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……やれやれ。
[特に何かを云う訳でも無く。引き金を引くのと同時に飛び掛かり、その胸へとハサミを振り下ろした。明確な殺意と経験に裏打ちされたそれは、何者の邪魔も無ければ躰へと突き立てられるだろう。少女に迷いは無い。そんなモノが在っては―――此処まで来られなかったからだ。]
[...は困惑と混乱の極みにいた。目の前のことをどのように理解していいのか分からなかったのだ。
自分に少女を託した男は、明確な殺意をもって少女に対峙をしている。
男を見る、少女の冷ややかな視線を見て、男が本当に守りたかったものをようやく察した。]
あたしは…どうすればいい…?
[心のままに動くこと、それこそ生きる証かもしれない。
それなら、彼を止めるのはお門違いだろう。
迷いながら、ただ、呆けたように見守っていたら、肩を誰かに触れられ、我ながら大きくびくりと震えた。]
[ナタリーが告げる事実を、頭の中で咀嚼する暇など事態は与えてはくれない。
ただ、目の前で、鋏の銀色の光を見た瞬間に、...は走り出していた。]
やめてっ!!
[安全な止め方なんて知らない。ただ必死の捨て身でカチューシャに体当たりをして切っ先を反らす。
ハサミがその拍子に肩口に触れて燃えるように熱かったが、流れ落ちた血液が自分だけのものかどうかはわからない。]
ははは…。
カチューシャは軽いね。ウエイトの差は伊達ではないだろ。
早くダイエットしなきゃいけないって思ってたけど、役に立ったかな。
[軽口をたたいて痛みを紛らわそうとした]
……っち。
[距離を取り、進路を妨害するように椅子を蹴飛ばす。そしてテーブルナイフを二本まとめて掴みながら、前方車両へと消えて行った。]
最後は、ハイド・アンド・シークと洒落込もうか?
ちゃんと百、数えてくれよ―――。
[そんな声を残して。]
別に、こうなる気はしていたから。
良いけれどな。
引き金を二度引いたのなら、弾はもう無い。それは知っていたさ。
そして―――お前がサンドラを止めない処か、唆す事さえやってみるで在ろう事も。解っていたさ。
だから何も、問題は無い。死体がもう少し、増えるだけだよ。全く、お前は……良い同業者になりそうだ。
………、!?
[何が起きたのか理解が出来なかった。
飛び掛かられながら、もう一度、二度弾くが、いずれにせよ間に合いはしない。鋏が銀の軌跡を描くのを見た時、サンドラの声>>63を聞いた。]
―――ッ!!
[衝撃に身を折るも、新たな痛みはない。胸に刃が突き立てられたわけではないようだ。
サンドラの体当たりに救われた事に気づけば、驚いたように彼女を見る]
サンドラ……
[何故、と呟く。カチューシャを託した傍からこの状況、とても理解し難いものであったろうに。
ナタリーがサンドラに囁きを落としていたことに、気づいてはいなかった。>>58]
ちいっ………!
待て!! シャノアール!!!
[前方車両の闇へと紛れるシャノアールへと叫ぶ。
何とか立ち上がり、サンドラの肩口を見れば流れ落ちる赤。]
……助かった。
サンドラ、説明する間も無くこんな事になって悪い。
俺はアイツを追いかける。
[サンドラとナタリーへそう言い残して、前方へと走り出す。二人はどうするだろうか。
シャノアールは二人を殺しはしないと言っていた。
このまま此処に居れば無事に駅に付けるだろう。しかし、もし前方車両に行くと言うなら止めはしない。]
シャノアール!!!出て来い!!!
