑みを返す]
ストロガノフ様に叩き起こされるなら、覚悟が必要そうですわ。
[力が強そうだからという理由。
というより、寝ているなら覚悟も何も出来ぬのだが]
すこし散歩でもしようかと思います。
なかなか眠れずに、退屈をしていたものですから。
…いつまでも、ここにいても仕方ない。
[礼服を「着て」いるのは自分だと主張(何に対して?)するように、アナスタシアを見送った階段から視線を剥がし、サロンを出る。
当初の目的だった食堂へと。
グレゴリーがまだ手をつけていないヴォッカがあるはずだと予測して。]
――…ら、び…
[その眼差しで俺を呼ばないで。
狂ってしまいそうになる。
それこそ、吸血鬼に彼女が欲しいなんて、そんな戯言を。
理性の警告。酷く無価値な。
娘を抱き締める力が、愛しげに…強く]
>>222
貴方は……どう思いますの?
もしも、そういう存在がいるとして。
貴方自身は立ち向かいたいとお思い?
それとも、…闇に呑まれても構わないと?
―酒庫―
宴の主は一人で良い。
此度はあのこが来たから……
この場はあのこに譲ることにする。
[誰かに一度伝えた其れを自らに言い聞かせるように独り言ちて]
――…嗚呼。
如何してディアーナが此処に居ないのかしら、ね。
[懐かしげに名を呼ぶが一年前まで傍にあった彼女の声は聞こえない。
高名な絵師を招いて描かせた彼女の肖像画は居室に飾られている。
絵などなくても忘れはしないが――。
喪った眷属と同じかそれ以上に彼女の存在は惜しんでいた]
[――――其は墜落感。]
…だい、て
[頭を傾げ、ロランの頬に涙を零して口接ける。
ロランの唇に降りてゆけば、躊躇うように紅い舌先が触れる。]
[真っ赤にした顔で慌てていたのに。
けれど見上げて甘く囀る小鳥のおねだりに、
…抗える者が居るだろうか。
青年は、擦り寄る娘の柔らかい躯から、
絡む白薔薇のドレスから、
対称的な深く紅い眸から、…――目を逸らせなくなって。
周りで語らう者たちの声も、眼も、何もかも。
徐々に思考から消えてゆく…]
[――――堕ちてゆく。]
おね、がい…熱いの……
[ぽたりと。
足へ伝う雫が深い絨毯を濡らす。]
ボクの首に、キスをして。
[喉を反らすように白い首を差し出す。]
[――堕落を選べと、君は言うか]
…それ、……は……
[何を躊躇うことがある、と悪魔は囁く。
選んだらもう戻れないよ、と天使は歌う。
ラビの舌が誘う様に、緩く己の唇の上を行き来する。
緊張で乾いた唇は、だがそうとは思えぬ程に濡れているのだろう。…もう]
……ぁ……らび……
[陶然と、呼んでしまう。君の名前を。
娘の唇が間近で熱を生み、其の舌から紡がれるのは、甘い、甘い――]
── 食堂 ──
[ドア越しにもわかる笑い声がしていて。]
…もう起きて歩いてるのか、タフだな。
[毒づくような、ある意味、安堵したような感想をもらして扉に手をかける。
この分だと、ヴォッカはすべて徴発された後かもしれないと、最悪の展開を予想もしつつ。]
[ポケットに入れていた薬入りの皮袋が、
ほんの少しだけ存在を主張した気が、した。
其れは己の人間としての生。
其処に繋がる何かの証。
けれど、けれど――…
優しい顔は、少しだけ浮かんで、
お世話になった両親や、祖母や、いろんな人の貌が浮かんで。
…それでも]
君の、首に……?
[差し出された白磁の様な肌の、其の首筋を。
誰かに咬まれた痕の見える、その場所を。
熱くて、あつくて熱くて――…だから]
好きだよ、ラビ…――
[その首筋に、…何時しか熱くなってしまった己の唇を近づけて。
その咬み痕に、そっと…優しく、愛しげに… キス を]
[扉を開ければ、予想通りグレゴリーと、今ひとり、フィグネリアと紹介された娘がいた。
フィグネリアが出てゆく素振りを見せるならば、そのままドアを押さえておく。
ふたりの様子から、そんな込みいった話をしていたわけでも、邪魔をしたワケでもなさそうだと判断して、形式だけ詫びをいれておいた。]
──失礼。
どうせ俺は此処に――死ぬ為に、来たのだから。
今再び逢えた君に、
……俺の全てを――…あげる。
[耳元で緩く囁いた。声は、甘く、壊れて、何処か…もう]
[自室に着くと、ベッドの傍に置かれた水差しへ残っている薔薇の花弁を全て千切り入れた。翌朝飲む水が、薔薇の香りになるように、と。]
宴はまだ終わっていないのね。
明日がとっても愉しみだわ。
[城内で起こっていること――隣の部屋で起きていることすら知らぬまま、それでも愉しげに纏っていたドレスを脱ぎ捨てる。]
[片付ける使用人の姿が見えないことを思い出し、ドレスが皺にならないように椅子に掛け直した。]
お湯も用意されていないのね。
[肩を竦めて息を吐くと、下着姿のままベッドに潜り込んだ。
そして、願うは――。]
こんな素敵な夜なんだもの。良い夢が見られると良いわ。
[クスクスと笑い声を部屋に響かせ、そっと目を閉じた。]
[咬み痕は、……本当は、無かったのだけれど――…
吸血鬼の城、囚われの小鳥。
紅い眸……
幻を見るには、充分な舞台で。
だから、……多分、もう、壊れていたのだろうと…思う
何かが。何もかもが。]
[ユーリーに会釈し、まだ出てはいかずに]
ストロガノフ様が探しておられましたから、良かったですわ。
[軽い挨拶の後、そう微笑んで]
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