[走っては歩き、時折壁に凭れ、未だ薄闇に包まれた車内を進む。幾ら処置はされていても、血が足りぬままである事に変わりはない。
一等車の廊下を回り、各部屋の扉を開け、注意深く内部の様子を探る。先刻は気にも留めなかった死臭が、今は耐え難い程に鼻につく。]
[ふと、銃を手に持ったままである事に気づく。
今になって漸く、撃つことが出来なかった理由に思い至り]
……ハ…… 弾切れ、か……。
そう、か。そうだよな………
殺す感触が手に残らねーんじゃ……、…。
[ゴト。もう使い物にならなくなった武器を捨てる。
床を叩く重い音が、人の気配のない室内に反響した。
数拍の後、再び隠れたシャノアールを追って歩く。]
ベルナルト…っ!
っ…っ!
[走り出したベルナルトを止めようとすると、走る痛みに思わず動きを止めてしまう。
傷はそれほど深くないだろうけど、ぬるりとした感触と、鉄に似た臭気は不快きわまりなかった]
なんで、あの二人は殺しあっているんだ…?
もうすぐ、約束の地に着くのに。
[思わずナタリーを見る。彼女はどうするのだろうか]
[列車の前方から、何者かの悲鳴が聞こえたような気がした。それによりベルナルトは探している人間の場所の検討が付くだろうし、己の迂闊さで死体がもう一つ増えてしまった事にも気が付くだろう。これで、文字通り―――列車の中の生存者は、たった四人だけになった。]
細工は流々、後は仕上げをご覧じろ。さてさて一体、どんな顔をしてくれるやら?
[それだけ云うと、鮮血に止まった場所で……ぺたりと。まるで糸が切れたように、座り込んだ。]
……悲鳴?
[扉に掛けた手が止まる。
列車前方の闇に目を凝らした。]
………誰の?
いや、前に居るとしたらシャノアールか……
[その筈なのだが。嫌な予感が拭えない。
後ろの車両にちらと目を向け、それから前方車両へと走る。]
[特等車か、それとも別の部屋だろうか。
扉を開けた先に広がるのは、およそ想定を超えた情景だった。
床に広がる鮮血と。
座り込む小さな身体と………?]
――――!!
どういう…ことだ………?
[シャノアールは恰も隠れんぼでもするかのように前方へ消えたはずだ。何故血の海の中で座り込んでいるのだろうか。
首を振る。分からない。
罠だろうか、しかし―――
恐る恐る近付いて行く。
乾かぬ血が、靴を濡らした。]
−食堂車−
[もみ合う3人を離れた場所で見つめていた。
サンドラは間に合ったようだ。
けれど、カチューシャは捨てぜりふを残して、前方車両へと消える。
とりあえず近くにあった救急箱を手にして、サンドラの側に駆け寄る。
そして、その時に聞こえた赤い囁きに苦笑を浮かべた。]
[運転手の死体の傍で、少女は涙ぐみながらぺたんと座っていました。赤く赤く染まって。運転手の喉は、どうやらナイフで掻ききられてしまったようです。少女の手の中の、ナイフによって。]
…べるおにーさん…?
[からん、と。少女は呆然としたように、ナイフを取り落とします。訳がわからないといったように。まるで、悪夢でも見ているかのように。]
あはっ、お見通し、だった?流石、賢者様、ね。
もしかしてベルナルトさん籠絡失敗も想定の範囲内?
でも、私、あなたのことを積極的に殺すつもりはないのよ。
死んでも構わない、と思ってるだけで。
後、やっぱり“人”のことが好きみたい…。
ジョーカー、あなたのことも嫌いではないけどね。
想定内も何も。
これだけ事象が限られているなら、幾つかのパターンに備えておくだけだよ。
仲間が使える場合は任せて。使えないなら売り渡して。
ベルナルトが裏切るなら殺して。裏切らないなら使って。
邪魔が入らないなら殺して。邪魔が入るなら、確実にそれが出来そうな場所まで逃げて。
今、死体が一つ増えた。運転手のものだ。
もし、私がこのまま殺されてしまったら……大変な事になるかも知れないね?
[返ってきた囁きに、なるほど、と感心していたが、
最後の言葉にしばしの絶句。]
…今、運転士室?先頭車両にいるみたい。
運転士を殺したって。早く行きましょう。
[サンドラがふらつくようなら支えながら、先を急いだ*]
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